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自作小説

餓鬼狩り (第二十回)

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                         餓鬼狩り  (第二十回)

 戦闘開始から三十分……。蒜壷一族は、直射日光の下では、命が長らえない。
 食吐は、異界から下界に降ろされた時から、生きて異界に帰れないことは覚悟していた。食吐たちを、ここに下ろした伽羅も、そのつもりで食吐たちを、ここに下ろしたのであろう。
 積年の恨みが募る那美と、ともに倒れるなら、それもいい……。
 食吐の脳裏に、そんな思いが過ぎる……。
 伽羅や琥耶姫、那美との戦いで塵となって消えて行った雁黄らは、那美が持つという十種神宝に固執していたが、彼らの走狗でしかない食吐たち餓鬼たちにとっては、十種神宝の存在は、あまり重要な事ではない。
 十種神宝さえ手に入れれば、蒜壷一族にかけられた呪いが解け、陽の光の中でも生きてゆけると言うが、人間の姿に化身できない餓鬼には、何の意味もない。日常的に闘争を繰り返し、常に飢え、醜い、おぞましいままの姿で暮らしたところで、得るのは憎しみだけだ。そんな状況に中で陽の光の中で生きて行っても、しょせん、今と変わりやしない。精神的にも肉体的にも、乾ききった餓鬼たちが、他の生物に愛されるはずはないのだから。
 生まれ落ちたときから憎まれ、憎むことでしか他の生物と触れ合うことができない餓鬼たち。
 それでも……。それでも生きる権利はある。生き続けて生を謳歌したい。せっかくこの世に生をもらったのだから……。
 那美との戦いで満身創痍になった食吐は、命の灯が尽きようとしていた。すでに、仲間の食吐は倒され、食吐たちの頭目の伽羅も、いずことなく姿を消している。
 食吐は、自分を睨み付けている那美を睨み返した。
 那美……。十種神宝を操り、俺たち蒜壷一族を狩り続けている女。この女は一体いつまで、俺たちを狩り続けるのだろう。
 俺たちを根絶やしにするまで、狩り続けるのだろうか……。
 食吐は、言葉にならない呪詛を呟きながら、血が混じった唾液を、那美、目がけて吐いた。が、唾液は、那美には届かない。弱り切った食吐の吐いた唾液が、俊敏に動き回る那美に届くはずがない。唾液は、食吐の胸元に流れ落ちた。
 那美の光破剣が目の前に迫る。食吐は最後を悟り、眼を閉じた……。
「どうやら、戦いは終わったようだな」
 室緒が、タブレット型モバイルの画面に映る那美に向かって言った。
「名は? 名前ぐらいあるんだろう」
「………」
「名前ぐらい、教えてくれてもいいだろう」
「私は……」
 那美は、視線を室緒から外した。
「あなた方は、どうして蒜壷一族の知ったの?」
 那美は、再び、視線を戻す。
「吉川の持っていたボイス・レコーダーに君の声が残っていた」
「あの刑事……。そんなものを持っていたのね」
「もう一度聞く。君の名は? なぜ、吉川のことを知っている。吉川が自己紹介でもしたのか」
「私の名は那美。吉川さんのことは……」
《那美さま……、マスコミ関係と思われるクルマが、こちらに向かっています》
 那美の頭に直接、呂騎の送った思念が届いた。
「わかった」
 那美は、短く応えると、室緒の方を向き、
「面倒なことになる前に、そちらの方へ行くわ」
「ここに来るって……、あさぎに乗り込むと言うのか」
「ええっ、マスコミ関係のクルマがこちらに向かっているの。刑事さんは、まだマスコミに、私と蒜壷一族のことを話していないでしょう。マスコミに私のことを知られたくわないわ」
 室緒の持つタブレット型モバイルの画面から、那美の姿が消える。戸惑う室緒の前に、部下の高橋と村中が集った。
「室緒さん、彼女、ここに来るんですか?」
 村中が問う。
「ああっ、この機に乗りこんでくるつもりだ」
 室緒は操縦士の肩に手を置いた。
「ホバリングして、ドアを開けますから、ドアの近くに寄らないでください」
 操縦士が操作し、あさぎが空中で停止した。サイドのドアがゆっくりとスライドする。室緒たちは、そこから、那美があさぎの中に入ってくるのを待った。
 数分後、那美が、あさぎの中に乗りこんで来た。
「剣は? 剣はどうしました?」
 高橋が聞いた。
「しまいました。ここには必要ないと思ったので」
「しまったって、どこに?」
 那美は、徒手空拳だった。身に着けているものは、淡いクリーム色の胴着と紺色の袴のみ。
「刑事さん……」
 那美は、高橋の問いを無視して、左胸に手を置いた。那美の左胸が鳥の子色(とりのこいろ)に光る。
「室緒刑事……。一連の猟奇殺人事件捜査班の実質的リーダー」
「ん!? なぜ、俺の名を知っている」
 室緒は、顔をしかめた。
「私は、人の心がある程度、読めるの」
「その力を使って、吉川の名をしったというわけか」
「吉川さんの場合、辺津鏡(へつかがみ)の力を使う必要もなかったわ。直接、吉川さんの額に触れることができたから」
「なんだね? その辺津鏡というのは?」
 那美は、室緒の問いを無視して、
「警察は、どこまで蒜壷一族のことを調べ上げているの」
 と、訊いた。
「ふっ、こちらからの質問には答えられないというわけか……」
 室緒は唇を嘗めた。
 那美という女……。ただの女ではないということは分かっている。分かっているつもりだが、二十代前半の可憐な少女にしか見えない那美を目の前に見ると、どう判断を下したらよいか分からない。
「我々の知っていることは、吉川のボイスレコーダーに残っていたことだけだ。それ以上のことは、君に話してもらう」
「私が、話すとでも?」
「是が非でも話してもらう」
 室緒は、底光りする視線を那美に送った。

                      = 第二十一回に続く =

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