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自作小説

餓鬼狩り (第十八回)

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                    餓鬼狩り  (第十八回)

 空に、群青色の機体があった。I県、県警本部のヘリ、あさぎの機影である。
 あさぎは、最大速度、278km、航続距離440km、座席数10座席、フランス製のタービンエンジンを積んだ、I県警の誇るヘリである。普段は県警本部がある大岡市に常駐しているのだが、今回の事件をうけて、鹿沼市に運ばれていた。
 その、あさぎの中に室緒たちが見える。
 室緒、村中、高橋の三名は、鹿沼署を飛び出し、近くの運動場のグランドに待機させてあった、あさぎに乗り込み、鹿沼市から、俄蔵山がある奥羽山脈に向かっていた。
「県警本部に、あさぎを要請していて正解だったな」
 パイロットの後方に陣取っている室緒が言った。
「県警から来ている管理官のおかげです」
 村中が、そう言う。
「佐々木さんも、今回の事件にはヘリが必要になると考えていたんじゃあないの。事件が事件だからな。そう思うだろう、高橋」
「けど、いきなり鹿沼市から百キロ以上も離れた俄蔵山に向かうとは思っても見ませんでした」
 高橋は、いま、あさぎの機体に中にいるのが信じられない様子だった。辺りをキョロキョロと見渡している。
「なにを、キョロキョロ見ている? おまえ、もしかしたら高所恐怖症か」
「何言っているんですか。違いますよ……。ただ……」
「ただ、なんだ?」
 室緒に問われた高橋は、目の前に迫ってくる俄蔵山に、眼を移した。
 I県北部の奥羽山脈の中にそびえ立つ俄蔵山は、人の侵入を拒み続けているような山だ。上空から、観ているとその拒絶感がいっそう際立って見える。
「俄象山が、そんなに怖いのか?」
「怖くなどないですよ」
 怖いと言う気持ちはない。嫌悪感が募るのみだ。この山なら、恐ろしげな怪物が出てきてもおかしくはないだろう……。
 高橋は、室緒に視線を移した。室緒は隣でタブレット型モバイルを操作している。タブレット型モバイルで、俄蔵山のことを検索しているようだ。検索する室緒の目が、一つの記事をとらえる。ニヤリと笑い、高橋にその記事を見せた。
 記事は、その昔、役行者の流れをくむ仙人が棲んだという言い伝えがあるというものだった。
 標高一二百メートルの切り立った断崖が多い山、俄蔵山。その蛾蔵山に棲む仙人の名は伯楠(はくなん)と言った。
 伯楠は、俄蔵山から降りて下界の集落にくると、様々な奇行を見せて、世の人をたぶらかしたという。山に住む、サルやカモシカと共に村に現れ、何もない空間から、おいしそうなおむすびや、華美な衣類を取り出して見せては、村人を喜ばせたり、地の底から、もののけを呼び出しては、人々を震えあげさせたりしたと言い伝えられていた。
「見えてきました……。身長五十メートルを越す怪物です」
 パイロットがそう、告げた。
 室緒、村中、高橋が一斉にパイロット席になだれ込んだ。
「本物か!? 本物の怪物なのか?」
 室緒が声をあげた。古の絵巻、六道絵に刻まれし怪物……。あの怪物の姿がここにある。まさしく、室緒たちの目に映ったものは、捜査本部で室緒たちが見た、あの怪物の姿だった。
 無線機が鳴る。副操縦士が無線機をとり、二言三言話した後、室緒に無線機を渡した。
「室緒だが……」
「機捜の田中です。上空から何か確認できますか。できましたなら、詳しい情報を知りたいのですが……。こちらは、これ以上を近づくことができないので」
 二匹の食吐が、見境なく大暴れしたせいで、機捜が陣取る活沼から俄蔵山までの道程は、完全に塞がれてしまっていた。引き裂かれた巨木や、砕かれた岩石が大地に突き刺さり、機捜は身動き取れないでいるのだ。
「蒜壷一族と思われる怪物は傷を負っているようだ。背中から出血し、右腕を失くした蒜壷が一匹。もう一匹は右腕を縦に切り裂かれ左手首を失っている」
 室緒が、そういうと、
「ええっ、それは、こちらからも確認できます。ですが、妙なものが怪物たちの周りを飛んでいませんか?」
 と、田中が、質問を返してきた。
「妙なもの?」
「ええっ、こちらからは良く見えないのですが、大きなシャボン玉のようなものが、見えませんか?」
「なんだ、そのシャボン玉のようなものとは?」
「よくわかりませんが、そのシャボン玉のようなものが現れるたびに、怪物が傷を負っているんですよ」
 無線機の向こうで、田中が、そういった時、一匹の食吐が、無様に倒れ込んだ。
 あさぎが、その食吐の真上に廻りこむ。
「室緒さん、観てください。あの怪物……。足首が無くなっていますよ」
 村中が、そう言う。
 大地に倒れ込んだ食吐は、那美に左の足首を切断された食吐だった。背中を斬られ、右腕を失い、左足首までも、那美の手によって切断された食吐は、よろめきながら体制を立て直した。満身創痍のその食吐は、息も絶え絶えになっていた。
 食吐の足元から、シャボン玉のようなものが浮かんできた。よく見ると、中に何かが存在しているのが分かる。
「あれは……、あれはなんだ?」
 室緒が言う。
「あれは……、あれは、人……。室緒さん、人ですよ。人が中にいるんです。それも女だ」
 高橋が、室緒の問いに応える。
「女!? それじゃあ、蒜壷が言っていた……、生贄にするという女とは、この女のことなのか」
 室緒は、上空を旋回している女を凝視した。
 若い女だった。ここから見ると二十歳前後女に見える。淡いクリーム色の胴着みたいなものを身に着けている。穿いている紺色の袴が、風にそよいでいる。女は長い黒髪をなびかせながら、愁いを帯びた切れ長の瞳で、こちらを見ているような気がした。
 女を覆っているシャボン玉のような球形のものは、女がスピードを上げると、それに合わせるかのように変形した。スピードの上昇とともに激しく変化する気圧の影響を受けているような様子はないが、球形が、女の体の線に合わせるかのように変化し、それと同時に、急激に変わる気圧の変化から女の体を守っているようだった。
「危険です。これ以上、近づかないで!」
 突如、あさぎの機内に女の声が響いた。
 室緒たちは、ぎょっとして機内を見渡した。機内には女などいやしない。室緒、高橋、村中、三名と、二名のパイロットだけだ。
「食吐の動きは、見かけより素早い。傷ついていてもそれは変わらない」
 再び、機内に女の声が響く。
「室緒さん、それっ、そのモバイルからですよ」
 高橋が、室緒が持っているタブレット型のモバイルを指差した。
 タブレット型のモバイルには、女の顔が映っている。気迫のこもった瞳から熱気があふれていた。
「どういうことだ、これは……。機捜が中継しているのか」
 いや、それはありえないだろう。俄蔵山ふもと、活沼近辺に駐在している機捜は、折り重なった大木や、総重量十トンをも越す大岩に阻まれ、身動き取れないでいるのだ。
 だとすると……、これは!?

                         = 第十九回に続く =

P.S 物語には、まったく関係がない話ですが、
『ももいろクローバーZのライブ・桃神祭』 のチケットが取れました。
     7月26日(土)日産スタジアム ももくろライブに参戦する予定です!

  三文クリエイター 名刺 1
  *当日、胸にこんな↑名刺を胸にぶら下げるかも?
もし、気づいたら声をかけてね

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