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自作小説

餓鬼狩り (第三十回)

 ←初詣、尾崎神社……。大吉である。 →餓鬼狩り (第三十一回)
                      餓鬼狩り   (第三十回)

 その餓鬼には口がなかった。鼻はあるが目もなく、禿げ上がった頭の側頭部に、一房のちじれた毛髪があるのみだった。手足は針金のように細い。大人の倍ほどの背丈がある身体は、炎に焼かれいるかのように、ぶすぶすと音をたてて常に燃えていた。
 餓鬼、鑊身(かくしん)。正法念処径によると、この鑊身は、生前、私利私欲で動物を殺し、少しも悔いなかったもの者の成れの果ての姿と記している。
 五十嵐が率いる組織の男たちは、新宿御苑に現れたこの二十数匹に及ぶ鑊身と対峙していた。鑊身の傍らには、人間に化身しているH-3Aもいる。
「萩隊長、奴ら……。どこから現れたのですか?」
 隊員の一人が、プロレスラーのような体格をした隊長に訊いた。
「我々の組織の力をもってしても、こいつらがどこから現れるか、まだわかっていない。こいつらは、突如、どこからともなく現れる」
 組織は、蒜壷の隠れ家の発見に全力を注いでいるが、まだ発見には至っていない。
「もし、こいつらの巣窟が発見できれば、一気に殲滅できるのだがな。……藤堂、時間を確認しろ! 現在の正確な時間は?」
「20時08分です」
 萩の後方にいる男が、腕時計を見ながら言った。
「我々がH-3Aを発見してから、すでに二時間か……」
 萩たち、組織のメンバーは、新宿御苑からそう離れてもいない花岡神社でH-3Aを発見した。H-3Aは境内で興行されていた小さな劇団の劇を見ていた。劇は少子高齢化における老人問題を扱った劇で、それなりに観客に訴えるものがあったが、とりたてて熱心に見るような劇ではなかった。
 メンバーからH-3A発見という連絡を受けた荻は、直ぐにH-3Aと接触するような行動はとらなかった。
 H-3Aは、人間の姿に化身しているが、化身を解けば、狼の頭の餓鬼たちを操る上位の蒜壷の者である。無闇に接触すると、関係のない人たちにも危害が及ぶ。人ごみの中での、H-3Aとの接触は危険すぎるのだ。
 荻たち組織のものは、H-3Aの様子をしばらく観察することにした。
 H-3Aが動き出したのは、カーテンコールが始まった直後だった。踵を返し、新宿三丁目の方に歩いてゆく。荻は無線機で部下に指示を出し、Hー3Aの後を追った。H-3Aは、後を追うこちらに気が付いた様子もなく、ゆっくりと歩いていた。新宿御苑の前にくると、急に走りだして、新宿御苑の中に入って行った。
「なぜ、奴は新宿に現れたんでしょね」
「わからんが、何か目的があるのだろう。目的もなしにここに現れるはずはない」
 と、隊員の問いに荻が応えた。
 蒜壷のものが人を食するために、人を襲うということは周知の事実だ。が、わざわざ都会の雑踏までやってきてまで、人を食したりはしないだろう。人が多い都会の真ん中で、人を襲う危険は、誰よりも蒜壷のものが良く知っているはずだ。その蒜壷のものが、危険を覚悟で、ここに現れた理由とは一体何なのだろう……。
「奴の目的は、もしかしたら俺たちかも知れんぞ」
 荻が藤堂に言った。
「俺たちですか!?」
「ああっ。H-3Aは、俺たちの尾行に気づいていたんだ。俺たちが組織のものだと知っているから、奴は新宿御苑の中に俺たちを誘い込んだ。花岡神社に現れたのも、俺たちの気をひくためだったかもしれん」
「すると、奴は俺たちを一気に殺るために、ここに入ったんですか」
「我々は、まんまと鑊身がいる修羅場に誘い込まれたというわけだよ。……村上、新宿御苑に、人が入って来れないように手配をしたのは何分前だ?」
「三十分前です。元々新宿御苑は、入園が午後四時までとなっており、午後四時半には、新宿御苑は閉園されています。現在園内に人はいないはずですが、大事を取って、新宿門、大木戸門、千駄々門に警官を待機させ、厳重に人の出入りを禁止しております。いまこの園内には、我々の他には、誰もいないはずです」
「本当にそうであってほしいのだがな……」
 広さ58ヘクタール、周囲3,5キロメートルの広い園内には、平坦な丘もあるが、いたるところに緑の木々が生い茂っている。池や大温室、旧洋館御休所、旧御涼亭などの建築物があり、もし、それらの陰に、人が残っていたら、たちまち鑊身の餌食になってしまうだろう。
「七人で、こいつらのお相手をするつもりか?」
 荻たちから二十メートルほど離れて立っているH-3Aが、突然、声をかけてきた。
 七人の男たちは、一斉に来ている上着を脱いだ。アメフトの選手のような防護服がその下から現れる。男たちは、着用している特殊スーツ(防護服)の内側のポケットから、グロックXXX(スリーエックス)を取り出した。
「その銃を持っているということは、やはりおまえらはAOH(オー)のものだな……。神社で長いこと退屈な劇をみていたかいがあったよ」
「伽羅(きゃら)、なぜ、新宿に現れた? おまえら蒜壷が姿を見せるのは、人通りの少ない路か山じゃあないのか」
 と、萩が言う。
「俺の名を知っているのか?」
「知っている……。もっとも俺たち組織の中では、おまえはH-3Aというコードネームに分類されているがな。……もう一度聞く。なぜ、新宿に現れた?」
 伽羅は、良く発達した上顎犬歯を見せ、嗤って、
「おまえらも知っている那美を誘き出すためよ。おまえらは那美を誘き出すための餌にすぎん。普通の人間は、直ぐに俺たちにやられてしまうのでな。時間が保てん。それで、那美を誘き出すために、おまえたちを利用することにしたんだよ」
 と、言った。
「俺たちが、那美を誘き出すためだけの餌だと!? ふざけるな。那美が現れる前に、俺たちがおまえら蒜壷を始末してやるよ」
「鑊身相手にどれだけやれるかな? 」
 伽羅が指を鳴らす。二十数体に鑊身が、一斉に七人の男たちに襲いかかった。グロップXXXが火を噴く。拳銃弾と一味違う重い轟音が夜の新宿御苑にこだまする。砂埃と奇怪な悲鳴が空間を彷徨った。

                       = 第三十一回に続く =

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