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自作小説

餓鬼狩り (第二十八回)

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                        餓鬼狩り   (第二十八回)

「それ以前から? 」
 スクリーン上に映し出されている那美の姿。
 暮れゆく空の下、焼け出された木造家屋の前に佇む少女。長い艶やかな髪と、愁いを帯びた切れ長の瞳が、くすぶっている焼け跡の中で、妖しい光を帯びている。
 そこに佇む那美の姿は、俄蔵山で出逢ったあの少女の姿に相違なかった。
「この写真は、昭和二十八年頃に撮られたもんだが、この写真を撮った男は、那美のことを何も覚えていない」
 五十嵐元国務大臣が右手で目じりを擦った。
「なぜ、覚えていないんですか? 那美に実際に会い、写真を撮ったんでしょう。覚えていないわけないでしょう」
 村中が、スクリーン上の那美の姿を見ながら言う。
「なぜだと思う……。村中くんだったかな君は。……村中くん、君に想像できるかな。なぜ、この写真を撮った男が、那美を撮ったことを忘れたと思う」
 五十嵐元国務大臣が、逆に、村中に訊いた。
「なぜって……。それは……」
 村中は一度だけ、俄蔵山の上空で那美という少女に出遭っている。一度出遭っただけでも、那美は村中に強烈な印象を与えた。忘れようにも、忘れることができない。が、この写真を撮った男は、那美のことを覚えていないと言う。なぜだ?
「記憶を消されたんだよ。記憶を。いま病院に入院している吉川さんと同じだ。那美は、その存在を、我々に知られたくないんだ」
 村中が、戸惑っていると、見かねた室緒が、村中の代わりに応えた。
 鉄工場跡の惨劇の最中に、吉川は持っていたボイスレコーダーに、那美の声を録音した。吉川刑事のおかげで、室緒たちは那美の存在を知ることができたが、吉川刑事の記憶は、まだ戻っていない。
「那美は、ひたすらにその存在を隠し続けてきた。隠し続けるために、那美と接触した人間の記憶を奪い続けてきた。記憶を奪われなかった人間も、一部にはいるがな……」
 五十嵐が、室緒の目を覗き込むようにして言った。
「一部の人間とは、俺たちのことか……」
 室緒は、眼を泳がせた。
「君たちもそのようだな……。君たちのように複数の人間が、特殊な状況において、那美と接触した場合、那美は接触した人間の記憶を奪うことができないようだ。 Y県で、五年前に起きた四人若い男女が獣の食い殺されたという忌まわしい事件があっただろう」
 十人のグループで、緑が深い山間のキャンプ場に来ていた若者たちを襲った悲劇は、当時のマスコミを大いに賑わせた事件だった。
 真夏の夜、キャンプファイヤーを囲む若者たちの顔には笑顔が溢れていた。男五人、女五人の大学生の若者たちの前には未来が開けていた。
 気の置けない仲間たちなのだろう。アルコールを飲み交わし、歌を唄い、冗談を言ってふざける彼らは、この後、自分たちの身に起きる惨劇を予測できなかっただろう。
 きらめく青春は、彼らのものだった。
 その青春の輝く一ページが、暗黒に塗りつぶされた。見たこともない獣(じゅう)が、彼らを襲ったのだ。
 ひとり、またひとりと仲間が、犠牲になっていった。勇敢にも獣に挑んでいった男たちもいたが、俊敏で獰猛な獣の前ではなすすべもなかった。
 獣の襲われ、怯えきった若者たちを救ったのは、ひとりの少女と一匹の犬だった。少女と犬は、若者たちの前に忽然と現れ、獰猛な獣たちを、白く輝く剣で斬り倒していった。
 携帯電話からの連絡を受けて、警官が駆け付けたのは、少女が、獣をすべて倒した時だった。少女と犬はすでにそこから去り、少女と犬に倒された獣たちは、どろどろに溶けてしまっていたという。
「少女が、那美であったという確証はあるんですか?」
 室緒が、五十嵐元国務大臣に訊いた。
「白く輝く剣で、獣どもをぶった斬る少女は、那美以外にはありえないだろう。……那美以外に獣(蒜壷)と戦っている少女がいると思うかね。わしたちは生き残った若者たちの証言を元に、モンタージュと、似顔絵を作成して、手元にある那美の写真と見比べたんだが、それらのものは、手元にある写真は一致したよ」
「当時、マスコミには那美のことは流れませんでしたが……」
 高橋が聞いた。
「流せるわけないだろう。生き残った四人の若者たちには、那美のことについて、一切口外してはならないと、口止めし、マスコミには規制をかけた」
 五十嵐元国務大臣が率いる組織は、この事件に那美が関わっているという情報を得ると、速やかに情報操作を行った。
 四人の若者の口止めを行い、一部のマスコミが聞きつけた情報を、あらゆる手段を強いて隠蔽し、十人の若者を襲った獣は、熊だったと偽の情報を報道機関に流した。
「彼らを襲った獣というのは、蒜壷一族だったんですね?」
 室緒が聞く。
 その質問に、五十嵐元国務大臣の手が動き、スクリーンに一枚の画像が映し出された。
「若者たちが撮った写真の中に、この写真があった」
「これは!?」
 写真には、キャンプファイヤーの火に照らされて、幸せそうに微笑む若い女性の後方右手に、異様な姿の怪物が映し出されていた。写真の獣は、俄蔵山で暴れた怪物と似ているが、それとは違う、別な種の蒜壷だった。
「その化け物の名は、食肉(じくにく)という。三十六種ある餓鬼の一種だ」
「餓鬼!? 古い文献に描かれている、あの餓鬼ですか?」
「そうだ。我々の組織がいままで確認した餓鬼の種は、全部で十三種だが、その十三種の餓鬼の中で、こいつが一番頻繁に現れている」
 五十嵐元国務大臣は、スクリーン上の食肉の姿を指で弾いた。
「室緒君、君たちは那美と接触して、記憶を奪われなかった数少ない人間たちだ。那美は、君らに何を話したのかね?」
 五十嵐元国務大臣は、話を前に戻した。
「……その前に、五十嵐元国務大臣。組織って、なんです? 蒜壷一族を殲滅させる組織というのは、いったいどのような組織なんです?」
 五十嵐元国務大臣が率いているらしい組織には、おそらく国が関係しているだろう。巨大な権力なしでは、容易にマスコミ操作はできない。
「組織のことは、社会に知られてはならない。分かるだろう。我々の組織のことが知られると、蒜壷一族のことが世間に知られてしまう。世間が蒜壷のことを知ったら、どうなると思う? おそらく、パニックになるだろうな。我々は極秘裏に蒜壷一族を殲滅したいんだよ。室緒くん、もう一度聞くが、那美は君らに何を話したのかね?」


                     =第二十九回に続く =

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