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自作小説

愚痴る!? 14

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    愚痴る!? 警備員宗一郎 殺人事件に巻き込まれる


                         14、

 互野と保坂が、帰った後、流 幾代は、妹の流 幸子と一緒になって、宗一郎に、次々と頭に浮かんでくる疑問をぶつけていた。
「あの刑事さん、なんで、私たちを調べているんです?」
 幾代が言う。
「そうよ、信じられない。西田さんを跳ねたのは、八雲っていう男の人でしょう。私たちに関係ないじゃあない」
 幸子が憤慨している。
「そうよ、まったく関係ないのにねえ~ なんで、わたしらのこと調べているんだろう?」
 と、幾代が、首を振った。
「いや、幾ちゃんと、さちちゃんのことを聞いたわけで無くて、オレたちのことを……聞いたわけで……」
 宗一郎が幾代と幸子をなだめた。
「同じことでしょう。私たちも、大手警備会社の従業員なんだから」
 幾代が、口をツンと尖らした。
 いや、それは違うと思う。宗一郎や佐藤さん、東さん、飯田さん、相沢さん、笹岡は、西田と一緒に仕事をした仲間なのだが、幾代と幸子は、西田が亡くなった後、入ってきた従業員だ。西田のことを知らないと思うし、西田のことについて、あれこれ聞かれる分けが無いと思う。二人は、本当にこの事件と、なんも関係がないのだ。
「しかし、殺人事件ときたか」
 幾代が拳を握りしめた。
「なんか、わくわくするね」
 幸子が、ニコリと笑った。
「まだ、殺人事件と決まったわけでは、ないだろう」
 宗一郎は、唇を曲げた。
「刑事が、聞き込みに来たのよ。事件に決まっているじゃん」
「いや……だから……」
 幾代と幸子に、どう説明をしたらいいのだろう。
 くどいようだけど、幾代と幸子の二人は、このことについて、何も知らないはずだ。事務を勤める明美さんと、その友達の洋子さんとは、以前から知り合いだったから、事故のことは聞いたと思うが、西田のことを、何も知らないと思う。この二人が、あれこれ詮索しても、どうにもなるような問題でもないのだ。
「それで、名探偵の十全さんは、この事件を、どう思っているんですか?」
 幾代が言った。
「名探偵? このオレが……」
「十全さんは、作家を目指していたんでしょう。それも、ミステリ-作家」
 幸子が、宗一郎の顔を覗き込む。
「聞いたわよ~ 明美さんから」
 また、明美さんも、余計なことを……。前にもあったことだが、明美さんは、口が軽いというか、蛇足ばかりを言うというか、言わなくてもいいことを言う癖がある。なぜ、この二人にそんなことを話したのか、その背景となるものに、まったく心あたりがないこともないが、大迷惑だ。若い頃、作家になるなんていう、そんな夢ばかりみているから、結婚もできないで、独りでいるんだわと、陰口をたたかれ、嫌な思いをしたことがあるのだ。作家になることを、諦めた宗一郎にとって、幾代の言葉は嫌みにしか聞こえなかった。
「で、名探偵の十全探偵としては、この事件も、刑法39条が、からんでくるかもと、推理するわけ?」
 幾代が、話を続ける。
「刑法39条? あの、心神喪失者の犯した罪は罰しないてとう奴? よく、そんな難しいことを知っているな」
 宗一郎は、気を取り直して応えた。
 気を取り直して応えたが……しかし、なんだ? いきなり刑法39条を持ち出してくるとは……。どういう神経をしている? 頭の中の脳みそに、釘でも刺さったか……。そ、それとも、 あ、あれか、どこかで聞きかじった知識を、みせびらかしたいという、少し形を変えた承認欲求という奴だろうか。まだ、殺人事件と決まった分けでもないのに、気の回しすぎだろ。
 宗一郎が不審を帯びた目で、二人を見つめると、
「バカにしないでよ。これでも、私たちも小説家を目指しているんだから。そうよね、幸子」
「そう、私たちは、二人で一人の小説家、流シスターズ。だから、ご指導お願いします~」
 幾代と、幸子は、夢みるような瞳で、宗一郎を見つめ返した。夢見るような瞳で、見つめられても困る。オレは小説家じゃあないし、二人に、助言なんてできないのである。
「刑法39条の前に、確認することがいっぱいあると思うけれど」
 宗一郎が、そう言う。
「それより、刑法39条よ」
 幾代が言う。
「なんで?」
 宗一郎が問うと、
「だってさぁ~ この頃、大きな事件がある度に、マスコミが騒ぐでしょう。刑法39条がどうだとか、精神状態はどうだったのかとか。そうよね、幸子」
 幾代が宗一郎の質問に 応え、
「そう、そう、昔から、そんなにうるさかったの? 事件が起きる度に、刑法39条、刑法39条って、バカのひとつ覚えみたいに騒いで…。あのね、うちのお婆ちゃん、昭和の時代は、そんなこと誰も言わなかったと言っていたわ。大体、人権、人権って、加害者の人権って、そんなに重要なの? だったら被害者の人権は、どうなるのよ。被害者の家族の苦しみや、悲しみは無視するわけ? 刑法39条のせいで、罪に問えない、無罪放免なんて、信じられないわよ」
 と、幸子が、話を混ぜ返す。
 犯罪を犯したのに、そうそう簡単に無罪放免になるはずはないが、幸子の気持ちは痛いほど分かる。今日この頃、なにか大きな事件が起きると、精神鑑定の結果はどうだったのか? 本当の動機は、どこにあったのか分かったのか、その男に、本当に殺意があったのかとか、とにかく、うるさい。最近では、長野県で起きた警官二人と女性二人を殺害した事件で、精神鑑定がどうだとかこうだとか、その結果、刑法39条にあてはまるのか、あてはまらないのかと、あてはまないなら、なぜ、あてはまらないと、騒がしかった。容疑者に刑事責任が問えるかどうか、三ヶ月をかけて、精神鑑定が行われたというが、それだけの長い時間をかけなければ、それは判定できないものなのだろうか。
 殺された二人の女性と、二人の警官の命は、決して戻ってはこないのだ。
「案外、八雲っていう人。シリアルキラーだったりして」
 そう、幾代が言う。
「ありうる、ありうる」
 幸子が同意した。
 おい、おい、なんで、ただの交通事故が(殺人事件かもしれないが)シリアルキラーなんていう、一定期間、殺人を繰り返す、殺人犯人の話になるんだ。話が飛躍しすぎだろう。今の段階では、八雲は、一人しか殺していないのだ。また殺人を犯せば、シリアルキラーかも知れないが。その可能性は薄いだろうし……。
 ま、待てよ。オレも確か、さっき……。
 宗一郎は、八雲のことをサイコパスかもしれないと、頭に描いた自分を、思い起こしていた。
 動機が、はっきり分からないからサイコパスだなんて、あまりにも短絡的である。なぜ、そう思ったのだろうと、心当たりがないこともないが、自分にも幾代たちと同じのような思考回路があるのだろうかと思うと、なんだか寒気がする。もしかしたら、先週、見た映画のせいかも知れないが。
サイコパスにシリアルキラー。近年、映画や小説、テレビドラマになどに取り上げられて、一般的にも、それが何を指すか、分かり、広まってきた。が、現実的に見て、サイコパスやシリアルキラーが、身近に存在するとは思えない。身近に存在しないものだから、小説や映画、取り上げられて、おもしろ、おかしく脚色されるのだろう。ちまたに溢れる、その類いの小説や映画は、いまや膨大なものになり、ネットで、いつでも、シリアルキラーやサイコパスの動画を見られるようになった。
 昨今、精神鑑定、精神鑑定と、うるさくなったのは、そのせいか?
「幾ちゃんと、さっちゃん、二人に言うけど、昭和の時代にも、精神鑑定は、ちゃんと行われていたさ。ただ……」
 宗一郎が、言うと、
「シリアルキラーの人を殺す動機ってさあ~ いろいろあるんでしょう?」
 幾代は、人の話を聞いていないようだ。話を勝手に進めている。
「ある、ある。頭の中に悪魔がいて、人を殺せと、命令しているとか」
 と、幸子が言う。
「いわゆる、幻想系ね」
「そうそう幻想系。他にも自分勝手な正義を振り回す、使命感に燃えたシリアルキラーとか」
「ああっ、前科者とかホームレスとか、いわゆる社会にとって害だと、勝手に判断し、それを狙い撃ちしたシリアルキラーね」
 異常な心理状態で、人を殺すのだから、その動機となるものは、様々である。使命感に燃えたシリアルキラーは、自己本位の正義を振りかざし、人を排除しようとするが……、
「他にも、スリルをも求めて、殺しを繰り返す奴や、性欲を満たすために、人を殺し続けるシリアルキラーとかいるけれども……」
 幾代と幸子は、あれこれと、シリアルキラーの動機について話している。話が尽きないようで、傍らにいる宗一郎のことを完全に無視していた。
 まったく、どうして、話がそっちの方に飛躍してゆくのだろう。ただの事故なのかも知れないのに、作家を目指す、小説家の卵の頭は、常にこんなことを考えているものなのだろうか。 
 家のチャイムが、また、鳴った。誰かが来たらしい。
 宗一郎が、重い腰を上げて、玄関に行き、引き戸を開けてみると、そこに熟年の女性と若い女が立っていた。
「あの~ 十全宗一郎さんの、お宅はこちらですか?」
 二十歳前後の若い女性が言った。
「そうですが……なにか?」
 本日は千客万来の日らしい。最初に流姉妹がやって来て、互野、保坂コンビの刑事が訪ねてきて、今度は、熟年の女性と、うら若き乙女ときたか。
「実は……私たち、西田勇一の家族のものなんですが……」 
 家族だって!? 良く見ると、西田の葬式の時に見た、西田の母親と妹だ。葬式の時、黒い喪服を着て、下を向き、さめざめと泣いていた、あの母と妹だ。
「し、知っています。葬式の時に会いましたよ」
 宗一郎は、慌てて言った。
「その節はどうも」
 二人は、そろって頭を下げた。この二人はようやく西田の死のショックから立ち直ったらしい。二人から漂ってくる雰囲気がまるで違う。葬式の時は、死神に取り憑かれたかのように精気が抜けて、いまにも倒れそうだった。今の二人は、しっかりと大地に立っていた。
「今日、伺ったのは、十全さんに、折り入って頼み事があって……」
 西田の母親が言った。
「オレに? 」
 宗一郎は、眉毛を八の字にした。
(頼み事ってなんだろう)
 この二人と、会話を交わすのは、今回で二回目である。二日目といっても、一回目は葬式で型どおりの挨拶を交わしただけだから、内容がある話をするのは、今回が初めてだ。一体、なにを話すのだろう。
「実は、受け取っていただきたいものがありまして……」
 西田の妹は、左手に抱えていた手提げ鞄から、なにかの機器のようなものを取り出した。取り出した機器のようなものを宗一郎の腕の中に手渡す。
「こ、これって……」
 それは、亡くなった西田が死ぬ直前まで愛用していたカセットテープを入れて使用する旧い型のウォークマンだった。
「オレに何かがあったら、十全さんに渡してくれって、頼まれていたの」
 西田の妹が言う。
「十全さんには、日頃世話になっているから、よろしくって言って」
 世話をしたことはないが、会社の中で、西田と一番仲が良かったのは、自分だと、宗一郎は思っていた。
 その縁というか、お礼のつもりか……。
 お礼のつもりだとしても、タイミングが良すぎるのではないのか? まるで、自分が車に轢かれて亡くなってしまうことを予期していたようでもある。
「あの子は、会社のことは何も話さないけれど、十全さんのことは、よく話していました」
 母親が、宗一郎の目を見て言った。深い悲しみが宿った瞳が、宗一郎の網膜に映った。深い悲しみの中に、ある種の光が灯っている。なんと例えたらいいか分からないが、暗闇の中に一筋の命の輝きが差し込んだような光だと、おもっていい。声を殺して、目頭を押さえて泣いていた時には、感じることができなかったものだ。
「これっ、大事にします」
 宗一郎は、手の中の、ウォークマンを静かに撫でた。

                   = その15に続く =



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