自作小説

餓鬼狩り (第六十四回)

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                      餓鬼狩り   (第六十四回)


《一度、隣の室(へや)に撤退してください》
 呂騎が、メディカルセンターにいる組織AHOの職員全員にテレパシィーを送る。
 乱戦になった現状では、数が多い餓鬼群に分がある。組織AHOの職員たちは強力な武器で、襲ってくる餓鬼群を押し返そうとしているが、至近距離の戦闘では、まず勝ち目がない。戦闘能力が秀でている餓鬼群が次第に優位にたち、死を恐れない餓鬼の群れが、組織AHOの職員を、ひとりまたひとりと葬って行っているのであった。
「どうやって撤退する? この状況では動きがとれない」
 荻が言う。
《私の額には、那美さまから預かった生玉の勾玉と品物比礼の勾玉がはめ込まれています》
 呂騎の額に、緋色(あけいろ)の勾玉と紅梅色(こうばいしょく)の勾玉があった。
《生玉は生命力の源の勾玉、品物比礼は邪を払う勾玉……。みなさん、眼をつぶってください!》
 呂騎は、ひときわ高く宙に跳んだ。呂騎の身体が白く光る。とてもまともに見ることができない。爆発が起きたような光とは、このような状態のことを言うのだろう。事実、光り輝く呂騎の姿を見た十匹ほどの餓鬼が、一瞬で失明していた。
 呂騎が使用した品物比礼は、すべての邪を払う十種神宝である。邪悪なものは、品物比礼を身に着けた者に決して触れることはできず、触れると、光を発して、そこから溶け出してしまうのである。
 呂騎は、品物比礼のこの力を応用し、自らの身体を光らせることで、餓鬼群を戦意を、一瞬で喪失させたのだった。
 ただ、品物比礼のこの応用の仕方は、生命力の源である生玉の力を借りなければ使うことができない。生玉の力を借りずにこの力を使うと、餌非一派である呂騎も多大なダメージを負うことになる。餌非一派である呂騎も蒜壷一族に違いないのだから……。
《さあ、早く隣の室へ》
 呂騎は、荻をはじめとする組織AHOの職員を隣の室へ退去させた。

 二百の数を数える餓鬼群を、極異界から地上に降ろし、組織AHOの研究施設を大混乱に陥れたナギは、同じ蒜壷一族である琥耶姫、刻とともに組織AHOの研究施設地下一階にたどり着いていた。
「ナギサマ、ワタシ、モトノスガタニモドル」
 と、刻が言う。
「そうだな、もうその姿でいる必要はない」
 ナギが微笑んだ。
 刻の本来の姿は隻眼の鴉の蒜壷である。刻は琥耶姫が生成する化瑠魂を使って、幼い少女に化身していたのだが、その必要はもうない。本来の姿に戻った方が、おのれの能力を最大限に生かせるのである。
 刻が人間の姿に化身するために使った化瑠魂とは、蒜壷一族の癒士琥耶姫が生成する赤い玉の劇薬である。蒜壷一族の中には、伽羅や雁黄のように自分の意志で人間に化身できる蒜壷もいるが、琥耶姫や刻のように、自分の意志だけでは人間の姿に化身できない蒜壷もいる。蒜壷一族の癒士である琥耶姫は、長い年月をかけ、人間に化身できない蒜壷も人間に化身できる劇薬‘化瑠魂’を造りあげた。
 化瑠魂で幼い少女の姿に化身していた刻の身体から、黒い霧みたいなものが噴出した。黒い霧は、刻の身体全体を覆い、幼い少女がいずことなく消え、かわりに隻眼の鴉が現れた。
 偵察を索敵を得意とする蒜壷、刻が本来の姿に戻ったのである。
「ナギサマ、テイサツ、シテキマス」
 と、言う刻。刻は宙に羽ばたいた。
「待て、刻! ここの設備は壊れていない。無闇に動き回るとやられるぞ」
 と、ナギが言う。
 この研究施設に侵入したときからナギたちは、天井から降りてくるレーザー砲や、通気口から噴霧される神経ガス、側面の壁から突き出される鋭利な針などに悩まされてきた。組織AHOが誇るこのN島の研究施設には、侵入者から施設を守るため、様々な防御設備が施されているのである。
「透視してみる」
 ナギは両手を組んだ。ナギの瞳が怪しく光り。身体がオレンジ色に輝く。
「……この通路の五メートル先にレ―ザー砲が隠されている。数は二機。通路の左右に四つほどある通風孔にガス管が仕込まれている。恐らく神経ガスか、催涙ガス用のガス管だろう。落とし穴はなく、前方八メートル先に研究実験室に通じるドアがある。地下二階に行くためには、その室に入らなければならない」
「また、レーザー砲とガスかえ? それだけ」
 琥耶姫が言う。
「いや、研究実験室に人がいるよ」
 と、ナギが応えた。
「人? 武装したここの警備員かえ?」
「白衣を着ているから、警備員ではないな。ここの科学者どもだろな」
「科学者かぇ。非戦闘員どもじゃな」
「非戦闘員とはいえ、手に持っている武器は強力なものだ。侮ってはいけないよ」
「ナギ、R20トイウ、ロボットハ、イナイノカ?」
 刻がナギに訊ねた。
「R20? あのガラクタか。ちょっと待ってて……」
 ナギは、再び透視をした。
「いない……。R20はここにはいない」
 ナギは胸の前で、両手をクロスした。透視した後、サイコキネシスを使う気でいる。
「まずは、ここの防御設備を僕の衝撃破(サイコキネシス)で」
 ナギの放った衝撃破は、通路に仕掛けられているレーザー砲やガスの噴出設備を次々と破壊して行く。
「そこのドアから、中に入るけれど、僕から離れたらダメだよ」
「あい……」
 琥耶姫と刻が、ナギの背後に陣取った。
 ナギは、特殊な空気の膜を張った。敵の攻撃から身を守るための膜が、三人を包み込む。ナギが衝撃破で、通路と研究施設を結ぶドア開けた。室は、照明が落とされていた。コンピューターなどどの機械類のシグナルが、チカチカと点滅しているのが目に入る。低くうなるモーター音が、ナギたちの神経を逆なでる。気のせいか室の名kは湿気をおびているような感じがした。
 ナギたちが室に入ると、物陰に隠れていた科学者たちが、ナギたち目がけて、ボルト式散弾銃にも似たグロップ3Sをぶっ放した。
「やれやれ、芸がないこと……」
 特殊な空気の膜に守られたナギたちは、弾丸が飛び交う室の中を悠然と歩いてゆく。


 ナギを追って、組織AHOの研究施設に入り込んだ那美は、マルハチが生い茂る密林から、組織AHOの研究施設へ帰還した野村隊長らと遭遇していた。野村とともに風のイ、大地のヌと戦った室緒、高橋もその中にいるが、負傷した村中の姿は見えない。 
「呂騎は?」
 野村が那美に問う。
「呂騎は、メディカル・センターに行ったわ。負傷した警備員たちを守るために……。私は、これからナギたちを追って下に向かう」
 十種神宝のうち浮遊能力を持つ足玉を使い、呂騎とともに組織AHOの研究施設の屋上に降り立った那美は、各階で群がる餓鬼群を葬りながら、ここまで来ていた。那美は、相棒である呂騎に、十種神宝のうち、生玉と品物比礼を貸し与えると、呂騎を五階のメディカルセンターに残し、一人、ナギを追って、施設の一階まで辿り地いていたのである。
「司令室からの情報によると、ナギという青年の蒜壷は、超絶サイキッカーという話しだが、どんな奴なんだ」
 と、野村が言う。
「ナギは文字どうり超絶サイキッカーよ。コンクリートの壁をも破壊する衝撃波を使い、人を意のままに動かすテレパシィーを駆使し……」
 那美が、そこまで言った時、階段に、大金槌を持った神通の群れと、黒衣の着物を着た食毒の群れが現れた。
 宿敵である那美を見つけて喜んでいるのだろうか。神通、食毒の群れは咆哮をあげている。ここに来るまで多数の仲間が那美によって殺られたことなど、何とも思っていないようだ。
「数が多いわね……。油断しないでね」
 那美が野村たちに言う。
「分かってるよ……。司令室からの情報によると、餓鬼の種は三つのはずだが……」
 現れた餓鬼群の中に、餓鬼‘疾行’の姿が見えない。
「疾行は……。ここから襲ってくる」
 那美は右側の壁に光破剣を突き刺した。壁が崩れ、崩れた壁の向こうから、光破剣に刺され、息も絶え絶えになった疾行が現れた。現れた疾行は蒸気を発して溶け出した。


                    = 第六十五回に続く =





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