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自作小説

餓鬼狩り (第三十四回)

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                       餓鬼狩り   (第三十四回)

 夜空に舞った電磁網は、地上にいる伽羅を絡め取るはずだった。
「甘いな、こんなもんで俺の自由を奪えるとでも思っているのか」
 伽羅は、空高く舞った電磁網の数メートル上にいた。“ボタモチ”からの電磁網噴出にいち早く気づいた伽羅は、驚異的な飛翔力で、電磁網より高い上空に身を馳せたのだ。
「悪いな、気が変わったよ。今度地獄に行くのは、おまえだ」
 伽羅は、空中に拡がった電磁網の端を掴み、建物の上で映像記録を撮り続けていた代々木に向かって、電磁網を投げつけた。
「うぐぐっ…」
 生身の人間が、強力な体力を誇る蒜壷一族を捕獲するために造られた電磁網のパワーに耐えられるものではない。電磁網に身体を絡め取られた代々木は、もんどりうって建物の上から地上に転げ落ちる。
「代々木ー」
 副隊長の壮烈な最後に、荻が叫んだ。
「残り……、三人」
 空中から地上に降りた伽羅が言う。
「惟三、おまえが殺ってみるか。俺はあきた」
 伽羅が、振り向きざまに言った。
「わてが、殺っていいんですかいな。わてが殺ったら骨まで溶けてしまうですがな」
 惟三が藪から、身を乗り出して言う。
「かまわん、鑊身は腹一杯になったようだし、俺は男は喰わんからな」
「そうですかいな。それじゃあ、わてがいただくとしますか」
 惟三が、生き残った組織AHO(オー)のメンバーににじり寄る。
「化身を解かんとな。人の姿をしていたら、わての武器がようつかえんですがな」
 惟三の武器は強力な溶解液である。骨まで溶かす溶解液で、人を溶かし、溶かした後、その体液をすすって養分にするのだ。
「そこまでよ。これ以上の殺戮は許さないわよ!」
 那美が現れた。那美の傍らには相棒である大型犬呂騎もいる。
「やれやれ、やっと那美さまの登場か……。待ちくたびれたぜ」
 伽羅が、よく発達した牙を見せた。
「おい、おまえは離れていろ。化身も解くな。那美には人の姿に化身しているおまえが誰だか分からないだろうからな」
 伽羅が、惟三に言う。
「そうですな。わてが誰なのか分かったら、那美は用心して十種神宝をつかわないかもしれないがな」
「そのとおり。 おまえが惟三と分かるとまずい。計略が無になる。那美からはなれていろ」
「ようでがす」
 惟三は、そろりそろりと後方に下がって行った。
《那美さま、頭上には刻もいます。気をつけてください》
 と、呂騎が那美に精神感応を送る。
「刻……。琥耶姫が近くにいるの?」
《いいえ、琥耶姫はいません。刻のみです》
「そう、じゃあ敵は三人の蒜壷と……、鑊身三匹」
 那美は握りしめていた鴇(とき)色の勾玉を空中に放った。鴇色の勾玉が空中で光り輝く剣になる。光破剣だ。那美は光破剣を握りしめた。
「光破剣……。別名、八握剣。邪悪な魔を払う剣に、眼も口もない鑊身どもが怯えておるわ」
 伽羅が手下の鑊身を見下した。惟三が舌を長く伸ばして嗤う。
「伽羅はん、ひとつ提案があるんですが、鑊身の数を、もう少し増やしてくれませんでしょうかね。鑊身三匹では、ちいーっと物足りない気がするさかいに」
「物足りないか……」
「はい。那美さん相手に鑊身だけじゃあ、直ぐに、やられてしまいますがな。餓鬼どもがすぐにやられてしもうたら、わてがここにきた意味がなくなると、違いますか」
「よかろう。では鑊身ではなく、食風(じきふう)を出してやろう。少しばかりうるさいがな」
「食風ですか。いいどすな。あいつら良い働きをしまっせ」
「ふん、風しか食えない、哀れなものだがな……。いでよ、食風」
 伽羅は右手の拳で、思い切り地面を叩いた。
 地面から数十本の腕が現れる。数十本の腕は、土くれを掻い出した。土くれが散らばり、真っ赤な長い髪をした餓鬼が土の中から這い出してくる。
《那美さま。食風の相手は、わたしがします。那美さまは伽羅たちをお願いします》 
 呂騎が、土の中から這い出した数十匹の食風を睨んだ。
 餓鬼ー食風。食風は真っ赤な髪の毛の、眼が一つしかない餓鬼である。身長は百二十センチほどで、常に喚きながら風を喰らい、口から眠気を誘う息を吐き出して攻撃してくる。
「呂騎ひとりで、二十数匹の食風と闘うの?」
 と、那美が言う。
《はい》
 那美の問いに、呂騎がうなり声をあげ、迫りくる食風を警戒する。
「ちょっと、待って」
 那美が胸元から若草色の香袋を取り出し、香袋の中から、紅梅色の勾玉を取り出した。それを呂騎の額に押し付ける。
「これで、食風の毒息を防げるわ」
 紅梅色の勾玉が、呂騎の額の上で、燦然と輝く。
「気をつけてね、呂騎。食風は伽羅に似て、なかなかすばしっこいわよ」
《はい、那美さま。では、いってきます》
 呂騎は、食風たち目がけてかけて行った。 
「ウギャッギャッギャアアー」
 三匹の鑊身が、那美を襲った。那美は左足を軸に一回転しただけで、三匹の鑊身を見事に斬り倒す。その間、わずか三秒。胴体を真っ二つにされた鑊身は、断末魔の悲鳴をあげて朽ち果てて行った。
「もろいな。こうも簡単に殺られるとはな。ふん」
 伽羅は右手で自分の顔を掴んだ。熱気が伽羅の身体を包む。上気がゆらゆらと辺りに立ち上った。
「化身を解く気ね」
 那美が、本来の狼人間の姿に戻る伽羅に対して光破剣を、構え直した。
「化身を解かなくちゃあ、勝ち目がないからな」
 化身を解き、人の姿から狼の蒜壷になった伽羅は、凄まじい吠え声をあげた。顔面を覆う獣毛は月の光に照らされてきらめき、あきらかに犬のそれとは違う獰猛な朱の色に染まった瞳が、辺りを恐怖に染める。体中から発散される圧倒的な威圧感は、周りにいる者たちを畏怖させた。
「俺が疾風の牙と呼ばれている所以(ゆえん)を教えてやる」
 伽羅は懐から、かぎ爪を取り出し、それを両手にはめた。
 一方、こちらは数十匹の食風と闘っている呂騎である。
 食風たちは、数匹がかりで呂騎に闘いを挑むが、呂騎に致命的なダメージを与えられないでいた。呂騎を取り囲んだ数匹の食風が、呂騎めがけて四方八方から、紫色の毒息を吐くと、呂騎の額の紅梅色の勾玉が光り、毒息を無害なモノに変えるのだ。
 那美が呂騎の額に押し付けた勾玉は、十種神宝の一つ、品物比礼(クサグサノモノノヒレ)だ。すべてのものの邪を払う十種神宝が、食風の毒息を払いのけていた。
 品物比礼に守られた呂騎は、群がる食風の間をすり抜け、次々と、その牙で、食風を倒していった。

                   = 第三十五回に続く =

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