FC2ブログ

自作小説

餓鬼狩り (第三十九回)

 ←大町、南側広場 →餓鬼狩り (第四十回)
                       餓鬼狩り   (第三十九回)

 室緒の部下である村中、高橋は、明らかに動揺していた。
 目の前にいる美しい少女が、あの醜い餓鬼だなんて……。
 なにかの冗談だろう? 前髪を下ろした幼女にも見えるその姿の本性が,鬼婆の餓鬼だなんて、誰が想像できる。
「おい、高橋。そっちへ一匹いったぞ。早く、撃て!」
 室緒が、高橋に注意を与える。
「撃てって言ったって……。僕に女の子を殺せと!?」
「ばかっ! そいつは女の子ではない。化け物だ。蝙蝠の翼を生やした女の子がいるか。そんな女の子、いるわけないだろう」
「そうですが……」
 躊躇っている高橋の横で、村中が欲食に向かって発砲した。が、当たらない。震えながら撃つ弾丸などあたるわけない。村中も、躊躇してた。
「情けない……。室緒、おまえの部下たちは、だらしがないな。そんなことではAHO(オー)ではやっていけないぞ」
 大野が室緒に言った
 大野のグロップXXXが、続けざまに火を噴く。欲食の悲鳴が轟き、三匹の欲食がグロップXXXの弾丸の餌食になる。一瞬で、肉塊に成り果てた三匹の欲食の肉体が地面に転がった。空に群がる残り二十数匹の欲食は、変わり果てた仲間の死骸を見ても動じない。ニコニコ笑いながら大鎌を振るい、襲ってくる。
「ひぇ~」
 村中は、足元に転がってきた、か細い左手を見て悲鳴をあげた。
「悲鳴をあげるな」
 大野が言う。
「悲鳴をあげたくなりますよ。どうみたってこれは女の子の手じゃあないですか」
「馬鹿、女の子が大鎌持って、人を襲うか! 」
「そんなこと言ったって……」
 村中には、十歳になる娘がいた。村中の眼には、地面に転がる欲食の手は、赤い血で化粧された我が子の手にも見えた。
「おい、後ろの奴が、おまえを狙っているぞ」
 大野の声に振り向いた村中は、ニコニコ笑いながら大鎌を振り回して襲ってくる欲食に向かって、グロップXXXを撃つ。
 炸裂する欲食の頭部。脳漿が飛び散り、女の子の姿をしたモノは、無残にその姿を変えた。
(こんなの……。いやだ……)
 村中は、反吐を吐きながら泣いていた。
 那美は、迫りくる数十匹の欲食の大鎌の中を掻い潜り、光破剣で、欲食を斬り伏せていた。呂騎は鋭い爪と牙で、空を飛ぶ欲食を倒そうとしているが、思うようにゆかない。空を飛ぶ欲食に苦戦しているのだ。
《那美さん、早く、刻を追ってください。極異界に逃げられたら、私たちには追うことができません》
と、呂騎が言う。
「ここにも極異界への扉があるの?」
《私の知っている限りでは、首都、東京には、ここと明治神宮の上空、平将門の首塚の傍らに極異界への扉があります。他にもあるみたいですが、私に解るのはそれくらいです》
 極異界とは、太陽の光の下では生きられない蒜壷一族が、唯一生存できる世界である。蒜壷一族は、極異界から現界に通じる出口を任意で造りだすことができるが、現界から極異界への入り口は、定められた場所にしかなく、蒜壷のモノは極異界に帰るときは、その定められた場所の扉を開けて、極異界に帰っていた。
「きゃああー」
 少女の姿をした欲食の、聞くに堪えない断末魔の悲鳴が、苑内に、ひときわ高く響いた。
「いやだ、俺はもう……。撃ちたくない」
 村中が、膝を屈した。
「しっかりしろっ! おまえ死にたいのか」
 室緒が、跪いた村中の肩に手をまわした。
「殺られば、殺られるぞ」
 室緒は、村中の肩を、激しく揺さぶった。
「高橋だって、必死に耐えているんだ。おまえも頑張れ」
 室緒の部下、高橋は、死にたくない一心で、弾丸を撃ち続けていた。思うように欲食に当たらないが、それでも欲食の攻撃から身を守っている。
「室緒さん……。俺もやります……」
 村中は立ち上がった。
「よし、その意気だ」
 村中と室緒は、空を飛ぶ欲食、めがけてグロップXXXを撃ち続けた。
 最初、苑内に現れた欲食の数は、三十匹ほどだった。那美と呂騎と大野の手によって、十数匹まで数を減らしているが、予断は許されない。苑内にいり組織AHO(オー)のメンバーは、大野、室緒、村中、高橋、それと意識を失っている荻隊長の五人。大野と室緒はよく持ちこたえているが、村中、高橋は、いつ欲食に倒されてもおかしくはない。
「大野さん、俺らにかまわず欲食を、確実に倒していってください。でないと、荻隊長の身が危険です」
 室緒が言った。
「わかった」
 大野は軽く会釈して、倒れている荻隊長の息の音を止めようとしている欲食、めがけてグロップXXXを撃った。
《那美さま、極異界への入り口が開いています》
 呂騎が、那美に伝える。
「刻は? 刻はどこに?」
《刻は……。いません。すでに刻は、極異界に逃げ込んだようです》
「そう……。惟三は? 惟三はいまどこに?」
《惟三は、極異界の前にいます》
 ヒキガエルの蒜壷、卑眼の惟三は何もない空間にポッカリと開いた極異界の入り口の前にいた。
「那美はん、呂騎はん、いったんオサラバしまっせ」
 惟三が、極異界に身を躍らせる。
「餌に捕まった伽羅はんの世話、頼みまっせ」
 惟三は、嗤って見せた。
「惟三、逃げるの?」
 那美が言う。
「逃げますよ。十種神宝に守られた那美はんと、戦ってもかなわさかいに」
「逃がさないわよ!」
 那美が惟三を、睨み据える。
「那美はん、わいを追って、この中に入って来る気ですか? 無茶なこといいなさる。那美はんは、極異界に入ることができないじゃあないですか。そのこと、那美はんが一番わかっていることやろ」
 十種神宝に守られている那美は、極異界には入ることができない。怨念の巣窟ともいわれる極異界は、その呪われた地であるゆえに、十種神宝を身に着けている那美を拒み続けていた。
「それじゃあ、おおきに。今度会うときは、胸に隠し持った香袋……、もらいまっせ」
 極異界への入り口が、徐々にしまってゆく。那美は、気合を込めて光破剣の切っ先から、光の玉を、惟三、めがけて撃った。が、渾身の一撃は惟三には当たらない。惟三の身体に届く前に、極異界への入り口が閉ざされたのだ。
「逃がしてしまったのか?」
 大野が言う。
「ええっ、逃がしてしまったわ。そちらの方は、欲食は、片付いたの?」
「だいぶ手こずったが、撃滅したよ。……もっとも大半の欲食は、おまえさんと呂騎が倒したものだが……」
「そう。それで、捕まえた伽羅は、どうするつもりなの?」
「すでにこちらに、H-Aシリーズ用に作った檻を積んだヘリが、向かっている。H-3Aは、それに乗せて本部に運ぶつもりだ」
「本部で尋問するわけね。伽羅がそう簡単に口を割るかしら?」
「割らしてやるさ」
 大野は電磁網の中に横たわっている伽羅に顎を向けた。伽羅は、うつ伏せになって、プクリとも動かない。
 狼人間である疾風の蒜壷、伽羅は完全に意識を失っているかのように見えた。

                            = 第四十回に続く =

にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村




スポンサーサイト


もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png 自作小説
もくじ  3kaku_s_L.png 市民劇場 裏話
もくじ  3kaku_s_L.png 命の輝き
もくじ  3kaku_s_L.png 映画鑑賞記
  • 【大町、南側広場】へ
  • 【餓鬼狩り (第四十回)】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【大町、南側広場】へ
  • 【餓鬼狩り (第四十回)】へ