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自作小説

餓鬼狩り (第三十七回)

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                      餓鬼狩り   (第三十七回)

 再び、夜空に舞った電磁網は、幕を拡げたまま下降してゆき、なんなく下にいる伽羅を絡め取った。
 十種神宝“道反玉(ちがえしのたま)”の力によって、その俊敏な動きを封じ込められている伽羅は、ろくな抵抗もできずに組織AHO(オー)の手の中に落ちたのである。
「八木、麻酔薬を噴霧しろ!」
 大野が、通信機を通して、特殊車両ボタモチの中にいる八木に命令を出す。
「了解」
 八木が、運転席の左側にある、コントロールパネルを指で押した。
 電磁網の頂点にあるリング状のコアから、強力な麻酔薬が噴霧される。霧状に噴霧されたそれは、伽羅の身体にまとわりつくと、黄色い液状になった。
「なんだ、これは? 麻酔薬か……。この俺に、こんなものが通用する……か……」
 伽羅が地面に膝をついた。
「馬鹿な、この俺の身体が、こんなにもろいとは……」
 伽羅は自分を覆う電磁網を掻きむしった。電磁網を掻きむしるたびに、伽羅の身体に高圧の電流が流れ込む。伽羅は電流に身体を貫かれながら、しだいに身体を蝕んでゆく麻酔薬の感覚に翻弄され、朽ちてゆく我が身を呪った。
「くそっ……。那美に動きを封じ込められていなければ、こんなものなど……」
 伽羅は、そのままうつぶせになった。
「巨象さえも、わずか数秒で眠らせる麻酔だ。おまえらでもこいつにかかったらひとたまりもないだろう」
 大野が言う。
「おめでとう……。やっと捕獲できたようね」
 食風アメーバー形態を、すべて倒した那美が、呂騎とともに、大野たちの元に近づいてきた。
「那美……」
 大野の傍らにいる室緒が、那美に視線を送った。
「室緒さんでしたっけ? そのせつはどうも」
 那美は、室緒の視線を軽くいなした。
《那美さま、刻はどうします?》
 呂騎が那美に、精神感応で伝える。
「刻は、ほっといても大丈夫よ。それより、あの蒜壷は? あいつはどこにいったの?」
 あの蒜壷とは、惟三のことである。那美との戦いを伽羅に任せた惟三は、その場から姿を消していた。
《……近くにいます》
 呂騎は左方向に顔を向けた。
《私の鼻は誤魔化すことができません。霧場シーツを被って、巧みに周りと同化していますが、あいつはすぐそこにいます……。あいつは……》
「かないませんなあ~ 呂騎さんのお鼻にかかっては、わいの隠れみの術も通じませんがな」
 呂騎の言葉を遮るように、もう一体の蒜壷、惟三が、暗闇の中から姿を現した。身体にまとっていた霧場シーツと呼ばれる特殊なスーツを丁寧に折りたたみ、ジーパンの後ろポケットにしまいこむ。
「ひさしぶりですんな、那美さん」
 惟三が愛想よく、那美に向かって片手をあげた。
「誰!?」
 那美は、見たことのない男の出現に戸惑った。
「ありゃま、わてのことを、お忘れですか?」
「おまえなど、観たことがないわ」
「こりゃまあ、薄情なおこたえでんがな。昔は刃を交えて対戦したこともあるのに……」
「おまえと、私が戦った!?」
 那美は、目の前のだらしない中年太りの男に眼をやった。
 五分狩りの頭。アニメのプリントが入った黄色いトレーナー。薄汚れたジーパン。ニタニタ嗤う脂ぎった貌……。とても戦闘力、いや戦闘意識がある男には見えない。
《この匂い……那美さま。この男は惟三です。ヒキガエルの蒜壷。卑眼の惟三です》
 呂騎が言った。
「この男が、惟三」
 那美は眉間に皺をよせた。
「そうでがす。わたはヒキガエルの惟三でんがな。那美さん、お忘れですか?」
 仲間たちから卑眼の惟三と陰口をたたかれる男は、得意そうに親指を立てた。
「わてが、なぜ、卑眼の惟三と呼ばれているか、那美さん、ご存じでしょう」
「ヒキガエルの蒜壷、惟三……。他人の秘密を暴く卑眼を持つ嫌われ者の蒜壷…… 」
 那美がそう言うと、惟三は、下卑た笑い漏らした。
「くっくっくっ……。。わいの、この目にかかったら、どんな隠し事もできませんのや。つい他人の恥部を口に出して喋るさかいに、わては皆に嫌われています……。那美はん、胸にしまこんでいる香袋の中に、ぎょうさん綺麗な勾玉を隠し持っていますがやな。緋色(あけいろ)、青藤色、紅梅色……。その藤色の勾玉は、さっき伽羅はんの動きを止めた勾玉でしょう。あの伽羅はんが、あんな小さな勾玉をかざされただけで、動きがとれなくなるとは、意外でしたわ。もしかしたら、那美はんが持っている、その勾玉というのは……。十種神宝なんでしょう。わいの目はごまかせんわ」
 惟三は、那美の胸元を、いやらしい目つきで見つめた。
「ひとつ、ふたつ、みっつ……。いやっあ~ こんな小さくて綺麗なものに、あんな大きな力が宿っているとは信じられませんがな」
「見ないで……。汚らわしい」
 那美が胸を抑える。
「いくら、胸を押さえても無駄ですわ。わてのこの目はたいていのものを透かして見ることができるさかいしな。……那美はん、しばらく見ない間に、少し痩せたんと違いますか? 腰のあたりのお肉がなくなっていますがな。胸元はお代わりありまへんけど……」
「嫌らしい、その眼で私をみるな!」
 那美は光破剣を、惟三に突きつけた。

                      
                       = 第三十八回に続く =

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