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自作小説

餓鬼狩り 第二部 (第四回)

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                   餓鬼狩り  第二部  (第四回)

 その会議室は、広さ三十七坪ほどだった。
 白色で統一された色調の空間の中央に、長さ十五メートルほどの楕円形の円卓が置かれ、円卓を囲むように二十脚ほどのリクライニング椅子が配置されてあった。上座には、六十インチを超す大型のモニターが、置かれており、映像が映し出されている。モニターに映し出されている映像と、円卓の上に置かれてある二十数台のパソコンのモニターの映像は同調しており、映像は、N島B-2地区で起こった組織AHO対蒜壺一族の模様を映していた。
 上座に座る大野がため息をついた。
「不快なものだな、肉体が破壊されるのを見るのは……」
「いや、わしは、もっと嫌なモノを見たことがあるよ……。口に出すのもおぞましいモノをな」
 大野の隣で、五十嵐参謀が目頭を押さえた。
「これ以上のモノをですか……」
 映像は、風のイ、大地のヌに、倒される組織AHOの隊員を映していた。
 ジェットパックを背負い、システムウエポン装備の機銃を配し、蒜壺一族と戦った組織AHOの面々だったが、風のイと大地のヌ、そして卑眼の惟三の、息のあった連携攻撃の前に、ようしゃなく倒されていった。那美の登場が、いまひとつ遅ければ、全滅していたかもしれない。
「HーAシリーズの力は、こちらの予想をはるかにうわまっている……。風のイと大地のヌは、そこにいる那美さんが倒したが、惟三の生死は確認されていない」
 と、大野が言った。大野の言葉を受けて、B-2地区に残り、惟三を追って作戦を指揮していた野村が言う。
「我々は、惟三を追い、B-2地区から、B-3、B-4、B-5と捜索しましたが、惟三の行方は分かりませんでした」
「監視カメラには、映っていなかったのかね?」
 五十嵐参謀が、大野に質問をする。
「オペレーターは、まだ惟三を見つけておりません」
「五千もの監視カメラが、なんの役にもたっていないというわけか……」
 N島全域には、五千にも及ぶ監視カメラが、張り巡らされている。五千もの監視カメラが、随時、作戦本部に、映像を送っているのである。
「くそったれ! あの野郎、今度会ったらただではおかねえ」
 下座の席で、荻隊長が憤りの声を発した。
 荻隊長は、新宿御苑での戦いを思い出していた。あの戦いの最中、食風という餓鬼の業をくらい、自分の手で部下を惨殺してしまった。荻隊長にとって、食風を呼び出した伽羅も憎いが、その場にいた惟三も、また憎かった。
「那美さん、惟三は極異界というものに帰ったのでしょうか?」
 大野が、那美に問う。
「ええっ、おそらくそうでしょう」
 那美は、短く答えた。
《私の嗅覚にも、惟三の臭いは探知されておりません。惟三は、すでにこの島から逃げ出しているでしょう》
 呂騎が、会議室にいる全員にテレパシィーを送った。
「これが、呂騎くんのテレパシィーという奴か……。頭の中に直接話しかけられるのは、なんだな……。あまり気持ちいいものではないな」
 五十嵐参謀が、軽く咳をする。言葉を、耳という聴覚器官で聞き取る人間にとって、呂騎のテレパシィーは、何度聞いても聞きなれないものだろう。呂騎のテレパシィーを、何度か聞き取っているAHOのメンバーもまた、側頭部を指で掻いたり、頬に手をあてたりしていた。
「逃げてしまった惟三のことは、後回しにして、ナギという、那美さんそっくりの男のことについて、議論を重ねたい。モニターを切り替えてくれ」
 大野の指示で、画面が切り替わった。
 画面には、研究所正面玄関にいるナギ、琥耶姫、刻の姿が映し出されていた。
「この男は、那美さんに関係ある人物ですか?」
 荻隊長の隣に陣取っている室緒が言った。
「那美と、そっくりだからか? ふん、餓鬼の中にはなあ、人に化けることが得意な奴もいるんだぜ。そいつが那美に化けていたんじゃあねえのか」
 荻隊長が、言う。
「確かに、餓鬼の中には、人に変身することができる餓鬼もいます。しかし、ここまで那美さんにそっくりなのは……」
 室緒が、戸惑いながら言った。
「そっくりだから、なんだっていうんだよ。餓鬼は餓鬼だ。それ以上のものではねえ。こいつは餓鬼さ」
「果たして、そうでしょうか? 僕にはただの餓鬼ではないような気がしますけれども……」
 組織AHOが、餓鬼として、Bシリーズとして区別したものでもなく、知能が高いAシリーズとはまた違う感触。室緒は、ナギを見たとき、那美と最初に出会った時の感触を得ていた。
「那美さん、この男は、蒜壺が化けた者かね……。それとも?」
 大野が、再び問う。
 那美は、答えない。静かに大野の顔を見つめただけだった。
 那美が、この会議室に呂騎とともに訪れた時、会議室にいる組織AHOの面々は、一斉に緊張した。いままで組織AHOとの協力を拒み続けてきた那美が、組織AHOの要請を受け入れて、同じ席に座るというのである。組織AHOが、苦戦を強いられている蒜壺一族に、単独で戦い続け、常に勝利している那美が。
 那美が静かに告げる。
「その男の正体をいう前に、私のことを皆さんに言わなければいけませんね」
「話してくれるのかね?」
 五十嵐参謀が言う。
「ある程度のことなら……」
「ある程度のことでかまわん。話してくれっ」
 大野が言った。
《那美さま、すべて話すつもりですか?》
 呂騎が、那美だけにテレパシィーを送った。那美の胸元、鳥子の色の勾玉が光った。
《すべて話す気はないわ。すべてを話したら、組織AHOが混乱するだけ。できるだけ混乱は避けたい》
 那美が、人と蒜壺との間に生まれた女性……。那美とナギが、双子であること……。その事実だけでも、組織AHOは、混乱し、那美に不信感を持ってしまうだろう。たとえ那美が、人のために蒜壺一族と戦い続けてきたといっても、組織AHOは、那美を信じようとはしないだろう。
《辺津鏡は、那美さまに、何を伝えています? 》
 呂騎が、那美に問う。
 辺津鏡は、人の深層に隠された心理までも読み取ることができる十種神宝である。辺津鏡は、那美と呂騎にとって、人の本心を伝えてくれる大切な十種神宝であった。
《警戒心……。辺津鏡は警戒心だけを伝えている》
《警戒心ですか……。ここいる人たちは、那美さまを警戒するだけで、信用しようとしないわけですね。信用しないけれど、うまく利用しようとしているだけですか……》
《信用しようとする気持ちは多少あるみたいだけれど、警戒心のほうが強い……。けど、一人だけ私を信用しようと、努力している人物がいる》
《その人物とは?》
 呂騎の問いに、那美は視線で答えた。那美の視線の先に、室緒がいた。
《室緒さんですか?》
《ええっ》
《室緒さんは、以前はI県に所属する刑事だったはず。どういう理由で組織AHOに配置換えされたのか分からないけれど、彼だけが、私に不信感を持っていない》
 那美と室緒の最初の出会いは、俄蔵山上空を飛び回る県警のヘリ“あさぎ”の機内でだった。伽羅が呼び出した身長五十メートルを超す餓鬼“食吐”と、戦い、これを撃破した那美は、あさぎに乗り込み、室緒と相まみえたのだった。
《那美さまは、彼の部下を二度救っています》
 と、呂騎が言う。
《それで、私を信頼しているというの?》
《ええっ。私には人の心を読む能力はありませんが、室緒さんが部下思いだということは、毒虫にやられた村中さんに対する接し方で分かります。あの時、室緒さんは、本当に村中さんを心配していました》
《確かに、そのようだったわね。あの時の室緒さんの顔ったら、見られたもんじゃあなかったもの》
《真っ青でした。自分が毒虫にやられたわけでもないのに……。部下の身体のことを真に心配していたのでしょう》
 自分自身の不注意で、毒虫に刺され、発狂寸前に陥った村中を救ったのは那美だった。那美が、解毒剤がない毒虫の毒を、生玉を使って中和し、村中を窮地から救ったのだった。
《私が二度、彼の部下を救ったといったけれど、村中さんの他には、室緒さんの部下を救った記憶は、私にはないわ》
 那美が、呂騎に尋ねた。
《那美さま、思い出せませんか? 那美さまは、雁黄に、殺されそうになった男を助けたことがあるでしょう》
《雁黄に殺されそうになった男……。吉川というあの刑事ね》
《ええっ》
 ヒヒの化け物のような蒜壺、雁黄は、海辺の鉄工所跡で、高井戸という若い刑事を殺し、吉川という中年の刑事を、その手にかけようとした。現場に駆け付けた那美によって、吉川は助けられ、那美は雁黄を撃退した。雁黄を撃退後、那美は、鉄工所跡での凄惨な記憶を、吉川の頭から消去し、蒜壺一族と自分の存在を、消そうとしたのだが、吉川が隠し持っていたボイスレコーダーによって、県警は、那美と蒜壺一族のことを知った。当時、一連の猟奇殺人事件捜査班の実質的リーダーだった室緒は、二人の男女が殺された神社で起きた事件も、公園で、いたいけな幼児が惨殺された事件も、蒜壺一族の仕業と知り、蒜壺一族と那美の行方を追ったのだった。
「那美さん、さあ、話してくれ。あなたのことを」
 黙っている那美に、しびれを切らしたのか、大野が、せかした。
「私は……。みなさんが、うすうす気づいている通り、普通の人間ではありません」
 那美が言った。
「人でなければ、何者なんだ?」
「私の正体……。いま、ここでは言えませんが。私は、長い間、蒜壺一族と戦い続けてきました」
「長い間とは?」
「私は、あなたがたがいう平安時代に、その生を受けました……」
「平安時代にだって!?」
 那美の言葉に、会議室の中にいる男たちがざわめいた。
 平安時代というと、およそ千二百年前の時代である。そんな時代から、少女にしか見えない那美が生き続けているなんて、誰が信じようか?
「平安時代に生まれた私は、オババという保護者によって育てられ、やがて、みずからなすべきことに気づきました。……蒜壺一族の呪いが解けるまで、蒜壺一族と戦い、人を守り続ける……」
「蒜壺一族にかけられた呪いというのは、あれかね。人を食しなければ、七日後には狂い死ぬという。もうひとつは、陽の下のもとでは、長くは生きられない……」
 五十嵐参謀が、言った。
「ご存知のように、蒜壺一族にかけられた呪いは、二つあります。一つは、いま五十嵐参謀が言った。狂い死ぬという呪い。もう一つは太陽の下では、長くは生き永らえない。……狂い死ぬという呪いは、蒜壺一族誕生のときから、かけられた呪い……。陽の下で長くは生き永らえないという呪いは、私が誕生したときに、蒜壺一族にかけられた呪い」
「その二つの呪いが解けるまで、君は戦い続けるというのか」
「ええっ……」
 那美は、目を閉じ、思いを巡らせた。
 オババの願い。呂騎をはじめとする餌非一派の願い。それは、人との共存である。
 人を食さなければ、狂い死ぬという呪いが、解ければ、蒜壺一族は人類と共存できるかもしれない。たとえ太陽の下では、長く生き永らえないないとしても、共存できる道を模索できる可能性があるのではないか。
 たとえその可能性が一パーセントに満たなくても、信じてみたい。私が、蒜壺と人との間に生まれた理由が、そこにあるかもしれないから……。
「呪いが解けるまで戦うって……。呪いが解けたら、戦わないっていうわけか……。呪いが解けたって、あの化け物たちが滅びるわけではないのだろう。あんた、あの化け物たちをどうするつもりなんだよ」
 荻隊長が、円卓を叩いた。
「どうするつもりって?」
「だから、野放しにするつもりか。あんな危険な奴らを」
「野放しにするつもりはないわ。ただ……」
 ここにいる人たちに、オババや餌非一派の願いを説いても無理だろう。
 那美は、目を伏せた。
「ただ、なんだ? だいたいあんた、平安時代に生をうけたって? そんな話、信じられるか。あんたは俺たちをからかっているのか。馬鹿にしているぜ、まったく」
 荻隊長が鼻をならした。
「荻くん、口をつつしみたまえ」
 大野が注意をする。
「那美さんが、長い間、蒜壺一族と戦い続けてきたことは、記録に残っている。パソコンの画像をみたまえ」
 パソコンの画像には、那美の姿が映し出されていた。
「その写真は、明治初期に撮られたものと、昭和の初め、平成元年に撮られたものだ」
 那美の姿は、明治初期も、昭和の初めの時も、平成の世でも変わっていなかった。淡いクリーム色の胴着を着用し、紺色の袴を履いて、長い髪を風になびかせていた。
「どういうことだ。那美さんは、歳をとらないというのか!?」
「こんなことはありえない」
「これは合成写真なのか?」
 会議室に、驚愕の声をあがった。
「この写真は合成写真でもないし、この写真と、ここにいる那美さんは同一人物だよ。ただ、平安時代に生まれたという話はにわかには信じられないが……」
 と、大野が言った。
「まるで八白比丘尼だな」
 大野の発言を受けて関川が、ぼそりと呟いた。
「八白比丘尼とは?」
「知らんのかね……。八白比丘尼を」
 よれよれの白衣を、揺らして、関川が八白比丘尼のことを説明しだした。
 日本各地に残る八白比丘尼の伝説。各地によって多少異なるところがあるが、その大筋は、人魚の肉を食べた娘が、不老の力を得たという伝説だ。
「地方によって浦島太郎と八白比丘尼の話をごちゃまぜにしたものもあるが、八白比丘尼の伝説は、まあ、そんなところだ。那美さん、あんたは不老不死なのかね。もしそうだとしたら、これほどおもしろい研究対象はないな。科学者の目で見ると、あんたは本当に魅力的な存在だよ」
「私は、不老不死ではないわ。ちゃんと歳をとるし、やがて死を迎えることもあるでしょう。私は、青年期の時間が長いだけ……」
「青年期という時間というと……」
「あなたがたでいう、十代後半から三十代前半にかけて」
 那美は、まつげを揺らした。
「おもしろい! 科学者として思うに、誠に興味深い話だよ、那美さん。一度でいい、あんたの身体を調べさせてもらえんかね」
 関川は、唾を飛ばしながら言った。
「関川くん!」
 大野が、関川を叱った。
「那美さんは、君の研究材料じゃないんだよ。まったく、君はすぐにそうだ。生成科学のことになるとみさかいがなくなる。……那美さん失礼した」
「いいえ」
 那美は、関川に一瞥を送ると、すぐに視線を、元に戻した。



                 = 第二部 第五回へ続く =


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