FC2ブログ

自作小説

餓鬼狩り (第十六回)

 ←餓鬼狩り (第十五回) →地元企業の名品を食する! (その5)
                    餓鬼狩り  (第十六回)

 パソコンのモニターには、俄蔵山で暴れている二匹の怪物の姿が映し出されていた。
 これが、蒜壷一族!?
 室緒は、モニターに映し出された怪物を見て、思わず唾を飲み込んだ。
 モニターの中の怪物の姿は、国宝でもある六道絵に登場するあの化け物たちの姿に似ている。いや、国宝に指定されている六道絵や餓鬼草紙、地獄草紙に描かれている、あのおぞましい生き物、餓鬼そのものだった。
 地獄の亡者が、蒜壷一族の正体だというのか?
 室緒は、食い入るようにモニターを見つめた。
「室緒さん……。これが、蒜壷一族ですか」
 村中が言う。
「ああっ、これが特撮映画じゃあなければな」
 室緒は、あごに手をあてた。
 臨場感あふれるその姿は、とても作り物の化け物の姿には見えない。いや、決して作り物ではないだろう。身長五十メートルを越す被り物を作る奇特な奴など、そう滅多にいるものではない。
「だがな、村中」
「なんですか?」
「これも蒜壷一族と言った方がいいだろうな。この映像は何かの間違いでなければな」
「こ・れ・もですか?」
「ああっ、蒜壷一族がみなこんな大きな体をしていたら、広崎神社で事件を起こした時に、その姿が確認できたはずだろう。違うか?」
 モニターの中の化け物は、山肌に生い茂る木々の背を越いていた。その化け物が、作り物ではない木々を押し倒し、大地を粉砕しているのだ。
 仮に、この化け物が広崎神社や東小路公園の事件現場にいたら、出現した時点で、その姿は確認され、人々は混乱に陥っていたであろう。
「高橋、村中、行くぞ」
「えっ?」
「えっ、じゃあない。われわれも現地に行く」
 室緒は、高橋と村中を引き連れて、捜査本部を後にした。


 雁黄は、樹木から樹木へ飛び回る那美と呂騎を必死で追っていた。
 頭上では、二匹の食吐が森林を破壊し続けている。数百キロもある巨木や、重さ数トンもある巨石が、食吐によって、宙に放り投げられているのだ。直撃を喰らったら、ひとたまりもないだろう。
《那美さま、気をつけてください》
 呂騎が那美に思念を送った。
「食吐の動きを封じ込めなければ、ならないわね」
 と、那美が言う。
「それと……、あのお猿さんも、どうにかしないとね」
 那美は振り返った。
 雁黄が、那美をその手にかけようと、執拗に那美の後を追って来ている。
《雁黄は、このわたしに任せてください》
 と、呂騎が言う。
「勝算はあるの?」
《照りつける陽の下では、蒜壷のものは動きが鈍るはずです。食吐が森林を破壊し続けたために、この深山にも陽が降り注いでいます。雁黄は時期に動けなくなるでしょう》
 雁黄は、陽の光を避けるために、陽も射さない鬱蒼とした深山の寺で、那美を待ち受けていた。が、食吐の出現で、陽を遮る巨木がなぎ倒され、寺は破壊されてしまっていた。照りつける陽の下では、蒜壷一族は一時間も持たないだろう。 
「怒り狂っている雁黄は、手強いわよ」
 と、那美が言う。
《任せてください。いまの雁黄は、感情に任せて闇雲に攻撃を仕掛けているだけですから。それよりも……》
「伽羅と琥耶姫ね」
《ええっ、彼らの動きが気になります》
 食吐という五十メートルを越す餓鬼を、地上に落とした人狼の伽羅。癒師といわれる蒜壷一族の医師でもある残虐の蒜壷、琥耶姫。
 彼らは、食吐を地上に落とした後、洪暫の元に、そのまま帰還したのだろうか?
「逃げるなー 那美。俺と戦え」
 雁黄は吠えた。頭上で暴れる二匹の食吐が雁黄の動きまで鈍らせている。那美に容易に近づけない雁黄は、いらだっていた。
 呂騎が、雁黄の身体に後ろから、体当たりをくらわせる。
「おのれ、この犬めが」
 雁黄が膝をついた。
「おまえが、この俺の相手をするというのか」
 雁黄が、呂騎を睨み付ける。
「おもしろい……。相手になってやるわー」
 雁黄は、呂騎に躍りかかった。雁黄の攻撃を受けた呂騎は、いともたやすく雁黄の攻撃をかわす。雁黄が口から溶解液を撒き散らす。強烈な腐臭が辺り一面に漂い、木々や草花が音をたてて溶けだす。が、呂騎には当たらない。
「おのれ、おのれ、おのれ」
 雁黄は、歯ぎしりして悔しがった。
 食吐の攻撃に対して、防戦一方の那美は、反撃の機会をうかがっていた。このままでは、荒れ狂う食吐に近づくことさえできやしない。
「あれを使うしかないわね」
 那美は、左胸に手を当てた。胸に忍ばせた若草色の香袋が、青藤色に光る。那美の脚が大地から離れ、那美は空中に浮かんだ。
「あれは?」
 那美たちから離れ、戦いの行く末を眺めていた琥耶姫が、怪訝そうに顔をしかめた。
「十種神宝を使ったのよ。空中を自由自在に飛行できる力を持つ、足玉(タルタマ)の力をな」
 琥耶姫の傍らで、伽羅が舌を打つ。
「よく見なよ。那美の身体を。球形の膜のようなモノが那美の身体を覆っているだろう」
 球形の膜に覆われた那美は、空高く舞い上がり、二匹の食吐と対峙している。凛として食吐を睨み付ける那美には、怖れなどみじんもない。
「足玉を使えば、ヘリコプターのようにそのまま空中にとどまることもできるし、ジェット機のように、マッハの速さで空を飛ぶこともできる。那美は、それを使った」
 伽羅は、そう言うと、琥耶姫の方を振り向き、
「琥耶姫よ。そろそろ洪暫さまの元に戻ろう。ぼやぼやしていると、動きがとれなくなってしまうぞ」
「でも……」
「何をためらっている。忘れたのか琥耶姫。俺たち蒜壷のものは、日中では数時間しか活動ができぬ。その俺たちが、照りつける太陽の下にいたらどうなると思う」
「溶けてなくなるわ……」
「そういうこと」
 伽羅は、そう言うと、走り出した。
「ついて来い、ここにいると、人に俺たちの姿を見られるぞ」
 伽羅と琥耶姫はいずことなく、そこから消え失せた。 

           = 第十七回に続く =

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村
スポンサーサイト


もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png 自作小説
もくじ  3kaku_s_L.png 市民劇場 裏話
もくじ  3kaku_s_L.png 命の輝き
もくじ  3kaku_s_L.png 映画鑑賞記
  • 【餓鬼狩り (第十五回)】へ
  • 【地元企業の名品を食する! (その5)】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【餓鬼狩り (第十五回)】へ
  • 【地元企業の名品を食する! (その5)】へ