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自作小説

餓鬼狩り (第二十二回)

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                     餓鬼狩り  (第二十二回)

 伽羅は、黒い山高帽を小脇に抱え、長い髪をオールドバックにして、そこにたたずんでいる。端正な顔つきで、琥耶姫を見る伽羅は、トカゲ顔の琥耶姫を見下しているかのように見えた。
 伽羅が言う。
「琥耶姫よ。もう一度、言う。惟三に化瑠魂をわけてくれないか」
「くどい。ダメだと言ったら、ダメじゃ」
「聞き分けのない女よ……。仕方がない、力づくで奪おうとするか」
 伽羅は、黒い山高帽を、傍らの岩の上に置いた。黒いロングコートを脱ぎ、それを惟三に預ける。
「わらわと、戦うというのか」
 琥耶姫の額に、汗がにじんだ。
「嫌か。いやなら、おとなしく、化瑠魂を出せよ」
 伽羅の、良く発達した八重歯が、キラリと光った。惟三に指をさし、さした指をそのまま、伽羅姫に向ける。
「惟三の皮膚は、特別だってこと、おまえも知っているだろう。おまえの針や、剣は、惟三の体には届かない。どうする、琥耶姫、俺たちと闘ってはてるか? それとも、おとなしく黙って化瑠魂を出すか? 」
「くっ!!」
 琥耶姫は、横目で惟三を見た。惟三は、相変わらず、嗤っているのか泣いているのか、どちらとも判断できない声を出している。なにか、琥耶姫に向かって言いたいようだが、ただ、くぐくもった声を出して、琥耶姫を見つめていた。
 伽羅は唇を曲げた。伽羅は、本気で琥耶姫と争うとしているのだろう。不敵に嗤った伽羅は、拳を突き出した。
 疾風の牙と呼ばれている伽羅。鋼鉄の皮膚を持つヒキガエルの惟三。一対一なら、まだ、それでも勝算があるとは思うが、二対一では勝ち目はない。
「わ、わかった……。一粒でいいんだな」
 琥耶姫は、折れた。ここで争っても得策じゃあない。ここは一度、譲歩して、なりゆきをみてみようと判断したのだ。
「一粒!? いいや、三粒もらおう」
 伽羅が、そう言う。
「三粒! 一粒でいいと言ったじゃあないか」
「気が変わったのよ。三粒だ。化瑠魂を三粒、わけてもらおう」
「な、な、な、なにっ……」
 琥耶姫は、唇を噛んだ。
 伽羅は、調子に乗って不当な要求を、つきつけている。が、ここで、断れば……。
「わかった……。三粒、三粒、渡す」
「そうか。三粒、くれるか」
 伽羅は、鼻をふんと鳴らした。


 県警のヘリ、あさぎ機内で、那美が話した歴史の闇に葬られていたという蒜壷一族の真実の話は、室緒たちに多大なる衝撃を与えていた。
「本当に、それが真実なのか。蒜壷一族は、数百年前から、この日本に巣くい、人を襲っていたのか」
 と、室緒が言う。
「書物や、絵図に描かれてきた妖怪や化け物は、けっしてまやかしではないの。人の作りだした妄想ではないのよ」
 那美が、そう応えた。
「鬼や餓鬼の存在が、現実のもの……」
 室緒は、幼い頃から、観たり、聞いたりしてきた物語に出てきた妖怪や化け物が、実際、この世にいたとは信じることができないでいた。食吐という怪物を、その目で観ても、まだ現実のものとして受けとることができないる。
 那美を見る室緒の眉間にしわが刻まれる。
「すべてが……。すべての妖怪や、まやかしが、蒜壷一族だとは言わないわ。からっ傘のお化けや、お化けちょうちんなどの妖怪は、確かに、人の想像力が生んだ産物でしょう。闇に怯え、闇の世界に恐怖を感じ、そこにいるはずのないものを作りだし、まやかしを、実際にいるものとして感じたのでしょう」
 人の豊かな想像力は、様々な妖怪、化け物、奇獣、ありもしない異界を生んできた。その、妖怪、化け物、異界は永い間語り継がれ、人はその自ら生み出した陰に、言い知れぬ恐怖を感じてきた。
「人は、常に闇を恐れてきた。どんな屈強な男でも、ひとりで、闇に置き去りにされると、言い知れぬ不安に襲われてきたわ……」
 那美は、遠くを見つめるような瞳で宙を見つめた。宙を見つめる那美の瞳は、清らかな水のように澄んではいるが、深い悲しみを湛えているようだった。
(この少女は、一体いくつになるのだろう)
 室緒は、那美の瞳を見つめて、ふとそんなことを考えていた。
 真っ直ぐに伸びたつややかな長い髪は、窓から差し込む光を受けて、キラキラと輝いている。白いきめ細かい肌には染み、ひとつない。が、その瞳に灯る愁いを帯びたまなざしは、経験を積んだ女のそれだった。
「人が闇を恐れる理由……。それは、遠い昔、人は闇に棲む住民に襲われ続けられたから」
 と、那美が言う。
「闇に棲む住民!? 蒜壷一族のことか……」
「ええっ、蒜壷一族は、めったなことでは昼に、その姿を見せない。闇に生き、闇の世界で、人を捕食する」
 暗闇の世界で、人を襲うのは、蒜壷だけではないだろう。山に棲む、狼や熊もまた、人を襲っただろう。盗賊や夜盗もまた、人々の脅威になっただろう。狼や熊、夜盗や盗賊は、人の知恵と勇気で、なんとか撃退できたが、蒜壷だけは、人の力では、どうすることができなかった。
「だから、文明の利器を手に入れ、光が闇を照らす現代になっても、人は闇に怯え続けている。……それは、何世代にもわたって、蒜壷に襲われ続けてきたから……。その悲しい過去があるから」
 那美は、悲しそうにまつげを揺らした。
「君の話によると、我々の意識下に中には、その蒜壷一族に襲われた経験が刷り込まれてあるということなのか。俺たちの遠い祖先たちが、蒜壷に襲われ続けてきた記憶が潜在意識となって、俺たちの記憶の片隅に残っていると。じゃあ、俺たちは遠い昔から、蒜壷に怯え、暮らしてきたとでもいうのか。いま、ここにいる俺たちが、蒜壷が、どんな奴らかも、知らないのに……」
 室緒の問いに、那美は答えない。ただ、揶揄する室緒を、見つめるだけだ。
 遠い昔から、人を襲い、人はその陰に怯え、闇に恐怖を感じてきたという。確かに、人は闇を恐れ、闇の中に、ひとり取り残されるのを嫌ってきた。
 が、その陰に、いつも蒜壷が、絡んでいたとはにわかに信じがたい。
「蒜壷一族は、みんなあんなにでかいのか? 君の倒した蒜壷は、身長五十メートルはあったぞ」
 室緒は質問を変えてみた。
「いいえ、あの蒜壷は特別な存在。食吐と呼ばれる餓鬼の一種。他の蒜壷の体つきは、私たちとそう変わらない」
 那美が、そう応えると、
「やはりな……。そうだと思っていたよ。で、他の蒜壷はどんな姿をしている。どこにいて、どこから俺たちを狙っている」
. 室緒は、これまでの一連の連続猟奇殺人事件に、食吐が関わっているとは、思っていなかった。身長五十メートル超す、食吐が神社や公園、港の鉄工場跡で事件を起こしていたら、必ず、その姿は、目撃されていたはずだから。
「蒜壷の姿は、多種多様。古い絵に描かれた‘ヌエ’のような姿のようなものもいれば、鬼のような姿をしたものもいる。、カラス天狗のような姿をしたものもいるし、人狼と呼ばれている二足歩行の狼の姿をしたものもいる……。それら蒜壷たちは、人に化身し、暗闇で人を襲う」


                       = 第二十三回に続く =

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 PS ちょっと報告が遅れましたけども、ももクロのライブ“桃神祭”は、
    本当に良かったです!

  桃神祭 1
       〈7月27日   物販会場ににて〉




 
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