自作小説

石を積む男 その7

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                  石を積む男  その7

「わたしは壊れていったよ。辛かった……。娘と孫を失った時も辛かったが、壊れてゆく自分を見つめることも辛かった」
 及川が言った。
「壊れてゆく? あなたが……」
 田尾は眉をひそませた。
「憐れみや蔑みは、人を惨めな思いにさせる。惨めな思いは、人を孤独にし、人の心を破壊する。……わたしは壊れていったよ。人を信じられなくなり、猜疑心の塊になった。逢う人逢う人に、呪いの言葉を吐き、酒浸りの日々を送るようになったよ。けれどもな、そうやって自分を壊していってもなにも解決しなかったし、誰も助けてはくれなかった。娘と孫を亡くした時、あれほど親身になって、わたしのことを慰めてくれた人も、汚い言葉を振り回しては、酒を飲み続けるわたしのことなど相手にしない……。酔いつぶれて公園のベンチに寝そべったわたしに唾を、吐く、知り合いさえ現れたよ」
 及川に、唾を吐いた人間は、娘達が生きていた頃、よく及川のところに、遊びにきていた四十代の主婦だった。
 会えば、必ず微笑みを返してくれたいた主婦が、身を持ち崩した及川に向かって、蔑みの塊を吐いたのだった。
「市会議員までやった男がなにさ。みっともないったらありやしない」
 信頼した知人から放たれた屈辱的な言葉に、きれた及川は、主婦に殴りかかった。昔親しかった主婦に暴力をふるい、怪我を負わせたのであった。
 怪我を負わせた後、及川は、そこに立ち尽くした。その後のことは何も覚えていない……。
 及川が、我に返った場所。そこは警察の留置所だった。警察に通報され、留置所にぶちこまれたのである。
 留置所は狭く、汚かった。その薄汚れた留置所に中で、及川は、あるものを見つけた。なぜ、そこに置かれていたのかわからない。おそらく、何かの拍子に外から紛れ込んだのであろう。留置所の中に、小さな小石が三つほど無造作に置かれていた。
 普段の及川だったら、そこに石があっても、気にすることなどなかっただろう。が、身を持ち崩し、生きる意味さえ失っていた及川は、なんとなく石を見続けた。
 時の経つのも忘れ、しばらく石を見ていた。夜の海の中に、小さな光を見つけるような気持ちで、石を見つめていると、脳裏に、幼い頃に聴かされた“三途の川・賽の河原”の物語が浮かんできた。
 子供たちは、自分を産んでくれた父母を想い、石を積む……。
〈父さん、母さん、早く死んでしまってごめんなさい。父さんと母さんを悲しませてしまった罪は、償うことはできないけれども……わたしたちは、ここでこうやって石を……〉
 泣きながら石を積む子供たちを、鬼たちが叱る。
〈みっともない。こんなみっともない塔ではご利益もないだろう。おまえたちの想いなど届くものか! 積み直せ、積み直して成仏を願え〉
 鬼たちは、子供たちが、せっかく積み上げた石の塔を崩す。
 大きな塔も、小さな塔も、いびつな塔も、端整な塔も、同じように破壊する。
 現世では、子を失った親たちが、賽の河原で石を積み上げている子供たちのことを想い、念仏を唱え続ける。
〈おまえたちに罪などあるものか。罪などあるわけない。罪などあってたまるものか。だから……だからよしてくれっ。石を積み上げるのはやめておくれ。わたしたちは、おまえたちが生まれてくれただけで幸せだったんだ〉
 子供たちが、石の塔を積み上げ、地獄に住む鬼たちが、それを壊し、現世で生き続ける親たちが、幼くして死んでいった子供たちを想う、賽の河原の物語……。
 及川は、無情にも思える賽の河原の話を思い出して、号泣したのだった。

「及川さん、私も石を積んでいいですか?」
 優香が言った。
「積ませてください、私にも」
「おまえさんは、なんのために石を積むのかね。わたしの話を聞き、わたしに同情したからか」
 及川は、目を細めた。
「同情なんかしません。私は私のために石を積むのです」
「自分のためにか……」
「ええっ」
「それなら、よかろう」
 優香は、及川の横に座って石を積み始めた。
「私ね……自分のことが、とても嫌な女だと思うことがあるの」
 優香が石を一つ積み上げる。
「恵まれた同性をみると、しなくてもいい意地悪をしてみたり、つかなくてもいい嘘を言って、困らせたり、美穂と同じ小さな女の子が幸せそうに笑っていると、太ももをつねって泣かせてみたり……。そんなことしなくてもいいのにね」
 優香が、また一つ、石を積み上げる。
「そんなことをしても、少しも気が晴れやしないのにね。自分が惨めになるだけなのにね……」
「惨めな気持ちになったとき、おまえさんはどうした? やけになったか? わたしのように自暴自棄になり……、若いおまえさんは遊び歩いたか」
「そんな、遊び歩いただなんて……」
 優香は、振り向き、及川を見つめた。
 修二の葬儀が済むと、優香は、母に美穂を任せて職場に戻った。
 優香の母は、よく美穂をみてくれたが長い時間、美穂をみてやることはできなかった。年老いた身では、体の調子が悪くなれば、寝床につかなければならなかったし、衰えた脚では、外に美穂を連れて出てゆくことはかなわなかったのであった。
 その頃、美穂は、よく風邪をひいた。
 年老いた母に、病気になった美穂を預けることができなかった。優香は美穂が風邪をひくたびに、仕事を休まなければならなかった。
 仕事を休めば収入が減る。
 優香は、減った収入の分を補うために、売春まがいのことを、するようになった。
 男の男性自身を擦り、自分の胸を触らせた。身体を触らせても、それ以上の行為はしない。修二さんの顔に泥をかけるような行為など決してしないと、自分に言い聞かせて……。
 売春まがいに行為が、優香の心をしだいに荒ませてゆく。
 優香は、手っ取り早く、金を稼ごうと、ギャンブルにのめり込むようになったいった。

   =  その8に続く =


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