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自作小説

餓鬼狩り  第二部  (第八回)

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           餓鬼狩り  第二部 (第八回)

 ナギと洪暫は、睨みあった。やがて、ナギの方から目を逸らした。
「ふっ、ふふふふ。冗談ですよ、お頭」
 いまここで洪暫と、やりあってどうなるというのだろう。負ける気はしないが、無暗に争う気はない。
 ナギは、湖耶姫、爬耶姫に三つの十種神宝が入った巾着袋を渡そうとした。
「おっと、これを渡す前にオババと話をしたいんだが……。いいかい?」
 ナギは、渡そうとした巾着袋を、一度戻した。
「オババと話をしたいだと?」
 洪暫は、片方の眉を上げた。
「できるんでしょう。死反玉を使えば、死者と話すことが」
 オババは、ナギの姉である那美とナギの育ての親であった。那美に十種神宝を渡した後、那美を葬り去ろうとしたナギと戦い、その命を落とした。
「オババと話して、どうする?」
 洪暫が言った。
「さあね。ただ会って話したいだけかもしれないし……」
 ナギは、紫色の巾着袋の中から、空色の勾玉を取り出した。
「これを使えばいいんだろう。どうすればオババを呼び出せる?」
「念じてみよ。オババのことを想い、オババと逢いたいと思うだけでよい」
「念じるだけでいいのか」
「おまえなら、それだけでよい」
 洪暫は、意味ありげに言った。
 ナギは、オババのことを想い、空色の勾玉を強く握った。
 強くて優しかったオババ……。夜一緒に寝るときは、いつも子守唄を、耳元で囁くように歌ってくれた。近くの悪ガキたちにいじめられた時は、ナタを持って追い払い、悪ガキたちの親に叱られていたっけ。僕たちを極異界に連れ戻そうとした熊の蒜壺である喪間を、姉さんと二人で倒したときは、動揺して、泣いていたっけな。泣かなくてもいいのに、僕と姉さんが真の力に目覚めてしまったのが、そんなに怖ったのかい。
 オババは、僕と姉さんを、誰よりも愛してくれていた。そのオババを、僕はこの手で殺してしまった……。
 最初に異変に気付いたのは惟三だった。
「ナギはん、ナギはんの右手、光っているがや」
 惟三は、一歩退いた。
 ナギの右手の中から、空色の勾玉がするりと抜け、宙に浮かんだ。高速で回転し、緑色の線状の光を放った。緑の光は人の姿を模ってゆき、そこにオババが現れた。
 オババは、宙にあぐらをかいて座っていた。眠っているのか、頭を垂れ、ピクリとも動かない。
「オババ……」
 ナギは、語り掛けるように、名を呼んだ。
「オババ……。オババ、眠っているのかい。オババ……」
 ナギは、何度も繰り返し、オババの名を呼んだ。
「……誰じゃい、わしの眠りを妨げるのは?」
 オババは、うっすらと目を開けた。
「オババ、僕が分からないのかい?」
「おまえは……。ナギ!?」
「そう、僕が幽界にいるオババを呼んだのさ。死反玉を使ってね」
 ナギの言葉に、オババは目をかっーと見開いた。
 那美に渡した十種神宝。那美を守るため、あの時、命を賭して、那美から十種神宝を奪おうとしたナギを、阻止したはずである。
命がけで守ったはずの十種神宝のひとつが、ナギの手の中にある。
 と、いうことは……。
「死反玉を使ってじゃと!? 那美は……。おまえの姉さんはどうした? そこにいるのか?」
「姉さん? 姉さんのことなどどうでもいいだろう」
「どうでもいいって……。おまえ、もしや……」
 ナギは、姉である那美を殺すことにためらいはしないであろう。ナギが那美から無理やり十種神宝を奪ったと仮定すれば……。
 オババの面相が、強張っていった。
「殺しやしないよ。いずれそうなるかもしれないけれどもね」
「姉さんを……。那美を殺すというのか」
「そうでもしなけりゃあ、こっちがやられるだけだろう。邪魔するものは容赦なく殺すよ。たとえそれが姉さんだとしてもね」
 ナギは、宙に浮かぶオババに言い聞かせるように言った。
「……そこにいるのは洪暫だね」
 オババが言う。
「オババ、久しぶりだな。兄が亡くなって以来だな」
 洪暫が応えた。兄というのは、先代の蒜壺一族のお頭“千寿”のことである。
「あの時、オババを問い詰めていれば、こんなことにはならなかった……。赤子だった那美とナギを殺しておけばのう」
 あの時というのは、洪暫が兄である千寿を殺したときである。洪暫は、蒜壺と人間との間に生まれたわが子を守るために、蒜壺一族に第二の呪いをかけた千寿を許すことができなかった。洪暫は、千寿を殺し、千寿の子供たち、まだ赤子であった那美とナギを殺そうとしたのだが、オババが、責任をもって那美とナギを育てるということで、那美とナギをその手にかけるようなことはしなかったのである。
「オババが、兄から十種神宝を譲り受け、隠し持っていたと、あの時は分かっていればな。オババを殺してでも十種神宝を奪い、蒜壺一族にかけられた呪いを解いたものを」
「おまえに、それができたというのかい? このオババを殺すことができたのかい? たとえできたとせよ。おまえには、十種神宝を使って、蒜壺一族にかけられた呪いを解くことなどできやせぬ」
「那美なら解けるというのか?」
「ああっ、那美なら解ける。千寿がかけた呪いも……神が、蒜壺にかけた呪いもな。だから、わしは……」
「姉さんに、十種神宝を預けたというのかい。僕を無視して」
 ナギが、洪暫がとオババの話にわって入った。
「はっきりいうけれど、僕のほうが能力は上だよ。僕なら、今頃十種神宝を使って蒜壺一族を、呪いから解放しているよ」
「人との共存を無視してかい?」
 と、オババが言った。
「人との共存!? はっ? 笑わせるなよ。なんで、あんな下等なものと共存しなくちゃあならないんだ」
「人を下等な生き物というのか? おまえの母は、人なんだぞ」
「それが、どうしたっていうのさ。僕は母の顔など知らないし、人なんて、この地球を汚す病原虫だと思っているよ」
「病原虫だと……」
「ああっ、人さえ、この地球上からいなくなれば、この世界はもっと住みやすくなるよ。人っていうものは地球にとって病原虫であり、この世界を蝕む害虫なんだよ」
「ナギ……」
 オババは、ため息を漏らした。
「おまえは、何も変わっとらんな……。いや、変わったか……。力に目覚めた時から、おまえは変わった……。人を見下し、おのれの力に酔うようになった……。小さいときは、あんなに愛くるしかったのに……。だから、わしは……」
「だから、オババは姉さんに十種神宝を渡したのかい。僕に何も言わないで……」
「そうじゃ……」
 オババは、目を閉じた。
「消えていいよ、オババ。もう話すことなどない……。あの世に戻るんだな」
 ナギは、強く念じた。
 宙に浮かぶオババの周辺に緑色の線状の光が幾十も走った。ガラス板が擦れるような音とともに、オババがそこから消えて行った。宙に浮かんでいた空色の勾玉が、ポトリと地に落ちた。ナギがそれを拾い上げ、紫色の巾着袋の中に戻した。
「死んだ者と話せるということは、何かと便利なものかもしれないですやな。生前、聞けなかったこともこうして聞けるし……」
 惟三が言った。
「それを使えば、亡くなった琥耶姫はんとも、話せるでっしゃろ」
 惟三の言葉に、湖耶姫、爬耶姫の瞳孔が妖しく光った。
 湖耶姫、爬耶姫は、姉である琥耶姫に三年以上も会っていなかった。蒜壺一族の癒師(いやしし)でもあった琥耶姫は、化瑠魂などの薬を調合するために、一人で山に籠ることが多く、妹たちとは疎遠になっていたからである。
 湖耶姫、爬耶姫、二人の妹は、姉の後を継ごうと癒師を目指していたのだが、教えを乞う前に姉は亡くなってしまった。
 姉である癒師、琥耶姫に癒師の心得を教えてほしかったのに……。
「琥耶姫には、甦ってもらう。死反玉を使ってな」
 洪暫が言った。
「いいや、琥耶姫だけじゃあない。那美に葬られた雁黄、大地のイ、風のヌ、神通や針口、羅刹、食肉などの仲間も再び、この世に蘇ってもらう」
「お頭、それって、生きている人の身体を、憑依によって乗っ取るということですよね」
 ナギが言う。
「そうだ。人の身体さえ手に入れば、陽の光に怯えなくてもよいことになる。陽の光の中でも、自由に動き、人を喰らうことができる」
 洪暫が、そう答えた
「しかし、なんでっしやろのう。人の身体を乗っ取って甦っても、蒜壺の力、そのまま使えるでっしやろかいな。甦っても、力が使えなんて、しゃれにもならへんで。人の力なんて、たかが知れているし」
 惟三が言った。
 蒜壺一族の超能力ともいえる強靭な力は多岐に分かれている。
 ゴリラなみの力を持ち、口から鉄をも溶かす溶解液を吐く、雁黄のような力を持つ者。右腕から硬質化した鋸状の刃を、繰り出す能力を持つ、琥耶姫のような特異な身体を持つ者。風を操るヌや、大地を動かすイのようなサイコキネシスが特化した者……。組織AHOがBシリーズと組み分けている羅刹、針口、神通、食肉(じくにく)などの猛々しいだけの餓鬼といわれるもの。
 それらの蒜壺一族が、人の身体に憑依し、人の身体を乗っ取ったところで、蒜壺本来の力を使えるのだろうか?
 洪暫が言う。
「おそらく……。人間どもが、餓鬼と呼んでいる食肉や羅刹たちは、本来の力を出すことは難しいだろうな。だがな、惟三。あやつらは生きているとき、あのような醜い身体と、おぞましい性(さが)で、すべての生き物に疎まれながら生きてきたのだぞ。本能のみで生き、ものを慈しむ心もなかったあやつらが、たとえ一時でも、人という豊かな感情を持つものになれる。蒜壺の力を失っても、あやつらは、生き物として生きる喜びを感じるかもしれんて」
「生きる喜びでっか?」
 惟三が首を傾げた。
「ふん、惟三に生きる喜びを諭したところで、無駄なこと。そうだろう、惟三」
 と、ナギが言う。
「わては、腹一杯食えれば満足だす」
 惟三は、太鼓腹を両手で叩いた。
「姉さんは、本当に甦るのでしょうか?」
 湖耶姫が言った。
「琥耶姫は、必ず甦る」
 洪暫が、応える。
「甦った姉さんは? 人なんでしょうか? 蒜壺なんでしょうか?」
 爬耶姫が問う。
「身体は人でも、中身は蒜壺の者。琥耶姫の精神力なら、そのたぐいまれな能力も受け継ぐであろう。残虐の癒師と言われた性格もな」
「それじゃあ、琥耶姫姉さんは、蒜壺の癒師として再び甦るのですね」
「ああっ、ナギ。それを早く、湖耶姫に」
 洪暫が、目で催促する。
 ナギは、死反玉、奥津鏡、道反玉の三つの十種神宝が入った紫の巾着袋を、湖耶姫に手渡した。



                 = 第二部 (第九回)に続く =



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