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自作小説

餓鬼狩り 第二部(第一回)

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                    餓鬼狩り   第二部(第一回)

 東京から、南南東に一千キロ。太平洋上にある三十余りの島からなる小笠原諸島は、ほとんどが無人島である。人々が居住している島は、父島、母島、硫黄島、南鳥島、に限られ、そのうち民間人が住む島は、父島、母島だけである。硫黄島、南鳥島には自衛隊などの公務員が居住しているという。
 小笠原諸島に点在する島のひとつであるN島には、組織AHOの研究施設があり、組織AHOの科学者たちや、戦闘部門の人員が常時滞在しているが、公には人跡未踏の無人島として認識されている。ここに組織AHOの研究施設があるというデーターは、一部の人間だけが閲覧でき、ここで何が研究され、ここで何がおこなわれているか、知るものは数少ないのである。
 その組織AHOの研究施設があるN島にも、人々の気持ち清新な気持ちにさせる大自然のいとなみがあった。清らかな小川の流れがそうであり、暖かな微風がそうであり、小鳥たちの鳴き声がそうである。
 那美と呂騎は、超絶サイキッカーであるナギとの戦いの後、組織AHO研究施設の医療休憩室で休んでいた。休憩室の窓から垣間見るN島の風景は、大自然のやさしさにあふれている。大地の息吹が、ここからでも感じられる。 
《那美さま……。私がいたらぬせいで、ナギに……》
 呂騎は、ナギに十種神宝のうち三つの十種神宝、奥津鏡、道反玉、死反玉を奪われたことを悔やんでいた。
《あのとき、那美さまが、品物比礼を身に着けていれば、ナギの衝撃破などかわせたものを……》
 那美は、呂騎に十種神宝のうち、すべての邪を払うといわれる品物比礼を貸し与えていた。あの激しい戦闘の中で、呂騎が大怪我を負わなかったのは、品物比礼のおかげであるといえるだろう。
「自分を責めないで……。たとえ、私が品物比礼を持っていたとしても、ナギの衝撃破はかわせなかったと思うわ」
 那美は、人に化身したままの姿で逝きたいと願った琥耶姫の最後の言葉を受け取り、琥耶姫を葬った。その一瞬の隙をつかれ、ナギの衝撃破をくらったのだった。
《那美さま……。あの時、なぜ、琥耶姫は自分を犠牲にしてまで、ナギを助けたのでしょうね?》
 呂騎が言う。
 醜い争いを好み、時には、人間のように相手をだましたりする蒜壺一族。相手を心から思いやるような愛情などは、皆無に等しい。その蒜壺一族の一人、琥耶姫が、なにゆえに身を挺して、ナギを守ったのだろうか。
「呂騎は、琥耶姫が、なぜ、ナギを助けたと思うの?」
《私には……》
 呂騎は、視線を下に落とした。
「私は、琥耶姫の気持ちがわかるような気がするわ」
 那美が、呂騎の頭を撫でた。
「琥耶姫は、ねえ。人間に憧れていたのよ」
《蒜壺の者が、人に憧れたのですか? 蒜壺の者にとって、人とは餌に過ぎないはず》
「蒜壺一族な中でも穏健派である餌非一派のあなたも、人は蒜壺の餌に過ぎないと思っているの?」
《めっそうな……。私は、人を餌だなんて、一度だって思ったことはありません。しかし……》
 蒜壺一族は、人肉を食べなければ、八日後には狂って死んでしまうという。その呪いの習性のために餌非一派も、人肉を食しなければならなかった。
 餌非一派である呂騎は、那美のおかげで、人肉を食しなくても生きることができる。が、つねに那美が呂騎のそばにいなければ、呂騎もまた気が狂うという恐怖に耐えかねて人肉を食したろう。
「琥耶姫は、化瑠魂を途方もない歳月をかけて作ったのよ。人間体に化身できる化瑠魂をね」
 那美は、琥耶姫の最後の言葉を、心の中で反芻した。
 きれいなままで死にたい……。トカゲ顔の醜い姿で死にとうない。
 蒜壺一族でありながら、人間体の姿であった琥耶姫の父と母。いつまでも若々しく、美しい父と母は、琥耶姫の憧れだった。
 琥耶姫は、いつも呻吟していた。
 なぜ、わらわはこんなにも醜いのじゃ。なぜ、母と父のように美しい姿じゃないのじゃ。人は……。人は美しいのう……。わらわも、あんな姿になりたい……。女で生まれたからには、きれいになりたい。
 琥耶姫の、憧れは、那美と同じ容姿を持つナギに向けられてもおかしくはなかった。男でありながら、女と見間違えるナギの美しい容姿は、琥耶姫の心を揺さぶった。
(琥耶姫……。もし、生まれ変われることができるのなら、人として生まれてきて……。女として、もう一度)
 那美のまつげが揺れた。
 呂騎が言う。
《神は、なぜ、蒜壺一族に人肉を食さなければ、八日後には気がくるって死んでしまうという業を与えたんでしょうね。それさなければ、蒜壺一族と人は、仲良くやっていけたかもしれないのに……》
 那美は、呂騎の言葉に無言で答えた。
 人と蒜壺一族の間に生まれた那美は、人の里で暮らしたこともあって、人の優しさも知っていたが、人の愚かさ、醜さも知っている。時として、蒜壺一族以上の残虐さをみせる人と、強さを競い、争いを好む蒜壺一族は、はたして仲良くやっていけるのだろうか?
「呂騎、そこに横になって」
 那美が、呂騎に休むように促した。
《生玉の御業を使うのですか?》
 呂騎が言う。
「ええっ、そろそろやっておかないと……」
 那美は、呂騎から頭のプロテクターと胴のプロテクターを外してやった。懐から生玉の勾玉を取り出す。
 呂騎も、また蒜壺一族である。生玉の力を借りなければ、人肉を食する恐怖からは逃れられない。生玉の力によって、呂騎は人肉を食しなくても、狂うことなく生きてゆけるのだ。
「慈愛の御業をいまここに」
 緋色の勾玉が七色に輝きだす。呂騎は七色の光に身をゆだねた。呂騎の体毛が金色になった。心臓音が高鳴り、呂騎は苦しそうにぜいぜいとあえいだ。が、苦しそうにしたのはほんの一時だった。生玉の七色の光に優しく包み込まれた呂騎は、静かに目を閉じ、安らかな寝息をたてたのだった。 
 眠る呂騎の傍らで、那美は、ナギとの戦いを振り返っていた。
 光双剣や、衝撃破、テレキネシスで、那美を苦しめたナギ。ナギは、那美もまた瞬間移動を駆使できると思ったようだった。が、那美には瞬間移動などという能力はない。敵の居場所突き止める奥津鏡と、吹きすさぶ風のように移動できる足玉の力を最大にして、ナギの瞬間移動先を突き止め、瞬時に移動したのであった。
(奥津鏡を、ナギに奪われたしまったいま……)
 那美に不安の波が襲い掛かる。
 足玉は、手元にあるが、奥津鏡は敵におちた。光速に移動はできるが、瞬時に敵の居場所を突き止めることはできない。敵の移動先を突き止める奥津鏡がなけりゃあ、足玉の力を最大限にしても、ナギには追い付けないのである。
(いや、それよりも……。父、千寿が絶対、敵に奪われてはいけないと言われていた勾玉、死反玉を、ナギに奪われてしまった)
 一度、死んだものを再び蘇えさせることができるという死反玉。死反玉は、本当に一度、死んだものをこの世に、蘇えさせることができるのだろうか?
 蒜壺一族の現当主、洪暫は、死反玉の使い方を、おそらく知っているだろう。
 洪暫は、どのように死反玉を使うであろうか?
 那美は、両手で顔を覆った。

           
                = 第二部 第二回へ続く =

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