FC2ブログ

自作小説

餓鬼狩り 第二部 (第三回)

 ←餓鬼狩り 第二部 (第二回) →餓鬼狩り 第二部 (第四回)
                     餓鬼狩り  第二部 (第三回)

 オババの話は続く。
「おまえと、ナギが十五の歳になるまで、おまえたちの父、千寿に、那美とナギに、この十種神宝を授けてはいけないと戒められてきたのじゃがなあ……洪暫は、おまえらの力に気づいてしもうた。もう一刻の猶予ならぬ」
 オババは、那美の瞳を見つめた。那美は、オババを見つめ返す。
 那美の瞳は漆黒だった。漆黒の闇の中にキラキラと、宝石のような光が宿る那美の瞳は、たとえよもない美しさだった。
「ほんに、おまえはいい目をしているのう。一点の曇りもない純粋な輝きを持つ目じゃ」
 オババは、台座に置いてある十種神宝に手を置いた。
「おまえたちは、力自慢の熊の蒜壺を、その手で、葬り去った。喪間を倒したことで、洪暫は、おまえたちが途方もない力を持っていると知ってしもうた。じゃがな、まだ洪暫は、十種神宝のことは知らぬ……。いずれ、気づくと思うが、十種神宝の秘密を知ったところで、あやつに、神が蒜壺一族にかけた呪いを解くことなどできぬ」
「なぜ、叔父上には呪いをとくことができないの?」
 那美が聞いた。
「おまえの父、千寿が、命がけで解こうとして解けなかった呪いが、私利私欲の塊のような男、洪暫に、なんで解けようか?」
 洪暫は、蒜壺一族の頭目の座を奪うために、兄である千寿を、その手で殺した男である。おのれの欲のために肉親でさえ、その手にかけた。そんな男が、なにゆえ、神が蒜壺一族にかけた呪いを解くことができようか。
「那美、十種神宝の秘密がすべて解けるまで、十種神宝を使い、蒜壺一族から自分の身を守るのじゃ」
「えっ? これは、身を守る道具なの?」
「本当のところは、分からぬ……。十種神宝が、何のために生み出されたのか、誰がこのようなものを作ったのか? 本当のことは、わしにも分からぬ。じゃがな、いまは、この十種神宝が、おまえたちを守ってくれるだろう」
 幼い那美にとって、目の前に置かれた十種神宝が、どのような価値を持つものか、知る術はない。ただ、この十種神宝には、途方もない秘密が隠されていることだけは理解できた。
「これがどんなものかよくわからないけれど……。あたい、これを使って、自分と……みんなのことを守るわ」
「みんなとは?」
「村の人たち」
「そうか、そうするがよい。蒜壺のものは、おまえとナギをさらうために、再び、村にやってくるだろう。その度に村の人々が犠牲になるかもしれぬのでのう。村の人たちを犠牲にしてはならぬ。村の人たちを、その十種神宝を使って守るのじゃ」
「うん。あたい……。村の人たちを守るし、父上が解けなかった十種神宝の秘密を、必ず解いて見せるわ」
「そうか……」
 オババは、安堵のため息をついた。
 この十年……。十年の間、オババと那美、ナギの周辺には、いつも蒜壺一族の影があった。蒜壺の者は、那美たちの監視続け、那美たちをさらう機会をうかがっていた。
 オババは、蒜壺一族の現当主である洪暫に、十種神宝の秘密を、気づかれるかもしれぬという恐怖を抱えながら、那美とナギの双子の兄弟を、ここまで無事に育ててきたのであった。

 那美の、まどろみは、医療休息室に流れたアナウンスの声によって、遮られた。
 アナウンスは、那美と呂騎を呼ぶものだった。
「那美さん、呂騎くん。充分、身体を休ませることができただろう。そちらに迎えの者をよこすので、その者についてこちらに来てくれたまえ」
 その声は、五十嵐参謀のものだった。
 五十嵐参謀は、蒜壺一族と戦い続けてきた那美に多大な関心を寄せていた。五十嵐参謀が、組織AHOの本部がある警察庁の地下五階から、この小笠原諸島の中にあるN島に、わざわざ赴いたのも、蒜壺一族とともに、那美が現れるかもしれないと思ったからであった。
《那美さま……。会議とやらに参加するのですか?》
 那美の足元で、呂騎が那美に尋ねた。
「ええっ」
 那美が、短く答える。
《人と、一定の距離をおいていた那美さまが、なぜ、いまさら、人との交わりを持つのか、私にはわかりません……。また、あの時のような悲劇が……》
 かつて、那美と呂騎は、人と協力して、蒜壺一族と戦ったことがあった。那美と人間たちは協力し合い、蒜壺一族と戦ったが、人間たちは、蒜壺一族に殲滅され、那美と呂騎には深い悲しみだけが残ったのであった。
「呂騎、そんなことを言っている場合じゃあないのよ。事態は切羽詰まっているといってもいいわ」
 十種神宝の内、三つの神宝を奪われた今、過去の悲劇を嘆いて、立ち止まっていてはいけない。過去の悲劇を乗り越え、未来に向かう勇気が必要なのである。
《人を……、今一度、人を信じてみようというのですか?》
 と、呂騎が言う。
 前回、人と協力して戦った時、人間たちの中に裏切り者がいた。裏切り者のせいで、人間たちが殲滅したと言ってもよかった。
「呂騎、あんたたはどうなの? 人を信じないの?」
《私は……》
 古の昔、犬神さまとして人に崇められたことのある餌非一派の一人として、呂騎は、人間を愛していた。平気で人を裏切る人間もいれば、おのれを犠牲にして他者を救う人間もいる。そして、呂騎は後者の人間の暖かさを信じていた。
「あなたは、人を信じているでしょう。信じているからこそ、私と一緒に、戦い続けているんでしょう」
 那美は、呂騎の瞳を覗き見た。
《……私は人を信じています。人が持つ優しさを信じています》
「だったら、迷うことはないわ」
 那美が力強く言う。
「たとえ、どんな未来が待っていようとも、私たちは進むしかないの」
《はい》
 呂騎は、立ち上がった。
「那美さん、呂騎さん、向かいに参りました。準備はよろしいでしょうか?」
 来意を告げる声がインターホーンから聞こえた。
 那美は、部屋のロックを外した。


                 = 餓鬼狩り 第二部 (第四回)へ続く =




にほんブログ村

スポンサーサイト


もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png 自作小説
もくじ  3kaku_s_L.png 市民劇場 裏話
もくじ  3kaku_s_L.png 命の輝き
もくじ  3kaku_s_L.png 映画鑑賞記
  • 【餓鬼狩り 第二部 (第二回)】へ
  • 【餓鬼狩り 第二部 (第四回)】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【餓鬼狩り 第二部 (第二回)】へ
  • 【餓鬼狩り 第二部 (第四回)】へ