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自作小説

餓鬼狩り (第三十二回)

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                        餓鬼狩り   (第三十二回)

 モニターに映る人の姿に化身している伽羅は、髪を肩まで伸ばした痩身の男だった。
 一見してみると、頼りなく見える。が、この男は屈強で知られる組織AHO(オー)のメンバーを難なく葬り去ったという。
(狼の蒜壷か……)
 室緒は、人の姿から蒜壷本来の姿の戻った伽羅を想像して、身を震わせた。
「伽羅は、二日前に渋谷で発見された」
 と、大野が言う。
 二日前、喧騒がごった煮しているような渋谷の路上に現れた伽羅は、どことなく落ち着かない様子で、渋谷の街を彷徨っていた。夜の九時過ぎに、伽羅を発見した組織AHO(オー)のメンバーは、ただちに伽羅の尾行を開始し、伽羅の後を追った。追いつめ、人けのないところで伽羅の身柄を確保しようとした。が、H-Aシリーズである伽羅の身柄を確保することは困難だった。組織AHO(オー)のメンバーは、人ごみの中を泳ぐように自由自在に動き回る伽羅に度々翻弄され、何度も伽羅を見失うはめに陥ったのであった。組織AHO(オー)のメンバーの行動をあざ笑うかのように動き廻る伽羅は、さんざん組織AHO(オー)のメンバーを翻弄したあげく、霧のように消え失せたのである。
「昨日は池袋で、今夜は新宿だ。今夜こそケリをつけてやる」
 大野は拳を固く握りしめた。

 新宿御苑内にいる荻隊長率いる組織AHO(オー)と、伽羅率いる鑊身との戦いは、組織AHOが優位を保っていた。強力な銃器の使用を前面の押し出したフォーメーションDの作戦が、図に当たり、身長三メートルほどの化け物鑊身が、次々とグロックXXX(スリーエックス)の餌食になっていった。
「隊長、やれます。このまま伽羅を追いつめることができます」
 隊員の一人が、荻隊長に言った。
「慢心するな! 伽羅は、まだ化身していない」
 伽羅は、ただ黙って組織AHO(オー)と、鑊身との闘いを観察していた。配下の鑊身が、組織AHOの手によって一人、また一人と倒されて行っても、後方にいて、参戦しようとはしなかった。
 荻隊長が、胸のポケットから通信機を取り出した。
「代々木、映像はボタモチに届いているんだろうな」
 副隊長である代々木と連絡を取る。
「この戦いの内容は、すべてボタモチに届けられています。大野たちも、直ぐにこちらに来るでしょう」
「了解」
 荻隊長は、胸に通信機をしまいこんだ。
 ボタモチとは、組織AHOの特殊車両のことである。ハイサンダーZという名があるが、隊員たちは不格好な特殊車両をボタモチと呼んでいた。
 轟音とともに、また一匹の鑊身の頭が吹き飛ばされた。頭部を失った鑊身は、数秒の間、ピクピクと身体を震わせていたが、やがて膝をつき、そのまま大地に倒れた。
「残った鑊身は……。三匹か……。時間稼ぎには、少し高くついたかな」
 伽羅が、生き残った鑊身を後方に下げる。
「惟三(これぞう)、来ているんだろう。姿を見せろよ」
 組織AHOのメンバーの真上の木々の幹が揺れた。黒い物体が地上に降りる。
「那美さんは、まだ来てませんわ。代わりといってもいいか分からんけど、刻(こく)が来とるぜ」
 黒く見えた物体は、人に化身したヒキガエルの惟三だった。惟三は、鴉の蒜壷、刻の居る辺りを横目で見た。
「闇夜に鴉か……。大方、琥耶姫に命じられたんだろう。……刻なんぞ使わず、ここに来て見学したらいいのに」
 伽羅も、刻の居る辺りをなぞるように見る。
「よっぽど化瑠魂が大事なんでしょう」
 惟三は、にちゃにちゃと嗤い、突き出た三段バラを叩いた。
 五分刈の頭に、アニメのプリントが入ったトレーナーを着用し、よれよれのジーパンを履いている身長百五十三センチメートルほどの饅頭のような肥満体。それが、人に化身した惟三の姿だった。歳は四十代後半の男に見える。
「伽羅、そいつも蒜壷のものか」
 荻隊長が言う。
「だとしたら」
「そうだとしたら、おまえと一緒に身柄を確保する」
「惟三、おまえ、こいつらに捕まりたいか?」
 伽羅の問いに、惟三はニヤニヤ笑って答えた。
「捕まりたくないだろうな。おまえは下がっていろ。こいつらは、俺一人で充分だ」
「刻は、どうします? 上でわいらのことをジロジロ観てますさかい」
「ほっとけ。鴉の蒜壷になにができる」
 伽羅がそう言い放つと、夜空に不気味な鳴き声が、闇に沁みるように響いた。

                      = 第三十三回に続く =



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