自作小説

餓鬼狩り (第六十六回)

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                      餓鬼狩り   (第六十六回)



 ナギは、琥耶姫、刻とともに地下二階にたどり着いていた。ドアを開け、伽羅が囚われているはずの室内に足を運び入れる。
 なにに使われるか見当もつかな機材と、硬質プラスチックケースにしまいこまれた数十本の試験管が目に入る。なだらかな曲線で,ふちを模ったデスクの上には、地下三階に設置されているホストコンピューターに接続されているパソコンが、十台ほど置かれていた。パソコンのモニターには2次元DNAナノ構造体と、3次元DNAナノ構造体の映像が映し出されている。
 琥耶姫が言う。
「ナギさま、これは一体何なのじゃ?」
 その映像は、極異界に棲み、人を食するときだけ現界にくる琥耶姫には、わかるはずのない映像だった。
「DNAのナノ構造体……。大方、伽羅の細胞からゲノム情報を取り出し、僕たちの身体の秘密を解明しようとしているんだろうよ」
 ナギがパソコンのモニターを指で弾いた。
「ゲノム情報!? なんじゃ、ゲノム情報とは?」
「ゲノム情報というのはね。生物の身体を造りあげるために必要な遺伝子一セットのことだ」
「遺伝子? 遺伝子とはなんじゃ? ナギさまが何を言っているのか、ちぃーともわからん?」
 琥耶姫は頭を二度、三度、大きく振った。
「分からないかい? 刻、君は?」
「ワタシニモ、ワカラナイ。イデンシトハ、タベモノカ?、ソレトモ、ノムモノカ?」
 カラスの蒜壺、刻がとんちんかんな受け答えをする。
「そのどちらでもないよ」
 ナギは、噴出しそうになった。
「ジャア、ナンダ?」
 と、刻。
「なんだと言われてもねえ。僕があれこれ説明しても、二人には理解できないかもしれないし……」
 平安時代に生を受けた琥耶姫と刻。本能のおもむくままに人を殺し、その肉を食してきた二人の蒜壷に最先端の生物化学の話をしたところで始まらない。混乱するだけだ。
「そこの二人に、わしから説明をしてやるかね」
 唐突にドアを開け、ナギたちがいる室内に入ってきた男がいた。
 ナギ、琥耶姫、隻眼のカラス刻が、反射的に振り向く。ナギが怖い顔をして、その男を睨み付けた。
 男はよれよれの白衣を着ていた。服装に無頓着なのだろう。白衣はところどころに黄色い染みがあり、ズボンには大小合わせて四つのほころびがあった。
「怖いなあ~那美と瓜二つの顔をして、そんな怖い顔をしないでおくれよ」
 男はナギたちから目を逸らした。
「誰だ? おまえは」
 ナギが誰何する。
「わし? わしはこの研究施設の責任者だよ」
 関川という初老の男は後ずさった。琥耶姫、刻、ナギを目の前にしておののいているのだろう。左手の指が小刻みに震えている。
「逃げずに、ここに留まっているとはな」
 と、ナギが言うと、琥耶姫が、赤い舌をチロチロ出しながら、
「命がほしくないと見える。早速、わらわの胃の中に収めようかや」
 という。
「ハラヘッタ。オレ、コイツ、クウ」
 琥耶姫の肩に止まっていた隻眼のカラス刻が、羽をばたつかせた。
「まあ、待て。殺されるかもしれないのにここに留まっていたのにはなぜだ? それなりの理由があるんだろう。なぜ、ここにいた? 僕たちがここに来ることは分かっていたはずだろう」
 ナギが、関川を再び睨みつけた。
「わしは……」
 伽羅の細胞組織を調べて、蒜壺一族の体の秘密を探っていた関川は、蒜壺一族からも直接身体のことを聞きたかった。自分たちの体のことだ。くわしいことは聞けないかもしれないが、秘密の一部を探り出す発端になるかもしれない。
 他の蒜壺一族の細胞も欲しい。複数の蒜壺一族の細胞が手に入れば、解明できない蒜壺の謎に、一筋の光明がさすかもしれない。
「そこに横たわっている伽羅を調べて、何が解った? 徹底的に調べたんだろう」
 ナギが、硬質ガラスの向こう側、寝台の上に横たわる伽羅を見ながら言った。
「ああっ、最先端の科学で調べるだけ調べた」
 関川がそう答える。
「それで、何が解った?」
「なにもわからんさ。細胞の一つ一つを徹底的に調べたんだがね……」
 伽羅の身体を調べた関川たちが、一番気になっているおのは、右胸の脳細胞と酷似している器官だった。。関川をはじめとするAHOの研究者たちは、この器官の謎を解き明かすことができれば、あるいは蒜壺の体の秘密が解き明かされることができるかもしれないと考えていた。
 が、調べれば、調べるほど、謎は深まるばかり。
「僕たちの体の秘密を調べて何が知りたい?」
 と、ナギがいう。
「すべてだ。なぜ、君らは怪物から人間体に化身できる? 猛獣をしのぐ筋肉と運動神経は、どうやって培われた? 超能力としか思えない様々な力はどこから来る?」
 関川の探求心は、富や名声欲にかられたものではない。真理を求める科学者としてのそれだ。その思いが関川をここに留どませているのだろう。
 熱弁をふるう関川は、おそれを知らない男に変身しているかのようだった。
「それを知りたいために、危険を冒してここに残ったわけだろう」
「そうだ。君らは知っているんじゃあないのかね。蒜壺の体の秘密を」
「知っていると言ったら?」
「た、頼む、教えてくれっ。このとおりだ」
 関川は、ナギたちに頭を下げた。
「くっくっくっ……」
 ナギが不敵にも笑った。
「なにがおかしい……」
 関川が、ナギに不審の目を向ける。
「おかしいよ。僕らが敵である君らに蒜壺の体の秘密を教えるとでも思うのかい? たとえ知っていても教えるわけないだろう」
「知っているのか! 」
「知っていても教えるわけにはいかないと言っているだろう。それよりも、伽羅の体を徹底的に調べ上げたんだろう。そのデーター、こっちに渡してくれないか」
「渡すわけにはいかん。あれは貴重なデーターだ」
「蒜壺一族のみ攻撃するウイルスを作るためにか?」
「なぜ、そのことを?」
「そんなこと、誰に聞くまでもない。あんたら人間の性(さが)は、僕らが一番わかっている。だってあんたらは、僕らの食べ物だからね」
 ナギは琥耶姫に目配せを送った。琥耶姫が関川の後方に回り、彼を羽交い絞めにした。
「命だけは助けてやるよ。あんたのその勇気に免じて……」
 ナギは、そういうと硬質ガラスを睨みつけた。ナギの瞳がオレンジ色に輝く。ナギは腕を交差させた。硬質ガラスにひびが入る。
「念動力か……」
 琥耶姫に羽交い絞めにされている関川が呟く。
 硬質ガラスが、痛烈な破壊音とともに崩れ去った。

          
                 = 第六十七回に続く =
  
PS、 忙しさにかまけて、前回から一か月以上,空けてしまって、どうもすいません。待っていた人、ありがとうございます。

 
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