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自作小説

餓鬼狩り (第二十三回)

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                        餓鬼狩り   (第二十三回)

「昼間は? 日中は、人を襲わないのか?」
 室緒が疑問を投げかける。
「蒜壷一族は、太陽の光の下では、生を保つことができない」
 那美が、そう応えると、
「生を保つことができないだと。……死んでしまうということか」
 室緒が、訝しげな眼を那美に向けた。あの奇怪な怪物が陽の光を浴びただけで、死んでしまうとは思えない。現に、あの食吐という怪物は、巨木を引き抜き、大岩を持ち上げ、森林を破壊し続けた。那美というこの女が、現れ、食吐を倒さなかったら、森一つ、なくなっていただろう。そんな強じんな生命力を持つと思われる怪物が、日の光を浴びただけで死んでしまうなんて……。
「時間にして、どれくらいだ。どれくらい蒜壷のものは、昼間、そこにいることができる?」
 室緒は、言葉を続ける。
「その時の気象状況や、場所にもよるけれど、直射日光をさえぎるものがないところでは、数時間から半日」
「すると、あの怪物は、死ぬことが分かっていて、日中、君を倒しに出てきたというわけだ」
「ええっ……」
 巨大な身体を持つ食吐の姿を、日の光から隠すものなど、地上には存在しない。食吐は、伽羅に導かれ、極異界から地上に出たきた時点で、死を悟ったであろう。
 食吐を召喚した、伽羅は大事な手下である食吐を犠牲にしてまで、那美を倒そうとし、食吐は、伽羅の召喚をを拒むことなく、死を覚悟して、那美と戦った……。
「蒜壷は、どうやら本気で、私から十種神宝を奪おうとしているようね」
 と、那美が言う。
「十種神宝!? なんだ、それっ?」
 那美は、室緒の問いには答えず、
「私が、このヘリに乗り込んだのは、あなたたちに警告をあたえるため」
 と、言った。
「警告!?」
「ええっ……。蒜壷一族は、これから頻繁にあなたたちの前に現れて、人々を恐怖に陥れることになる」
「これからも、神社や公園、漁港で起きたような、陰惨な殺人事件が続くというのか」
「すでにその兆候が見られていたでしょう。それらの事件が、起きる前に……」
「……」
 室緒は、眼を伏せた。
 那美は、あの陰惨な事件の前に、兆しがあったと言っている。
 その、兆しとは!? 
「室緒さん、行方不明事件ですよ。数カ月前から行方不明者の数が、うなぎ上りに上がってきてるじゃあないですか」
 室緒の傍らで、だまってことの成り行きを見ていた村中が、口をはさむ。
「ここ数カ月間に起きている行方不明者が、蒜壷に襲われているというのか」
「そうとしか考えられませんよ。この半年で三百五十人以上の行方不明者が確認され、そのうち約三百人は、特異家出人じゃあないかと言われています。その特異家出人こそ、蒜壷の犠牲になった人々じゃあないですか?」
 村中は、拳を握りしめた。
「夜間、出歩かないようにと警告を出してください。被害を最小限に抑えるためには、それしかありません」
 那美は、踵を返した。
「ヘリの……ヘリの扉を開けてください」
 那美が、言う。
「ここから出てゆくのか?」
 室緒が、そういうと、那美はコクリとうなずいた。
「帰すわけにはいかん。君には、このまま署まで、同行してもらう。まだまだ聞きたいことが山ほどあるのに、帰すわけにはいかん」
 室緒は、なによりも、この女“那美”のことを知りたかった。
 光る剣を操り、自由自在に空を飛び、身長五十メートルを越す怪物を倒した女、那美。
 この女は、はたして、人と呼べるのだろうか? 
「このまま、署まで、同行してもらう」
「嫌だと言ったら」
「嫌だとは言わせない」
 室緒は、那美を睨み付けた。
 那美は、胸元から若草色の香袋を取り出し、香袋の中から勾玉を、一つ取り出した。鴇色(ときいろ)に光る勾玉を空中に放り投げると、勾玉は閃光を発して、光る剣に変わった。
「手荒なマネはしたくなかったけれども……。あなたたちに関わっている暇はないの」
 那美は、光輝く剣で、ヘリの側部ドアを、真っ二つに叩き斬ると、そのまま、空に向かって飛び出した。胸元にしまい込んだ若草色の香袋が、青藤色を光る。那美の身体が、膜のようなもの覆われ、空にふわりと浮かんだ。
「待て! 待ってくれっ。我々は、これからどうしたらいいんだ。ただ、蒜壷の影に怯え、暮らしてゆけというのかーー」
 室緒は、遠ざかる那美の後ろ姿に、そう叫んでいた。

                      = 第二十四回に続く =

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