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自作小説

石を積む男 その8

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                     石を積む男  その8

 パチンコで、五万勝ったと言っては狂喜し、スロットで三万負けたと言っては、ふてくされた。
 売春まがいの行為と、底なしのギャンブル地獄……。
 優香の心は、ボロボロに壊れていった。
「なにも変わらなかった。そんなことをしても、なにもかわらなかった」
 優香は泣きだした。
「私って、ダメな女なのよ。心が弱いのよ。ただ遊び歩きたかったのよ。お金も欲しかったし……」
 優香は、泣きながら、また一つ石を積み上げた。
「そうでもしなかったら私……。美穂を連れて自殺していたわ」
 孤独地獄は、簡単に人を死の淵に追い詰める。
 生きがいであるはずの一人娘も、生活することに疲れ果て、孤独の顎に、がぶりとくわえられた優香の心を救うことができなかった。
 優香は、心にできた大きな穴を埋めようと、売春まがいの行為とギャンブルを繰り返す。
 その果てに……。
 優香は、石の塔を完成させると、静かに目を閉じて合掌した。
 土手に一台の車が停まった。白い乗用車だ。
「優香さん、こんなところにいたんですか?」
 乗用車から、男が一人、降りてきた。浩一郎だった。優香が笑みを返す。
「浩(こう)さん、仕事は? 今日は仕事、休み?」
 田尾が河原にやってきた浩一郎に声をかけた。
「休んだよ。今日は大事な用があるんだ」
 浩一郎が、優香を見る。優香は、はにかんで視線を下に落とした。
「浩さんの大事な用って、……優香さんに関係あることか」
 田尾が浩一郎と優香を見比べながら言うと、浩一郎は、
「実は、僕たち結婚することにしたんだ」
 と、言った。
「結婚!? おまえと優香さんがか……」
 田尾は、思わずよろけてしまった。
 優香と浩一郎が、互いに惹かれあっていたことは、薄々気づいてはいたが、そこまで進展しているとは思ってもみなかった。
 優香と浩一郎。優香は、五歳になる娘を持ち、浩一郎は七歳になる娘を育てている。どちらも片親で、他に頼る人などいやしない。
 同じような境遇が、二人を結びつけたのであろうか。見つめあう二人の絆は、深く結びついているように見えた。 
「これから修二さんのお墓に行って、僕たちの結婚を報告するんだ」
 浩一郎は、優香の肩に手をかけた。優香は、その手を軽く握った。
「浩一郎さん」
 優香が微笑みながら、
「報告は午後でもいいでしょう。私……、しばらくここにいたいの」
 と、言い、その場に、しゃがみこんだ。
「浩一郎さんも一緒に造りましょうよ。石の塔を」
「石の……、塔をですか」
「そうよ、石の塔よ。子供たちが造っているでしょう」
 健一と麗華は、石の塔を造り続けている。浩一郎は腰を落とし、子供たちが造っている石の塔を観察した。
「パパ、一緒に造ろう」
 麗華が、浩一郎の傍らに来て、せがむ。
「仕方がないな」
 浩一郎は、地面の上の石を一つとった。
 及川、優香と浩一郎と二人の子供。
 五人の人間が、朝の河原で石を積んでいる。何も知らない人間が見たら、実に奇妙な光景に見えただろう。
「田尾さんも積んだらどうです」
 浩一郎が言った。
「俺が? なんでそんなことをしなくちゃあならないんだ。アホらしい」
「そう言わずに……。こうやって、何も考えず、ただ石を積み上げていると、気持ちがいいですよ」
 浩一郎には、及川がここで石を積み始めた理由も、優香が石を積んでいる意味も、知りはしない。妻になる女から、進められ、石を積み始めただけである。
「石を積みましょうよ、田尾さん」
 浩一郎が言う。
「なにを言いやがる。俺はおまえらみたいな暇人じゃあないんだ」
「忙しいんですか?」
「ああっ、俺は忙しい……」
 田尾は、浩一郎から視線を逸らした。
 忙しくなんかない。現場の仕事は二日前に終わっている。今日一日、なにもやることはない。お金に余裕があれば、パチンコにでも行くが、見事なまでの文無しである。
「健一、帰るぞ」
「えっ、帰るの?」
 健一は帰りたくなかった。父は今日一日、家の中にいるのだ。家で安酒をあおり、愚痴ばかり言う父の姿など見たくはなかった。
「おまえさん、どこに行く。帰ってからどこかに行くのか」
 及川が言った。
「どこでもいいだろう。おまえには関係ない」
 田尾は、そう、はきすてた。
 忙しいと言った手前、家に帰って、憂さ晴らしに酒でも飲むさとは言えなかった。
 田尾は土手に向かって歩き始めた。左手の人差し指が、小刻みに震えている。息継ぎは早く、胸を打つ鼓動が忙しかった。
「健一、そこでなにしてる。置いてゆくぞ」
 健一は、まだ河原にいた。
「なに、グズグズしている」
 田尾は唾を、吐き散らしながら言った。
 父の剣幕に驚き、健一が、田尾のもとに走り出した。息を切らして、田尾の傍らに来る。
「父さん……。川の中に、お地蔵さんがいるよ」
 健一が言った。
「あん? お地蔵さんだって!」
「うん、お地蔵さんがいたんだ」
「おまえ、何言っている。川の中に、そんなものいるわけないだろ」
「でも、いたよ。お地蔵さんが……」
「いるわけないだろう。馬鹿なことを言うな」
 田尾は、健一を叱りつけた。
 悲痛な話しである賽の河原の物語にも、救いがあった。子供たちの前に地蔵菩薩が現れ、子供たちを救うという。
(お地蔵さんねえ……。あんなもの、ただの石の塊だろう。馬鹿馬鹿しい……)
 田尾は、振り返り、河原を見つめた。
 大広川に、柔らかい風が吹いた。
(お地蔵さんか……)
 田尾はため息をついた。
 シルクのぬくもりのような風に吹かれながら、田尾は、いつまでも河原を見つめていた。


                = 了 =



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