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自作小説

餓鬼狩り (第五十五回)

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                     餓鬼狩り   (第五十五回)

 麻酔薬で眠らされている村中の傍らには、組織AHOの隊員がいた。彼は、隊長の野村から後を任され、襲ってくる食法の群れから、村中を守り続けていたのである。
「那美……、さん」
 組織AHOの隊員が、村中の元にやってきた那美に気づいた。
「ちょっと、退いてて。直ぐに済むから」
 那美は、組織AHOの隊員をそこから退かすと、懐に手を入れ、香袋の中から緋色の勾玉を取り出した。それを、眠り続けている村中の額にかざす。緋色の勾玉がうっすらと輝いた。眠っている村中が、ピクリと動く。那美は、痙攣している村中の頬を、手の平で撫でた。村中は、那美の手の平の感触に誘われるように、ゆっくりと意識を取り戻した。
「げほげほっげほっっ……」
 村中は、口を大きく開き、吐しゃ物を吐いた。
「これで大丈夫。村中さんは、気が狂うことはなくなったわ」
 と、那美が言う。
「ぎゃぎゃぎゃああ」
 背後から、食法が那美に襲いかかる。
 那美は、光破剣をきらめかせ、振り向きざまに、襲いかかってきた食法二匹を、光破剣で叩き切った。二匹の食法は、体の中心から真っ二つに斬られ、大地に倒れた。
「食法がいるってことは、敵の中に風のイがいるのね」
 那美が言った。
「敵は、風のイ、大地のヌ、惟三と若い女の姿をした蒜壷と、女の子の蒜壷。……それと食法です」
 組織AHOの隊員が言う。
「若い女の蒜壷と、女の子の蒜壷?」
 那美が、疑問符を組織AHOの隊員に投げつける。
「ええっ、AHOにある資料の中に、風のイ、大地のヌ、惟三のデーターはあるので、それぞれが人間体に化身した姿は、確認できましたが、若い女の姿をした蒜壷と、女の子の蒜壷は、それがどのような蒜壷なのか確認できていません」
「若い女の蒜壷と女の子の蒜壷……。その蒜壷も、ここにきているというの? 風のイ、大地のヌ、惟三の姿は視たけれど、その若い女の蒜壷と、女の子の姿は見なかったけれど……」
「二人の蒜壷は、惟三たちと別れ、別行動をとったみたいで、我々の視界から消えています」
 組織AHOの隊員が、おもむろに言った。
 組織AHOの隊員が、装着しているゴーグルには、常に最新の情報が、島の研究施設から送られている。その情報によると、現在、野村隊長率いるチームと対峙している蒜壷一族は、惟三ら三人の蒜壷と数十匹の食法だけだという。 
「その、若い女の蒜壷と女の子の蒜壷……。気になるけど、いまは、眼の前の敵をたたくだけ」
 那美は跳んだ。
「私は、風のイたちと戦っている呂騎の元に行くわ。あなたは、村中さんを労わってあげて」
 那美は、そう言い残し、風のイたちと戦っている呂騎のもとに飛んで行った。

「呂騎よ。蒜壷一族であるおまえが、なぜ、蒜壷の敵、那美の味方をする?」
 呂騎と対峙している風のイが言う。
「餌非一派だからか……。蒜壷一族の中でも、生きた人を食せず、人を襲うことをしない弱虫の餌非一派だからか」
 風のイは、呂騎を嘲笑した。
「なぜ、おまえら餌非一派は、人を襲うことを拒み続ける? 人肉を食さなければ、八日後には狂い死ぬというのに……」
 風のイの問いに、呂騎は応えない。ただ、黙っていた。
 人肉を食さなければ、狂い死ぬという蒜壷一族にかけられた呪いは、当然、餌非一派にもかけられている。呂騎は、自ら、食をたって、狂い死ぬ仲間の姿を、何度もその眼で見ていた。
 死んで逝った仲間たちは言った。
「人と蒜壷は、いつか理解しあえる。われらと同じ姿をしたモノが、すでに人の良き相棒になっているではないかー」
 餌非一派は、みな呂騎のような犬の姿をした蒜壷だった。古来から、犬と人は、ともに助け合い、仲良くしていたゆえに、昔、蒜壷一族が、直射日光の下で活動ができたころ、犬の姿をした餌非一派は、犬神さまとして、人々に崇められていたのであった。
 風のイは、黙りつづけている呂騎に言う。
「呂騎……。おまえは犬神さまと崇められた誇りを忘れたか。心まで人に従順な犬の蒜壷に成り下がって」
 風のイは、呂騎を見下した。
《風のイよ。 おまえも、本来の姿は犬の姿をした蒜壷だろう?》
 と、呂騎が言う。
「俺が犬の蒜壷!? 笑わせるな。俺と大地のヌは、顔は犬だが、身体は鍛えられた獣神の身体よ。おまえたち餌非一派のように、四足で歩くことはないわ」
 風のイは、鼻を鳴らす。
「イよ。こいつの肉はうまそうだな」
 と、大地のヌが言う。
「さあ、どうかな? 犬は犬でも蒜壷のものの肉だ。……赤犬は、おいしいというが、こいつはどうかな?」
「俺は強い奴の肉が好きでな。まずくてもかまわん」
 大地のヌが舌なめずりをした。
《私は、食べ物ではない!》
 呂騎が威嚇する。
「怒ったか!? 怒ったところで、おまえなど、俺たちの敵ではないわー」
 風のイが、両手を、呂騎、めがけて振り下ろした。突風が起こる。身を斬り割くような風が、呂騎を襲う。間一髪、呂騎は、突風をよけ、反転して、大地のヌの方向に跳び、大地のヌの身体に爪をたてた。大地のヌの身体が、黒のライダースーツごと斬り割かれる。いや、斬り割かれたかのように思えた……。
「なんだ、なんのつもりだ」
 大地のヌが、レイバンのサングラスをずらして、唇を歪ませた。呂騎の鋭利な爪は、大地のヌの鍛えられた肉体には通じなかった。大地のヌは、近くにあった大岩を持ち上げ、呂騎、めがけて、投げつけた。その刹那、大岩を持ち上げた大地のヌに向かって機銃からマグナム弾が発射された。組織AHOの野村が、一瞬の隙をついたのであった。
 地の底を穿つような重い銃声が響き、マグナム弾が、吸い込まれるように大地の肉体に叩きこまれた。大地のヌの左腕がマグナム弾の一斉掃射によって粉砕される。大地のヌが、もんどりうって倒れた。
「時というもんは、人に無用なオモチャを与えるものよ」
 と、うそぶく大地のヌ。
 大地のヌにとって、腕の一本や二本、粉砕されても、たいしたダメージではないのだろう。何事もなかったように立ち上がると、幹の太さが六十センチもあるマルハチの倒木を、右腕一本で抱えた。
「ふん」
 大地のヌは、マルハチを振り回した。野村の胴に、そのマルハチが叩き込まれようとした直前、那美が繰り出した光破剣によって、マルハチを斬り割く。
「これ以上、犠牲者は出さないわ!」
 再び、戦場に戻った那美は、そう言い放った。
「呂騎、何名、やられた?」
 那美が言う。
《組織AHOの隊員が八名、やられました。うち五名が瀕死の重傷、三名が戦闘不能の状態です》
「敵は、敵は何人?」
《敵は、風のイ、大地のヌ、惟三……。風のイの配下の食法が三十匹ほどいましたが、ほとんどが殲滅されて、残り五匹ほどです》
「毒虫は? 毒虫は近くにいないの?」
《大半の毒虫は、AHOの殺虫剤で退治されたようです。まだ、数十匹、生き残りの毒虫が、宙をふらふらと飛んでいますが、私には、この戦闘に入るまえに、那美さまから頂いた蜂比礼(はちのひれ)が、ありますから、毒虫など怖くはありません》
 呂騎の額の中央が、白緑色(ひゃくろくいろ)に輝く。よく見てみると、白緑色に光っているのは、勾玉のようなものだった。
「蜂比礼は、空中からの攻撃を迎撃するもの。空を飛ぶ毒虫の攻撃など受けつけやしないわ」
 と、那美が言う。
《私は、大丈夫ですが、那美さまは? 那美さまは、毒虫から攻撃を受けたら、どうするのです?》
「私の身体は、常に品物比礼(くさぐさのもののひれ)に守られているわ。毒虫など寄せ付けやしない」
 那美の懐の中の香袋が、紅梅色に光った。
「おしゃべりは、それくらいにしてもらおう。那美、いまこそ一族の仇、討たせてもらうぞ!」
 風のイが、両手を高く掲げた。

                    = 第五十六回に続く =


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