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自作小説

餓鬼狩り 第二部  (第十回)

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             餓鬼狩り  第二部   (第十回)


 荒蕪トンネルで蒜壺一族に憑依された人の数は四十数人に及んでいた。
 四十数人の人の姿をした蒜壺の者が、何も知らずにクルマから降りた人々を襲ったのであった。
 急報を聞きつけ、駆け付けた警官隊と乱闘となり、一時はどうなるのかと思ったが、事件発生から四時間後、警官隊の後から来た組織AHOの手によって、蒜壺の者のと化した人々は全員捕獲され、組織AHOの研究施設があるN島に搬送されたのであった。
 那美は、N島に搬送された人々に会った。一人ひとりと会い、どのような蒜壺が、憑依しているかを探った。
 大半は、羅刹や針口、食肉、食糞、欲食などの餓鬼だった。が、雁黄や琥耶姫のような知能の高い蒜壺も少なからずいた。那美によって選別され、針口、食肉などのBシリーズの蒜壺は、地下二階にある鉄格子の牢獄に入れられ、知能の高いA-シリーズに憑依されたと思われる人々は、特殊ガラスで覆われた特別室に入れられた。
 那美は、特殊ガラス越しに、一人の蒜壺の者と話した。
 目の前に、赤色のトレーナーを着こなし、白色のジーパンを穿いた十四、五歳頃のポニーテールの女の子がいた。連休を利用して、観光バスに乗り込んでいたのであろうか。もし蒜壺の者に憑依されなければ、休日を思いきり楽しんでいたに違いないのだが……。
「人の世は変わっていっても、おぬしはかわらんな、那美」
 女の子に憑依した蒜壺の者は、老人の蒜壺だった。
 かつて、人の世にいた時、伯楠(はくなん)と名乗り、仙人として人々に恐れられていたAシリーズの蒜壺の者だった。
「こんな若い子に憑依するなんて、いい趣味だわね、伯楠」
 那美が言う。
「誤解するではない。こいつはわしの趣味じゃあない」
 伯楠は、ポニーテールの髪を左手で掻いた。
「わしは、男の肉体が欲しかったんだが、いきなり霊界から呼びだされてな」
 伯楠は、まだ、発育途中であると思われる胸の膨らみを、両手で押さえた。男の肉体を欲していたようだが、女の子の肉体にも興味があるのだろう。しきりに胸の膨らみをもんでいる。
「あなたを呼び出したのは……。洪暫」
 那美が、軽蔑のまなざしを向けて言う。
「そうじゃな、あの声は洪暫さまじゃなあ」
「洪暫は、あなたになんて言ったの?」
「わしに再び肉体を与えてやると言った」
「それが、どういうことなのか、あなたには分かっていたでしょう」
「そうりゃあ~ それくらいわかっていたわよ。わしの耳にも十種神宝の噂は聞こえていたからのう。再び肉体を手にいれるっていうことは、現世の人間の魂を奪い、肉体を乗っ取るということだろう。十種神宝の死反玉を使って」
 死反玉。かつて鬼部一族がその力を乱用したために、神の怒りをかい、地獄に堕とされたという神宝。地獄に堕とされた鬼部一族は古い書物や錦絵の中に見られる鬼の姿になり、そこで、人々を苛んでいるという……。
「せっかくこの世に再び戻ってくることができたのじゃが…………。人に捕まるとは思ってもいなかったわ。こんなとこ早く出たいわ」
 伯楠が言った。
「ここからどうやって、出るの?」
 那美が問う。
「わしをなめるじゃあないぞ。姿形は女の子だが、中身は蒜壺一の化身の使い手といわれた伯楠。こんな檻ぐらい、簡単に破ってみせるわ」
 伯楠の眼光が光る。黒髪が静電気を帯びて逆立ち、口角が異様な角度で吊り上がった。体温が急激に上昇したのであろうか。額から汗がしたたり落ち、辺りが蒸気に包まれた。
 女の子の服が裂けた。紅いトレーナーがズタズタになり、白色のジーパンがビリビリに弾び散った。肉食獣の血なまぐさい臭いがそこに漂う。
 唸り声とともに、一匹の熊が、突如、現れた。
 羆(ヒグマ)だろうか。黒褐色に覆われた全長は、ゆうに三メートルに達しているようだった。黒々とした頭部に金色の毛が交じり、胸元にある白い三日月型の毛並みは、かつて人を、七人も食い殺したという三毛別羆事件(みけべつひぐまじけん)の羆を思わせた。
 羆は、吼えた。吼えて、特殊ガラスに体当たりを喰らわせた。が、特殊ガラスは小刻みに振動しただけだった。
「な、な、なんなんだ、これは? なぜ。こわれない?」
 伯楠の目に驚きの光が宿った。
「クッソ」
 伯楠は、何度も何度も特殊ガラスに体当たりを喰らわせた。
「無駄よ。その特殊ガラスは、壊れやしないわ」
 と、那美が言う。
「この透明なものは特殊ガラスと言うのか?」
「そうよ」
「こんなものを……。こんな丈夫なものを人が造ったというのか」
 那美は伯楠の問いを鼻で笑った。
 伯楠が、仙人として恐れられた時代、人は蒜壺の者の餌にしかすぎず、ただ蒜壺の者に食われるだけだった。
 が、いまは……。
「文明というものを知っている?」
 那美が問う。
「文明じゃと……」
「文明は科学の発展を促し、科学の発展は、人に力を与えたわ。人は、もはやか弱き存在じゃないのよ」
「なにをほざく。人など……。人など……」
 伯楠は、力任せに特殊ガラスを叩いた。
「無駄よ……。いくら叩いても、そいつを壊せやしないわ」
 伯楠は、ため息を吐き、へなへなと崩れるように腰を下ろした。
「洪暫は、いったい何を企んでいるの?」
 那美が問う。
「人に憑依し、人の肉体を手に入れたとしても、蒜壺一族にかけられた“人肉を食さなければ七日後には狂い、やがて死ぬ”という呪いはとけやしない。その呪いがとけない限り、人とは和解することなどできやしないし、地上では暮らせやしない」
「真っ昼間から、人を襲う気? そんなことをしたら、あなた方は一方的に抹殺されるでしょうね」
 那美が言った。
「昼間から、人を襲うのは羅刹などの低脳な餓鬼どもじゃよ。わしらは、そんなバカなことはしない」
「それじゃあ、あなたたちはどうするyの?」
「さあ、どうしようかな~ 実はわしもどうしようか迷っている」
「誤魔化さないで!」
 那美は、伯楠を睨み付けた。
 立て続けて起こった荒蕪トンネル事件と等々力岬レフトハウス事件は、マスコミに狂乱の渦を巻き起こしていた。
 “狂ったと思えようしかないバスの乗客たちは、なぜ、野獣のように人を襲ったのか?”
 “等々力レフトハウスに現れた怪物の正体は?  新種のウイルスか? 某国の細菌兵器による侵略か?”
 新聞紙上や週刊誌に載った記事は、人々に恐怖を与え、加熱するテレビ各局の報道は、人間社会に脅威を投げつけた。
 人々は、事件の解明を政府に求め、政府は蒜壺一族の存在と、実在する対蒜壺組織AHOの公表を、事実を知る関係者から責められた。
 が、公表などできるわけなかった。
 もし、事実をありのままに公表したら、全世界を巻き込むパニックが起こることが予測できたからである。
「洪暫は、私を誘き出すために配下の雁黄や琥耶姫を使い、人々を殺したあげく、無残な遺体を白日にさらしたわ。私が持つ十種神宝を奪うために」
 洪暫は、那美が持つ十種神宝のうち、三つの神宝を奪った。蒜壺一族にかけられた二つの呪いのうちの一つ呪い、日中の陽の光の下の元では長くは生きられないという呪いは、奪った神宝の一つ死反玉を使った憑依というもので、一応解決できたようだが、人肉を食べなければ狂い死ぬという呪いは、まだ、解決できていない。
「私から、すべての十種神宝を奪い、狂い死ぬという呪いを解くことが洪暫の目的の一つだったはず。私からすべての十種神宝を奪わないうちに、人類すべてを敵に回す気」
「バカなことを言いなさんな。餌を全部、敵に回したら、食い物がなくなる。わしらにとって人は大切な食べ物だからのう。ふっほほほっほ」
 伯楠は笑っていた。
(この、嫌らしい笑いは……)
 那美は、伯楠の下卑た笑い声が気になった。暗闇の奥から聞こえてくるような耳障りな笑い声は、蒜壺一族、特有のもの。
 それは、人々の恐怖に歪む顔を見て、こぼれる陰湿な笑い声。
「あなたちは、人々を恐怖で煽り、人々の心に猜疑心の根を植え付ける気ね」
 那美は、拳を握りしめた。



                  =  第二部 (第十一回)へ続く =


ps、 長い間、餓鬼狩りの掲載を休んでいましたが、本日、再開です。
    「小説家になろう」というサイトにも、同時進行で掲載してゆく予定ですので
    よろしく、お願いします。
    なお、いままで「三文クリエイター」に掲載した餓鬼狩り 第一部と
    第二部 九回までを改稿して「小説家になろう」に掲載してありますので、
    そちらもよろしくお願いします。

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