FC2ブログ

自作小説

餓鬼狩り (第五十六回)

 ←餓鬼狩り (第五十五回) →餓鬼狩り (第五十七回)
                    餓鬼狩り   (第五十六回)

「ヌよ。化身を解くぞ!」
 風のイが言う。大地のヌが、うなずく。
「惟三、おまえも化身を解き、本来のヒキガエルの姿に戻ったらどうだ」
 風のイが、惟三に話を振った。
「言われなくても、化身を解きますがや。人の姿のままでは、那美さんから、逃げられないさかいに」
「逃げるのか!? おまえは戦わず、逃げるといのか。舌を斬られたくせに」
 風のイが、惟三に不信の眼を向ける。
「わいは、舌三枚もっているから、なんも不便なことないわ。斬られた舌も、ほっとけば、じきに生えてくるし……。わいは逃げます」
 惟三は、えへらえへら笑いながら舌をだしてみせた。
「ふん、勝手にしろ。俺たちは……」
 風のイ、大地のヌが手を握りしめた。鼻をならし、全身に気を込める。すると、着衣している黒のライダースーツが弾け飛び、精悍な顔つきの人面が、獰猛な犬の顔に変形した。
「わいも。戻ろう」
 惟三も、また、風のイたちと同様に、人の姿から本来の蒜壷の姿に戻った。ヒキガエルの蒜壷ノ姿に……。
「化瑠魂、また、もらわんといけないわやな。わいは、化瑠魂がないと化身でかないさかいに……」
 二本足で立つ、ヒキガエルの蒜壷、惟三は化身を解くと、直ぐに大岩の陰に、その身を隠した。
 那美が言う。
「呂騎、あなたは安全な場所で待機していて。空を飛べないあなたでは、地を砕く、大地のヌの攻撃は避けられない」
《わかりました。私は、残存している食法をかたずけることにしましょう。大地のヌとて、食法がいる地を割ることはできないでしょうから》
 呂騎は、そういうと、食法らと戦っている室緒たちの方へ駆けて行った。
 那美の胸元に忍ばせている香袋が、青藤色に光る。空を自由自在に飛ぶことができる足玉(たるたま)が、発動したのだ。
 五メートルほど、宙に浮かび上がる那美。風のイ、大地のヌの挑発など意に介さない。那美は光破剣の切っ先を二人の蒜壷に突きつけた。
 大地のヌが、咆哮した。那美がいままでいた地面が盛り上がった。大量の土砂が宙にいる那美、めがけて、舞い上がる。那美が間一髪でそれを交わした。
「那美、これでもくらえ!」
 風のイが、胸元で腕を交差する。風のイの傍らに二つの竜巻が起こった。二つの竜巻は、猛獣の吠え声のような音をたてて、那美に迫る。
 那美は、気合をこめた。光破剣で迫ってきた竜巻を、中心から真っ二つに斬った。
「馬鹿な!? 竜巻を斬っただと」
 風のイが、信じられるものをみたような眼で、那美を見た。
 身を斬り割くような凄まじい竜巻を退けた那美に、大地のヌの攻撃が迫る。大地のヌは、再び、大量の土砂を、那美、めがけて、振り下ろす。
「光破剣、旋風陣」
 那美は光破剣を高々と掲げて、叫んだ。
 すると、見よ。那美の頭上に掲げられた白く輝き始めた光破剣が、那美の身体を中心にして烈風を起こした。烈風は、押し寄せる土砂に、真正面からぶち当たる。烈風は大波のように那美を襲った土砂を、ものの見事に粉砕した。
「おのれっ、那美」
 風のイが毒づく。
「風のイ、いま、あなたの業を断ち切ってやるわ」
 那美は、光破剣を中段に構え直した。
「くるなら、来い!」
 風のイが、突風を造りだし、それを那美、めがけて投げつける。那美は光破剣の切っ先を突風、めがけて突き立てながら、突風の中を、突進した。
「覚悟!」
 那美は、光破剣を大上段から振り下ろした。
「なに!?」
 光破剣の餌食になったのは、風のイではなかった。大地のヌが、那美と風のイの間に立ちはだかった。
「俺の身体は、刃物など受けつけやせん」
 大地のヌは、袈裟懸けに叩きこまれている光破剣を、右腕一本で、引き抜こうとした。
「光破剣で斬れぬ悪しきものの身体はない。大地のヌ。光破剣の力を、思い知るがよい」
 那美が、光破剣に気を送る。眩いばかりの光がきらめいた。大地のヌの身体が音をたてて熱くなり、小刻みに震動した。
「馬鹿……。馬鹿な!!」
 大地のヌの身体が、袈裟懸けに真っ二つになる。大地のヌは、蒜壷一族一と言われた頑健な身体を、斬り割かれ、絶命した。
「ヌ……。ヌ、ヌよ」
 風のイが、大地のヌの最後の姿に、膝を崩して、泣き喚いた。
「おのれっ、那美! ヌの仇、とらしてもらうぞ」
 風のイの瞳は、憎しみの色に染まった。

 那美の双子の弟、ナギは、姉である那美を装い、人間体に化身している琥耶姫、刻とともに組織AHOの研究施設の前にいた。
 施設のサーチライトが、三人に集中し、防護塀に取り付けられてある遠赤外線付きセキュリティーカメラが、三人の姿を捉える。
「那美!? 那美が蒜壷のH-Aシリーズを連れて現れたというのか」
 研究施設のなかにある作戦本部にいる組織AHOの男たちは、信じられるようなものを見た目つきで、モニターを見た。
 大野が言う。
「二人の蒜壷の手元をアップしてくれっ。なにか、手錠ようなもので縛られているみたいだが……」
 作戦室のモニターが、琥耶姫と刻の手元をアップして見せた。女の蒜壷と女の子の蒜壷は、確かに拘束されている。手向かう意志はなさそうだ。おとなしく、那美に装ったナギに従っている。
「那美が、女の蒜壷と子供の蒜壷を捕まえてきてくれたというわけか……。大野くん、どう思う?」
 五十嵐参謀が、大野に訊いた。
「我々を拒んでいたに那美が、態度を軟化させて、我々に協力する?」
 大野が、懐疑の眼を凝らす。
「谷野、マイクを貸せ。俺が直接、那美と話す」
 大野は、モニターの前にいるオペレーターに指示を出した。オペレーターが外部スピーカーのスウッチをオンにし、マイクを大野に渡す。
「ようこそ、組織AHOの研究施設へ。その女の蒜壷と子供の蒜壷は、我々への手土産というわけか……」
 大野の良く響く声が、ナギと二人の蒜壷の元に届いた。
「この二人が蒜壷のものだとわかるの?」
 ナギが、大野に応える。
「我々は、特殊な遠赤外線を使っているのでな。蒜壷の者と、そうでないものとの、区別できる。おまえが連れているその二人から出ている熱量は蒜壷の者のものだ」
「そう。じゃあ私は? 私は何者?」
 ナギが訊く。
「おまえは……。おまえは、蒜壷ではない。我々人とも、違うが……」
 組織AHOは、那美とナギが、人と蒜壷との間に生まれたものであることを、まだ、知らない。


                      = 第五十七回に続く =

 
にほんブログ村
スポンサーサイト


もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png 自作小説
もくじ  3kaku_s_L.png 市民劇場 裏話
もくじ  3kaku_s_L.png 命の輝き
もくじ  3kaku_s_L.png 映画鑑賞記
  • 【餓鬼狩り (第五十五回)】へ
  • 【餓鬼狩り (第五十七回)】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【餓鬼狩り (第五十五回)】へ
  • 【餓鬼狩り (第五十七回)】へ