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自作小説

餓鬼狩り (第十四回)

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                         餓鬼狩り   (第十四回)


 鹿沼署の一室。連続猟奇殺人事件の実質的リーダー 室緒 武は、今回の事件を改めて検証していた。
 始まりは、広崎神社で起きた若い男女の無残な遺体だった。
 賽銭箱の上に置かれていた損壊が烈しい若い男と女の首。狛犬の石像の傍らにあった千切れた耳と腸。引き裂かれて無造作に散らかっていた女の青いワンピース……。神社の背後にある山林からは、男が着用していたと思われるズタズタに引き裂かれた藍色のズボンと、黄色のジャンパーが、見つかった。
 その二日後。東小路広場公園での事件では、いたいけな幼児の首だけが、噴水の前に置かれてあった。
 発見したのは、酩酊し、足元もおぼつかない中年の男だった。アルコールにやられた男の口から発する言葉は、ろれつが回り、意味不明の言葉だらけだった。が、異常なことが起きた事は、男の尋常でない様子で理解できた。
 男から通報を受けた県警は、所轄と連絡をとり、付近を警ら中の警官を、ただちに現場に急行させた。
 駆け付けた警官たちが見たもの……。
 幼子の三つの首。
 それを身近に見た警官は、いまだに夜、うなされているという……。 
 それから数日後、浜通りの廃棄された古い鉄工場跡では、警ら中の警官が犠牲になった。
 ひとりは、体をバラバラにされて死亡。残ったもうひとりの警官は、右手を潰され、その時の記憶が消されていた。
 警官の記憶は消されていたが、すべての記憶が消されていたわけではなかった。
 右手を潰された警官、吉川が、機転を利かせて録ったボイスレコーダーに、広崎神社で起きた事件と、東小路公園の事件の犯人と思われる人物が名指しで、録音されていたのである。
 それによると、高井戸、吉川、両警官を襲ったのも、神社で若い男女を惨殺したのも、公園で幼児を殺戮したのも、蒜壷一族というものの犯行らしい……。
 蒜壷一族……。そもそも、蒜壷一族とは何者なんなんだろう? 神社で若い男女の首をさらし、公園で、幼児の首を三個も放置した、蒜壷一族の真意はどこにあるのだろうか?
 高井戸と吉川は、滅多な事では撃つことが許されない拳銃を撃っている。回収された二人の拳銃を調べてみると、拳銃から放たれた弾は、一発や二発ではない。全弾が撃ち尽されていた。
 高井戸や吉川は、拳銃に込められていた弾を、全弾、撃ちこまなければならない相手と遭遇したと言える。
 ボイスレコーダーに残された女の声は、蒜壷一族は、人を食するとも言っていた。
 検死官の話によると、現場に放棄されていた高井戸の遺体から、獰猛な動物が付けたと思われる噛み傷が見つかったという。データーを科捜研に送り、調べてもらってはいるが、まだ回答がきていない。
「入っていいですか」
 ドアを叩く音がする。
「村中か……。例の一件、調べてきたか」
 室緒は、ドア越しに声をかけた。
「ええっ……」
 村中は、短く答え、室の中に入ってきた。
「で、県で扱った、ここ半年の特異家出人の案件は何件だった?」
 室緒が質問する。
「三百五十件以上の案件が確認されています」
「そのうち解決したものは?」
「三十三件だけです」
「その三十三件の内容は?」
「いずれも、捜索願を出した家族の、勘違いか、早とちりによるもので、行方不明と思われた娘さんや息子たちは、慌てて、家に連絡を入れています」
「行方不明者が、こうも、立て続けに出ていると、そんなこともでてくるだろう」
 室緒は、村中から目を逸らした。
 特異家出人とは、事件や事故、あるいは自殺の可能性があると思われる行方不明者を指す。人がその姿を消し、どこをあたっても所在が確認されないとわかると、家族、または行方不明者を知るものが、警察に捜索願を出す。
 事件や事故、自殺に関わりないと思われる場合は、コンピューターに登録されるだけで捜索活動は行われることはないが、特異家出人と判断されると、警察は動き出す。
「で、マスコミの動きは?」
 室緒が言った。
「マスコミの動きといいますと?」
「マスコミは、今度の猟奇殺人事件と、日を追って増えてゆく行方不明者の関連性について、何か気づいているのか?」
「えっ! 今度の事件に、行方不明になっている人たちが関係しているんですか」
「それは……」
 室緒は言葉を濁した。
 警察に届けられる家出人捜索願の数は、年に十万件に近い数を数える。そのうち一割から二割の割合で特異家出人と判断される。
 I県は人口百三十万の県である。そのI県で、半年で三百五十件の行方不明者があり、そのうち特異家出人の数が三百件を越すこの状態は、あきらかに異常だった。
 事態を嗅ぎつけたマスコミが、二ヶ月ほど前から騒ぎ出しているのだが……。
「……女の声の分析は、どこまで進んでいる」 
 室緒は話題を変えた。
「声のイントネーションおよび、アクセントから判断するとT県の東部地域出身の女性らしいということだけが、今のところ分かっています」
「T県……。ああっ、出雲大社がある、あのT県か」
 室緒が、文献や、ネットで、蒜壷一族および、それに関すると思われることを調べている時、偶然開いたページの中に出雲大社が載っていた。
 まさか、あの出雲大社と、今回の一連の事件が関係はないと思うが……。
「村中さん。ああっ、室緒さんもいたんですか。ちょうどよかった」
 村中の後方から、ひとりの巡査がやって来た。
「どうした?」
 と、村中が言うと。
「蒜壷一族だというものから電話があって……」
 と、巡査が言った。
「蒜壷一族だと!?」
 室緒が、巡査の肩を激しく揺さぶった。
 蒜壷一族のことは、まだマスコミに話していない。今この時点で蒜壷一族のことを知るものは、捜査本部の連中だけだ。捜査本部の連中が外に漏らすことなどない。だとすると、その電話は……。
「まだ、つながっているのか。まだつながっているのか、その電話は」
「いいえ、一方的に切られてしまいました」
 巡査は、ぼそりと応えた。
「電話の内容は……。蒜壷一族は、なんと言っていた?」
「内容は録音されていますので、それを……」
 巡査が言い終わらないうちに、室緒と村中は室から出て、駆け出していた。

        
               = 第十五回に続く =

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