FC2ブログ

自作小説

餓鬼狩り 第二部  (第六回)

 ←餓鬼狩り 第二部 (第五回) →餓鬼狩り 第二部 (第七回)
                 餓鬼狩り   第二部  (第六回)


 凍り付く……。
 決して大げさな表現ではない。会議室にいる那美以外の人たちは、みな一様にとてつもない寒さを感じていた。
 会議室の温度は二十六度前後、湿度は50~60%。快適に保たれてはいる。普段なら、寒さなど感じないはずだが、いまここにいる人たちは、氷海の中に堕とされてしまった気分だった。
「魂を抜き取って……、どうするのかね?」
 五十嵐参謀が、ためらいがちに言った。
「文献によっては、死反玉は死者をも甦らすと記してあったが、それと関係あることなのか?」
 大野が、畳みかける。
「みなさんは、憑依という現象をご存知でしょうか?」
 と、那美が言う。
「憑依!? あ、あれだろう」
 室緒が言葉を返した。
「室緒くん、知っているのか? 知っているのなら、みなに説明してくれたまえ」
 大野が、促した。
「憑依というのは……」
 生霊や浮遊霊、動物霊などが生者にとり憑くことを憑依と呼び、憑依された人間は、霊に意識を乗っ取られ、奇怪な言動をとるという。
「ああっ、あれか。狐憑きとか狗神憑きとかいう奴だろう。俺は、まったくそんな世迷いごとなど信じちゃあいないが……。昔、そんな映画が流行ったよな。狐憑きとは、全く別物だが……エクソシストという悪魔払いの外国映画。俺はビデオで見た口だけど」
 と、荻が、言った。
 蒜壺一族の術中にはまり、自分の手で部下を殺してしまった荻は、那美の身体の秘密とか、十種神宝など、どうでもよかった。荻の関心は、蒜壺のことだけ。蒜壺の正体を知り、早く、蒜壺一族を、この手で葬ってやりたいと思っていた。
「蒜壺を滅ぼすには、そのエクソシストが必要なわけかい。それともなにか、恐山のイタコでも呼んでこようか」
「荻くん、口をつつしみたまえ」
 大野が、荻の言葉に釘を刺した。
「わしは、憑依などという現象は、一種の精神病か、薬物の使用による発作だと思っているがね」
 関川が、鼻を鳴らす。
 かつて、部下から関川に送られてきたレポートの中に、年端もゆかない少女が、汚物を吐き散らし、大便を壁に擦りつけ、時には犬のような遠吠えで叫び、神を冒涜した言葉を喚き散らしたという報告があった。
 レポートの中には、少女は何者かの手によって、薬を注射されたという記述があり、少女の狂気は、それによるものではないかと記されてあった。
「LSDという薬を知っているか。LSDはトリップという現象で使用者を快楽の極致にも、苦痛の極致にも落とすらしい。薬の使用時における多幸好感時には、狂喜にとり憑かれたように涙を流して喜び、幼い子供のように跳びはねたりするが、薬の効果が切れると、全身が無数の蟻に喰われるという錯覚に襲われるということもあるらしいがね……」
「悪魔憑きというのは、精神異常の一種だというのか!?」
 大野が言った。
「悪魔憑きとか、魔女狩りとか、そんないかがわしいことが盛んに叫ばれたのは、錬金術が奮って行われた中世の頃でね。錬金術で、使用された植物や鉱物が、大量に町に出て、なんの知識も持たない人々が、その植物の葉や球根、鉱物を削り取ったものを口にし、精神異常を起こし、それを目撃した人々が、やれ悪魔憑きだとか、魔女になってしまったと罪のない人々を糾弾したんだよ。当時の人々には、植物の葉や鉱物の成分が、脳や内臓を刺激した結果、精神が異常をきたしたのだとは、思わなかったのでね。で、エクソシストの登場となったわけだ」
 関川が、両手の掌で目を擦った。
「憑依は、映画の中の出来事でも、薬物の使用によるものでもありません。確かに、精神病患者の中には、自分に霊が乗り売ったと思い込み、奇怪な言動を行うものもいるでしょう。薬物の使用により、幻覚や幻聴を訴え、悪魔がそこにいる。悪魔がオレを殺そうとしていると叫ぶ者もいるでしょう。けれど、憑依された人間が、行ったこともない異国の言葉を話したり、アメリカの少女が、古代ヘブライ語で人を侮辱した事実はどう説明するんです? 大の男でも持ち上げることができない家具を、片手で持ち上げて見せたり、猫のように俊敏に飛びまわり、とても人間業ではない行動を起こすことができるのは、なぜです? 薬物使用のせいですか? 霊による憑依は確実にあるのです」
 と、那美が言った。
「死反玉は、その憑依と呼ばれる現象を、極限までに高めたことを行うのです」
「極限までに高めるとは?」
 五十嵐参謀が、目を閉じた。
 五十嵐は、組織AHOを統率し、餓鬼と呼ばれるBシリーズや、高い知能を持ち、特殊な能力で人を翻弄してきたAシリーズを相手にしてきた。獰猛で、強靭な体力で、人を襲うBシリーズに驚き、高い教養と知識を持った人さえも、欺き、特殊能力で、人を地獄に堕としたAシリーズに恐怖した。
 が、これから那美が話すと思われる死反玉の脅威は、それをも凌ぐものだろう……。
「死反玉が、死者を甦らすということは、生きている人間の魂を抜き取り、かわりに死者の魂が、その肉体に入るということなのです」
 那美が、目を伏せ目がちに言った。
「肉体が死者によって乗っ取られるということか!?」
 大野が言う。
「呼吸が止まり、脳が活動を停止すると、肉体は徐々に腐り果ててゆき、最後には朽ちて、この世から消え去ってゆきます。肉体を失った魂は、宿るべき肉体がなければ再生できません。死反玉は生きている人間の魂を抜き取り、死者の魂を生きている人間の肉体にいれることによって、死者を蘇らせるのです」


                 = 第二部 (第七回)へ続く =

 ps 次回からは、那美から三つの十種神宝を奪ったナギと、蒜壺一族の頭(あたま)である洪暫に焦点をあてて、描いてゆきます。


にほんブログ村
 
スポンサーサイト


もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png 自作小説
もくじ  3kaku_s_L.png 市民劇場 裏話
もくじ  3kaku_s_L.png 命の輝き
もくじ  3kaku_s_L.png 映画鑑賞記
  • 【餓鬼狩り 第二部 (第五回)】へ
  • 【餓鬼狩り 第二部 (第七回)】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【餓鬼狩り 第二部 (第五回)】へ
  • 【餓鬼狩り 第二部 (第七回)】へ