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自作小説

餓鬼狩り 第二部 (第二回)

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                   餓鬼狩り  第二部(第二回)

 医療休憩室の天井に設置されている、三つの円形上のLEDライトは、穏やかな光を演出していた。
 穏やかな光は、傍らに置かれてある、聴診器、血圧計などの観察用器材や、人工呼吸器、自動式体外除細動器などの無機質な機器にもやわらかい温もりをあたえているかのようでもあった。
 空調設備も行き届いている。排気口から排出されたプラズマイオンは、同時に排出された低濃度オゾンと結合して、空気中の浮遊ウイルスなどを効率的に除去しているようだし、森林浴を思わせる清浄な空気には、自律神経に作用し、精神の安定を保つ、テンペン類などの炭化水素化合物が混入されているようだった。
 那美は、電動アシスト付きの医療用ベッドの上に腰かけていた。穏やかな光と、清浄な空気が、ベッドの上の那美と、那美の足元で眠っている呂騎を、優しく包み込む。 ひと時の安らかな空間がそこにあった。
 度重なる戦いで疲れたのか、それとも、十種神宝のうち三つの神宝を、ナギに奪われた心労なのだろうか、那美は、まどろんだ。まどろみながら、夢を見た。夢の中での那美は十歳だった。
 あの時、洪暫は、オババとともに、人里で暮らす幼い那美とナギを、極異界に連れ戻すため、喪間という熊の蒜壺を、使者として送りつけてきた。那美とナギは、オババによって禁じられていた能力を使って、喪間を、なんとか撃退することができたが、次の使者も、同じように撃退できるとは限らない。洪暫は、屈強な力を持つ蒜壺で知られる熊の喪間を倒した那美とナギの力に、脅威を感じ、喪間以上の蒜壺を、那美とナギが、暮らすあばら家によこすだろう。
 洪暫、いや蒜壺一族にとって、想像以上の力を持つ那美とナギは、恐れであり、もし、蒜壺側に取り込んでしまえば、一族に一筋の光明をもたらす希望かもしれない。
 オババは、蒜壺一族であったが、オババもまた蒜壺と人間の間に生まれた者であった。那美たちと同じように、太陽の下でも普通に暮らせることができた。陽の光の下でも生きることができたから、人の中に混じり、暮らしてきた。人と暮らし、人の情を知った。蒜壺一族ゆえに、人肉を食する宿命から逃れることはできないが、それでも人を愛する喜びを知っていた。
 オババは、那美とナギにも、人を愛する喜び、人から愛される喜びを知ってほしかった。
 喪間を葬った日から、数えて、十三日後、オババは、那美一人を連れて、オババしか知らない人里離れた洞窟に向かった。
「ねえ、なぜ、ナギは一緒じゃあないの?」
 道中で、那美が、オババに聞いた。
「あやつは、自分の力を過信している」
「過信ってなあに?」
 十歳の那美が、質問する。
「確かな自信がないくせに、おのれが、一番強いと思うことじゃよ。強さに溺れる奴は、やがて優しさを忘れる。優しさを忘れた奴は、弱いもの見下すのじゃ」
「弱いものを、見下すの?」
「そうじゃ、まだまだ尻の青いガキのくせに、尊大にふるまうようになる。おのれが一番偉いと思い込み、人の心を平気で踏みにじる……。腹が減れば、うちに帰ってくるような未熟者のくせにな」
 喪間を始末した後、一時、あばら家から出て行ったナギだったが、空腹に耐えかねて、すぐに、あばら家に帰ってきた。黙々と飯をたいあげるナギを見て、オババと那美は、ひとまず安心した。が、胸をなでおろしたのは、その晩だけだった。
 翌日から、ナギは、異常ともいえる行動を行うようになった。
 村人との交わりを避け、野や山を駆け巡り、おのれの体を苛め抜き、体を鍛え上げた。滝に打たれ座禅を組み、精神修行に明け暮れた。そして、陰で、人肉を食しているオババを軽蔑し、自分と同じような能力を持つ那美を、敵視するようになった。
 この力があれば、蒜壺一族など恐れることはない。この力があれば、人の上に君臨できるではないか。
 なのに、なぜ……。姉さんは、この力を誇示しないのだ。なぜ、この力を恐れる、人の感情などどうでもいいのではないのか?
 那美と同様、幼いナギは、人前でおのれの超能力を使った時、恐怖のまなざしを向けられた時があった。。姉である那美は、相手の心情を思いやり、反省したが、ナギは違った。 ナギは、優越感を感じた。優越感は、人に対する下げ済みになり、ナギは次第に、人とは無能で愚かなものと思うようになっていった。
 僕は、選ばれた者。この地上さえも支配できる神のような存在……。
 「人が、神になれるわけなかろう。まして、人と蒜壺の間に生まれたバケモノが、神をきどるなんて……」
 オババが、ため息交じりに言った。
 鬱蒼とした森の中を、歩き回った那美とオババは、水しぶきをあげる大きな滝の前に立っていた。
「わしらが目指す洞窟は、この滝の中にある」
 オババが指さした。
「おいで、こちらから……。水には濡れたくはないだろう」
 オババは、藪をかき分けて、那美を洞窟の入り口に誘った。
 入り口は、大人が一人、やっと通れるくらいの大きさだった。洞窟の中は、案外広く、二、三分歩くと、広さ十平メートルほどの広間に出た。オババは、持ってきた火打石を取り出して、ヘリの部分に置かれてあったロウソクに火を点けた。ロウソクを手に取り、さらに奥に、那美を誘った。しばらく歩くと、洞窟の中にも、小さな滝があった。滝の前に、高さ一メートルほどの円形の岩盤があり、岩盤の上は平らで水平だった。上に、若草色の香り袋が置かれてある。オババは、ロウソクを窪んだ個所に置き、若草色の香り袋を、手に取った。香り袋から勾玉を取り出し、それを那美に見せた。
「わっー きれいね」
 那美は、無邪気に微笑んだ。
 鴇色、空色、緋色、紅緑色、青藤色、白緑、紅梅色、藍鼠色、藤色、鳥子の色、それらの十の勾玉を、岩盤の上に置いたオババは、目をかっーと開いた。
「那美、これから話すことをよく聞いておいてくれ。おまえが、蒜壺と人を結ぶ、鍵になるかもしれぬのでな」
「人と蒜壺が、仲良くできるの?」
 幼い那美にとって、喪間のような蒜壺が人と仲良くできるんどとは、思えなかった。
「蒜壺一族が、人を餌だと思っているうちは、それはかなわぬことだろう。蒜壺に人肉を食さなければ、気がくるってしまうという呪いがかけられているうちは、人と蒜壺は仲良くできぬ」
 オババは、目を伏せた。
「ここにある十の勾玉は、お前の父、千寿が、鬼部(もものべ)一族から奪った十種神宝というものじゃ」
 千寿は、那美とナギが、まだ嬰児の時に、弟である洪暫に命を絶たれてしまっていた。千寿が鬼部一族から十種神宝を奪ったのは、那美とナギが生まれる前のことだった。
「千寿が、なぜ、地獄界に行き、鬼部一族から十種神宝を奪ったと思う?」
「なぜって……」
 那美は、父のことを知らない。竜の蒜壺だったとオババから聞いてはいたが、想像もつかなかった。
「蒜壺一族には、ある言い伝えがあった。十種神宝には、蒜壺一族にかけられた呪い、人肉を食さなければ、気が狂ってしまうという忌まわしい呪いを解くといういい伝えが。だから、千寿は、二度と帰ってこれないかもしれないという危険を顧みずに、地獄界に行き、鬼部一族から十種神宝を奪ったのじゃ。だがな、那美。よくお聞き。千寿には、十種神宝の秘密を解くことができなかったのじゃ。それぞれの十種神宝の力は解くことができたが、どうしても蒜壺一族にかけられた呪いを解く方法を、発見できなかった……」
 千寿は、人の娘を愛し、娘との間に、那美とナギの赤子を授かった。この双子の赤子のためにも、千寿は蒜壺一族にかけられた呪いを解こうとしたのだが……。
「千寿は、わしにこれを託した。那美とナギが十五の歳になったとき、十種神宝を与えよと」
 オババは、鴇色の勾玉を宙に抛った。鴇色の勾玉は、宙で、八握剣というものなった。八握剣……。後年、那美が光破剣と呼んで使う剣である。
 オババは、八握剣をとった。
「この剣は、己の中の怒り、憎しみ、妬みなどを浄化させ、その浄化の気で、敵を斬る剣じゃ」
 オババは、八握剣を、そう説明した。
「怒りや、憎しみを浄化させるの?」
「そうじゃ。怒りや憎しみは、災いをもたらす。たとえ、それが邪悪なもの対しての正しい怒りでもな……」
 オババ、そういうと、八握剣をもとの勾玉に戻した。緋色の勾玉を手に取り、それを宙に抛る。緋色の勾玉は、宙で生玉という十種神宝になった。オババは、両手でそれを抱えた。
「この十種神宝はな、生玉と言ってな……」
 オババは、生玉を力を話したのち、品物比礼、足玉、奥津鏡、辺津鏡、道反玉、蛇比礼、蜂比礼、死反玉と、次々と、その力を、那美に話していった。
「おまえの父はな、これらの十種神宝の中に、蒜壺一族にかけられた呪いを解く鍵があると思って、必死に十種神宝を調べ上げたんじゃがな……」
 オババは、悲しそうな顔をした。
 那美とナギの父、千寿は、十種神宝の謎をすべて解き明かす前に、弟、洪暫の手によって殺させてしまった。
「ねえ、オババ。昔、蒜壺のものは、昼間でも、動くことができたんでしょう」
 那美が言った。蒜壺一族にかけられた呪いは、二つあった。蒜壺一族が、この世にあらわれたときにかけられた呪いと、千寿が、蒜壺一族にかけた呪い……。
 那美は、千寿が、蒜壺一族にかけた呪いのことを、オババに尋ねたのである。
「なぜ、いまは、おひさまの下ではうごくことができないの?」
「蒜壺のものは、陽の光の下では、長くは活動できない。陽の光を浴び続けていると溶けて行ってしまう。おまえと、ナギを守るために、千寿が、死反玉を使い、一族のものに、呪いをかけたのじゃ」
「死反玉は、呪いをかける道具なの? じゃあ、呪いをかけることができるなら、呪いを解くこともできるのじゃない? 死反玉を使って、蒜壺にかけられた、もう一つの呪い、人肉食の呪いを解くことはできないの?」
「千寿は……。千寿は、死反玉を使っていろいろ試してみた……。けれど、死反玉には、人肉を食さなければ、気が狂うという蒜壺一族にかけられた呪いを解く力はなかった」
 オババは言う。
「那美、くれぐれも言っておくが、死反玉を使うときには、気をつけてつかってくれ。いいや、できれば、使うな。ひとつ間違えれば、大変なことになる」
 オババは、空色の勾玉を掌に乗せた。那美は、宝石のような輝きを放つ、それをしばらく見つめた。
「十種神宝のすべての謎が解ける時、神が蒜壺一族にかけた呪いは消滅するのじゃ。お前の父、千寿は、解くことはできなかったが、おまえなら解くことができるかもしれん。人と蒜壺の間に生まれたおまえなら……」
「オババ……」

     
                     = 第二部(第三回)へ続く =



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