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自作小説

ニャンタの大冒険 ACT 6

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               ニャンタの大冒険  ACT 6

 おいらたちの環宇宙多次元移動機は、そんじょそこらにある空飛ぶ円盤じゃあない。
 胸をはって、威張っていう。おいらたちの円盤、通称“トンデレラ”は、一瞬にして他の星系に跳躍してゆける超高性能の乗り物なのである。
 一瞬にして他の星系に跳んで行けるこの技術。
 その技術の粋を集めた金字塔ともいえる円盤の中に、おいらとエミミ姉ちゃんはいた。
 円盤は、すでに惑星ノンタから遠く離れたところにいる。
 超技術ルクメ航法によって、1時間も経たないうちに地球の上空、外気圏と呼ばれるところに漂っていたのである。
《あれが地球……、美しい星ね》
《海が70%以上を占めている惑星なんだ》
 目の前に拡がる太陽系の宝石ともいえる星‘地球’は、予想以上に素晴らしかった。
 おいらたちの惑星‘ノンタ’も蒼くて美しい星なのだが、地球は、おいらたちのノンタ星より、はるかに輝いている。
 地球を、カプセルに閉じ込めて、胸飾りにしたら、誰もが羨むであろうと、本気で思った。
《さあーてと、荷物の整理をしなくちゃ》
 エミミ姉ちゃんは、床に散らばっているバック類を集め始めた。
 おいらは、とりあえずリクライング・チェァーに座る。
 トンデレラは、完全自動制御装置で動いている円盤である。ココロと呼ばれるマザーコンピュータがトンデレラを一から十まで管理し、航海の安全を取り計らっている。おいらたちは、ただ寝そべっていても目的地に着くというわけである。
「ピコココーン、ピコココーン~」
 トンデレラの中央にある、カバのでべそみたいなモニターが鳴った。モニターの画面に旅行局の可愛いガイドのお姉さんの姿が映る。
「この後、大気圏突入となります。衝撃が機体を揺らしますので、椅子について、安全装置を作動させて、待機してください。なお、大気圏突入時には通信が一時遮断されます」
《姉ちゃん、大気圏に突入だってよ。大気圏突入ー》
 おいらが、オウム返しに言うと、荷物の片づけを終えたエミミ姉ちゃんは……、
《……カキーン、私の細胞変換合成機に、ちゃんとシャム猫の毛をセットした? しないでしょう》
 と、言って、おいらを睨んだのだった。
《えっ、確かにきちんとセットしましたけれど……》
《本当に? じゃあ、これっ、何よ!》
 エミミ姉ちゃんは、おいらにビニール袋を見せた。
 ビニール袋には“シャムちゃんの毛だよ。よろしくね”と書かれてあった。 
《こ、これは……。細胞変換合成機にセットしたはずの、シャム猫の毛!?》
 おいらは、まさか、そこにそれがあるとは思わなかった。何かの間違いで荷物の中に紛れ込んだのであろうが、よりによってエミミ姉ちゃんの荷物の中に紛れ込むとは運が悪い……。
《これはじゃあないでしょう。あんた、間違って別な猫の毛をセットしたんでしょう》
 エミミ姉ちゃんの眼光が鋭くなる。
《そうかなあ~ そんな間違い、おいらがするかなぁ~ 》
《したのよ!》
 エミミ姉ちゃんは、おいらに飛び掛かってきた。
 逃げる、おいら。おいらを追うエミミ姉ちゃん。
 埃が舞い上がり、いま整理したばっかりの荷物が宙を飛び交い、おいらを罵るエミミ姉ちゃんのドラ声が、ギンギンと円盤内に響き渡った。
「ピコン、ピコン、ピコン、ピコン」
 モニターが、また鳴った。
「あと、3分少々で大気圏に突入します。まだ、安全装置を使用していないお客様はただちに安全装置の方へ移動してください」
 モニターの可愛いお姉さんが、そんなことを言っているが、こっちはそれどころじゃない。
 なにしろ、憤怒の鬼と化したエミミ姉ちゃんが、おいらにせまってきているのである。
《あんたのせいで……、あんたのせいで……、あんたのせいで……。シャム猫に変身できなかったんだからー》
 エミミ姉ちゃんの爪が、宙を切り裂き、エミミ姉ちゃんの猫パンチが、おいらの胴に決まった。
 のけ反る、おいら。エミミ姉ちゃんの執拗な攻撃は止まない。
「あと、2分少々で大気圏に突入します。コードネーム、ニャンタ様、ニャンコ様、安全装置の方へ移動してください」
 トンデレラは大気圏突入に備えて、くるくると回り始めた。
「あと、1分少々で大気圏に突入します。……ニャンタ様、ニャンコ様……、ニャンタ様、ニャンコ様」
 モニターの音と光の点滅が、激しくなってゆく。
「お席についていられないようですので強行手段をとらせていただきます」
《へっ? 強行手段!?》
 おいらと、エミミ姉ちゃんの動きが一瞬止まった。
 床が突如、スライム状になった。硬くて、すべすべしていた床が、ネバネバでぐちゅぐちゅしたモノになり、ぐにゃりと、おいらとエミミ姉ちゃんを包み込んだのであった。
《なあ~にぃ~ これっ、なんなのよ~う》
 エミミ姉ちゃんが、叫ぶ。
《おわっーと。おわおわおわわ》
 おいらは、もがいた。
「私ども環宇宙旅行局では、お客様の安全を第一に考えております。そのため、お客様の身を守るためには、多少、手荒な方法をとらせていただく場合があります。今回、お客様は、私どもの指示に従いませんでした。私どもは大気圏突入の際の衝撃に備えて、万全の準備をしなければいけませんので、僭越ながら強行手段をとらせてもらいました」
《なにが強硬手段よ。いや~よ、こんなの。こんなのに身体を抑え込まれたら気持ち悪いでしょう。ねえ、そう思うでしょう、カキーン》
《確かに……。ぐえええっえっ》
 おいらと、エミミ姉ちゃんは、床の上に頭だけ出して、スライム状になった床に取り込まれている。確かにスライム状になった床に取り込まれるのも気持ち悪いが、頭だけ床に出ている姿も気持ち悪いモノである。
「ぶわっわっわっわっー」と、いう音が鳴った。
 いよいよ、大気圏に突入である。
 数分後、大きなハンマーで殴りつけられた衝撃が円盤内に起こると、おいらの中に初めて、「おいらたち、もしかして宇宙旅行をしているんじゃあないのかなあ~」という実感が湧き上がってきた。
 なにしろトンデレラは、惑星ノンタから銀河系まで、一瞬にして跳躍してきているし、銀河系から太陽系第三惑星地球の上空までも、これまた、一瞬で跳んで来ている。隣の家に御茶飲みに上り込んだ感覚でここまで来たのだから、大気圏突入の際に起きた、激しく、とんでもない衝撃は、おいらを異様に興奮させ、おいらの心と体は、悪い薬をヤッタみたいに舞い上がってしまったのであった。
 あっ、ラリホーラリホー、ラリルレロ~と。
 おいらは、絶えず襲ってくるラリホーラリホー、ラリルレロの波状攻撃の前に、あやうく失神しそうになった。
 少しして……。
 おいらたちは、地球の空の上にいた。
 空飛ぶ円盤トンデレラのコンピュータが、円盤内の安全を確認すると、高度計が「ここは地球の地表から10キロの上空ですよ」というメッセージを流していた。
 無事に地球についたのである。
 スライム状の床が、おいらとエミミ姉ちゃんを吐き出し、おいらとエミミ姉ちゃんは、よろよろと立ちあがった。
「ピコココーン、ピコココーン、ピコココーン」
 モニターがまた鳴る。
(なんだよ、また~ いま、着いたばかりじゃあないか)
 おいらの身体は、激しい振動と宇宙酔いでグターッとなっている。とても立っていられない。露骨に顔をしかめた。
「カキーン、カキーン、そこにいるんだろ。隠れても無駄だぞ」
 モニターから、どこかで聞いたような、しわがれた声が聞こえてきた。
「このわしを、たばかりやがって、まったく大したものじゃなぁ。ええ、おい!」
 この声は……、この声は、もしかすると長老クンカイ!?。
「おい、カキーン。聞こえているのか! カキーン」
 もしかしなくても、あの長老クンカイである。
「カキーン、カキーン、カキーン」
(わかったよ! もう~)
 無視すると、後でうるさいので、おいらは恐る恐るモニターの前に立った。モニターの画面には、はたして長老クンカイの姿が映っていた。
 おいらは、追従を顔に浮かべた。機嫌が悪そうだから、ニコニコと愛想笑いをしたのである。
《どうも、カキーン改め、ニャンタです。以後よろしくお願いします~》
「な、なにが、ニャンタだ。おまえからもらったあの本! あの本は無修正のエロ本ではないではないか。フン! 文豪ヘレンススキーのカボチャ畑の園だと!! こんなの読んでも、何も興奮せんわ」
 なんで、クンカイの機嫌が悪いのかわかった。おいらのちょっとした悪戯がばれたのである。
《いや~あ。そうでしたか。どこでどうとりちがえたのかなあ~》
 おいらは、頭をカキカキ、とぼけた。
「とぼけるな! すぐにばれるようなくだらないことをしおって。こんなしょーうもないことして、わしからよっちゃんアメと細胞変換合成機を奪って、どうするつもりなんだ。そんなことして地球に行ったって面白くないだろうが……。だいたい、おまえはなあ~ 生活態度がなってない。お酒を飲みに行くにしても、わしを誘わず一人で飲みに行くし、遊園地に行こうね、カキーンと、わしが誘っても、なんだかんだ言い訳を言って、わしと付き合ってくれない……。そもそも二百年も音沙汰なしというのはどういうことなのかね。わしは淋しかった。淋しかったぞ、カキーン。淋しくてなぁ……淋しくてなぁ……」
 長老クンカイが、ああでもない、こうでもないと、しょうもないことをのたまっていると、エミミ姉ちゃんが横から口を出した。
《長老、お元気! この前はどうも》
「ややっ、その声は……。もしかしたら、おまえ、エミミという若い女の成れの果か」
《成れの果だって!》
 エミミ姉ちゃんは、モニターに向かって爪をたてた。
「いやいや、……たいそう美しく変身した姿で、大変ご結構なことであるようじゃなぁ……。その~う……」
《そのなによ! さっきから黙って聞いていれば、くどくどとどうでもいいことばかりいいやがって。あんた、カキーンに恨みでもあるの》
「いや、恨みなど……」
《恨みがなけりゃあ、黙ってなさい!》
「はぃ……」
 長老クンカイも、エミミ姉ちゃんにかかちゃあ、形無しである。
 面目を失ったクンカイは、小さい目をしょぼしょぼさせたのであった。
《地球に着いたけど、どこに行くの?》
 エミミ姉ちゃんが言った。
《日本。日本という国に行く》
 四季それぞれの美しい景色を、愛でることができる国。核兵器というとんでもない爆弾を下されても、不死鳥のようによみがえった国。
 神秘に満ち溢れた国、日本……。
 おいらは、惑星ノンタを旅立つ前から日本に行くと決めていた。
「日本? 日本はいい国だぞ。芸者ガールにチャーミングなテレビアナウンサー、先走ったアイドル文化に萌え萌えカフェ。うっうっう、考えただけで、よだれがでてくるわい。ふしゃしゃしゃしゃぁ~」
《馬鹿! あんたは黙ったいなさい》
 エミミ姉ちゃんが、モニターの画面にパンチを入れた。
《日本ね……。私も日本に行きたいと思っていたの》
 エミミ姉ちゃんが、そう言うと、天井に張り付いているマザーコンピュータ‘ココロ’が優しそうな女性の声で、
「行き先が決まったようなので、本機はこれから、日本上空に向かいます。日本、到着後。お客様は自由に行動ができますが、くれぐれも正体を悟られないようにしてください。お客様には、お客様の安全を確保するため、5時間ごとの定時連絡が義務づけられています。定時連絡を怠った場合、本機は、お客様に異常事態が起こったとみなし、すぐにお客様の身柄の拘束にかかります。なお……」
《わかった、わかった。定時連絡は必ずします》
 おいらは逸る気持ちを抑えきれなかった。
《カキーン、日本っていう国、早くみたいわねえ》
 抑えきれない気持ちは、エミミ姉ちゃんも同じである。
 おいらと、エミミ姉ちゃんは希望に輝く小学一年生のように、瞳をウルウルと輝かせたのだった。

                      =ACT 7に続く=

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まとめtyaiました【ニャンタの大冒険 ACT 6】

               ニャンタの大冒険  ACT 6 おいらたちの環宇宙多次元移動機は、そんじょそこらにある空飛ぶ円盤じゃあない。 胸をはって、威張っていう。おいらたちの円盤、通称“トンデレラ”は、一瞬にして他の星系に跳躍してゆける超高性能の乗...
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