FC2ブログ

自作小説

餓鬼狩り (第七十回)

 ←餓鬼狩り (第六十九回) →心に翼を、希望を胸に! ~あらすじ
                       餓鬼狩り   (第七十回)


 喪間の身体に異変が起こった。ぜいぜいと苦しげな息を吐き、瞳孔から血が噴き出す。
「おめえら……。この俺に何をした」
 喪間が両手で顔を覆い、よろよろとよろめいた。足を絡めて膝をついた。喪間の身体から、黒い獣毛が一気に抜け落ち、獣毛が抜け落ちたからし色の肌に、無数の小さな亀裂入った。断末魔の悲鳴を上げた喪間の身体が、内側から弾け飛ぶ。
「おおおっ……。なんていうことを……」
 オババは、那美とナギの尋常でない力に慄いた。
 蒜壺と人の間に生まれた那美とナギは、強力なサイコキネシスを持っていた。一人一人のサイコキネシスは、まだそう強くはないが、二人の力が合わさると巨大な力を発揮する。
「やったね、姉さん」
 ナギが言った。
「ええっ……」
 那美は目を伏せた。
 地を這う蟻一匹殺したことがない那美にとって、激情にまかせたといえ、生き物をこの手で葬った所業は、耐え難きものだった。那美の優しさが、おのれの心を締め付けた。
 ナギが得意になって、言う。
「おいらと、姉さんが力を合わせれば、どんな奴がここに来たってまけやしないよ」
「あたい……。もう、こんなことはしたくはないわ」
 那美が首を振った。
「なんで? なんでだよ姉さん。さっちゃんの仇をとれただろう」
「さっちゃんの仇はとれたけど……。生きているものを殺すのはよくないことだわ」
「なに言ってんだよ。こいつは、さっちやんを殺したんだよ。おいらたちの大好きなさっちゃんを」
「だからといって殺してしまったら……」
「こいつを殺さなければ、犠牲者が増えるだけだろう。また友達が殺されてもいいの」
「いいわけないじゃあない」
「だったら、おいらたちで蒜壺をやっつけてしまおうよ。この力を使ってさ」
「この力を使って、蒜壺を殺すの?」
「ああっ」
「あたい……」
 那美は、サイコキネシスを使うたびに、嫌悪感を感じ始めていた。
 初めは、ちよっとした悪戯だった。同じ年頃の友達を驚かせるためにこの力を使っていた。小石を手を使わずに宙に浮かせて、投げてみたり、村にある溜め池の水を噴水のように噴出させては、面白がっていた。友達は、那美の不思議な力に目を丸くして驚き、はしゃいでくれた。が、大人はそうでなかった。那美が得意げにサイコキネシスを使うたびに、嫌なものを見るような目で那美を見るようになっていった。
「あたい……。この力……。もう使いたくないわ」
「なんでだよ、姉さん。この力があれば蒜壺一族なんて……」
「本当に、蒜壺一族と戦うつもりなの?」
「ああっ、戦ってやるよ。だから姉さんも……」
 ナギは、本気で蒜壺一族と戦うつもりなのだろうか。蒜壺一族は人知を超えた能力を持つ者が大勢いると聞く。大岩を軽く持ち上げる豪の者もいれば、毒霧を撒き散らす者、剣を巧みに操る者もいれば、人の心をたぶらかし、自由自在に人を動かす者もいると聞く。そんな能力を持つ怪物相手に、たかが十歳の子供が立ち向かえるとでも思っているのだろうか?
 いいや、戦えやしない。
 十歳の那美とナギは、たやすく蒜壺の餌食になるだろう。
「ナギ、あたいもそうだけれど……。あたいたちの力はそんなに強くないのよ」
 この時の、那美とナギの力は、まだまだ不安定で、とるに足らないものだった。喪間を倒せたのは、幸運以外の何物でもない。
「だから、姉さんとおいらが力を合わせて戦えば……」
「蒜壺を倒せるというの? 蒜壺は一人じゃあないのよ。喪間の場合、たまたま二人の力が一つの大きな力になって、喪間を倒せたけど、今度、うまくゆくとは限らないわ」 
「那美の言うとおりだ。蒜壺の者と戦うなんて、馬鹿な考えをおこすんじゃあない。勝てると思っているのか? 喪間は力自慢の蒜壺。ただの使い走りに過ぎやしないのだぞ。使い走りの一人や二人を倒したところで、蒜壺一族に勝てると思っているのかい。……蒜壺の血が半分、流れているおまえたちは蒜壺の下に帰った方がいい」
 と、オババが言う。
「オババは、蒜壺のもとに帰れって言うのか」
 ナギは悲しそうな瞳をオババに向けた。
「洪暫との約束を果たすだけじゃ」
 オババは目をつぶった。
 現蒜壺の当主洪暫は、兄である前当主千寿を殺した時、千寿の子供たちである那美とナギを、その手で殺そうとした。その場にいたオババは、自分が責任をもって育て上げるから、命を奪わないでくれと洪暫に嘆願したのであった。
 年月が流れ、那美とナギは蒜壺一族特有の力を発揮するようになった。姿かたちは人間そのものだが、那美とナギは蒜壺の血が混じった怪物なのである。
 凄まじい力を見せるようになった那美とナギ。味方になれば、日中も活動できる蒜壺として大いなる力になるが、敵になれば、これ以上の脅威はない。蒜壺一族の当主である洪暫が、二人を放っとくわけがなかった。
「いまは、まだいい……。じゃがな、歳を重ね、おまえたちが成年になった時、村人はおまえらをどんな目でみると思う? 不思議な力を持つ現神人(あらがみびと)として、崇められるとでも思っているのかい?」
 オババは、目をつぶりながら言い続けた。
「いいや、おまえたちは人に疎外されるようになるか、利用されるだけ利用される存在になるだろうて」
「おいらたちが、疎外される!?  利用されるだけ利用されるって……」
「ああっ、人とはそういうものじゃて……。うわべでは仲良く付き合っているようでも、自分に持っていないものを持つ者を妬み、嫉妬して、やがては憎むようになる。おまえたちの力は、人がどんなに努力しても得られる力ではないのだからのう」
「村の人たちが、おいらたちを憎むようになるっていうのかい? そんなこと信じられるか」
 ナギは拳を握りしめた。
 善良で、いつも笑顔を絶やさない村の人たちが、那美とナギに憎しみの目を向けるようになる……。
 十歳のナギにとって、理解できることではなかった。
「あたい……。わかるような気がする」
 那美が言った。
 那美は、村道をふさぐ大岩を、サイコキネシスを使って移動させたことがあった。大岩は前日の土砂降りの雨で、崖から道に落ちてきたものだった。男二人が大岩を村道から退かそうと、必死になっていたが、大岩はびくともしない。見かねた那美が、サイコキネシスで大岩を退かすと、二人の男は、那美に悪態をついたのだった。
「ふん、化け物が……。よけいなことをしやがって」
 男たちは、那美に一瞥を送ると、肩を怒らして去っていった。
 那美には、普段優しい男たちが、なぜ怒ったのか理解できなかった。那美の使ったサイコキネシスが、力自慢の男たちのプライドを傷つけたとは、思ってもみなかった……。
「オババは蒜壺の下に帰れというけれど、姉さん……。姉さんは、蒜壺と一緒に暮らせるかい?」
 ナギが言う。
「おいらは嫌だね。たとえ、おいらの体の中に蒜壺の血が半分流れていようと、人としてここで生きる」
「いいや、おまえたちは、人としてここでは生きられない。おまえたち二人が人として生きてゆこうとしても、村人はお、あえたちを必ず憎むようになる」
「だから、なんで村の人たちがおいらたちを憎むようになるんだよう。おいらにはわからねえや」
 ナギは頭を振った。
「ナギよ。おまえたちを迎えに蒜壺の者が、またここにやってくる。やってきた蒜壺の者は村人を襲い、人肉を食らうだろう。おまえたちがここにいる限り、その悲劇はくりかえされるのだよ」
「蒜壺が村人を襲う前に、やっつければいいじゃあないか」
「村人を襲う前に、やっつける? そんなことができると思っているのかい?」
「やっつけるさ。姉さん、二人で戦おうよ。力なんか使わないなんて言わないでさ」
 ナギが那美の肩を揺すった。
「あたいは、もうこの力を使いたくないの」
「じゃあ、おいら一人で蒜壺と戦えっていうのかい」
「そんなこと言ってない……」
「戦わず、蒜壺の下に帰れっていうことは、人の肉を食えっていうことだよ。村の人たちを敵に回す気かい」
「村の人たちを敵にまわすなんて……」
「だろう。じゃあおいらと一緒に……」
 ナギは那美の手を握りしめた。
「ナギ、わがまま言わずに蒜壺の下に帰れ。次の使者が来たら、一緒に蒜壺の下に帰れ。でないと、また犠牲者が出る」
 オババが言う。
「だから、犠牲者を出さないように……」
 ナギは、オババの言うことを聞き入れなかった。
「わからぬのか!」
 オババは、化身を解き、大蛇の蒜壺になった。
「わしも蒜壺と人の間に生まれた者だ。おまえらと違って、蒜壺の血が濃い。それゆえ、人の肉を食べなくては狂ってしまう……」
「オババ……」
 那美は、大蛇の姿になり、悲しそうにそう言ったオババを見つめた。
「幸い、わしは他の蒜壺と違って、一年に一回だけ人の肉を食うだけで済むがのう……。それでも、人ともに暮らしてきたわしにとって、人の肉を食べることは辛いことだった……。人の肉を食べなくとも狂うことがないおまえら二人を、どんなに羨んだことか……」
「オババ……。オババは人の肉を食ったのか?」
 ナギが言う。
「食べなけりゃ、気が狂ってしまう」
「嘘だ! 嘘だ、嘘だっー オババが人の肉を食べただなんて……」
 ナギの心に鉄槌が打たれた。心が空洞になったナギは、そのまま外に出て行ったのであった。

 再び、組織AHO研究施設屋上にて。
「あの時のあなたは、人を愛していた。愛しているゆえに、人肉を食していたオババを許すことができなかった」
 那美が言った。
「だから、そんな昔のことを言われても困るんだよね。人を愛していた? 人肉を食べたオババを許すことができなかった? 笑わせるなよ。ちゃんちゃらおかしいぜ。姉さんは全然変わっていないな。何百年生きようとも、人間ていうものを知らない甘ちゃんだ。だから、いつかは蒜壺一族と人が、同じように平穏に暮らせる日が来るんじゃないかと、思い続けている。そんな日などいつまで待ってもきやしないのによ」
「私は……」 
 那美は、ナギを睨みつけた。
〈那美さまは、蒜壺一族にかけられている呪いを解こうとしているのです。人肉を食さなければ狂うという呪いを。人の肉を食さなければ、蒜壺とて、人を襲わないはず〉
 呂騎がテレパシーをナギに送った。
「蒜壺一族生誕よりかけられている呪いを解く? どうやって?」
 と、ナギが言う。
 もし、那美が所有する十種神宝に、その力があれば、那美はどんな犠牲を払ってでも、蒜壺にかけられたその呪いを解いたであろう。那美は十種神宝をつかうたびにそう思い、蒜壺の者を狩っていた。
「姉さん、人の肉を食べてみて、わかったことがあるよ。人の肉っておいしいよ。僕は毎日でも食べれるね」
「ナギ、あなたっていう人は!」
 那美は、光破剣を構えなおした。


                   = 第七十一回に続く =


にほんブログ村


PS、ただいま第三十一回 釜石市民劇場
「てんやわんや ケアハウス ~心に翼を、希望を胸に」では、
キャスト,スタッフ大募集中です。みなさん、よろしくお願いします!!

(お問い合わせ)
    市生涯学習文化スポーツ課芸術・文化係 (0193)22-8835
    市民劇場実行委員事務局 高橋      (090)2790-9252


スポンサーサイト


もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png 自作小説
もくじ  3kaku_s_L.png 市民劇場 裏話
もくじ  3kaku_s_L.png 命の輝き
もくじ  3kaku_s_L.png 映画鑑賞記
  • 【餓鬼狩り (第六十九回)】へ
  • 【心に翼を、希望を胸に! ~あらすじ】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【餓鬼狩り (第六十九回)】へ
  • 【心に翼を、希望を胸に! ~あらすじ】へ