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自作小説

餓鬼狩り (第六十一回)

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                   餓鬼狩り   (第六十一回)

「参謀、これを見てください」
 オペレーターの谷野が、五十嵐に向かって言う。
「なんだ、どうした?」
「いま、リプレイをかけて、3-LAのスクリーンに映します」
 谷野が、素早く機器を操作した。作戦司令室にある二十のスクリーンの一つに、L区画の映像が映し出される。映像には、胸から血を噴きだしてぐったりしているナギと、そのナギを抱えている琥耶姫と、刻の姿が映し出されていた。
「那美、青年の蒜壷はしとめたぞ。残るは女の蒜壷と少女の蒜壷だけだ」
 大野が、鼻で笑った。
「ナギをしとめた?」
 那美が問う。
「ああっ、AHOの最新兵器R-20がやってくれた」
「そのR-20っていうのは?」
「人の精神を操る蒜壷に対抗するために開発された対蒜壷用ロボットだよ。……これで、この施設にいる蒜壷は、残り二匹」
「油断しないで。本当にナギをやったの? ナギは超絶サイキッカーよ。ニセの情報を捏造するくらい朝飯前にやってしまうわ」
「ニセの情報だと!?」
 大野が顔をしかめると、五十嵐が目で、オペレーターの谷野に機器を操作するようにうながした。
「先程の映像に赤外線をかぶせて、画像処理してみます」
 谷野が、てきぱきと機器を操作する。
「赤外線をかぶせた画像を、カラー抽出し、さらに加工して」
 谷野が、一連の作業を終えると、画像処理されたスクリーンに映し出されたのは、ナギではなかった。琥耶姫に抱かれている血まみれの組織AHOの警備員と、刻の姿が、そこに映し出されていた。
「どういうことだ……これは!?」
 作戦司令室にいる大野たちは、驚愕した。
 古来、忍法の術に、変わり身の術、空蝉の術という敵の眼を惑わせる術がある。変わり身の術とは、攻撃を受けた瞬間、近くにある丸太を使って、その場所と自分を入れ替わる術である。空蝉の術とは木材や丸太、自分と等身大のものに衣服をかぶせて、敵の眼を欺く術のことである。
 ナギの使った超能力は、無論、このような幼稚なものではない。
 超絶サイキッカーであるナギは、自分が操っている組織AHOの警備員に、自分の映像を被せて、組織AHOの作戦司令室にニセの情報を送りつけたのであった。
「この映像は、何分前の映像だ」
 と、大野が聞く。
「三分前です」
 オペレーターの谷野が、応えた。
「すぐ、現在(いま)の映像を映し出せ」
 大野の指示に、谷野が機器を操作する。
「駄目です。L区画のカメラが、すべて破壊されています」
「くそっ、なんてことだ」
 大野は、髪を掻きむしった。

 組織AHOのR-20のロボット群を、葬ったナギは、琥耶姫、刻と最上階にいた。
 琥耶姫が言う。
「わらわは、すっかりだまされました……ナギさまに」
 琥耶姫に続いて、刻が、
「ナギサマハ、イジワルデス」
 と、言う。
「敵を欺くには、まず味方からというだろ。本当に僕がやられたと思ったのかい?」
 ナギの言葉に琥耶姫と刻が顔を見合わせる。
「僕がやられるわけがないだろう。あんな、からくり人形に」
 ナギは、口元をゆるませた。
「このドアの向こうが屋上だ。どいてろ、これを壊すから」
 ナギが、スチール製のドアに両手をつけた。ナギの瞳が怪しく光ると、ドアのオートロック機能が、難なく破壊された。
「オートロックを二か所かけてあったけど、どちらもシリンダー錠の簡単なもの……。さあ、ゆくよ」
 ナギ、琥耶姫、刻は、オートロックが破壊されたドアから、屋上に出た。
「僕たちのことを調べ上げて、蒜壷とかかわりが深いこの島に、こんな最新鋭の研究施設を造ったのだろうけれど、仇(あだ)になったようだね」
 ナギが、そういう。
「わらわたちの住む極異界と、現世を結ぶ孔(あな)は、この島にあるのが一番大きいのじゃ。山ほどの大きさの食吐(じきと)どもも、容易に、この孔から出てこられる」
 ナギの言葉に琥耶姫が応えた。
 食吐というのは、かって俄蔵山に現れた二匹の巨大な餓鬼のことである。巨大に餓鬼の出現にその場にいた人々はパニックになってしまったが、俄蔵山に現れた身長五十メートルを越す、餓鬼‘食吐’は、那美によって倒された。が、食吐が室緒たちに与えた衝撃は大きなものだった。蒜壷一族と長きにわたって戦い続けている組織AHOの連中は、今まで身長五十メートルを越す餓鬼とは遭遇したことがなかった。いや、そんな巨大な餓鬼がいることさえ想像できないでいたのだ。巨大な餓鬼‘食吐’の出現は室緒たちや組織AHOを大いに慄かせたのであった。
 ちなみに、組織AHOが過去に戦い、闇に葬ってきた餓鬼(B-シリーズ )の種類を列挙すると……。
 人肉しか食べることができない食肉(じきにく)を筆頭に、羅刹(らせつ)という、人を狂気の世界に陥れて殺し、その肉を食べる餓鬼。生まれたばかりの赤ん坊を好んで食べるという食小児(じきしょうに)に、風だけしか食べることができない食風(じきふう)。手足が針のように細く、人の二倍ほどの身体を持つ鑊身(かくしん)。針口(しんこう)という常に宙に飛びかう蚊や地べたを這い回る毒虫にたかられている餓鬼と、食糞(じきふん)という糞尿の池に棲むという餓鬼。血だけしか食べることができないと言われる食血(じきけつ)と、欲食(よくじき)というなんにでも化けられる餓鬼。……食法(じきほう)という餓鬼は体表が黒く、長い鋭い爪を持つ、毒虫を操る鬼だった。
 組織AHOは、設立当初から、これら凶悪な餓鬼たちと死闘を演じてきたのである。
「食吐なんか呼ばないよ。この施設を倒壊させるつもりかい? ここには、まだ伽羅が捕まっているんだよ。組織AHOが、僕たちを調べ上げた資料も欲しいし……」
 と、ナギが言う。
 新宿御園で、那美との戦いで敗れた伽羅は、クリスタル・ゲージの中に入れられ、この施設の地下二階に監禁されている。
「大分、ここの警備員を殺ってしまったから、疾行(しっこう)と、神通(じんつう、)食毒(じきどく)でも呼んで、僕が殺ってしまった警備員の魂をなぐさめましょうか」
「ナンデ、シッコウタチヲ、ヨブコトガ、ナグサメニツナガル?」 
 刻が、ナギに訊ねた。
「やつらを呼べば、また大量の死者が出るからさ。数十人死ぬより、数百人、死んだ方が、あの世がにぎやかでいいだろう」
「ソリャア、ソウダ」
 刻がうなずいた。
「さあ、始めるよ」
 ナギは、夜空に向かって両手をあげた。
 夜空の一角が、かさぶたがはげるように裂ける。裂けた空間からうめき声が聞こえてくる。
 書、正法念処経によると神通と呼ばれ餓鬼は、人から騙し取った財産を、悪友に与えたものが死後に成ると記してある。苦痛を感じることはないが、他の餓鬼の苦悶のざまをいつも見ていなければならないという。
 餓鬼‘食毒’は、他人を毒殺して財産を奪った人間が、死後転じて、この食毒という餓鬼になるという。食毒は、毒が満ちている険しい山にしか住めない。この山には、夏は火が降り注ぎ、冬になれば、氷でできた刀が降るという。
 疾行は、墓場を荒らしまわるという餓鬼である。鉄よりも固い身体を持ち、腹に大きな口がある。
「極異界と現世界との繋ぐ道はここに大きく開いた。いでよ、わが友。怨敵を懲らしめるために、極異界から出てきて、戦え!」
 裂けたと空から、餓鬼たちが貌を覗かせ、次々と現世に降りてきた。


                       = 第六十二回へ続く =

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お買い求めてくださいね。 あまり売れていないようです……。とほほほのほー

   sinn ニャンタ




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