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自作小説

餓鬼狩り (第五十回)

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                         餓鬼狩り   (第五十回)

「荻隊長の容態はどうだ?」
 参謀が、大野に訊く。
「五階のメディカルセンターで治療を受けています」
 と、大野が言う。
「治療期間はどれくらいだ。荻がいないとなると……」
「ええっ、戦力は大幅ダウンします。……荻はいま戦える状態ではありません」
 大野は、そう言って俯いた。
 荻隊長は、新宿御苑で食風アメーバ形態の、催眠攻撃に遭い、直属の部下を二人をその手で殺していた。
(部下を……。手塩にかけて育て上げた部下を、この手で殺してしまったのか……)
 N島に来る途中のヘリの中で、完全に自我を取り戻した荻は、催眠状態で行った自分の行為に唾をはいた。
「俺は……、俺は……。なんてことをしてしまったんだ。敵に操られているとはいえ、矢口と友田を殺すとは……。おい、おまえ」
 垂直離陸輸送機V22 通称オスプレイの機内。スクープ型ストレッチャーから跳ね起きた荻は、バイタルサインを調べていた組織AHOのメンバーに噛みついた。
「俺を、自由にしろ! 今すぐ、このベルトをほどけ」
「まだ、安静にしなければダメです」
 白衣を着た男が言う。
「寝てなんかいられるか。復讐してやる。仇をとってやる。……このベルトを外せと言っているだろうが」
 荻は口から泡を噴きながらわめきたてた。
「荻、無茶するな。おまえは、今自分がどんな状態なのか分かっているのか」
 白衣を着た男の傍らにいた、大野が言った。
 荻は満身創痍だった。身体のいたるところから、血が滲み出ている。
「大野さん、そいつは蒜壷でしょう。そこの檻に入れられているのは蒜壷なんでしょう」
 荻は、クリスタルケージの中に横たわっている伽羅を、目ざとく見つけた。
「こいつは……、伽羅だ」
 と、大野が言う。
「H-3Aか。そいつの下僕(食風)のせいで、俺は部下をこの手で殺してしまった。くそったれっ」
 荻は憤った。
「大野さん、頼む。そいつを俺の手で殺させてくれっ」
 荻が言う。
「駄目だ。このH-3Aは、N島の施設にこのまま運ぶ。おまえに殺させるわけにはいかない」
「俺が殺す。この手で殺す! 大野さん、お願いだから、ベルトを解いて、俺を解放してくれっ」
「駄目だ……。ダメだと言っているだろう。おまえの気持ちは分かるが、おまえを解放することはできん」
 荻隊長の率いるチームは、荻隊長と五年間、苦楽を共にしてきたチームだった。
 冷静沈着な副隊長の代々木、朴訥な青年、藤堂、優しすぎる男、村上、お互いに尊敬しあっていた矢口と友田、神経質な男、行川。荻は、その個性あふれたメンバーに、実の親以上に愛情をそそいで育てあげた。荻隊長の元に集った代々木副隊長らは、互いに信頼しあい、荻隊長を誰よりも尊敬するようになり、家族といってもいい人間関係をきずいていたのである。
 家族同然のメンバーのうち、五人のメンバーを蒜壷に殺され、催眠状態であったといえ、二人の部下を自らのその手で葬った荻は、N島に移された後、毎夜、うなされているという。
「十八時を過ぎましたね。そろそろ蒜壷一族が動き出す時間ですね」
 と、関川が言う。
「大野くん、この五日間の間で、蒜壷が関わったという行方不明者の報告は受けているか?」
 参謀が言った。
「警視庁のコンピューターから、警察庁の五階にあるAHOのコンピューターに入った失踪、あるいは行方不明者の数は、この五日間で、およそ八百人、そのうち特異家出人と目される数が、二百人。この二百の特異家出人に対して、探索班が鋭意捜査中ですが、いまのところ蒜壷が関わったと思われる事案はありません」
「ない? 本当にないのかね?」
「ないと思われますが……」
 参謀の問いに、大野が、右手の人差し指で貌を掻いた。
「このところ頻繁に、おのれの所業を誇示するかのように活動してきた奴らが、このまま引き下がると思うか?」
 参謀が言う。
「……思えません。しかし、今回の一連の蒜壷の出没は、奴らの敵対者である那美を狙って行っている行動だという報告を受けています。那美にあれほど手痛いひっぺ返しを喰らった奴らが、そうそう簡単に、すぐに行動を起こすとは思えませんが……」
「その報告は、私も受けている。情報部によると、那美が持っているという十種神宝を狙っているようだな、奴らは。……その十種神宝のこと、君は知っているか?」
「詳しくは知りません。ただ、情報部からの報告によると、那美が使う超能力に関係があるということです」
「空を自由自在に跳んだり、光輝く剣を操る能力のことかね」
「ええっ……」
 大野が、ためいきをもらした。
「身長五十メートルを越す、食吐をも撃退した超能力……。もし、我々が、その十種神宝の秘密を手に入れれば、対蒜壷戦の大きな力になるかもしれんな」
 参謀が、口元を歪ませる。
「参謀は、十種神宝を手に入れたいのですか?」
「いや、そんなものがなくても、人類は蒜壷には負けやせんよ」
 五十嵐元国務大臣、いや、この組織で参謀と呼ばれている男は、不敵な笑みを浮かべた。
「B-2地区に蒜壷と思われる熱源を確認!」
 室の天井に設置されているスピーカーが、がなり立てた。
「B-2地区!? B-2地区にか?」
 関川が言った。
「B-2地区は、確か……。戦闘訓練用に造成された地区だったな」
 と、参謀が言った。
「ええっ、調度、室緒、村中、高橋が戦闘訓練を受けている場所です」
 大野が言う。
「彼らを指導しているのは誰かね?」
 と、参謀が訊く。
「この施設の警備隊長、野村と彼の率いる十名の精鋭部隊です」
「野村くんか……。おい、警備室、ここのモニターにB-2地区にいる蒜壷と思われる熱源を映し出せ」
「はい」
 室にある60インチの大型のモニターが、九画面に分割され、B-2地区の様子が映し出される。九画面の真ん中に、赤外線で透過したB-2地区全体の映像が出された。
「蒜壷の数、およそ三十。そのうちH-Bシリーズと思われる蒜壷が二十五、H-Aシリーズが五か。警備室、H-Bシリーズの餓鬼はなにかね?」
 参謀が、モニターに据え付けられている集音マイクに向かって言った。
「餓鬼、食法(じきほう)です」
「食法か。画面を切り替えて、食法とH-Aシリーズの実際の映像を映し出せ」
「はい」
 九分割されていたモニターが、四つになった。それぞれのモニターに食法と、五人のH-Aシリーズの蒜壷一族が映し出される。
「H-Aシリーズは人間体に化身しているな」
 参謀が眉をひそめた。
 H-Aシリーズと思われる蒜壷は五人、若い女と七歳ぐらい女の子の蒜壷が二人と、三人の男の蒜壷だった。
「この男のH-Aシリーズは、那美が卑眼の惟三と言っていた蒜壷だ」
 大野が、モニターに映っている一人の男の蒜壷を指さした。
「幻惑の術を使うという、あの蒜壷か」
 参謀が、その存在を確認するようにモニターを睨み付けた。
「警備室、惟三と一緒に映っている二人の男の蒜壷は?」
 大野が、訊ねる。
「そちらは、過去にO県に現れたことがあるH-Aシリーズです。情報部から送られてきた資料によりますと、風のイと大地のヌとかいう蒜壷です」
「で、その能力は?」
「風のイは、その名が示すように風を自由自在に操り、周囲に風速最大で二十メートルほどの風を起こすというデーターがあります」
「風速二十か。台風並みの風を、こいつは起こせるわけか。で、大地のヌという蒜壷は?」
「大地のヌは、地震ですね。いや、待ってください、情報部から送られてきた資料を良く見てみると……。こりゃあ~ 地震というより、地割れを起こすと言った方がいいでしょうね」
「地割れだと!?」
「ええっ、大地のヌは、おのれの周り、半径およそ五十メートルの地面を破壊するというデーターが、本部のコンピューターに残されています」
「容易には近づけんということだな……。警備室、B-2地区にいる野村くんに、惟三、風のイ、大地のヌの情報を送ったのかね?」
「はい、現場の野村にはすでに情報を送り、三人の蒜壷に対しての対蒜壷フォーメーションを急がせています。ただ、残り二人の蒜壷、若い女と子供の蒜壷に対して、どのような対蒜壷戦を展開すればよいのか……」
「わからんのか……」
 参謀は、モニターに映る若い女と、子供のHーAシリーズを、眉をひそめて視た。
「この若い女の蒜壷と、子供の蒜壷は? 情報部では把握しておらんのか?」
「先程、本部の情報部に問いただしたところ、はじめて確認されたるH-Aシリーズということです」
「女と子供の蒜壷か……」 
 女は、二十代前半の女のようだった。髪をセミロングにし、お姫様カットにしている。ピンクのブラウスの上に、腕に白い二つの線が入った青いバイクジャケットを着こんでいる。穿いているのは黒のライディングパンツだった。
 琥耶姫……。若い女は、化瑠魂を使い、人間体に化身した琥耶姫だった。


                            = 第五十一回に続く =


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