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市民劇場 裏話

今は、もう撤去された釜石テント……。

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第31回 釜石市民劇場の脚本 「心に翼を希望を胸に!」


  第37回 釜石市民劇場 「天明飢餓事変 栗林村 タエの物語」の
  制作が始まり、キャスト、スタップともに頑張っているが、なにせ、
  人手が足りないモノだから、苦労の連続である。

  そこで、昔、駅前にあった釜石テントでの、最後の公演
  第31回 釜石市民劇場 「心に翼を希望を胸に!」の脚本を
  景気づけに、一発、掲載します!

  認知症と生きがいをテーマーにした、コミカルな現代劇です。
  上演後、大好評でした。

   心に翼を希望を胸に! 6
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          【心に翼を希望を胸に! ~てんわやんわケアハウス より】

  第三十一回  釜石市民劇場

 「心に翼を希望を胸に! ~てんやわんやケアハウス」

                     脚本 川端美津雄

登場人物
○玉井(たまい) 銀子(ぎんこ)(26歳)……本編の主人公。明るく男勝りな性格。「叶わない夢なんかない」が口癖。暗い過去(?)を持つが、それを決して表面にださない。空手は三段の腕前。
○倉田(くらた)静(しず)雄(お) (72歳)……ちょっと内気なお爺さん。自分が暮らすグループホーム「青空の里新しい新しい妻を迎えようとしている。
○及川(おいかわ)貞夫(さだお) (55歳)……グループホーム「青空の里」の施設長(経営者)。元大手都市銀行の支店長だったが、
亡くなった母親の供養にためにグループホーム「青空の里」を立ち上げる。実直な性格。
○及川弥生(やよい)(78歳)……アルツハイマー型認知症に罹り、息子の顔さえもわからなくなって亡くなった貞夫の母。回想場面に登場。
○倉田トキ(68歳)……静雄の新しい妻。静雄とはカラオケ大会で知り合った。籍を入れたのを機に、「青空の里」で、一緒に暮らすことになる。料理にはうるさい。
○瀬川(せがわ)フク(72歳)…… 静雄の同級生(小中学校)いまでも静雄のことを静雄ちゃんと呼ぶ。情報屋で、あれこれ人のうわさ話を仕入れて来るが、どこかずれている。
○外山(そとやま)トラ(75歳) ……嫁と折り合わず、家を飛び出して、グループホーム「青空の里」にやってきた少しひねくれた老婆。耳が遠いが悪口は良く聞こえる。
○金子(かねこ)健二(けんじ)(75歳)…… 酒の飲み過ぎで、一度身体を壊している。それに懲りずいまも隠れてお酒を、ちょくちょく飲んでいる。
○大野(おおの)雄一(ゆういち)(78歳)…… いつも派手なシャツ着て、サングラスをかけて気取っているおしゃれな爺さん。自分のことを「青空の里」の郷ひろみだと思っている。寂しがり屋で、面白くないことがあると、八つ当たりをする。
○富山(とやま)三郎(さぶろう)(25歳)…… グループホーム「青空の里」に出入りしている雑貨商の息子。銀子の過去を知る男。昔、、銀子にやっつけられたことを恨みに思い、話を捏造する。
○今西(いまにし)英夫(ひでお)(51歳) ……貞夫の片腕。銀子に青空の里を紹介した男。貞夫を心底尊敬している。
○瑠依(るい)  (12歳) ……銀子を慕う、ちょっと生意気な女の子。銀子と行動を共にする。
○茜(あかね)   (12歳) ……瑠依の友人。少々内気な女の子。

★主要キャストは総勢 十三名   他に合唱の場面に、市内の合唱団の参加を望む。


特記 今回は 合唱をコンセプットのひとつとして取り入れるので、市内の合唱団に協力をお願いしたい。
(合唱場面は、もちろん。セリフのないエキストラ用員として協力してくれればなお可)

あらすじ~

ケアハウス「青空の里」に住む静雄は、はやる心を押さえきれないでいた。
このケアハウス「青空の里」に、先日、籍を入れたばかりの新妻が、やってくるというのである。
そんなところに、新しいヘルパーとして、うら若き乙女、銀子が、なんの前触れもなくケアハウス「青空の里」に、やって来た。慌て者のフクが、銀子のこ とを、静雄の新妻と勘違いしてしまう。
72歳の静雄に、26歳の新妻? 「青空の里」は、てんわわんやの大騒ぎになるが、フクの早とちりとわかり、一応その場は丸く収まる。
「青空の里」の代表である及川が、改めて銀子のことをケアハウス「青空の里」のみんなに紹介した。
銀子は、「青空の里に来た新しい職員だという。
「青空の里」に赴任してきた銀子は、寂しそうに、ただ毎日を過ごしている老人たちに、ある提案をする。
 三ヶ月後に、市主催で開かれる合唱大会に、この「青空の里」も参加しようと言うのであった。
 老人たちは、驚き、初めは銀子の話を聞こうともしないが、銀子の情熱に、徐々にほだされて、合唱コンクールの練習に参加するようになる。大会まで、二週間を切ったある日、銀子の過去にまつわるとんでもない噂が、「青空の里」に広がる。
玉井銀子は、学生時代レディース(暴走族)のリーダーで、過去に暴力事件を起こしていたと言うのだ。
明るく、誰にでも優しい銀子が、元暴走族のリーダー ?
動揺した「青空の里」の老人たちは、練習に参加しなくなる。
そんなところに、一度息子のところに帰っていたトラが、「青空の里」に戻ってくる。前から銀子のことを知っていたトラは、銀子は暴走族ではなく、真面目な女性のライダーを守るため、わがもの顔で公道を走っていた暴走族のあんちゃん達を、暴力を使わずに諭していただけだと「青空の里」の老人たちに説明する。
老人たちの誤解も解け、再び合唱の練習を始めた銀子と、「青空の里」の老人たち。
銀子と老人たちは、合唱大会で、全力で課題曲を歌い上げ、会場の人たちから、絶賛の拍手をもらった。
鳴り止まない拍手の中で、銀子の心に、ある想いが湧き上がっていた。
銀子は声に出して言う。
「人は誰でも、心の中に、見えない翼をもっている。大きな翼や小さな翼、これから羽ばたこうとするまだ生まれた
ばかりのかよわい翼。大きな翼は、人を優しさで包み込む翼。小さな翼は、人と人を結びつける絆の翼。そして、これからはばたこうとする翼は、希望という名の夢の翼。翼の中には、ささいな嘘に傷ついてしまった翼もあるだろう。夢破れ、はかなく折れてしまった翼もあるだろう。けれど、ささいな嘘に傷ついた翼は、人のぬくもりで暖めればいい。夢破れ折れてしまった翼は、人を愛する喜びに気づくとき、再生の輝きを放つ。……人は誰でも、心の中に見えない翼をもっている。あなたも、わたしも……そして……」
 銀子は、精一杯を歌い、満足そうな顔で涙を流すケアハウス「青空の里」の老人たちを、いつまでも見つめていた。


プロローグ

○幕が上がる前。BGM~カノン『翼をください』が入り、

○銀子の声「人は誰でも心の中に見えない翼をもっている。大きな翼や小さな翼。これから羽ばたこうとするまだ生まれた
ばかりのかよわい翼。大きな翼は人を優しさで包み込む翼。小さな翼は、人と人を結びつける絆の翼。はばたこうとする翼は、希望という名の夢の翼……」。

 ○幕が上がる。

第一幕 一景  静雄さんの嫁さん。

【出演】 静雄、健二、雄一、トラ、フク、貞夫、銀子、茜、瑠依、トキ

 ○ケアハウス「青空ホーム」の娯楽室(舞台上には外の豊かな自然が見える大きな窓が二つある。中央に大型テレビと、丸い大きなテーブルが一つ。テーブルを囲むように四組のパイプ椅子が置かれている。上手にはサイドテーブルがあり、サイドテーブルの花瓶には、ユリの花が活けてある)

 ○板付きで、健二、雄一、トラ、静雄が登場。静雄が立ったり座ったりしてそわそわしている。
 (雄一、健二はパイプ椅子に座り、暇そうにテレビを見ている。トラはお茶をすすっている)
 フクが下手から登場。落ちつかない様子の静雄を見て、フクが……、

フク「みなさーん、聞いてくださいよ。なんと、ここにいる静雄ちゃんが、今度、お嫁さんをもらったんですよ。そんでね、今日からここで一緒に暮らすっていうんですの。まったくいい歳して、よくやるもんですね」

健二「静雄さん、どんな嫁っこもらったのや。みんなにちゃんと紹介しろや」

静雄「どんな嫁っこと言われてもな……」
 ○静夫、恥ずかしそうに、もじもじしている。

雄一「おめえより、若いのか?」

 ○静雄、幸せそうに「うん、うん。うん」とうなずく。

雄一「かっー。おめえより若いのか。何歳だ?」

 ○静雄、にやにやしてはっきり答えない。小娘のように恥じらっている。(上手にある花瓶の中にあるユリの花の
     花びらを一枚一枚、むしりとったりして、落ち着かない……)

雄一「おいおい、そんなに恥ずかしがるってことは……。もしかしたら、おめえ……。フクさん、相手の嫁っこの歳、何歳
   だか、知っているか?」

フク「しらないわよ。けんど、わたしより若いことは確かだわ。みてよ、あの静雄ちゃんの喜びよう……」
   
 ○静雄、今度は幼稚園児のようにはしゃぎだした。

フク「トラさん、あんた、なんか聞いていない?」

トラ「あん? なんだって?」

フク「だから、静雄ちゃんの結婚。お嫁さんのこと、なんか聞いていない?」

トラ「あん? 静雄さんの……け、血圧? 血圧ねえ~血圧の薬はさっき飲んだよ。おめえさんにそんなこといわれなくてもな」

フク「け、血圧の薬じゃあなくて、静雄ちゃんの嫁さんのこと聞いているの……なんで、お嫁さんのはなしが血圧の話しになるのよ」

トラ「静雄さんがどうしたって? 静雄さんは血圧高くないでしょう」

フク「だからっ! 血圧の話じゃあないの。静雄ちゃんの……」

雄一「よせよせ、いうだけ無駄だ。トラはここがちょっとおかしいんだ」

 ○雄一、人差し指で、自分の頭を二度三度叩く。

トラ「バカいうんじゃあないわよ。私のどこがおかしいのさ。私はこれでも町内一の才女といわれた女なんですからね。
   ちょっと、耳が遠くなったけれども……」

雄一「悪口だけは、よく聞こえやがる……。で、おめえが才女? おめえ才女だったら、俺は聖人君子さまだな。
なあ健二もそう思うだろう」

健二「雄一が聖人君子? 冗談だろう。サングラスをかけた聖人君子なんているものかよ」

雄一「かっー、おめえなんもわかってねえな。ひとを外見で判断しやがって。俺のような教養あふれた男を聖人君子と言う
んだよ」

健二「へえ~ とんだ聖人君子さまもいたもんだ。教養なんて。これっぽっちもないくせに」

雄一「教養ぐらいあるわ」

健二「いつからだ?」

雄一「教養(今日うよ)」

○一同、使い尽くされたダジャレにあきれ返る。

健二「うっうう、……寒い。くだらなすぎて身体が凍えてしまう。おめえなあ~いくらなんでもそれはないだろう。
そんな古臭いダジャレで、誰が笑うんだい」

雄一「教養ある奴は、腹を抱えて笑ってくれるよ。俺みたいに教養があるやつはな」

健二「で、おめえ~いつから教養があるんだ?」

雄一「きょうよ」

○一同、二度も同じダジャレを言われて、こけてしまう。及川、下手から談話室に入ってくる。入ってくるなり、

及川「みなさん、急な話しですが、今日からここに……」

  ○一同、及川の話を全然聞いていない。みな口々に静雄さんの嫁さんのことを勝手に言い合っている。

健二「あっあ、施設長。いいところに来た。今日……来るんだろう」

及川「来るって、誰が?」

健二「またまた、とぼけて。静雄さんの嫁さんだよ」

及川「ええ、静雄さんの嫁さんも来ますが、今日からここに……」

  ○及川から少し遅れて、銀子が瑠依と茜を連れて下手より登場。

銀子「こんにちは。初めまして。今日からここにお世話になる……」

フク「き、き、来た!」

○フク、銀子を静雄さんの嫁さんと勘違いをして驚く。銀子はヘルパーである。

フク「若い! 若すぎる。若過ぎるじゃないの。静雄さん、どんな手を使ってこんな若い子を射止めたのよ」

静雄「いやぁ~ この人は……」

健二「おいおい、これははっきり言って罪だ。罪悪だ。極悪非道の行いだ。いくらなんでも72のもうろくじじいに、こんな若い嫁さんなんて……。おめえさん、何歳だ?」

銀子「26よ」

健二「26! 72の男に26の嫁さんか」

銀子「えっ? なんの話し」

 ○一同、戸惑う銀子を無視して、勝手に盛り上がる。

雄一「こいつは、青空ホームの郷ひろみと言われているオレもかたなしだぜ」

トラ「あん? 誰が郷ひろみだって?」

雄一「オレのことに決まってるじゃあねえか

一同「へえ~え」(あきれて)

雄一「なんだよ。その、へえーえっていうのは」

健二「それより、早速歓迎会をしようぜ」

フク「そうそう、歓迎会、歓迎会……。ん?」

  ○フク、銀子に寄り添っている二人の女の子に目をやり、

フク「この娘(こ)たちは……。もしかしたら嫁さんの連れ子」

雄一「連れ子だって……。だとすると、静雄さん、一気に家族が増えるな」

静雄「いやあ~ その~う。この人たちは……」

 ○静雄、みんなが勘違いをしていると説明しようとするが、異様に盛り上がっている周囲の雰囲気に飲まれて、
    しどろもどろになっている。

健二「しかし、美人さんですな。顔もそうなんだが……」

  ○健二、銀子のことをジロジロと見る。

トラ「まったく男っていうもんは、しょうもない生き物だね。いい歳して、あっちの方ばかり気にして……。ん? 
   あんた、もしかしたら角のタバコ屋さんの娘、銀子さん?」

銀子「と、トラさん? トラさん、久しぶりです」

トラ「こりゃあ~ 驚いた。あの銀子さんが静雄さんの嫁さんになるだなんて」

雄一「娘さん、いまからでも遅くはないぜ。その子たちのためにも考え直したらいいんじゃあないの?」

健二「そうした方がいい。いくらなんでも静雄さんの嫁になるのだけはやめとけ。その子(茜、瑠依)たちが成人するころ
には、静雄さん、くたばっているぞ」

銀子「ちょ、ちょっと待って! さっきから何をいっているの?」

雄一「なにいっているかって? あんた、静雄さんの嫁さんだろ」

銀子「えっ?」

フク「あたしらわねえ。あんたが今日からここで静雄ちゃんと暮すというから、あんたのことをさっきから
   待っていたんだよ」

銀子「ええっー どういうこと。なんで私が、静雄さんというおじいさんと結婚したことになっているの」

フク「違うのかい」

銀子「及川さん」

 ○銀子、青空ホームの代表である及川に、みんなにちゃんと説明するように求める。

及川「いやあ、こりゃあ~まいったな。ここにいる銀子さんは、静雄さんの嫁さんじゃあありません。今日から
   ここで働いてもらうヘルパーさんです」

  ○一同、気を抜かれたように驚く。

健二「そうか……。おかしいと思っていましたよ。静雄さんにこんな若い嫁さんがくるなんて……」

雄一「オレもおかしいと思っていたんだよな。静雄さん、ちゃんといってくれなきゃあダメだろう」

静雄「わしは……いおうとしたんだが……。みんながあまりに……」

フク「そうそう静雄ちゃん、ダメじゃあない。ちゃんといってくれなきゃあ」

トラ「静雄さんも、そうだけれども……。及川さん」

及川「はい?」

トラ「あんた、ここの代表でしょう。前もって新しいヘルパーさんをみんなに紹介しなくちゃあダメでしょう」

及川「だから、さっきここに入って来たとき……」

フク「及川さん、一人で入って来たでしょう。銀子さんをと一緒にここにきて、ちゃんと紹介していりゃあ、こんな
ことにならなかったはず」

銀子「すいません……。この子たちが(瑠依、茜)急にお手洗いにゆきたいというもんだから……」

トラ「それで、後から来たんだ。で、その子たちは何よ。まさか銀子ちゃんの子供ではないだろうね」

銀子「冗談はやめてくださいよ。この子たちは、私の友達よ。ケアハウスに興味があるっていうもんだから、
   及川さんに頼み込んで、見学させることにしたの。ほら、みんなにちゃんと挨拶しなさい」

瑠依「西崎 瑠依です。小学六年生の十二歳。絵を描くことが大好きです」

茜 「わたしは……。わたしは……」

  ○人見知りが激しい茜は、うまく自己紹介ができなくて戸惑っている。

銀子「茜ちゃん……。なにも恥ずかしがることないのよ。ここにいる人たちは悪い人たちではないのだから……」

茜 「わたし……」

銀子「大きな声で」

茜 「笹木(ささき)茜です。趣味は……えっーと食べることです」

トラ「食べることが大好きなのかい。わたしと同じだね。わたしも食べることが大好きさ」

雄一「あんたはただの過食症だろ。朝の八時に朝食を食べたのに、九時には朝食はまだなのかと言いやがる」

トラ「あたしがそんな馬鹿なことをいうわけないだろう。ヘルパーさんがその時に限って、朝食を作るのを忘れていたんだ
ろう。そうですね、及川さん」

及川「ええっ……まあ(及川、口ごもる)」

  *認知症の一例に、今食べた御飯のことを忘れてしまう事実があります。

トラ「しかしなんだね。しばらく見ないうちに綺麗になっちゃって」

  ○トラ、しげしげと銀子を見る。

健二「トラさんが、こんなベッピンさんと知り合いだなんて思わなかった」

トラ「あん? なんだって……。わたしが綺麗だって」

健二「ち、違うよ。あんたじゃあなくてさ~」

トラ「そりゃあ、わたしは綺麗だわさ。昔はねえ、立てばしゃくやく座れば牡丹、歩く姿はユリの花といわれた
くらいだからね」

フク「ユリの花も……、いまでは花も咲かないペンペン草か」

トラ「フク~聞こえたわよ。ペンペン草とはどういう意味!」

フク「あの~う、その~う。全く悪口だけは良く聞こえるんだから」

  ○瑠依と茜、静雄の傍に駆け寄り、

瑠依「おじいちゃん、嫁さん、貰ったの?」

茜 「おじいちゃんの嫁さん……どんな……人?」

健二「おおっそうだった、そうだった。静雄さんの嫁さんが来るんだった」

フク「案外、もの凄い美人さんだったりしてね」

雄一「大体なんだ? このオレさまが、四十で妻を亡くしてからずっと独身なのに、なんでおまえみたいなものが嫁さんを
   もらうことができるんだよ」

  ○下手に噂の静雄の嫁さん、トキが現れる。が、大騒ぎしている場の雰囲気に驚き、声をかけられないでいる。
     (横開きのドアを一度開けたが、閉めなおし、顔だけ覗かせる)

静雄「わしの嫁さんになる人はだな……歌が好きで……カラオケ大会で知り合って……」

フク「どんな人、どんな人。早くどんな人か教えてよ。あっ~じれったい」

健二「静雄さんの嫁になるくらいだから、こんな顔の(指先で鼻を突きあげて)女だろう?」

雄一「いやいや、あんがいこんな女(両手で頬を引っ張って)かもしれないな」

トラ「静雄さん、あんなこと言わせていいの」

静雄「トキさんは……こんな顔(指先で鼻を押し上げる)でも、こんな顔(両手で頬を引っ張って)でもありません。
   トキさんは……」
 
  ○トキ、ドアをいきなり開け、舞台の中央に進み出て、大きな声で怒る。

トキ「そうよ、あたしはこんな顔(指先で鼻を押し上げて)こんな顔(頬を両手で引っ張って)でもありません!」

 ○一同、トキの剣幕に驚く。

トキ「あら、あたくしとしたことが……。初めまして、今日からここにお世話になる今野トキ……違った、倉田トキです。
   みなさん、よろしくお願いします」



(BGM)良い、良い 幕間の曲


 第一幕  二景 トラさん、実家に戻る。

 【出演】銀子、トラ、今西、フク、健二、雄一、静雄、トキ、銀子

 ○上手よりにグループホーム「青空の里」の玄関前を設置する。玄関前には、三、四本の新緑樹が植えられている。
     新緑樹の前には花壇。(季節は4月)
   (上手に二本、下手にも三本の新緑樹を設置)
 ○玄関から、今西を先頭にして、トラ(右手に仲間からもらったと思われる花束、左手に日用品を詰め込んだトートバック、
        背には緑のリックサック)と、健二、雄一、フクが出てくる。

今西「いやっあ~よかった、よかった。トラさんが実家に戻れることになって」

フク「トラさん、良かったじゃあないの。嫁さんと折り合いがついて」

トラ「ふん、どういう風の吹き回しかわからんけどな」

今西「裕子さんは、全面的に謝っていますよ。お母さん(義母)には悪いことをしてしまった。できることなら、また
    一緒に暮らしたいって」

トラ「どうだか」

今西「まあまあ、トラさん、そんなこといわずにさあ。また家族とともに暮らせるんですよ」

トラ「桃果が大学に行くんで、哲三と裕子だけになったから、あたしをよぶんだろうよ」

雄一「哲三と裕子って、誰?」

フク「トラさんの息子さんと、義理の娘さんよ。トラさん、裕子さんと喧嘩ばかりしていて……」

健二「いわゆる嫁、姑の争いという奴だな。どこの家でも同じだな。俺んとこも、しょちゅうもめていたよ」

雄一「おめえのところもか! オレんところもだ。大体、女なんていう生き者はだな。なんだかんだとつまらぬことで喧嘩しやがる……」

トラ「つまらぬことって何よ! これだから男っていうもんは……」

今西「まあまあまあ。ここはおだやかに」
   
 ○今西が、言い争っている三人をなだめる。

フク「しかしなんだね。静雄ちゃんが嫁さんをもらって、この青空の里も賑(にぎ)やかになると思ったら、
   トラさんが出てゆくんじゃあ、ちょっと寂しくなるね」

健二「そういえば、静雄さんとトキさん、どこに行った? トラさんを見送らなくちゃあなんねえのに」

フク「いま、銀子さんが二人のことを迎えに行っているよ」

健二「銀子さんが?」

フク「あたしが、迎えに行っても良かったんだけどね。幸せそうな二人の姿を見ていると、
   なんだか、むしゃくしゃしてね」

雄一「嫉妬か」

フク「そんなんじゃあないよ」

 ○銀子が、静雄とトキを連れて下手から出てくる。

静雄「トラさん、このたびはご愁傷さまで……」

雄一「な、なんだぁ~ご愁傷さまって……」

 ○静雄、自分の言った言葉の意味がわからないような顔をしているが、あきらかに間違っている。
   少しして、気付き……

静雄「あっ! 間違えた。ご愁傷さまじゃあなく……えっ~と」

トキ「大変喜ばしいことででしょう」

静雄「そ、それっ。トラさん、また息子夫婦と暮せるんだろう」

トラ「あたしは、一緒に暮らさなくてもいいのだけれどもね」

銀子「そんなこと言ったら,ばちが当たるわよ。家族と一緒に暮らしたいのに、一緒に暮らせないお年寄りが、
  たくさんいるんだからね」

トラ「ふん、家族と一緒に暮らしたいお年寄りがたくさんいるって……。どうだか」

フク「そんなこと言わずに……。せっかくヨリが戻ったのに……」

トラ「裕子が謝るっていうもんだから、帰るだけさ。ひがみっぽい裕子が謝ってくれるというからね」

雄一「また、そんな悪口を言う」

今西「まあままあ、ここはおだやかに、おだやかに……」

静雄「そうそう、ご愁傷さま、ご愁傷さま」

 ○一同、こける。

雄一「で、及川さんはどこ行った? 見送らなくていいのか」

健二「そうよ、トラさんの新たな旅たちに、施設長である及川さんが見送り来ないっていうのはおかしくないかい」

銀子「そうね。今西(英夫)さん、しらない?」

今西「及川さんは、朝から出かけているよ。及川さんにとって今日は特別な日なんだ」

銀子「特別な日って?」

 ○英夫、銀子の問いに応えない・
 ○(SE)車のクラックションの音。

今西「おっ、トラさんの迎えが来たようだ」

静雄「トラさん、お元気でな」

トキ「短い間だったけれど、楽しかったわよ」

健二「嫁と喧嘩したら、またここに帰って来てもいいからな」

雄一「青空の里の、郷ひろみのこと忘れんなよな」

 ○青空の里のメンバー、それぞれ勝手なことを言って、トラとの別れを惜しむ。



(BGM)夜に寄る 幕間の曲

第一幕    三景 老いの孤独。

     【出演】雄一、瑠依、茜、銀子、健二、トキ、今西

 ○青空の里の裏庭。裏庭には、中央に三人ほどが腰掛けることができる大きなベンチがある。
    ベンチの周りには花が植えられた花壇がある。ベンチに雄一が腰掛けている。

   
雄一「(溜め息をつき)トラが行ってしまって、もう一週間か……」

 ○瑠依、茜、上手より登場。雄一は瑠依と茜が裏庭に来たのにもかかわらず、けだるそうに
    溜め息ばかりついている。

瑠依「おじいちゃん、おじいちゃん」

雄一「………」

茜 「おじいちゃん、聞こえないの?」

雄一「ん! た、たまげた。瑠依ちゃんに……茜ちゃん、いつからここにいるんだい」

瑠依「さっきから、ずうーっとここにいるわよ」

雄一「そうか、全然気づかなかった」

瑠依「本当に気づかなかったの? 何度も呼んでいたのに……ねえ(茜の方を見て)」

茜 「私たちが目の前に来ても、ちっとも気づかないんだから」

雄一「ごめんな。ちょっと考え事していてな」

瑠依「考え事? なにを考えていたの?」

雄一「これからのことさ。……オレも嫁さんでも貰おうかなと……」

瑠依「それっ、いい考え……静雄おじいさんも、嫁さんをもらって幸せになったわけだし、雄一おじいさんも幸せに、
   なんなくちゃあねえ」 

茜 「おじいちゃんなら(雄一を見)大丈夫。青空の里の郷ひろみと呼ばれるくらいだから、おじいちゃんのお相手は
  直ぐに見つかるわよ」

雄一「そうか、オレの相手はすぐに見つかるか。わっはははは……」

  ○雄一、空元気を出して高らかに笑うが、しょげてため息をつく。

雄一「はぁ~あ、むなしいな……」

 ○下手より、銀子登場。

瑠依・茜「あっ、銀姉ちゃん」

銀子「どうしたの、あなたたち。ロビーにいるように今西さんに言われていたでしょう」

瑠依「だって、このじいちゃん、寂しそうだったから……」

銀子「寂しそう……」

茜 「大きな声で呼んでも返事をしてくれなかったし、ため息ばっかりついて……」

銀子「フクさんと喧嘩したからじゃあない」

瑠依「えっ、このおじいさん、フクさんと喧嘩したの?」

銀子「フクさん、泣いてたわよ。なにも静雄さんの前で、おねしょしたこといわなくてもいいじゃあないって」

雄一「事実だからしょうがねえじゃあねえか」

銀子「雄一さん!(怒って)」

雄一「は、はぃ……」

銀子「あんたには、思いやりの心がないの。女性に恥をかかせて、何がおもしろいのよ」

雄一「……すいません。これから気をつけます」

銀子「今日は、端午の節句だから2時50分にはだんらん室に来るように。みんなでお祝いするから」

茜 「端午の節句って、なあに?」

銀子「子供の日のことよ。昔の人はねえ、五月五日はこどもの日と呼ばないで、端午の節句と呼んでいたのよ。
   しょうぶ湯とか沸かして、体を清めたり、柏餅を食べたり……」

茜 「わたし、柏餅大好き」

 ○瑠依と茜、銀子の傍に行ってはしゃぐ。

雄一「オレは、参加しねえよ。端午の節句というものは、子供の健や(すこや)かな成長を願ってするもんだろう。
   年寄りの、オレには関係ない行事だ」

銀子「そんなこと言わないでよ。雄一さんには、この子たちの成長を祝う気がないわけ」

雄一「そんなことないけどさ……」

 ○エプロン姿の健二が上手より、慌てふためいて登場。

銀子「どうしたの健二さん、そんなに慌てて」

健二「おおっ銀子さん、いいところにいた。頼む、代わってくれ」

銀子「えっ?」
 
 ○健二、話が見えない銀子の手をとり、懇願する。

健二「あいつら、本当にうるさいんだよ。こし餡の練り方が悪いとか、味噌餡の型が悪いとか……
   一緒にやっていられないよ」

銀子「柏餅を作っているのね。で、メンバーは?」

健二「フクさんに、静雄さんにトキさん」

銀子「いいメンバーじゃあない。トキさん、確か調理師の資格を持っているから、料理するのうまいでしょう」

健二「そのトキさんが、あれこれうるさいんだよ。やれ、お箸の持ち方が違うだとか、ボールにお湯を入れ過ぎだとか……」

銀子「へぇ~あのトキさんがねえ~」

 ○エプロン姿のトキ、上手より登場。

トキ「あっ、いた」(健二を見つけて)

 ○健二、銀子の後ろに隠れる。

トキ「健二さん、どうしたの? 人が優しく教えているのに……」

 ○瑠依と茜、トキの傍によりそい、

瑠依「トキさん、料理上手なの? で、柏餅、自分たちで作っているの?」

茜 「食べてみたいな~ トキさんが作った柏餅」

トキ「瑠依ちゃんに茜ちゃん、来てたの? ……それじゃあ瑠依ちゃんと茜ちゃんの分も作らなくちゃあいけなく
なっちゃつたわねえ。(雄一がそこにいることに気づき)そういうわけで、雄一さん、雄一さんも手伝ってくれる?」

雄一「なんでオレが手伝わなくちゃあなんねえんだ。自慢じゃあねえが、オレは台所に立ったことさえねえんだ。
  誰が手伝うか」

銀子「また、そんなこと言って……。雄一さん、手伝ってあげたら」

雄一「さっきから言っているだろう。料理もそうだが……行事なんぞには参加したくないって」

トキ「行事に参加しない?」

雄一「ああっ、参加しねえよ。三月にやったひな祭りだって、たいした面白くなかったし、その前のバレンタインデーでの
チョコ作りだって、ぱーっとしなかった。節分の時は風邪ひいて寝てたしな。……健二、健二は参加するのか?
端午の節句という行事に」

銀子「健二さんは、参加するわよ。参加するんでしょう」

健二「参加……するけどな」(歯切れ悪く)

雄一「なんだ、その参加するけどなっていうの? はっきり言えよ。ひな祭だ、節分だ、クリスマスパーティーだと言って、
   毎月のようにイベントするけど、全然楽しくないってな」

銀子「雄一さん、それって失礼じゃあない。及川さん(施設長)だって、今西(職員)さんだって、みんなのために
一生懸命やっているのよ」

雄一「どうだか」

銀子「どうだか~ なに、そのどうだかって。……及川さんに今西さん、いいえここで働いている全部の職員が、
みんなのために本当に頑張っているのに、そんな言い方ってないでしょう。みんな、本当に
がんばっているんだからね。……私だって……」

雄一「一生懸命頑張っていると言うのかい? 給料をもらえるからやっているだけだろ」

 ○下手に、今西登場。ただらなぬ様子(言い争っている)に気づき、傍の針葉樹の後ろに隠れ、事の成り行きを
    見守っている。

健二「雄一、そりゃあ言い過ぎだよ」

雄一「言い過ぎなもんか。……。大体にして、ここの施設長が気に食わない。あの及川っていうのは、大手都市銀行の
支店長を務めた男だったんだろう。なんでそんな優秀な男が、こんな辺鄙な田舎でグループホームをやっている
んだ。オレたちは、エリートの慰みものなのかよ」

銀子「そんな言い方ってないでしょう。慰み者だなんて……」
雄一「慰みもので悪けりゃあ、ケアハウスのゴクつぶしでもいいや」

銀子「酷い。いくら何でも酷すぎる。誰も雄一さんたちのことを、そんなふうには思っていないわよ」

 ○黙って様子を見ていた今西が、雄一の暴言に耐え切れなくなり、舞台の中央に進み出て、

今西「いつ施設長が、おまえたちを慰み者にした? いつ及川さんが、おまえたちをゴクつぶしと馬鹿にしたというんだ。
   及川さんはな……及川さんはなあ………及川さんはなあ……」


 ○今西、自分の抑えきれない感情に耐え切れなくなり、その場にひざまずき、雄一たちをにらみつけてしまう。
 

(BGM)字に染む声 幕間の曲

  第一幕     四景 施設長の過去。

 【出演】今西、銀子、及川、弥生
   
 ○上手に青空の里、談話室(小さな机が一つとパイプ椅子が二つあり、壁には風景画がかけてある。風景画の
脇には本棚があり、介護関係の本が本棚の中に置かれてある。下手には、回想部分に使用される及川家の玄関を
設置。(靴箱、傘立てなどが置かれている。)

(銀子、今西、板付きで上手の談話室内に登場。パイプ椅子に座っている。上手のみ照明を当てる。)

銀子「どうしたの、今西さん。今西さんらしくない……。あんなに怒って……」

今西「銀子さん……、親が自分の子供の顔を忘れると思うかい?」

銀子「親が子供のことを忘れる? そんなことあるわけないでしよう。親にとって、子供はいくつになっても大事な宝物。
   宝物を大事にしない親なんていないわ。親はいつも子供のことを思っているはずだもの」

今西「そう思うかい?」

銀子「ええっ……。違うの?」
今西「ここで施設長を務める及川さんの母さんは、病(やまい)に侵されてから経った二年で、及川さんのことをすっかり忘れてしまってしまったんだよ。顔も名前もな……。亡くなるとき、どちらさまかごぞんじませんが、どうもありがとう。あなたのこと一生忘れませんと言って息を引き取ったそうだ」

銀子「えっ? それってどういうこと。病って?」

今西「認知症だ。アルツハイマー型の認知症」

銀子「アルツハイマー……」

今西「最初は、ささいなことだったらしい……」

 ○上手、照明が消え、下手に照明が灯る。(下手、及川(当時52歳)と、及川の母の弥生が板付きで登場)
    弥生、玄関先で何かを探している。

及川「ただいま。(玄関で忙しく探し物を探している弥生を見て)母さん、どうした? なにを
   探しているんだい?」

弥生「お財布よ。どこにいったのかしらねえかえ~」

及川「財布? 財布なら、いつも仏壇の引き出しに中に入れているじゃあないか。引き出しの中、見てみたのかい」

弥生「見たわよ。見て、ないからこうやって探しているんだよ」

及川「他の所は? いくらなんでも玄関に大事な財布を置き忘れるなんてことないだろう」

弥生「探したわよ! 台所も、寝床も……。こんなとき愛子さん(及川の妻)がいれば、いいのにねえ~
   どこに行ったのかしら」

今西「愛子は、昨日から遠野に行っているだろう。父さんが入院したから看病するって」

弥生「そうだっけ?  ああっ、財布、財布、財布」

 ○弥生、財布を探し続ける。下手、照明が消え、上手に照明。上手には銀子と今西がいる。

今西「財布は、ズボンのポケットにいれていたんだよ。自分で入れておいて全然気づかなかったんだ」

銀子「それって……」

今西「その時は笑い話ですみ、及川さんは、母が認知症に罹っているとは、全然気がつかなかった。……
   おかしいと思い始めたのは、それから一ヶ月後のことだったらしい。いま言ったことを何度も繰り返して言ったり、
   約束したこと……、いいや約束したそれ自体忘れてしまったりしたんだ。そして夜になると……」

銀子「もしかして……外に出て、徘徊……」

今西「そう。認知症のことをよく知らない人は、意味もなく、徘徊してるっていうが、実は違うんだ。ちゃんと目的が
あってうろつきまわっているんだ。夕飯の用意をしなくちゃねといって外に出たり、薬をもらいにゆかなくちゃ
ねえといったりしてね……」

銀子「本人にとっては、ちゃんと意味ある事なのね」

今西「怖いのは、なぜ外に出てしまったか、忘れてしまうことだ」

銀子「そんなことってあるの?」

今西「ああっ、最初は目的があって歩き廻っても、途中で何をしているのか忘れ、ただ歩き回るんだ。銀子さん……
   年間何人のお年寄りが行方不明になると思う」

銀子「………」

今西「およそ一万人……。一万人のお年寄りが、住んでいる住所を忘れ、名前さえも忘れて行方不明になっているんだ」

銀子「悲しい話ね……」

今西「及川さんは、夜になると必ず玄関と母さんの部屋の鍵を閉めたのよ。何かがあったら大変だからね」

銀子「それで、お母さんの徘徊は治ったの?」

今西「治らないさ。少しも良くならず、家の中でも迷ったりするようになったんだ。たいした広くもない家の中でだよ」

銀子「ご家族の方は大変だったでしょうね」

今西「ああっ……。そんなある日な、外を歩いていた及川さんの母さんが、救急車で病院に運ばれたんだ」

銀子「なにが、あったの?」

今西「階段を踏み外して、脚の骨を折ったんだ。幸い現場に知り合いがいて、自分の名さえ思い出せない弥生さんの面倒を
診、病院まで運んだんだけれども……それから、ずっと寝たっきりの生活さ」

 ○上手、照明が消え、下手に照明。(下手、病室の風景。ベッドに弥生が横たわっている。ベッドの脇のパイプ
      椅子に及川がうなだれて坐っている)
      及川、病床の弥生の手を握りしめて……。

及川「母さん……、ダメじゃあないか……。独りで出て歩くなんて」

弥生「(じっーと、及川の顔を見つめて)どちらさまかご存じないけれど、心配してもらってありがとう」

及川「やだなぁ~僕だよ僕。貞夫だよ」

弥生「貞夫? 貞夫って?」

及川「息子の貞夫。母さん、自分の息子のこと忘れたのか。ふざけるのにも程があるよ」

弥生「どちらさまか知らないけど、本当にありがとう」

及川「僕だよ、僕、貞夫だよ!」

弥生「本当にありがとう。気にかけてくれて……」

及川「母さん……」

 ○上手(今西、銀子がいる)にも照明が灯る。

今西「親が自分の子供の顔を忘れる……」

 ○下手にいる及川、とぼとぼと歩き、舞台中央に進む。そしてさめざめと泣く。

銀子「私にも母親がいるけれど……。母さんが私の顔を忘れるなんて考えられない」

今西「大切しているかい?」

銀子「いつも喧嘩ばかり……」

今西「僕もそうだけど、なんで本当に大切しなくちゃあいけない人を、いつも粗末にするのかなあ……」

銀子「大切にしなくちゃあいけないのにね」

今西「及川さん、認知症に罹った母さんに対して、いつも怒っていたんだ。怒ちゃあダメなのに……。怒ちゃダメと
解っているのに……」

銀子「そっと優しくしなくちゃあねえ。相手は病人なんだから……」

今西「相手は病気なのに、なぜ怒ってしまうんだろうね……」

銀子「前にここにいたトラさんもよく愚痴っていたわ。オレにも認知症に罹ったおふくろがいてな、昔はよく喧嘩したもんだと……。あっ、特別な日って……。もしかしたら……」

今西「ああっ、トラさんがこの施設から去った日は、及川さんの母の命日だったんだ。及川さんは、毎年この日だけは、どんなことがあっても、必ず墓参りをする」

銀子「そう、母さんの命日だったの……」

今西「及川さんは言ってたよ。親に忘れられてしまった子供も辛いけれど……、子供を……自分が産んで育て上げた子供を……忘れてしまう親は、もっと辛いだろうなって……」

銀子「一番大事な思い出を忘れてしまうんですもね……」

今西「だから、今になっていうんだ。なんで、生きている時、大事にしてやれなかったんだろう。なんで優しい言葉ひとつかけてやれなかったんだろう。なんで、なんでもっと大切にしてやれなかったんだろう。……なんで、もっと……なんでなんで……もっと……」

 ○今西、及川の想いに打たれ、泣きじゃくる。言葉が続かない。
 ○舞台中央の及川にスポットライト。

及川「母さん、僕はいまでも思い出すんだ。アルバムを広げ、子供のころの僕を見て泣いていた母さんの姿を。本当にかわいい子供ね。でも、これっ本当に貞夫ちゃんなの? 本当に貞夫ちゃん? 貞夫ちゃんなの? 私なんにも分からなくなっちゃて……。本当に何も分からなくなっちゃって……。悪いかあさんだね、本当に悪い母さんだね。貞夫ちゃんのことが一番大切なのに……。一番大切な思い出を忘れてしまって……。貞夫ちゃん、私本当にダメな母さんだね。……そう言って泣きじゃくった母さんの姿を、僕はいつも思い出すんだ」

今西「母さんが亡くなった時、及川さんは、この青空の里を造り上げる決心をしたんだよ」  

及川「僕は誓うよ。母さんのような年寄りを出さないように、僕なりに頑張ってみるよ。僕にできることはそう
   多くはないだろうけれど、精一杯頑張ってみるよ。母さんのためにも、そして僕自身のためにも……」


(BGM)手のなる宝へ  幕間の曲



   第一幕  五景 合唱コンクールへの参加。

    【出演】銀子、雄一、健二、フク、静雄、トキ

 ○娯楽室。静雄、健二、雄一、フクが気怠そうにしている。

雄一「あんなに怒るとは思わなかった……」

健二「おまえが言いすぎるから……」

静雄「及川さんのこと酷く言ったんだってな」

雄一「ああっ……。むしゃくゃあしていたからな……つい……」

フク「つい、言い過ぎたっていうのかい。今西さんは及川さんのことを本当に尊敬しているんだ。尊敬している人のことを
   悪く言われたら、怒るのあたりまえでしょう。……だいたいあんた、この頃変よ。八つ当たりばかりして……」

雄一「八つ当たりして悪かったね。他に楽しみがないんでね」

フク「また、そんなことをいう。本当にもう~」

静雄「まあまあ落ち着いて、落ち着いて……」

 ○静雄が雄一、フクをなだめる。

健二「俺、雄一が八つ当たりする気持ちがわかるような気がする」

静雄「八つ当たりする気持ちがわかるって……」

健二「ああっ、考えてもみろよ。俺たちもう七十を過ぎた年寄りなんだ。物覚えは悪くなるし、たまに外に出かければ、若い者の足手まとい……それにな、オレ、医者に止められて、大好きな酒もあまり飲めなくなっちまった。……いったい何を楽しみに生きて行けばいいんだか……」

フク「だからって、人に八つ当たりしていいと思っているの」

雄一「おめえは、オレたちより若いから、そんなこと言えるんだ。七十八にもなってみろ。何をするのも面倒になって
  しまうから」

静雄「まあまあ、二人とも押さえて押さえて……」

雄一「静雄、おめえはどうなんだ? この前言ってたな。五十を過ぎてから体力が急激に落ちたって。俺、八十まで
持たないって」

健二「おめえ、そんなこと言っていたのか。そんなこと言ってて、よく新しい嫁さんもらえたなあ」

フク「静雄ちゃんは、愚痴ってもやることはやるひとなの。あなたたち二人とは違うの」

雄一・健二「なあ~にぃ!」

 ○銀子、下手より登場。なにやら不機嫌である。

銀子「なんであいつと遇うんだか……」

雄一「銀子さん、どうした?」

健二「便秘でもしているんか。顔色悪いぞ」

銀子「便秘なんかしていないわよ。失礼ねえ~」

フク「あいつって誰?」

銀子「……ここ富山商店と取引しているの?」

雄一「三郎が来たのか? 銀子ちゃん、三郎のこと知っているのか?」

銀子「昔、いろいろあってね……。雄一さん、七月に七夕祭りがあるけれど、どうするの? 参加するのしないの?」

雄一「参加してやるよ。七夕なんか飾っても、なんもおもしろくないけれどな」

銀子「嫌なら別に参加しなくてもいいのよ。ねえ~(フクの方を見て)」

フク「雄一さんが、参加しなくても会は盛り上がると思うし……」

雄一「オレがいなければ、しらけるだけだろうが」

銀子「健二さんは? 健二さんはどうするの?」

健二「俺か……」

フク「少しだけなら、お酒もでるわよ」

健二「お酒が飲めるのか……。じゃあ参加しよう」

銀子「静雄さんは? 」

静雄「トキさんが言うんだよな。二人きりで七夕の夜を過ごしたいって」

雄一「なんだよ、それっ……」

静雄「だって、いつも同じだろう。去年もおととしも短冊飾って、歌を唄って……やることはいつも同じ。それよりトキさんと過ごした方がいい」

雄一「七夕っていうのはそういうものだろう。短冊飾って、歌を唄って……。そうだよな健二」

健二「いいや、静雄さんのいうことにも一理ある。毎年毎年同じことをやってもな……。
    確かに、その時は楽しいけれど……」

 ○一同、長い溜息をつく。
 ○下手よりトキが登場。(何かあったらしく怒っている。手には一枚のチラシ)

フク「どうしたの、トキさん?」

トキ「どうしたもこうしたもないわよ。これ見てよ、これっこれっ」

 ○トキ、手に持っているチラシをみんなに見せつける。雄一、フク、健二、トキの周りに集まり、トキの手の中の
    チラシをつぶさに見る。静雄、ばつが悪そうに、こそこそと上手の方に逃げてゆく。

フク「市主催の合唱コンクール……。これがどうしたの?」

トキ「私もこの大会に出たいなぁ~と言ったら、静雄さんが……よせよせ、おまえさんの歌唱力でそんな大会に出たら
   笑われるだけだと言うの」

フク「そりゃあ酷い」

トキ「頭にきたから、ドアを思い切り閉めて来てやったわ」

 ○静雄、端に行ってしょげる。(SE)ドアを思い切り閉める音

銀子「(チラシをトキの手から取って)合唱コンクール……。誰でも参加できるのね。課題曲は『翼をください』か」
   
雄一「いい曲だよな……。あの曲は……」

フク「本当、いい曲。わたしも若い頃に良く歌ったわ」

健二「おめえがか……(フクをからかって)」

 ○フク、頭にきて、健二に詰め寄る。

銀子「まあまあまあお二人さん……。翼をくださいっていう曲、私も知っているわ。小学校のとき歌ったもの……。
   (銀子、手を叩き)いい考えがある」

トキ「いい考えって何? 銀子さん。まさか……」

銀子「そう、この合唱コンクールに青空の里で出るのよ。このA棟のメンバーだけでなく、B棟のみんなも
   仲間にいれて参加するのよ」

雄一「おいおい、いくらなんでもそりゃあ無茶な話しだろう。オレたちみたいなよれよれの年寄りが参加したところで…    
   …なあ~(健二の方を向いて)」

健二「トキさんじゃあないけど、笑われるだけさ」

銀子「なぜ、そう思うの?」

健二「なぜって……」

雄一「そりゃあ~」

銀子「歳をとって、身体がいうことを利かなくなったから?」

健二「バカ言え。まだまだ若いもんに負けられるかよ。身体だって、この通り……(健二、その場で屈伸運動をするが……)
   いてててって(腰を押さえて苦しがる)」

銀子「身体が衰えたって、声ぐらいだせるでしょう」

トキ「私はやるわよ。身体は衰えたかもしれないけれど、まだまだ気力は衰えていないわよ。やる気十分。歌ぐらい
  歌って見せるわよ」

静雄「トキさんの歌は聞き惚れるぞ」

トキ「さっきは、歌っても笑われるだけだと言ったくせに……」

 ○静雄、頭を掻く。

銀子「ただ、歌を歌うだけではダメ。どうせなら優勝しなくちゃあ」

健二「優勝って、合唱コンクールで優勝する気かい?」

銀子「そうよ、悪い?」

健二「悪くはないけれど……なあ(雄一の方を向き)」

雄一「合唱コンクールで優勝だなんて……」

銀子「優勝なんかできやしない……そう思っているんでしょう。なぜ、そう思うの?」

健二・雄一・フク・静雄「(互いに顔を見合わせて)なぜって、なあ~」

銀子「私、ここに来てまだ日が浅いけれど……みんなを見ててこう思ったの。みんなの心から挑戦する気持ちが
なくなっている。受け身の人生になっているって」

静雄「そりゃあ~歳をとれば、誰だって……」

銀子「誰だってなに? 頑張っても疲れるだけだからと思っているの? それじゃあ何も変わらないわよ。毎日毎日、むなしいなぁ~と言ってだらだらすごすだけよ。そんな人生でいいの? 世の中にはねえ、八十になっても九十になっても元気でジョキングしている人もいるのよ。四十二キロのマラソン大会に出る人もいるし……。絵や音楽で賞を取っている人もいるわ。その人たちとみんな、どこが違うの? 同じように歳をとり、同じように残りの人生を歩んでいるのよ」

健二「そんなこと言ったって……」

銀子「みんなに挑戦する心を持って欲しいの。大げさに言えば、苦難に立ち向かう勇気をね」

雄一「苦難に立ち向かう勇気?」

銀子「その勇気があれば、たとえ優勝できなくたって達成感というものが得られると思うの」

静雄「達成感かい」

銀子「ええっ思い出して。若い頃、夢中になってやったこと。やり終えたとき楽しくて楽しくて
   心がおどっていたでしょう」

雄一「心がおどるか……生意気なことをいいやがる」

静雄「確かに、若い頃は楽しくて楽しくてしょうがないときがあったな」

健二「いまは、おひなさま祭をやってもクリスマス会をやっても、楽しいとは思わなくなってしまった……。なぜだろう」

雄一「歳をとったからか……」

銀子「歳をとったからだなんて言わせない。さっきまだまだ若いもの負けられないと言ったでしょう」

健二「気力はあるんだが……」

銀子「気力はあるんでしょう。だから、挑戦するのよ。無茶だと思うことに挑むの」

フク「合唱コンクールねえ~ どうする?」

健二「俺は、参加してもいいと思う。静雄さんは?」

静雄「僕とトキさんは参加するよ。雄一さんは?」

雄一「興味ねえけど……みんなが参加するっていうのなら参加してやってもいい」

フク「またそんなこと言って、素直じゃあないんだから」

銀子「A棟のみんな、合唱コンクールに参加ってことで決まりね。早速、今西さんに言わなければ」

トキ「今西さんにい言ってどうするの?」

銀子「B棟のみんなにも声をかけてもらって、青空の里全員で合唱コンクールに参加するのよ」

一同「えl」(驚く)

健二「自慢じゃないが、俺はこれでも歌はうまい方なんだ」

雄一「このオレさまにかなうものか」

フク「はいはい、雄一さんは青空の里の郷ひろみだからね」

静雄「うちのトキさんもかなりうまいよ」

トキ「静雄さんもうまいでしょう」

静雄「トキさんにはかなわないさ」

トキ「まあ、そんなこと言って……」

  ○静雄、トキ、じゃれ合う。

銀子「(咳をして)明日から練習ってことで手配するわね。みんな頑張ろうね」

全員「おっおおっー」



     第二幕   第一景 不安と不信

   【出演】静雄、トキ、雄一、健二、フク、富山、瑠依、茜、銀子
       合唱曲の練習場面なので、エキストラとして市内の合唱団(1*)のメンバー(B棟の老人たち)に
       参加してもらいたい。
       (1*)釜石合唱団に限らず釜石混声合唱団、またそれに準じる団体でも可。

 場面、ケアハウス青空の里娯楽室(中央に置かれていた丸いテーブルとパイプ椅子は取り除かれている)
 静雄ら青空の里A棟のメンバーと、B棟のメンバー(エキストラの市内の合唱団)が課題曲を練習している。
 指揮をとっているのはトキである。(普段は銀子が指揮を執っているが、仕事ででているために、トキが指揮
 を執っている)トキの傍らに瑠依、茜がいて、椅子に座って様子を見ている。

トキ「いまのところ、もう一度。はい」

全員「♪この大空に~翼をひろげ、飛んで行きたいよー 悲しみのない自由な空へー 翼はためかせー」

トキ「ストップ! 全然ダメ。もっと情感を込めて」

健二「情感こめて歌えったって、どんなふうに歌えばいいの」

雄一「オレは、郷ひろみの歌ならなんでも歌えるけど……これはちょっとな」

フク「じゃあ歌ってみたら」

雄一「歌っていいのかい?」

トキ「ダメ! ダメに決まっているでしょう。瑠依ちゃんに茜ちゃん、聴いててどう? 心に響く」

瑠依「全然」(首を振りながら)

茜 「心に響かない」

トキ「ほら。子供たちも言っているでしょう。全然感動しないって」

雄一「そりゃあ~トキさんのせいだな。銀子ちゃんが指揮してたら、こんな結果にはならない」

トキ「私が悪いというの」

雄一「悪くはないが……。娘さんと、おばあちゃんとでは、力の入れ方が違ってくると思う」

トキ「まあ~ 悔しい。そりゃあ銀子ちゃんは若いし可愛いけれど、私だって……。そうでしょう、静雄さん」

静雄「そ、そうだな」

トキ「なんなの、そのためらいがちな言い方……静雄さん」

静雄「は、はい」

トキ「結婚してくれなきゃあ死んでしまうと言ったの誰だっけ」

 ○トキ、気弱な静雄に詰め寄る。

フク「もう、ダメでしょう二人とも。こんなところで夫婦喧嘩したら……。そういうわけで今日はこれで練習は
  おしまいね。いいでしょう、トキさん」

トキ「しかたがないわね」

 ○エキストラ(B棟の老人たち)下手より退場。
 ○上手より、三郎、登場。

フク「あら、富山商店さん、ここに来るなんてめずらしい。なんか用?」

 ○三郎、手招きして、フクを自分の傍らに呼ぶ。フクに耳打ちし……。

フク「えっ! 銀子ちゃんがレディースのボスで、公道をバイクでわがもの顔で走ってたって!」

 ○一同、銀子の意外な秘密に驚く。

雄一「どういうこと? 暴走族だったってことか?」

フク「三郎さんの話によると、銀子ちゃんは元暴走族のリーダーで手がつけられない悪(わる)だったんだってさあー」

健二「嘘だろ。銀子ちゃんが元暴走族だったなんて……」

トキ「(瑠依、茜に向かって)あなたたち、知っている?」

茜 「しらない」

瑠依「知らないけど……銀姉ちゃんは悪い人ではないわ」

トキ「そうよね。銀子ちゃん、優しいし……。ちょっと三郎さん、その話、確かなことなの?」

三郎「確かだよ。俺も銀子のやつに蹴りを入れられたひとりだからな」

フク「蹴りって、あんた蹴られたの」

三郎「回し蹴りをくらって、全治五日の怪我を負わされたぜ」

瑠依「うそっ~」

茜 「信じられない~」

三郎「嘘じゃあないよ。オレの他にもあいつにやっつけてられた奴は大勢いるんだ」

フク「やっつけられたって……、あんた男でしょう。悔しくないの」

三郎「銀子は空手三段。普通の男ではとうていかなわないよ」

雄一「空手三段か……オレも若い頃は……」

健二「雄一は、表千家を学んだんだよな。こいつ、男のくせに茶道だと。茶道と空手、全然べつのものじゃあねえか……」

雄一「なんだよ。男が茶道をやって悪いのかよ。だいたい茶道で有名な人はみんな男なんだぜ。千利休とか……」

トキ「はいはい、そこまで……。(三郎の方を見)あんた、なんでそんなことをわざわざ言いにきたの?」

三郎「なんでって言われてもな……」

フク「銀子ちゃん、言ってたよ。三郎とは昔いろいろあってねって……、なんなの? そのいろいろって?」

三郎「暴力で人をのしたという話しじゃあないのかな」

フク「暴力で人をのした?」

三郎「ああっ……。証拠だって、あるんだぜ」

 ○三郎、ポケットから一枚の写真を出し、それをみんなに見せる。

トキ「これっ、銀子ちゃん?」

瑠依「わあ~かっこいい。赤いライダースーツ、決まってるー」

茜 「このバイク、750(ななはん)というもの? よくわからないけれど……」

健二「これを見ると、暴走族っていうことは確かなようだな」

雄一「おいおい、バイクに乗っているからって、暴走族って決めつけることないだろう」

三郎「族だよ、族。銀子はな、紅(くれない)の銀玉とみんなに呼ばれて恐れられていたんだ」

雄一「ふう~ん、赤いライダースーツ着ていたから紅の銀玉か……。銀子さん、金子じゃあなくてよかったね」

健二「なんで?」

雄一「だってそうだろう。銀子ちゃんが金子ちゃんだったら、紅の金……」

健二「ばかっ! おかしな事いうな」

フク「銀子ちゃんが、暴力をねぇ~ ちょっと信じられないわね。トキさん、信じられる?」

トキ「信じられないけど……。空手の有段者ってことは確かよ。今西さん、言ってたもの。今度頼りがいのあるヘルパー
   さんが来るからって」

雄一「頼りがいがあるんじゃあなくて、野蛮なだけなんだろう。暴力に頼るっていうことはそういうことだ」

静雄「かんべんしてくださいよ。暴力沙汰は」

三郎「暴力沙汰は誰だって嫌なものさ。だから俺は教えに来たんだ。銀子には気をつけろってな」

トキ「わざわざここまで? いつもは勝手口にしか入らない人が、なんでまた?」

三郎「こ、これでも、世話になっているみんなのことを思っているんだ。このケアハウスは大事なお客さんだしな……」

 ○雄一、健二、静雄、トキ、フク、三郎に猜疑心の眼を向ける。

三郎「じゃあね。俺はこれで帰るから。バイバイ」

 ○三郎、上手より退場。

雄一「どう思う、みんな?」

健二「どう思うって言われてもな。ここに証拠の写真もあるし……」

フク「証拠って、バイクに乗っている銀子ちゃんの写真でしょう。これだけで暴力をふるっていたと言うことには、
   ならないと思うけれど……」

トキ「直接、銀子ちゃんに聞いてみようか?」

静雄「トキさん、よしてくれよ。トキさんに万が一のことがあったら、僕は生きてはいけない」

 ○トキ、静雄の想いに触れ、静雄の肩を抱く。

瑠依「おじいちゃんたち、銀子ねえちゃんより、あの人のこと信じるの?」

フク「いや、そういうわけじゃあないけれども……ねえ」

茜 「銀子ねえちゃんは、おじいちゃんたちのこと大切に……思っているのよ。銀子姉ちゃんがおじいちゃんたちに
   暴力をふるうわけないでしょう」

雄一「しかしなあ……空手三段だというし……もし蹴りでもいれられたら……」

瑠依「だから、銀子姉ちゃんがそんなことするわけないでしょう……。そんなこと言ったら、銀子姉ちゃんが
  可哀そうだよ」

 ○瑠依、泣き出す。

茜 「そうだよ。そんなことを言ったら銀子姉ちゃんが……銀子ねえちゃんが……可哀そうだよ……」
  
 ○茜も瑠依につられて泣き出す。
 ○銀子、下手より登場。

銀子「ああっあ~すっかり遅くなっちゃたわ。トキさん、私の代わりにやっててくれてありがとう。えっ?」

 ○銀子、辺りに漂ういいようもない不穏な空気に気づく。

銀子「どうしたのみんな、何かあったの?」

(BGM)今の果てまで 幕間から銀子の苦悩


   第ニ幕  第二景  銀子の苦悩。

  【出演】銀子、今西、瑠依、茜

  ○青空の里裏庭。銀子がベンチに腰かけている。溜め息ばかりついている銀子。元気がない。
  ○下手より、今西が瑠依と茜を連れて登場、

今西「いた、いたいた。談話室にいないと思ったら、やはりここだったか」

瑠依・茜「こんにちは」

 ○銀子、子供たちに声をかけられたのにも気づかない様子。

今西「どうした? 銀子さんらしくない。瑠依ちゃんと茜ちゃんが来ているんだぞ」

銀子「えっ? (三人に気づいて)いらっしゃい。よく来たわね」

今西「何か遭ったのか? 元気がなさそうだな」

銀子「別に……」

今西「歌の練習は終わったのか? いつもなら練習している時間だが……」

銀子「なかなか人が集まらなくてね……」

今西「集まらない? そりゃまたどうして?」

銀子「………」(下を向き、落ち込む銀子)

今西「銀子さん、しっかりしてくれ。君がそんなならまとまるチームも一つにまとまらんぞ」

銀子「でも……」

今西「なにが遭ったかしらないが、君の口癖はかなわぬ夢なんかないだろう。インターハイで叶えた空手大会優勝の
  夢は、君が努力をしてかなえた勲章なんだろう。だったら、このケアハウスでも老人たちの夢をかなえて
  見せてくれよ」

銀子「老人たちの夢……。おじいちゃんたちの夢ってなあに?」」

今西「なんだと思う?」

銀子「お金や物ではないと思うし……」

今西「もちろん、そんなものではない。そんなものにはもう興味なんてないさ」

銀子「じゃあ?」

今西「じゃあ?」

銀子「もしかして……」

今西「そう。彼らのことを思う銀子くんが日頃感じていることだ」

銀子「それって……。まさか……」

今西「いつも彼らを見て感じているだろう」

銀子「もう一度、若いときに感じたトキメキを取り戻したい。毎日満ち足りた気持ちで過ごしてみたい……
それが、それが……手に入れたい夢なの?」

今西「ああっ、口に出しては言わないが、必ずそう思っている。だから彼らに夢を叶える喜びを教えてくれ。たとえ優勝
   できなくてもかまいやしない。精一杯やる勇気を彼らに思い出させてくれるだけでいい。青春時代に感じた人生の
   喜びを、もう一度だけ彼らに思いださせてくれっ」

銀子「青春時代に感じた人生の喜びか……」

今西「誰にだって、輝いていた日々があったんだよ」

銀子「私……、やる。もう一度、みんなの心を一つにして見せる。心をひとつにして、おじいちゃんたちに青春の
   輝きをもう一度、思い出させてあげる」



(BGM)鷹が夢   幕間の曲



   第二幕 第三景  トラさん、遊びに来る!

  【出演】トラ、及川、雄一、健二、フク、トキ、静雄、銀子、三郎

  ○青空の里談話室。雄一、健二、静雄、トキ、フク、魂が抜けたような様子で、ぼんやりとしている。
  ○上手より、及川、トラが登場

及川「おーいみんな。トラさんが遊びに来てくれたぞ」

トラ「お久しぶり~みんな元気にしてたか」

及川「トラさん、遠いところわざわざありがとう」

トラ「いえいえ、またみんなと会えると思うと……。おめだち、今度合唱コンクールに出るんだって?」

 ○青空の里の一同、返事をしないでうつむいている。

及川「ん? どうした。合唱コンクールに出るんだろう」

トラ「おめだちも、俺と同じように耳でも遠くなったか……。合唱コンクール出るんだろう。出ないのか? ……フク、練
    習しているか」

フク「ええっ、まあ……」

トラ「健二、おめえはどうだ? 歌、歌えるのか?」

健二「歌ぐらい歌えるけどな……」

トラ「雄一さんは、歌うの得意だろう。なにせ青空の里の郷ひろみだもな。踊りながら歌ったりして……」

雄一「踊らないし……歌わねえよ」

トラ「歌わねえ? そりゃまあどうしてだ……。静雄さんにトキさん、おめえだちはちゃんとやっているんだべ」

静雄・トキ「ええっ……まあ……」

 ○下手より、銀子と瑠依、茜が登場。

銀子「トラさん、よく来たわね。遠いところ大変だったでしょう」

トラ「来ちゃあ悪いのかい」

銀子「そんなこと言ってないでしょう。瑠依ちゃん、茜ちゃん、トラさんに挨拶して」

瑠依「トラさん。よく来てくれました」

茜 「トラさんに逢えてうれしいです」

トラ「まぁ、この娘(こ)たち、本当にかわいいこと」

及川「銀子さん、合唱コンクールの練習、進んでいるかい? 銀子さんが指揮をとっているから大丈夫だと思うんだ
   けれども……」

銀子「そのことなんだけれども……」

及川「どうした? みんなで一生懸命練習しているんだろう」

銀子「ええっ……。まあ」

及川「練習していないのかい? 大会まであと十日なんだぞ」

 ○銀子、うつむく。

瑠依「おじちゃんとおばあちゃん、この頃、練習をさぼっているの」

茜 「頭痛がするとか、腰が痛くなったと言って」

雄一「仕方がないだろう。頭が痛けりゃあ歌なんぞ歌えんさ」

健二「この頃、腰痛が酷くてね……。俺は大会に出られないかもしれんな」

静雄「わしもこの頃……」

トラ「この頃、なによ」

静雄「この頃……神経痛がひどくなってな」

トラ「あん、神経衰弱だって。トランプならそこにいる子供たちとおやりよ」

静雄「いやいや神経衰弱でなくて……」

トラ「じゃあなによ。わたっしゃ耳が遠いんだからね。はっきりものを言ってちょうだい」

フク「トラさん」

トラ「なによ。あんたもまさか持病のリウマチが、ひどくなったとか言うんじゃあないでしょうね」

フク「そんなこと言わないわよ。ただ、わたしたちは……ねえ、トキさん」

 ○フクとトキ、意味ありげに互いにうなずく。

トキ「フクさんいいなよ」

フク「トキさんが言った方がいいって」

及川「どうした? なにが遭った。黙っていたら分からないぞ」

トキ「それじゃあいうけれど、銀子ちゃんが、元暴走族のリーダーだったって話、本当なの?」

トラ「なんじゃいそれっ。なんで銀子が元暴走族のリーダーになっているんだい」

フク「富山商店とこの三郎さんに聞いたのよ。昔はとんでもない悪だって」

トラ「はん? 三郎が言った? なによそれっ」

雄一「証拠だってあるんだぜ」
 
 ○雄一、懐から例の写真を取り出して、トラに見せる。

トラ「おやおや、これは銀子ちゃんの大学時代の写真だねえ~ この頃の銀子ちゃんは750(ななはん)をかっ飛ばして紅の銀玉と
   呼ばれたものさ。で、なんでこの写真が証拠になるのさ」

静雄「だって、女だてらにバイクになんか乗ってさ……」

トラ「女がバイクに乗っちゃあ悪いのかい?」

雄一「そんなわけじゃあないけれど……」

健二「三郎の話じゃあ、敵対する暴走族を、こてんぱんにやっつけていたらしいが……」

銀子「なによ、その敵対する暴走族って?」

フク「野郎どもの暴走族のことだろう。銀子ちゃんはレディースのリーダーで、派手に乱闘していたんだろう」

銀子「私、レディースのリーダーなんかじゃあなかったし、敵対する暴走族って誰のこと?」

健二「誰のことって言われてもな……」

トラ「あんたら、三郎の話、まともに受け取ったのかい」

雄一「違うって言うのかい?」

トラ「あきれた。……いいかい、よく聞きな。ここにいる銀子はそんな狼藉を働くような女じゃあねえぞ。
 銀子はガキの頃から優しい娘だったんだ。空手を始めたのも、苛められている同級生の女の子を守るため。
 自分から暴力をふるったことなんか一度もないわよ。バイクには乗るけど、決してつるんだりはしねえ。
 独りでバイクに乗って、山や海に行くだけさ。それをレディースのリーダー? 昔暴力事件を起こした? 
 なんでそんな話になってるの?」

健二「嘘だっていうのかい。じゃあなんで、そんな嘘を……」

トラ「はっはぁ~あれだ」

雄一「あれって、なに?」

トラ「三郎はねえ、昔銀子に頬を張られたことがあるのよ」

銀子「中学生の時にね、小学校の女の子を苛めていたから、思わず手が出ちゃったのよ」

トキ「じゃあ三郎さんは、そんな昔の事をいまだに根に持って、でっちあげをいいふらしたわけ」

トラ「そういうこと……。三郎の奴、密かに想っていた銀子に殴られたもんだから、その時はもう泣きわめいてね」

雄一「密かに想っていたあ~ ああっ、それで銀子ちゃんの写真を持っていたわけか」
   
 ○一同、真実に気づく。

トラ「中学の時に頬を張られたくせにね。つい最近まで想っていたんだからね。あいつは……」

雄一「するってーと、三郎の奴は、全然銀子ちゃんに相手にされないもんだから、嘘八百を言ったんだな。
   あの野郎めっ!」

トラ「あんたら、銀子のこと、本当に悪い奴だとおもっていたの?」

健二「そういうわけじゃあないけどな……」

トラ「じゃあ、どう思っているのよ。悪い奴だったと思っていたから、合唱の練習、さぼるようになったんでしょう」

及川「この頃みんなの様子がおかしい、と今西君から聞いていたけれど……。練習をさぼりがちになっていたと言うのは、そういう理  由があったからなのか。玉井さん、悪かった。施設長のわしがもっとしっかりしていれば、こんなことにはならなかった」

銀子「いいのよ。誤解は解けたみたいだし……」

及川「いいや良くない。早速、富山商店さんに連絡をとって」

フク「施設長、連絡をとってどうするつもりだい?」

及川「富山商店さんとは、取引をしないことにする」

 ○上手から、三郎、うろたえながら出てくる。(三郎は一部始終をドア越しに聞いていた)

三郎「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください!」

トラ「三郎!」

三郎「そ、そんなことになったら困ります」

雄一「困りますって……。ははぁ……。おめえ、話をそこで聞いていたな」

 ○三郎、大げさにうなずく。

三郎「謝ります。謝りますから、もう取引をしないだなんて言わないでください。そんなことになったら、おれ、オヤジにぶっ殺されます」

トラ「ぶっ殺されれば」

三郎「そんな殺生な……」

雄一「蹴りを入れられて、全治五日っていうのも嘘というわけだな」

三郎「はい。みんな嘘です。大嘘です。銀子のこと、憎らしかったもんだから……。つい……」

及川「この大馬鹿者! 銀子ちゃん、どうする? 私は許せないが、名誉を傷つけられたのは銀子ちゃんだ……」

銀子「ほんと、しょうがない男ね」

三郎「銀子。いや銀子ちゃん。銀子おねえさん。銀子大明神……どうか……」

銀子「いいわ、許してあげる。その代り……」

三郎「その代り?」

銀子「みんなと一緒に合唱コンクールに出てもらいます」

三郎「えっ? ええええっー 僕が合唱コンクールに」

銀子「嫌なの?」

三郎「いや、嫌っていうわけでもないですが……。おばあちゃんの遺言で合唱コンクールにだけは出るなと
   言われていて……」

及川「そういうことなら今月いっぱいで富山商店さんとは取引を……」

三郎「じょ、冗談ですよ。合唱コンクール参加します。精一杯やらせてもらいます」

トラ「精一杯やんなけりゃあ、ただではおかないからね」

三郎「はい」

健二「若いもんとやるのは、ちょいと気が引けるがこのさい仕方がない。よろしくな三郎」

静雄「頼んだよ、三郎くん」

フク「あたしらに嘘をついていたのは許せないけれど、銀子ちゃんがそういうなら許してあげる」

雄一「オレは嫌だぜ。嘘つきは泥棒の始まりっていうじゃあねえか」

トキ「雄一さん、そんなこと言わずに許してやってよ」

雄一「ふん!」

トラ「雄一! 銀子が許すって言っているのに何を言うんだい。ふざけたこと言ってると、このオレが許さないからね」

雄一「こわっっ~ わかった、わかったよ。嘘ついたこと許してやるよ。で、トラさんも、オレたちと一緒に歌ってくれるんだろう」

トラ「なぬ?」

雄一「だから、トラさんも合唱コンクールに参加するんだろう」

トラ「あん? なんだって」

銀子「トラさん、聞こえないふりをしてもダメ。補聴器買ったんでしょう。ちゃんと情報がはいっているんだから」

トラ「今西さんに聞いたのかい?」

銀子「そう」

トラ「しかたがない……。この俺も、青空の里OBとして一緒に歌ってやるよ」

銀子「そうこなくちゃあ」

及川「よし、新しい仲間も増えたことだし、後はその日まで全力で取り組もう。頼んだよ、銀子くん」

銀子「はい」



(BGM)音涯  幕間の曲

    
    二幕  第四景  見守る瞳

    【出演】及川、今西、瑠依、茜

 ○舞台袖(舞台上手袖に市民ホールと同じ観客席を作り、その観客席に及川、今西、瑠依、茜が座っている)

及川「今西くん、君の思った通りになったようだね」

今西「ええっ、彼女なら必ずやってくれると思っていました」

及川「銀子くんが青空の里に来るまで、残念ながら青空の里は行き場のない倦怠感に包まれていた。なにをやってもいまひとつ盛り上がらなかったのにな」

今西「いつもいつもみんな疲れはてたような顔して、愚痴ばっかりいっていました」

及川「そんなケアハウスに、若い娘さんが来て勤まるかと思ったんだが……。銀子くんは期待以上のことを
   してくれた。今西くん、君のおかげだよ。君が銀子くんを私に紹介してくれたから」

今西「施設長。私など何の役にもたっていません。施設長の人を見る目が銀子くんを……みんなを、ここまで
   成長させたのです」

及川「今西くん……」

今西「施設長……」

瑠依「次でしょう。銀子姉ちゃんたち」

今西「くじ運が強いのか弱いのか良く分からないが、大トリでの登場……。うまく歌ってくれよ」

茜 「大丈夫だよ、銀子ねえちゃんたちなら」

今西「そうだね、茜ちゃんや瑠依ちゃんがここでみまもっているんだものな」

瑠依・茜「うん」

及川「さあ、はじまるぞ」


   二幕 第五景  大空に向かって!

 【出演】銀子、静雄、トキ、フク、トラ、健二、雄一、三郎と、B棟の老人たち(市内の合唱団)

  ○舞台に階段状の(二段)檀上を置き、その上に青空の里合唱団が立っている。
   (一段目にエキストラ、二段目に静雄らの主要メンバー)

   『翼をください』 作詞・山下路夫   作曲・村井邦彦

   いま私の願いごとがかなうならば翼がほしい
   この背中に鳥のように白い翼つけてください
   この大空に翼をひろげ飛んでゆきたいよ
   悲しみのない自由な空へ翼はためかせ
   ゆきたい

   いま富とか名誉ならばいらないけれど翼がほしい
   子どものとき夢みたこと今も同じ夢に見ている
   この大空に翼をひろげ飛んで行きたいよ
   悲しみのない自由な空へ翼はためかせ
   ゆきたい

 ○歌い終わった後、壇上から雄一が、よろめきながら降りてくる。

雄一「おっう、おっうう」(嗚咽を漏らしている)

     (BGM)~素(そ)意(い)寝(ね) 雄一が泣き始めると一緒に入る。

健二「どうした、雄一」

  ○健二と静雄が、雄一の後を追い、檀上から降りてくる。

静雄「笑ってたって、なにも始まらないぞ」

 ○フクとトキも檀上から降りてきて、雄一を見守る。

雄一「笑っているわけじゃあなねえ。笑っているわけじゃあねえ……。誰が笑うもんか……オレは……」

フク「雄一さんは、笑っているわけではねえぞ」

トキ「笑っているわけじゃあない。どちらかというと……」

トキ・フク「泣いている」

健二「こりゃあ~たまげた。いつも格好ばっかりつけている雄一が泣いているなんて」
    
 ○檀上から三郎と、トラも降りてきて、雄一を抱きかかえる。

三郎「驚いた。この爺さん、本当に泣いていやがる」

トラ「泣いたってしょうがないのにねえ~ 雄一さん、泣いちゃあいけないよ」

雄一「バカ野郎! これが泣かずにいられるかい。おめえらには心っていうものがねえのかい」

トラ「心? 心ぐらいあるわよ。ねえトキさん」

トキ「心はあるわよ。私にだって……」

雄一「心があるのなら、心が叫んでいるだろう。泣きたい泣きたい、思い切り泣いてしまいたいって」

トラ「だから、なんで?」

雄一「なんでって? かっー だからおまえは嫁さんと喧嘩ばっかりしているんだ。この俺たちの歌を聴いて
   お客さんが、こんなに拍手をしてくれたんだぞ。このしょぼくれたれオレたちにな。これが泣かずにいられるかい。
   静雄、そうだろう? おまえだってそう思うだろう」

静雄「そりゃあ~そうだろうけれど……(静雄も泣き始める)」

 ○中央で指揮をとっていた銀子、皆の様子を見て、いたたまれなくなり、そそくさと下手より退場。

健二「この舞台に立った時から、俺はもうダメだった……。若い頃の感情が蘇って来て……(健二も泣き始める)」

フク「あたしもそう……。最初合唱コンクールなんてってバカにしていたけれど……」(フク、ぐずりだす)

トキ「楽しかった……。歌ってて本当に楽しかった。もう一度こんな気持ちになれるなんて」(泣き声で)

雄一「心が……心が踊っていたんだよ。若い頃みたいに心が踊っていたんだ」

健二「夢中になれた……。もう夢中になることなんかないと思っていた俺たちがだ……」

フク「夢中になって歌をうたっていたのよね」

雄一「そうだよ。もうこんな気持ちなんかになることがないなと思っていたのに……」

健二「雄一……」

  ○雄一、健二と抱き合う。

フク「わたしたちにだって、まだできることがあるのね……」(溢れ出す涙を拭きながら)

雄一「おう、オレたちだって人に感動を与えることができるんだ」

トキ「銀子さん……。すべては銀子さんのおかげよ」

健二「銀子さん……。あれっ、銀子さんは?」

  ○老人たち、舞台から消えた銀子を目で探し求める。


      第二幕 六景  希望を胸に

    【出演】銀子

 ○舞台下手のそでに銀子登場。舞台にいる仲間たちを見守り、

(BGM)トランペットはご機嫌斜めより ~翼をください。



銀子「人は誰でも心の中に、見えない翼をもっている。大きな翼や小さな翼。これから羽ばたこうとするまだうまれたばかりのかよわい翼。……大きな翼は、人を優しさで包み込む翼。小さな翼は、人と人を結びつける絆の翼。そして、はばたこうとする翼は、希望という名の夢の翼。……翼の中には、ささいな嘘に傷ついてしまった翼もあるだろう。夢破れ、はかなく折れてしまった翼もあるだろう。けれど、ささいな嘘に傷ついた翼は、人のぬくもりで温めればいい。夢破れ折れてしまった翼は、愛することを教えればいい。人を愛する喜びに気づくとき、再生の輝きを放つことだろうから。……人は誰でも、心の中に見えない翼を持っている。あなたも、わたしも……そして……」


  ○銀子、ステージ上の青空の里のメンバーを愛しそうに見つめる。
   ステージの照明が消え、次に銀子を照らす照明が消え、緞帳が降りる。


                 完
    
*「心に翼を!~」 を執筆するにあたって参考にした主な文献。
  認知症ネット    ………インターネット
  人は、なぜ老いるのか………インターネット
  認知症「不可解な行動には理由がある」 ………SB新書
  認知症高齢者グループホームとは?   ………インターネット
  ケアハウスという暮らし方       ………社会福祉法人 東京都社会福祉協議会
  
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             【当時のポスター】

   

    






   

   
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