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自作小説

餓鬼狩り (第五十八回)

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                      餓鬼狩り   (第五十八回)


 作戦司令室の中には、数十のモニターがあり、そのモニターのひとつに、那美と琥耶姫と刻、那美たちを挟むように歩いている組織AHOの警備員の姿が克明に映されていた。
 完全武装した組織AHOの警備員は、四人。那美の前に二人。琥耶姫と刻の後ろに二人。警備員たちは、蒜壷たちを用心しながら、ゆっくりと歩いていた。
 大野は、施設の廊下を歩く、那美と琥耶姫、刻に視線を注いだ。
「メインモニターに、彼らを映してくれ」
「了解」
 オペレーターが、メインモニターの画像を切り替える。
(あの女は、本当に那美なのか? 姿形は、那美そのものだが、どこか様子が違う。……我々との接触を、あれほど拒んでいた那美が、なぜ、協力する気になった?)
 作戦司令室にいる大野は、モニターを操作するオペレーターに、ある指示を出していた。
 二名の蒜壷を捕虜にして、組織AHOの子の研究施設にやってきた那美の声は、以前、聞いた那美の声と違う。女の声でないような気もする。大野は、組織AHOに保管されている以前収録していた那美の声と、先程聞いた那美の声の声紋を比較するように、オペレーターに指示を出していたのである。
「声紋の結果が出ました。これによると、過去に記録された那美の声紋と、いま、ここにいる那美の声紋は、合いません。まったく違うものです」
 オペレーターが、モニター上に現れた声紋の波形を、目で追う。
「違うか……。やはりな」
 と、大野が言う。
「違うということは、あの女は、那美ではないということかね」
 五十嵐参謀が、大野に言う。
「欲食(よくじき)という人の姿をした餓鬼の例もありますし……。もしかしたらと思ったけどな」
 新宿御苑での蒜壷との戦いで、組織AHOと戦った欲食という餓鬼は、少女の姿に化けた餓鬼だった。あどけない少女の姿で、組織AHOに戦いを挑んできた。
「蒜壷でもないんだろう?」
 五十嵐参謀が、大野に訊く。
「遠赤外線装置が示した熱量は、蒜壷の者ではありません。人のものでもないし……」
 大野に代わってオペレーターが、五十嵐参謀に言った。
「那美の発する熱量と同じだということか」
「ええっ……」
 オペレーターが、うなずく。
「用心に越したことはない。警備員に拘束しろと伝えろ」
 五十嵐参謀が言う。
「わかりました。現場にいる警備員に、支持を出します」
 オペレーターが、機器を操作し、ナギの傍らにいる警備員に指示を出した。
 現場にいる警備員のヘルメットの側面に固定されている通信機に、作戦司令室から連絡が入ると、組織AHOの警備員たちは、那美にむけて、一斉に銃口をあげた。
「状況が変わった。那美さん、あなたもそいつらと一緒に、地下に行ってもらうことになった」
「どうして? 私は、あなたたちの味方よ。こうして蒜壷を、あなたたちのために連れてきてるじゃあない」
「あなたは、那美さんじゃあない。那美さんにそっくりだが、那美さんじゃあないだろう」
 警備員が言う。
 作戦司令室から、警備員に送られた情報は、「その女は那美じゃない」と断定していた。那美じゃあないものを、この施設の重要拠点でもある作戦室Aまで護送するわけにはいかない。
「そう。正体がばれたのね。ばれちゃあしかたないけれど、あなた方は、僕には逆らえないよ」
 ナギが、瞳を光らせると、琥耶姫と刻を捕縛していた手錠が、弾け飛んだ。
「逆らう気か!?」
 警備員は、ボルト式散弾銃に似たライフル銃を、ナギの胸に突きつけた。
「あなた方は、僕に逆らえないと、言ったでしょう」
 ナギの瞳が、再び光った。警備員たちは、ライフル銃を下に下ろした。緊張が一気に解けたかのように、へなへなと座り込む。ナギが一瞬にして、警備員たち四人の意識を奪ったのだ。
「立って。立って歩いて。このまま僕らを、作戦司令室まで案内して。作戦室Aじゃあなくて、作戦司令室のほうにね」
「……はぃ……。分かりました」
 四人の警備員は、ゆっくりと立ち上がった。ふらふらと身体を揺るがしている。
 警備員が言う。
「俺たちに……ついてきてください。……作戦司令室まで、案内します」
「捕まっている伽羅は助けださないの?」
 琥耶姫が、ナギに訊ねた。
「そう簡単に、伽羅が囚われている地下室まで、行けると思う? ここの防御は半端じゃあないみたい。あれを見て」
 ナギは、廊下の天井から、下がってきた、ノズルを顎でさししめした。
「あれ、レーザ砲のノズルよ」
 と、ナギが言った。
「わらわたちを、ここで殺す気!?」
 琥耶姫が、身構える。
「僕たちを抑えきれないとわかれば、彼らは躊躇なく殺(や)るでしょうね」
 ナギは、右手の親指を、レーザー砲のノズルめがけて突き出した。ノズルが中心から、グニャリと曲がった。ナギが念動力で曲げたのである。
「見たか、今の!?」
 作戦司令室から一部始終を見ていた大野が、叫んだ。
「念動力か……」
 五十嵐参謀が呟く。
「風のイは、風を操り、大地のヌは、地を割った。金属を捻じ曲げる蒜壷がいてもおかしくはない」
 五十嵐参謀の目が、ナギを見つめる。
「オペレーター、警備員の四人は、どうなってる?」
 大野が、機器を操作しているオペレーターに聞く。
「バイタルサインから見て、意識はあるようですが、こちらの指示に従ってくれません」
 数十のモニターの中に、四人の健康状態を記したモニターがあった。脈拍、血圧、体温……。モニターに投影される、それらの数字は、なんら問題のないものだった。
「意識を、乗っ取られているな……。蒜壷に」
 五十嵐参謀が言った。
「おそらく、そうでしよう」
 大野が、相槌を打つ。
「人の意識を乗っ取り、金属のレーザー砲のノズルをグニャリと曲げる蒜壷か……。容易ならざる蒜壷のようだな、あの那美もどきの蒜壷は」
 五十嵐参謀が、舌をうった。
 作戦司令室へ続く廊下を悠々と歩くナギは、次々と天井から下がってくるレーザー砲のノズルを曲げていった。
「ナギ、コノママ、コイツラノ、アトヲ、ツイテイッテイイノカ?」
 刻が、ナギに訊いた。
「この人たちは、いうならばこちらの人質。人質がこちらにある限り、そうそう手荒な真似はできないはず」
「刻、安心せい。わらわたちにはナギさまが、ついていらっしゃるだぞ」
 琥耶姫が、刻を見つめて言った。
「ホントウニ、ダイジョウブカ?」
 刻が、念を押す。
「この状態で、敵が次にとる手はおそらく……」
 ナギが、そう言った時、天井から鋼鉄製のシャッターが下りてきた。後方を振り返ると、後方にも鋼鉄製のシャッターが下りている。
「わらわたちを、ここに閉じ込める気か」
 琥耶姫が、頭(かぶり)を振る。
「そう、閉じ込めて、次は……」
 ナギが、鼻を鳴らす。ナギは、次に起こることを予測していたようだった。ナギが、脚を止めると、ナギたちを先導していた四人の警備員が、バタバタとその場に倒れた。
「僕がやったんじゃあないよ。ここのお偉いさんたちの仕業だよ。ここのお偉いさん、僕たちをここに閉じ込めて、無色無臭のガスを撒き散らしたんだ」
「ガス!? わらわは? わらわたちは大丈夫なのか?」
 琥耶姫が口と鼻を両手で、押さえた。
「大丈夫。ここに閉じ込められた時、こうなることを予測して、あらかじめ、僕らの周りに空気の膜を張っていたから」
「クウキノマク?」
 刻が、前方を片手で推してみた。弾力性に優れた透明な膜が、そこにあった。
「僕ら三人は、空気の膜につつまれているから、当分の間、大丈夫だけども、いつまでも空気の膜の中にいるわけにはゆかない。
僕から、ちょっと離れて。そこの壁を壊すから」
 ナギは、両手を組んだ。
「鋼鉄製のシャッターは、僕のPK(サイコキネシス)でも、手にあまるけど、そこの壁ぐらいなら」
 ナギの身体が、オレンジ色に輝き始めた。

         
                = 第五十九回に続く =


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