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自作小説

餓鬼狩り (第五十七回)

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                      餓鬼狩り   (第五十七回)

「そのH-Aシリーズの蒜壷は、どんな蒜壷なんだ?」
 五十嵐参謀が、スピーカー越しに、ナギに訊ねる。
「特別な蒜壷よ」
 那美を装っているナギが、意味ありげに応えた。
「特別な蒜壷とは? 那美、特別な蒜壷とはなんだ?」
 五十嵐参謀が、眉をしかめた。
「この二人が、特別な蒜壷だってこと、あなたたちだってわかるでしょう。こんな若くて綺麗な女性の蒜壷、観たことないでしょう。それに、子供の蒜壷……。子供の蒜壷は、滅多にこの世界には降りてこないのよ」
 蒜壷一族の平均寿命は、三千歳と言われている。平安時代に生を受けた琥耶姫の実年齢は、千二百歳を超えているが、人に化身したその肉体と容姿は、結婚適齢期の若い女性のそのものだ。寿命が極端に長いこの一族は、犬や猫のように小児体である時間は短く、青年体である時間は長い。幼い子供の蒜壷、刻もいずれ青年体の身体に成長し、長きに亘っていその時間を生きることになるだろう。
「参謀……。あの女、本当に蒜壷なんですか? 私には信じられませんが……」
 大野が、琥耶姫の美貌に眼を奪われる。
「綺麗だな……。美しすぎる」
 五十嵐参謀は、ため息をついた。
 つややかな光沢を持ったセミロングの漆黒の髪。二重瞼の黒目がちな瞳は魅惑の光を湛えている。透き通るような白い肌は、触ると溶けて行ってしまいそうだ。青色のライダ―スーツに包まれた胸の膨らみは、大きくもなく、小さくもない。腰からつま先にかけてのラインは、ファッションモデルのそれだった。
 モニターを操作しているオペレーターが言う。
「蒜壷が、みんなあんなのだったら、こちらは大歓迎ですね」
「馬鹿なことは言うな。あれは仮の姿だ。実際の姿は奇怪な化物なんだぞ、奴らは……」
 と、大野が、オペレーターを戒めた。
「ここを開けてちょうだい。扉が閉まっていたら、中に入れないでしょう」
 那美を装っているナギが言った。
「施設(なか)に入って来る気か」
 大野が、スピーカー越しに応える。
「当然、そのために来たのだから」
 ナギは鼻を鳴らした。
 大野が、五十嵐参謀を見る。五十嵐参謀はうなずいた。
「よかろう。セキュリティーシステムを解除する」
 大野が、オペレーターに指示を出す。オペレーターが機器を操作すると、鋼鉄製の扉が左右に分かれ、開いた。
(ナギ、ダイジョウブカ? バレヤシナイカ?)
 刻が、小さな声で、ナギに訊ねた。
(まかせてください。たとえ正体がばれても、決して、やられはしません。僕を誰だとおもっているんです)
(ナミノフタゴノオトウト、ナギ。ヒトデモ、ヒルコデモナイ、チョウゼツサイキッカー)
 刻が、ナギのことを円らな瞳で見つめると、琥耶姫が、
「あら、難しい言葉、知っているのね。超絶サイキッカーだなんて、どこで覚えたの? 刻」
 と、言った。
 那美を装ったナギが、琥耶姫と刻を連れて、組織AHOの施設の中に入ると、数人の警備の者が、三人の前に立ちふさがった。
「ここからは、我々が案内します」
 形状記憶可能なレアメタルを織り込んだプロテクターを身に着けた警備員が、用心深そうに琥耶姫と刻を視る。
「大丈夫。心配しないで。彼女らは、何もできやしないわよ」
 那美に装っているナギが言う。
「H-Aシリーズの蒜壷は、油断できません」
 と、警備員の一人が言った。
「あなたたちは、そのH-Aシリーズの蒜壷と、私をどこに案内するつもりなの?」
 ナギが言う。
「H-Aシリーズは、それぞれ地下のクリスタルゲージの中に監禁します。那美さんは、作戦室Aの隣の部屋で待機していてください」
 警備員が言った。
「伽羅は、どこにいるの? この琥耶姫たちが監禁されるという地下のクリスタルゲージの中?」
「H-3Aが、どこに監禁されているかは、我々警備員は、知らされていません」
 と、警備員が、事務的に言うと、天井に設置されているスピーカーから、野太い男の声がした。大野だ。
「そのH-Aシリーズの蒜壷は、琥耶姫というのかね? どちらが琥耶姫なんだ?」
「若い女の蒜壷が琥耶姫で、女の子の蒜壷が刻よ」 
 ナギは、うっすらと嗤った。

相棒である大地のヌを失った風のイは、血眼になって、大人の身長ぐらいの竜巻を造り続け、それを、那美、めがけて投げつけていた。
 那美は光破剣を駆使し、迫りくる竜巻を、ことごとく粉砕する。
「おのれっー おのれっー おのれっ」
 風のイは、自ら造り出した竜巻群を消されてしまっても、執拗に那美に攻撃を加える。
「それで、おしまい?」
 那美は、風のイが造った最後の竜巻を消し去り、地上に降りた。地上に降りた那美の右の膝がしらに惟三の長く伸ばした舌が絡みついた。
「那美はん、痺れるだろ。わいの毒舌にかかったら、あんさんでも数分で倒れてしまうがな」
 惟三は、逃げたわけではなかった。逃げると見せかけで、隙をうかがっていたのである。
 那美の胸元が、紅梅色に光る。若草色の香袋の中に入っている紅梅色の勾玉が光ったのであった。那美の胸元が紅梅色に光ると、那美の右の膝がしらに絡みついていた惟三の舌が、業火に焼かれ燃え上がった。
「うぎゃあぁー」
 舌を焼かれた惟三は、口を押えて、もんどりうった。
「戦いから、何も学んでないのね。品物比礼(くさぐさのもののひれ)が、私の手の中にある限り、あなたたちは、私に触れることはできないわ」
 那美が、光破剣の切っ先を、惟三の貌に突きつけた。その那美に……。
「これでも喰らえ!」
 風のイが、背後から性懲りもなく竜巻を投げつけようとした。呂騎が、風のイの左のふくらはぎに喰らいつく。
《感心しませんよ。後ろから襲うとは》
 呂騎が、テレパシィーを使って風のイに言った。
「おのれっ、呂騎!  いつのまにー 餌非一派の廃れ者がー」
 風のイは、呂騎に食いつかれ、体制を崩した。
 銃声の音が続けざまに響く。呂騎とともに食法を、すべて葬った室緒が、この場に駆けつけ、機銃を撃ったのだ。50ミリマグナム弾が、風のイの身体を粉砕する。貌の半分が吹っ飛び、左胸にバレーボール大の大穴が開き、右わき腹が跡形もなく消し飛んだ。
「ありゃま、イさんまで、やられてしもうたがや。やばい。やばい。ほんまにやばい。ここは逃げるが勝ちやがな」
 惟三が、ピョンピョン、跳ねて逃げ出した。
《那美さま、惟三が逃げてゆきます。あとを追いますか?》
 呂騎が言う。
「惟三は、室緒さんたちに任せて、私たちは、この島に来ているはずの琥耶姫たちを追う」
 那美が、呂騎に言葉を返す。
《琥耶姫と刻……、もう一人の蒜壷は!?》
「私の推測が正しければ……。ナギ。私の弟……」


                     = 第五十八回に続く =


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