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夏の惨劇

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                  夏の惨劇

 どこかで蝉が鳴いている。けたたましい。おそらく数十匹を数える蝉たちが木々にしがみつき、ひと時の生を謳歌しているのだろう。
 けたたましく、わずわらしい……。いまの俺たちにとって、蝉たちの鳴き声はわずわらしいだけだ。
 俺は蝉の鳴き声を睨み、土の上に唾を吐いた。
 
 夏だった。暑い日だった。乾ききった大気と逃げ水が交差した日だった。
 俺たちはある予感に怯えていた。
 こんな蒸し暑い夏の日の午後に限って、褐色の膚を持った奴らが来る。俺たちのコロニーに侵略を企て、俺たちを滅ぼそうとするのだ。
 七月に入ってからこれまで三度ほど、奴らはやってきた。
 一度目は、最終防衛ラインまで踏み込まれたが、なんとか撃退することができた。二度目の時は、防衛むなしく食料庫までの侵入を許してしまった。食料は奪われたが、この時もなんとか撃退できた。三度目は子供たちが狙われた。俺たちの隙をついて子供たちを攫おうとしたのだ。
 俺たちは、子供を守った。一人も奴らの手に渡さなかった。が、その代償はあまりにも大きすぎた。俺たちのコロニーに住む三分の一の大人が、奴らの手にかかり、命を落としてしまったのだ。
 実にかけがえのない命が奪われた。
 力自慢で名を売った男も死んだ。技に優れ、誰よりも優しかった男も死んだ。統率力にあふれ、一隊を率いていた将軍もあっけなく死んでしまった……。
 逝ったのは男だけではない。女たちも亡くなった。
 美声を誇り、常に戦士たちを慰めてくれた歌手も戦に巻き込まれて亡くなった。子供たちから太陽のように慕われていた女神のような女も亡くなってしまった。優しく戦士たちを介抱し、時には自らも戦った勇敢な女も死んでいった……。
 俺たちは犠牲者の冥福を祈り、復讐を誓った。
 前方の歩哨が、俺たちに合図を送ってきている。良い合図ではない。悪い合図だ。
 俺たちは一斉にどよめいた。
 やはり奴らは来たのだ。うだるような暑い日に……。
 俺たちは歩哨から連絡を受け、大いに憤った。歩哨が言うには、奴らは前回の倍以上の数で攻めてきているという。
 なぜだ!?
 俺たちの攻撃は、奴らに何の損傷も与えていなかったのであろうか? 俺たちの決死の戦いは、意味もない蟷螂の斧だったというのだろうか。俺たちは、何のために奴らと三度も戦ったというのだろう。俺たちは激しい焦燥にかられた。
 奴らは、直ぐ近くまで来ているという。
 高台に行き、奴らの行軍を見下ろした。
 歩哨の言うとおりの数だった。数えきれないほどの敵が鶴翼の陣で、こちらに向かって行進していた。士気も高く、統制もとれている。
 奴らは、今度こそ俺たちのコロニーを落とそうと、決死の覚悟で来ているのであった。
 鬨の声が上がった。
 俺たちの勇敢な戦士が、必死の形相で迎え撃つ。これまでの戦いで傷ついた身体を、鼓舞し、玉砕覚悟で戦う。 しかし、多勢に無勢。玉砕覚悟で挑んだところで、勝敗は見えている。俺たちは次第に追い詰められてゆく……。
 蝉の鳴き声が一段と強くなった。葬送曲でも奏でているつもりなのだろうか。蝉たちの鳴き声は崩壊寸前のコロニーに響きわたった。
 俺たちは滅ぶ……。男どもは虐殺され、女たちは奴らにもてあそばれた後、殺されるだろう。子供たちは奴らの奴隷にされ、赤子は………。
「ウンさま! 敵が……、敵が退却してゆきますー」
 俺は耳を疑った。敵は俺たちが敬愛する女王の間まで、あと一歩のところまで俺たちを追い詰めていた。その敵が退却を始めているという。
「敵が、敵が退却をし始めたって? 本当か」
「はい、敵の後方に神さまが現れて……」
「神さまが現れただと!!」
 俺たちの世界には、神という想像もできない力を持ったモノがいる。
「神さまが現れて、奴らを踏み潰しています」
「そうか……」
 俺たちもそうだが、奴らも神には勝てない。奴らは突如現れた神に容赦なく踏み潰されるだろう。
「我が方の被害は? 我が方の被害はどうなっている」
 神は敵も味方も区別しない。俺たちの戦士も犠牲になっているかもしれなかった。
「我が方は、ほとんどの戦士がコロニーの中にいましたから、それほどの被害はなかったように思われます」
「そうか……。だが、警戒を怠るなよ。相手は神だ。良い神さまだったら最小限の被害で済むが、悪い神だったら女王さままで殺される」
 神は良い神と悪い神に分かれていた。
 良い神は、俺たちのコロニーの周りに白い芳醇な食料を降らしてくれることもあるが、悪い神は俺たちの仲間を拉致したり、コロニーそのものを破壊したりする。
 俺たちは突如現れた神が、良い神であることを願った。
「ウンさま! 水が……。大量の水が、我がコロニーの中に入ってきました」
「なに? 晴れているのに、水がコロニーの中に入ってくるわけないだろう」
「入ってきたんです。それも濁流となって……」
 たとえ嵐の日でも、なんの前触れもなくコロニーの中に濁流が入ってくることはない。前触れもなく、コロニーの中に、濁流が流れ込んでくる状態があるとすれば……。
「神だな。神の仕業だな」
「残念ながら……。そのようです」
「くそっ~ 神め!」
 俺は神を罵った。
「ウンさま、このままではコロニーが崩壊します」
「うむ……」
 神には、あがらうことができない。
 俺たちは神の気まぐれのせいで、滅亡してしまうのだろうか。

「武司! ホースで何をやっているの? 水撒きは、もういいから。水を止めて」
 女神の声が聞こえた。
「母ちゃん、もうちょっと待ってて」
 武司はホースを離さない。コロニーに突っ込んで様子を見ている。
「そこらへんじゅうビショビショにして……。まったく、この子ったらあ~」
 女神は、武司のもとに行き、武司の襟首を後ろから掴んだ。
「蟻さんを苛めていたのね。かわいそうでしょう~ そんなことしたら」
 女神は、武司の額を左手の人差し指で弾いた。
「いててって……。母ちゃん、知っていたのか? ここに蟻の巣があるってこと?」
「当然よ。私を誰だと思っているんですか」
「誰って? 母ちゃんだろ」
 武司は怪訝な顔をした。母ちゃんは母ちゃんである。母ちゃんがなんでそんなあたりまえのことを言っているのか、見当もつかない。
「あのね武司ちゃん、母ちゃんがいいたいのはそういうことではないの。私が言いたいことはね……」
「言いたいことって?」
「それはね、なんていうか……」
 女神は、どう説明していいかわからないようであった。
「それより、ホース、ちゃんと片づけて水を止めなさい」
「はぁ~い」
 武司はホースをコロニーの入り口から外すと、蛇口の方に駆けて行った。
 危機は去った。女神さまのおかげである。俺たちは、感謝の言葉を女神さまに捧げた。
「女神さま……。いつもありがとうございます」
 女神さまはいつも俺たちに祝福を与えてくれる。コロニーからそう遠くない所に砂糖という滋養あふれる食料を置いてくれたり、コロニーの周りにお花畑を造ってくれたりしてくれるのだ。
 俺たちは、女神さまがいたから、奴ら、サムライアリたちの奴隷狩りにも耐え忍び、悪しき神“武司”の襲来にも怯むことなく、これまで生き延びてきた。
 これからも女神さまがついている限り、俺たちは決して屈しないだろう。
 女神さまが、ついている限り……。

 翌日、澤田家の庭に幸一の姿が見えた。幸一は澤田家の主である。
「洋子、これっ庭に撒いててくれ」
 幸一が、妻に小さな箱を渡した。
「えっ、これって殺虫剤!?」
「そう蟻の巣コロリだ。蟻の奴。昨日も俺のベッドにまで潜り込んでいやがった」
「えっ、そうなの? 私、全然気がつかなかったわ」
「おまえ気がついていなかったのか。のんきな奴だなあ~」
「悪かったわね~ のんきで」
 洋子はほっぺを膨らまかした。
「……とにかく、後は任せた。うまく退治してくれよ。またベッドなんぞに潜り込まれちゃあかなわん」
 夫の言うことは、もっともなことである。就寝中に蟻にモゾモゾやられたらたまらないだろう。
(かわいそうだけれども……)
 洋子は庭に殺虫剤を撒いた。

 俺たちのコロニーに奇病が流行り始めた。
 数時間前まで元気だった仲間が次々と倒れて行く。
 幾度も襲ってきたサムライアリを撃退してきた勇敢な仲間が、四肢を震わせて死んでゆくのだ。
 なんだ? 何が起こっている!!
 サムライアリの襲撃にも、武司という悪しき神さまの侵略にも、耐え忍んだコロニーが崩壊してゆく。
 わけのわからない奇病のせいで………。
 女神さま……。どうぞお救いを!
 

                 =了=

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初め宇宙のはなしかとおもいましたが擬人法ですか
勉強になります
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