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自作小説

愚痴る!? 13

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 愚痴る!? 警備員宗一郎 殺人事件に巻き込まれる

                           13、

 十全宗一郎家からの帰路、互野と保坂は、警察車両を、近くのスーパーの駐車場に駐めて、警察車両の中で、事件のことを話し込んでいた。
「もう一度、八雲のことを調べてみるか?_」
 互野が言った。
「どこを調べるのですか? 友人、知人関係とか生い立ちとか、さんざん調べたんじゃあないですか」
 と、保坂が言う。
「調べていないところがどこかにあるはずだ」
「しかし……」
 保坂は、逡巡していた。八雲のことは、すべて、調べたつもりだ。これ以上、なにを調べたらいい? 
 取調室での八雲は、黙秘していた。
 車で、西田のことを跳ね飛ばしたことは、認めるが、他のことはあまり話そうとはしなかった。互野や保坂が「おまえが、急にスピードをあげて、突っ込んで来たという目撃情報があるんだ。そうなのか?」と問いただしても、黙っているだけだし、「車を使っての殺人事件だというタレコミがあったけど、おまえ、殺しが目的で人を跳ねたのか」と、睨み付けても、無反応だった。声を荒上げて脅しても、ダメ。真綿を包むような優しい声で、なだめすかしても知らん顔だ。
 八雲太一(43歳)の故郷は、北海道だった。ラベンダー畑で有名なF町で生まれた。高校を卒業するまで、そこで生活をしていたが、卒業後に心機一転、東京に行き、職を転々と変えながら暮らしていた。いくら働いても金がない、惨めで、忙しいだけの生活が続いた。東京に行けば、なんとかなる、オレのような奴でも、金を稼げるだろうと思っていたが、現実は、そんなに甘いものではなかった。生活するだけで精一杯。仕事に追われて、自分を見失い、寂しさだけが募り、友人もできなかった。しだいに疲弊していった八雲は、都会に住み始めて、十年もすると、一度は捨てたはずの田舎暮らしに憧れるようになり、知人のつてを頼って、ここK市に落ち着くようになったのだが……。
「北海道に住んでいる、八雲の両親と連絡はとれたのか?」
 互野が聞いた
「両親は北海道のN市に住んでいまして、N市の警察署に照会していますが……、まだ、両親との連絡が取れていないとのことでした」
 と、保坂が応えた。
「N市? F町ではないのか?」
「息子が、F町から出た後、N市に引っ越していまして……」
「それで……なぜ、連絡が取れない?」
「電話をかけても、出ない。家に尋ねていったら、留守だったそうです」
「いつも留守っていうことはないだろう」
「それが、何回、尋ねても留守で、近隣住民に聞いても、どこに行ったのか、わからないと言うだけだそうです」
「住民とつきあいが、なかったとういうわけか……。会社は? 働いていたなら、会社に聞けば、何かわかりだろう」
「八雲の父親は、板金会社で働いていたそうですが、一ヶ月前に辞めたようです。母親は家の近くの弁当屋で、パートで働いていて、、母親の方も、二週間前に、弁当屋を退職しました。その後、また就職をしたという確認は、とれていません」
「夫婦そろって失職したというわけか」
「ええっ……」
 父親が、会社を辞めた理由は、自己都合だったという。良く働く男なので、上司が、慰留を促したが、「会社に迷惑をかけたくないから」と、だけ言って、板金会社を辞めたらしい。母親の方は、身体の調子が悪いので、退職したという。板金会社の上司も、弁当屋の店長も、ここを辞めて、どこかにゆくあてがあるのか? と、聞いたが、二人とも、なにも応えず、その場から去ったという。
「家にもいない。前の職場に聞いても、要領を得ない……。だから、どこにいるのかわからない。と、いうわけか……。何かあるな」
 互野が考え込む。
「ええっ、私もそう思いまして、N署に引き続き、両親のことも調べてくれるように頼んでいます」
「タレコミの方は、どうだ? そちらに何か進展はあるのか?」
 互野が聞いた。
「いや、なにも……」
 保坂が応える。
「女だったよな。タレコミをしたのは。これは殺人事件かもしれないから徹底的に調べてくれっと電話で言ってきて、後で、ワープロで書かれた一枚の手紙を送りつけてきた奴は」
 K市の警察署に送られてきた封筒の中に、一枚のレポート用紙が入っており、「大手警備会社K支店」を調べてみてはと、書かれてあった。
 大手警備会社K支店は、いうまでもなく、西田が勤めていた警備会社だが、なぜ、タレコミの女が、レポート用紙に大手警備会社K支店と記したのか、互野たちは、皆目、検討がつかなかった。西田を車で跳ね飛ばして殺した八雲は、大手警備会社K支店の従業員ではなく、無職の男なのだ。大手警備会社K支店で働いたことはあるが、それは四年前のこと。現地点では、なにもつながりがないはずなのだが。
「K支店の支店長……、横沢という男は、どうなんだ。あいつと、事務員の大阪明美、それと飯田一ぐらいだろう。四年前にも大手警備会社K支店にいた奴らは」
 互野が尋ねる。
「あの、まっ、いいか支店長ですか?」
 二人の刑事に、八雲のことを聞かれた横沢は、四年前に、会社に散々迷惑をかけて行方不明になった八雲のことを、なんだかんだと、しばらく悪口を言ってはいたが、「まっ、いいか。終わったことだし……」と言って、話を締めくくった。
 こちらとしては、そんな態度で、話を締めくくられても困るのだが、ものはためしにと、タレコミの件を話してみても、まったく、心あたりがないという。
 警察に電話で、タレコミをしたのが女だったということで、事務員の大阪明美にも、タレコミと手紙のことを聞いてみたが、何のことだかわからないと言うだけだった。飯田一に関しては、いわずもがな。知らぬ、存ぜず、八雲とは、話したことさえないで、話にならない。
「大手警備会社K支店を調べて、何か分かるんでしょうか?」
 保坂が問う。
「何かがあるんだろう。だから、聞き回っている」
 互野が、一言、そう応えた。
 八雲のことを徹底的に調べてはいるが、膠着状態に陥っていた。それゆえ、一枚のレポート用紙に記されていた情報を、手ががりにして、大手警備会社K支店に勤めている、従業員に話を聞いて回っているのだが、捜査の進展になるような話は、聞き取ることができないでいた。
「怨恨の線がないとすれば、金だがな……」
 互野のため息が、警察車両の中に溢れた。

                     = その14に続く =


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