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自作小説

餓鬼狩り (第三十八回)

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                        餓鬼狩り   (第三十八回)

「それっ、八握剣(やつかのつるぎ)でしゃろ。そんな危ないもの、ひっこめてえな」
 惟三は、三段腹を叩いて、おどけた。
「しかし、なんですな。それもですが、那美はんの持っている十種神宝は、古(いにしえ)より伝えられたモノと、大分、形が違いますな」
 古代の文献「飯綱本」「山本本」「都本」などに残されている十種神宝の絵図は、それぞれの神宝のあり方を示しているが、勾玉の形の十種神宝はない。 十種神宝の一つ、瀕死の呂騎の命を救った生玉(いくたま)は、闇夜に浮かぶ蝋燭の炎のようなものだと記してあるし、疾風の伽羅の動きを封じ込めた道反玉(ちがえしのたま)は、Tの字に三つの玉を結びつけたものとして記してある。食風の毒息から、呂騎を守った品物比礼(くさぐさのもののひれ)は、屏風のようにも、銅鐸のようにも見える絵図で示されているし、俄蔵山の上空、ヘリの中で室緒刑事の心の中の想いを、読み取ったときに光った鳥の子色の勾玉、辺津鏡(へつかがみ)は、八つの球形を十文字と長方形の線で結んだ図形で、文献に記されてあった。
「十種神宝が、そんな小さな勾玉に変えられているなんて、誰も想像できなかったでしょうな。どうりで、今まで誰もその存在を確かめることができなかったわけですな」
 惟三は、ふんと鼻を鳴らした。
「コレゾウ、アノ、マガタマガ、トクサノカンダカラナノカ?」
 隻眼の鴉、刻が沼杉の枝から降りてきて、惟三の傍にある石の上に停まった。
「わいの眼を信じなされ。どういう経緯でっそうなったかか知らんけど、香袋の中にある勾玉が十種神宝や」
「ソウカ。カンダカラガ、ドンナモノカ、ワカッタ」
 隻眼の鴉、刻はクックックッと鳴いた。
「早く帰って、琥耶姫に伝えておやりよ」
 惟三が、刻に言う。
「ソウスル」
 刻は、羽を広げて羽ばたいた。
《那美さま。刻を追いましょう》
 呂騎が、精神感応で那美に伝える。
 那美がうなずくと、胸の香袋の中の青藤色も勾玉が輝き始めた。十種神宝、足玉(たるたま)が作動し、那美の身体が宙に浮いた。
「足玉を使って、刻を追うつもりやな。けどな、那美はんが、刻を追っていったら、この場にいる人間どもはどうなる? わてが皆殺しにしまっせ」
 惟三が、那美の飛行を止める。
「那美さん、早く、あの鴉を追ってください。話は、よくわからないけれど、那美さんにとって不利な情報が敵に知られそうなんでしょう」
 室緒が言う。
「那美、この男は、我々で対処する」
 大野が腰のホルダーから、グロップXXXを引き抜いた。
「おまえらが、わいの相手を? 笑わせたらあかんでー。おまえらは、わいらの餌だろう。餌が捕食者に勝てるわけないだろうがな」
「ほざけ!」
 大野が、惟三、めがけてグロップXXXを撃った。
「どこに向かって撃ってる。わいはここや」
 大野のグロップXXXが火を噴いた時、惟三は、グロップXXXの弾道から、三メートルほど右方向にいた。
「馬鹿な! この距離で外すわけがない」
 大野は、わが目を疑った。
「大野さん! こっちです」
 その場にいる室緒、高橋、村中が、腰のホルダーからグロップXXXを引き抜き、惟三、めがけて撃つ。
「おまえさんたち、どこめがけて撃っているのや。わいはここや、ここ」
 室緒たちの撃った弾丸は、惟三にかすりもしなかった。
「室緒さん、銃を撃つのはやめてください。あなたたちがいくら狙いをすまして撃っても、惟三には当たりません」
 と、那美が言う。
「惟三の卑眼の能力は、透視能力だけではないの。視界を幻惑する力もあるの。惟三の眼を見た人間は、惟三の幻に惑わされるのよ」
「なんだと!?」
 室緒は、グロップXXXを力強く握りしめた。
 那美の言うことが真実ならば、室緒たちは、そこにいるはずのない惟三の幻に向かって銃を撃っていたことになる。
「この俺が、幻なんかにたばかれるか!」
 大野は、惟三、めがけて再度、グロップXXXを撃った。
 が、当たらない。大野の撃ったグロップXXXの弾丸は、苑内にある巨木に、大穴を空けただけだった。
「撃たないで! 惟三の作りだす幻は、自分の姿だけじゃあないわ。敵の姿を作りだすこともできるのよ。仲間に当たったら大変な事になるでしょう」
 那美が叫ぶ。
「……惟三の眼をみてない奴なら、惟三を倒せるんだな」
 大野が、耳にはめてある通信機に手をあてた。苑外にいるボタモチに乗っている八木と連絡をとり、伽羅と同じように電磁網で惟三を絡め取るつもりなのだが……。大野は八木と通信することができなかった。大野が八木と連絡を取ろうとした時、隻眼の鴉、刻が大野の襲い、通信機を破壊したのである。
「外にいる仲間と連絡をとって、電磁網を発射しようと思っても、もうダメでっせ」
 惟三が、にやけた。
「琥耶姫のところに行ったと思ったら、まだ刻が、いたのね」
 那美が、大野を襲った刻の後を追い、宙に舞った。
「やらせん!」
 惟三が、指を鳴らした。すると、空を飛ぶ蝙蝠の翼を持つ餓鬼の一群が、どこからともなく現れた。
「何にでも化けられる餓鬼“欲食(よくじき)”を呼んでおいたでえ。身体は小さいが、こいつらはてごわいでえ」
 欲食は、浴衣を着た美しい人間の少女の姿に化けていた。数十という蝙蝠の黒い翼を持つ美しい少女が、死神が持つような長い鎌を手に持ち、那美と呂騎、大野たちを襲う。
「那美さん、こいつら本当に餓鬼なんですか?」
 室緒が疑問符を投げかける。
「欲食は、人であった時、売春行為にうつつをぬかし、家庭を顧みなかっ人間が地獄に堕とされた時になるというと言われている餓鬼よ」
「しかし、こんな少女が餓鬼だなんて!?」
「見かけに惑わされないで。惟三が言っていたでしょう。欲食は、なんにでも化けられるって……。欲食の真の姿は頭髪が薄い貧相な老女よ。……たとえるなら、鬼婆ね」
「鬼婆?」
 少女の姿の餓鬼、欲食は、嗤いながら、こちらの様子をうかがっていた。天真爛漫に嗤う姿からは、真の姿が鬼婆だとは想像がつかない。
「来るわ!」
 那美は、室緒たちを後方に下がらせた。

                      = 第三十九回に続く =

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