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自作小説

愚痴る!? 12

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   愚痴る!? 警備員宗一郎 殺人事件に巻き込まれる


                        12,

「突然、お邪魔しまして、申し訳ありませんが、先日、亡くなった西田雄一さんについて、聞きたいことがありまして」
 若い刑事が、開口一番、そういった。
「西田のこと?」
 宗一郎が、オウム返しに応える。
「ええ、十全さんは、会社の同僚で、西田さんとは仲が良かったと聞きましたので」
 誰が、オレと西田が仲が良かったと、いったのだろう。
 同じ会社で、働いていたことは認めるが、西田とは、そんなに仲が良かったわけではない。たわいのない話、バカ話は、いろいろしたが、歳もだいぶかけ離れているし、プライバシーでも行動をともにしたことがない。確かに、仕事でコンビを組むことは多かったが、それだけの関係だ。
「西田のことは、オレにも、よくわからないよ。同じ会社で、働いていただけだ。西田のことなら、オレより、西田の友達に聞いたらどう?」
 と、宗一郎が言った。
 明るく、陽気な西田には、同年代の友達が多くいた。仕事が休みの日には、友人たちと、よくドライブに行ったり、ドライブのついでにパチンコに行っては、お金を散在し、その帰り道に繁華街によって飲み歩いていた。
「友達の方は、もうあたりました。そちらからの情報は、だいたい集めましたが、会社内での西田さんのことになると、よく、わからないので」
 若い刑事が話を続ける。
「会社内での西田? 仕事先からクレームがきたときもあったというけれど、まあ、真面目に仕事をやっていたよ」
「いや、そういうことじゃあなくて、会社内の人間関係っていうか……。西田さんに対する周りの目というか……」
 要するに、この刑事は、会社の同僚たちが、西田に対して、どんな感情を持っていたかを聞きたいわけだ。
「そんなことを聞いて、どうするんですか? 西田は交通事故で亡くなったんでしょう。それとも事件なんですか」
 刑事が大手警備会社K支店に尋ねてきた時点で、これは単なる事故ではないではない。事件かもしれないということを、うすうす気付いてはいたが、わざと、聞いてみた。
 事件じゃあなけりゃあ、県警の刑事が、西田の周辺を調べるわけないのだ。
「事件だと思うかね」
 中年の刑事が言った。この中年の刑事が、おそらく互野という刑事だろう。
「事件だとしたら、殺人事件ですよね。けど、西田だのことを聞く前に八雲っていう男のことは、よく、調べたんですか」
 車を使っての、事故に見せかけた殺人事件。そうだとしたら、西田を車で跳ねて殺した八雲の動機は、どこにあるのだろうか。
 大手警備会社K支店から、八雲が、いなくなったのは、四年前。三年前に大手警備会社K支店に入社した西田は、八雲と接点がない。それ以前に、西田は八雲と面識があったとすれば、話はかわってくるが、西田と八雲の周辺を、何処をどう調べてみても、二人は見知らぬ同士だという。
 見知らぬ人間に、殺意を持つ人がいるだろうか?
 顔も、声も、その性格も分からない他人に恨みを持ち、殺してやりたいと思うほどの憎しみを持つ……。
 そんな人間がいるか? いたとしたら、そいつは人間じゃあない。人の皮を被った獣だ。
 人の皮を被った獣……。良心を持たない人間。愛情や共感力を持たない、心が冷え切った人間。それらの人間をサイコパスというが、八雲が、そのサイコパスとでもいうのだろうか。
 数ヶ月前に起こった都心での、無差別殺人事件の動機は、誰でもいい、とにかく、人を殺したかっただ。人を殺すことで、心の奥に詰まった鬱憤を晴らしたとでも言いたいのだろうか。遠く離れた外国では、銃の乱射事件が後を絶たないし、享楽のために無差別に人を殺してゆく連続殺人犯もいる。恐ろしことだが、憎しみがなくても、人は人を殺せるのだ。
 ただ、そんなサイコパスは、まれだ。
 八雲のことなど、よく知りはしないが、もし、八雲がサイコパスだったら、大手警備会社に入社する前に、何か問題を起こしていたはずだ。何度も転職を繰り返し、失業保険で、食いつないできた男が、サイコパスなら、転職する度に、社会を騒然させるような問題を起こしていてもおかしくはない。が、八雲は、そんな大それたことを一度も起こしたことがなかった。
 八雲に接触したことのある明美さんの印象は、気の弱い、いつも、何かに怯えているような男だという。八雲はサイコパスではないのだ。
 八雲が、サイコパスではないなら、八雲が西田を殺す動機は何なのだろう。
 お金か? 金のためか? 恨みもない人間を殺す理由の一つに、お金欲しさに、殺人を犯すというものがあるが、八雲は、お金のために西田を殺したのだろうか……。
 「十全さんは、現場にいたんでしょう。八雲の車が、急にスピードをあげて、突っ込んで来たという目撃情報があるけれど、十全さんは、見なかった?」
 保坂が聞く。 
 あの時、宗一郎は作業現場の警備にあたっていた。道路警備の方は、佐々木さんと西田だった。午前中は、宗一郎と笹岡が、それぞれ西田と佐々木さんの持ち場で警備をしていたが、午後になって持ち場を変えたのだ。作業現場で警備をしていた宗一郎は、、八雲の運転する車が、西田を跳ねた瞬間を見ることはできなかった。西田の側にいたワンテックの従業員が、急にスピードをあげて、突っ込んで来た緑色のパッソを見たらしかった。
「急にスピードをあげて、突っ込んで来たのですか。それで、事故じゃあなく事件だと」
 宗一郎が聞く。
「タレコミがあってね。殺人かもしれないから良く、調べてくださいってね」
 若い刑事、保坂が応える。横で、余計なことは言うなというように、互野が保坂を睨んだ。
 車が急にスパードをあげて、突っ込んで来たという目撃情報と、タレコミが、この事故は、事件だという確率を上げたらしい。
 事件だとしたら、動機がなんであるか探る必要がある。動機がはっきりしなければ事件か事故か、分からない。
 くどいようだが、西田は、人に恨まれるような人間ではない。まして、西田を死なせてしまった男は、西田とは面識もないし、サイコパスでもないらしい、普通のどこにでもいる、ただ、だらしないだけの怠け者だ。
「怨恨の線でダメだったら、金銭的な面でも調べるんでしょう?」
 と、宗一郎が言った。県警が、この事故を事件だと判断しているとしたら、当然、その方面からも、捜査を開始しているだろう。
「なにか、心当たりがあるのかね?」
 互野がジロリと宗一郎を睨んだ。
 西田が、亡くなって、誰が得をするか?
 事故の後、明美さんから聞いた話では、西田は、六十代の母親と二つ違いの妹と一緒に、アパートを借りて住んでいた。父親は、西田が高校生の時に、癌で亡くなり、父親の死後、母が一人で、二人の子供たちを育てあげたという。女手一つで二人の子供たちを育てるにはそうとう苦労をしただろう。成人した西田は、そんな母親の苦労も顧みずに遊びほうけていたが、銀行に就職した妹が、しっかりもので、西田家の家計は、この妹がきちんとやりくりしていたらしい。
 仲がいい家族だった。本当に仲が良い家族で、亡くなった西田には悪いが、西田には、もったいない優しい母さんと妹だった。
「兄ちゃん、なんで、死んだのよ。いくら迷惑をかけてもいいから、戻ってきてよ~ お金なんか、いくら遣ってもいいから。生活の面倒は、私が、みているでしょう」
 通夜、妹がそう泣き叫び、その傍らで、嗚咽を漏らしていた母親の姿は、通夜の席に訪れた人々の涙を誘った。
 もう一度いうが、西田の家族は仲が良かった。決して西田の死を願う家族ではない。息子の死を願うような母でもないし、妹でもないのだ。
 では、友人関係はどうだろうか? この線も警察は徹底的に調べただろう。友人知人関係を調べて、あまり、いい目が出なかったので、西田の勤めていた会社の同僚たちに、西田のことを、聞き回っているのではないだろうか。
 動機を求めて……。
「へぇ~ 刑事さんって、こんな顔をしているんだ」
 宗一郎の背後から、場にそぐわない、やけに明るい声が聞こえた。
「幸子、来てごらん。刑事さんが来ているよ」
 明るい声をあげたのは、幾代だった。
「えっ!? 刑事さん。どれどれ」
 幸子が、居間から玄関先に来て、幾代の後ろに立った。
「刑事さんって、こんな顔をしているんだ」
 幸子が、幾代の肩越しから、二人の刑事の顔をジロジロ見た。
 まったく。人見知りしないというか、度胸がいいというか、物怖じしないというか……。
 宗一郎の目が点になった。
 目の前にいるのは、県警の刑事である。普通の人なら、警察だと聞いただけで、緊張すると思うし、口調も、それなりに変えるはずだ。けど、この二人は、まったく態度も口調も変えようとはしない。なれなれしく、ため口で、互野と保坂に接していた。
「な、なんだ? きみたちは」
 保坂が目をしばたかせた。
「私たち? 私は姉の幾代、こちらは妹の幸子」
 幾代が言う。
「私が、妹の幸子。で……」
 幾代と幸子が、宗一郎の前に出て、
「二人で、流姉妹をやっていまーす」
 と、両手を拡げた。
 おい、おい、いくらなんでも、おふざけが過ぎるだろう。
 


               = その13に続く =

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