FC2ブログ

自作小説

餓鬼狩り (第十五回)

 ←餓鬼狩り (第十四回) →餓鬼狩り (第十六回)
                   餓鬼狩り   (第十五回

 捜査本部では、苦虫を噛み潰しているような顔をしている武井警部と、辺りをキョロキョロ見渡している高橋刑事が、室緒と村中を待っていた。
「警部、蒜壷一族から電話があったんですか!」
 と、室緒が言うと、
「聞いてみるか?」
 と、武井が言い、電話に取り付けてあるレコーダーのボタンを押した。数秒のブランクの後、しわがれた男の声がレコーダーから聞こえてきた。
「……同僚を殺され、さぞいきりたっているだろうな。広崎神社で若い男女を殺したのも、東小路広場公園で幼児を殺したのも、わが一族……。蒜壷の手によるもの」
「なんだと! きさまら、どういうつもりだ。なぜ、人を殺し続ける」
 しわがれた男の声の後に、電話口に出た高橋刑事の声が、レコーダーから聞こえる。
「動機!? 動機を知りたいのか? ふっふっふっふっ……。喰うためさ。空腹を満たすためさ。生きるために仕方がないことだろう。おまえらも一度食してみるといい、旨いぞ、人の肉は」
「ふざけるな!」
 高橋は手に持っている電話を机に叩きつけたい衝動にかられた。
 人肉を喰ってみるかだと!? 気でも狂っているのか。
「俄蔵(がぞう)山に行ってみるといい。おもしろいものが見られるぞ」
「おもしろいものとはなんだ! 何が見られる?」
「わが一族の精鋭が、そこにいるよ。いけにえとなる女を血祭りにあげようとしている」
「なに、おまえらは、まだ殺戮を繰り返そうとしているのか」
「さあね……。女は生き残るかもしれないしな。なにしろ、その女は普通の女じゃあないんでな」
「どういうことだ! 普通じゃあないって」
「化け物なんだよ、その女は」
「化け物!? 化け物とは、おまえらのことだろう」
「俺たちが化け物というのなら、おまえたちも化け物だな。自然を蝕み続ける化け物……。それが、おまえら人間」
「なにを偉そうに……。おまえは人間じゃあないというのか」
 高橋が激高して叫んだ。傍らにいた武井警部が、高橋から電話機をとった。間をおいて、武井警部の声がその後に続く。
「あっー、武井と言うものだが……」
「この事件の責任者か」
「そうだ」
「それじゃあ、早く、部下に命令した方がいいぜ。女を殺されてしまう前にな。……それじゃあな」
「それじゃあなって……。おい、待て、電話を切るな」
 そこで、レコーダーからの音声は途切れた。
「俄蔵山には、機捜を向かわせています」
 と、高橋刑事が言うと、
「特殊車両で向かったんだろうな。俄蔵山は切り立った断崖が多い険しい山だ」
 室緒が、確かめるように高橋の顔を見る。
 東北地方の中央部を、約五百キロにわたって縦断する奥羽山脈にある俄蔵山は、その昔修験僧が修行のためこもった山として名を知られた山だ。樹齢百年以上の樹木が生い茂る鬱蒼とした山肌と、山のいたるところにある垂直に近い危険極まる断崖絶壁が、修験僧たちの鍛錬の場に使われてきた。
 現在、蛾蔵山は、あまりにも険しい山岳なため、そのほとんどの場所が立ち入り禁止に指定されている。
「俄蔵山に向かった機捜隊は、四輪駆動の特殊車両で現場に向かっていますが、その車両でも、ふもとの活沼(いけぬま)あたりまでしか行けません」
 と、高橋刑事が言うと、
「あとは、徒歩か」
 と、室緒が言った。
 電話口の蒜壷は、女を血祭りにあげると言っていた。現役の刑事であった高井戸や吉川を手玉に取った蒜壷一族なら女を殺すことなど、いとも簡単に成し遂げるだろう。それが普通の女ならばだが……。
 普通の女ではない女……。蒜壷の男が化け物と呼ぶ女。その女とは、高井戸を殺し、吉川の右手を潰した現場にいた、あの女のことではないだろうか。
 室緒は、吉井刑事が残したボイスレコーダーに残っていた女の声を思いだす。
 T県東部地区出身と思われる女性……。声の感じから見ると二十歳前後の女性だと思われるが……。
「警部、俄蔵山に向かった機捜から連絡が入りました」
 パソコン画面を見つめていた女性捜査員が言う。
「もう、俄蔵山に着いたのかね?」
「いえ、俄蔵山から南に三百メートルほど離れた地点からの連絡です」
「三百メートル離れれたところから? 機捜は、なんといっている?」
「いま、スピーカーに機捜の声を流します」
 女性捜査員がマウスを動かした。パソコンに外付けされたスピーカーが、音を出し始める。
「いま、我々は信じがたいものを見ています。こんな怪物が目の前に現れるとは……。とても信じられません」
 機捜隊員は極度の緊張感に襲われているらしい。声が震えている。
「もしもし、その信じられないものとはなんですか?」
「い、いま、こちらでとられた画像を、そちらに送ります」
 パソコンのモニターに、その姿が映されてくる。
「これは、なんだ? 君はふざけているのか。なんで、こんなものを送ってくる」
 武井警部は、顔をしかめた。
「いえ、ふざけてなんかいません。身長五十メートルを越す怪物が俄蔵山で暴れているんです」
「馬鹿な!!」
 

                         = 第十六回に続く =

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村

スポンサーサイト


もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png 自作小説
もくじ  3kaku_s_L.png 市民劇場 裏話
もくじ  3kaku_s_L.png 命の輝き
もくじ  3kaku_s_L.png 映画鑑賞記
  • 【餓鬼狩り (第十四回)】へ
  • 【餓鬼狩り (第十六回)】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【餓鬼狩り (第十四回)】へ
  • 【餓鬼狩り (第十六回)】へ