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自作小説

餓鬼狩り (第四十回)

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                       餓鬼狩り   (第四十回)

「那美、これからどうするつもりだ。今回も、我々から逃げるつもりなのか?」
 と、大野が言う。
「逃げる? わたしが……」
 那美は伏せ眼がちに大野を見た。
 組織AHO(オー)と那美は、これまで何回となく接触してきた。蒜壷一族らしきものが現れるたびに、組織AHOは工作員を、蒜壷一族が出現した現地に送り、蒜壷一族と戦い続けてきた。その闘いに最中、那美は忽然とどこからともなく現れ、苦戦している組織AHOのメンバーを尻目にして、蒜壷一族を殲滅させてきたのだ。
 組織AHOのメンバー大野と、那美は初対面である。が、那美も大野もお互いに初対面という感覚はない。ともに蒜壷一族と戦ってきた経緯が二人の距離を微妙に縮小(ちじめて)いた。
「なぜ、そう思うの? わたしは、あなたたちから逃げているつもりはないわ」
「いいや、おまえは我々から逃げている。自分の正体を悟られることを恐れている。なぜ、そんなに恐れる。我々はおまえに危害を加えないし、おまえも我々に危害を与えることはないと知っている。那美……。我々の目的は同じなはずだ。目的は一つ。人を襲う蒜壷一族の殲滅。組織AHO(オー)は、蒜壷を滅ぼすことに命をかけているんだ。我々は、いままで捕えることができなかったHーAシリーズを、ようやく確保することができた。これから伽羅を連れ帰り、基地に戻る。徹底的に伽羅の取り調べを行うが、これを機に、協力して欲しい」
「………」
「おまえは、我々の知らない蒜壷一族の秘密を知っているはずだ。彼らが何者で、なぜ、人を襲うのかを」
 大野は挑むような眼で、那美を見た。
「蒜壷が、人を襲う理由はご存じでしょう?」
 と、那美が言う。
「人は奴らの餌。おれたち人間は奴らの食べ物という説か? ふっふっふっふ、おもしろい考え方だが、俺には腑に落ちん」
「なぜ? なぜ疑問に思うの」
「人が奴らの食糧ならば、奴らはその食欲を満たすために、頻繁に人を襲っているはずだ。しかし、蒜壷一族が人を襲う事件はひと月に二度ほど。事件のたびに現れる餓鬼どもの数を考えても、この数は少なすぎる。蒜壷のものは人間だけ食べて生きているわけではないんだろう。違うか?」
 大野は、部下が残した記録や映像で、蒜壷一族が起こした事件の現場を見るたびに、無残に変わり果てた人の骸(むくろ)を見続けてきた。蒜壷一族の旺盛な食欲は、とどまることを知らず、犠牲者の肉はおろか、内臓や皮までその原型をとどめていない。遺体の中には、骨さえも砕かれ、食用にされたと思われるものもあった。蒜壷のものは、肉を喰らい、内臓をすすり、皮をしゃぶり、骨を嘗めて、胃に収める……。人ひとり食うのに、十分もかからない。
 そんな蒜壷一族が、ひと月に一度や二度の人狩りで、おのれの食欲を満たすことができるだろうか?
 できるわけがない。蒜壷一族は、決して、人だけ食べて生きているわけではないと、大野は睨んでいた。
「蒜壷の事件は、ひと月にひとつかふたつ……。もっともこの数は、我々の把握している数にすぎないが……。事件のたびに現れる餓鬼どもの数から考えてみても、奴らの食欲は、ひと月に一度や二度の人間狩りで満たされるもんじゃあない。蒜壷一族は、人だけ食って生きているわけではないだろう。そうだろう、那美」
「蒜壷一族は……。蒜壷のものは……」
 那美は言いよどんだ。
「蒜壷のものは……」
「蒜壷のものは何だ?」
 大野が、言葉に詰まった那美に迫った。
《那美さまに代わって、わたしが応えましょう》
 那美の相棒、呂騎が大野にテレパシィーを送ってきた。
「おまえが、応えるだと!?」
 大野が、甲冑を身に着けている大型の犬に視線を送る。
《はい。私が那美さまに代わって、その疑問に応えましょう》
「……テレパシィーという奴か。どうも頭の中に直接話しかけられるのは好きになれんな。で、那美は、なぜ、応えてくれない。応えられない理由があるのか?」
 呂騎は大野の問いを無視した。無視して、蒜壷の事を話し始める。
《御推察どうり、蒜壷のものは、人だけ食べて生きているわけではありません。人のように穀物を喰らい、獣の肉をほうばり、魚を食べます。ただ、蒜壷のものは、七日に一度、人肉を食さなければ、八日目には気が狂い、ひと月も人肉を食べなければ、狂死してしまうのです》
「人肉を食べなければ、狂ったまま死んでしまうというのか!?」
《はい……》
 呂騎は、大野から目を逸らした。
「信じられん話だ……。なぜ、気が狂う? 人の肉と蒜壷の間に、どんな秘密があるんだ」
《残念ながら、その問いには答えられません。いえ、応えられないのです》
「なぜだ?」
《わたしたちにも、その理由が分からないからです》
「分からない?」
《ええっ、呪われている血族とか言いようがありません》
 確かに蒜壷一族は呪われているだろう。
 禍々しい容姿と、狂気ににも似た攻撃性を持ち備えた生物。生存欲だけで生きているとしか思えない餓鬼と呼ばれている、H-Bシリーズと言われている蒜壷と、餓鬼たちH-Bシリーズの体力を上回る頑健な身体と、知識と知性を持ったH-Aシリーズ。彼らは同じように、人肉を食さなければ、一か月後には狂死してしまうのだ。
「呪われているか……。確かに呪われているかもしれんな」
 大野は、地面に散らばった欲食の死体に眼を移した。
 三十数匹いた餓鬼、欲食は、すべて那美と呂騎、組織AHOのメンバーの手によって倒された。そのうち二十数匹が溶けて気化し、残り数匹もジュクジュクと溶けだしている。溶けて、塵と化すのだ。
 死体さえ一片も残らず、消えていってしまうのも呪われているせいなのか?
 大野は、鼻を左の掌で覆った。
「……おまえが、おまえ…が、那美か!?」
 荻が気づいた。
「荻、大丈夫か」
 大野が、うっすらと眼を開けた荻隊長に言葉をかける。
「大野さん……。来ていたんですか……。藤堂たちは?」
 荻の部下であった六人の男たちは、すでに伽羅の手によって死に絶えている。
「藤堂たちは? ……台田は? 代々木は助からなかったのか? 救護車両は? 本部から救護班が来ているんだろう」
 荻は半身を、おもむろに起こした。血走った大野の瞳に映る部下の変わり果てた部下の遺体。疾風の伽羅の容赦のない攻撃は、荻の部下たちをただの肉塊に変えていた。
「全員……。全員、やられたのか」
 荻隊長は知らない。生き残った隊員を、自分のその手で始末したことを……。
「生き残りは、あなただけです。荻隊長」
「おまえは? おまえは誰だ?」
 荻隊長は、見知らぬ男たちの存在に気が付いた。
「初めまして、室緒といいます。こちらの二人は、村中と高橋。ともにこれから組織AHO(オー)の下で、働きます」
「おまえたちが、蒜壷と戦う? おまえたちに何ができる。俺の部下さえ……、俺の部下さえ全滅したんだぞ」
 大野は、鍛え抜かれた彼の部下に比べて、やや見劣りする室緒たちを見下した。見下されずにはいられなかった。共に何年も蒜壷一族と戦ってきた可愛い部下たちを一度に失ったやるせなさを、室緒たちにぶつけているのだ。
「大丈夫……。その三人は、十分蒜壷と戦ってゆけるわ」
 と、那美が言う。
「戦ってゆけるだと!」
「ええっ……」
「なぜ、そう言える。室緒はともかく、後の二人のざまを見ろ」
 荻隊長は、村中、高橋を指差した。
 村中と高橋は、肩で息をしていた。身体の震えが止まらないのか、歯をガチガチさせている。
「大丈夫、その二人は、怯えながらも数匹の欲食を倒したわ。次はきっと勇敢に戦って見せると思う」
 そう、那美が言うと、
「なぜ、そう思う。蒜壷を何百匹も葬ってきた自信が、おまえにそう言わせているのか……」
 まだ、立つこののできない荻隊長は、力の入らない手で地面の土を掴んだ。
「その眼……。その眼。なにもかも見透かしているような冷たい瞳。……俺は、本部でおまえの写真を見せられた時、背中に旋律が走ったよ」


                      = 第四十一回に続く =


P.S 前回から、ずいぶん間を空けたことお詫びします。実は大変ショックなことがありました。某新人賞に応募していた作品が、お見事に落選してしまって、頭をハンマーで殴られたような衝撃が五臓六腑に沁み渡り、自暴自棄の状態に陥ったのでした。
ちなみに応募していたのは、前にこのブログに連載していた「二ャンタの大冒険」であります。「ニャンタの大冒険」を、だいぶ改稿し、何べんも推敲し、送ったのでありますが、現実は甘くはありません。最終選考にも残りません。とほほのとほほです。連載中、人気があっただけに、まことに残念です。

      しばらくは、「餓鬼狩り」に専念したいと思っています!

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