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自作小説

愚痴る!? 15

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  愚痴る!? 警備員宗一郎 殺人事件に巻き込まれる

                  15、

「早いものね、幾代ちゃんたちが、ここで働くようになってから、もう、一ヶ月経つわ」
 大手警備会社K支店の事務室で、明美さんが言った。
「なんだかんだいって、もう、一ヶ月。身体の具合もいいし、ストレスもない。う~ん、絶好調」
 と、幾代が応える。傍らで、妹の幸子が「うん、うん」とうなずいていた。二人とも、だいぶ、この仕事になれてきたようで、気分爽快、万事良好と言ったところだろう。その気分爽快の幾代ちゃんと、幸ちゃんの目の前に、明美さんがいて、明美さんから少し離れた所に洋子さんがいた。洋子さんの隣で、張り切りおじいさんの佐藤さんが、笹岡になにやら薫陶しているが、佐藤さんのあの尊大な性格で、人を薫陶できるのかと、頭を傾げてしまう。薫陶されている笹岡は、ニヤニヤと笑って誤魔化しているが、腹の中では、いいかげんにしてくれないかなあ~も~うと、呆れてしまっているに違いない。つきたくもない長いため息を何回もついていた。笹岡の、ちょいと横で、相沢さんと東さんは、出されたお茶をすすってくつろいでいるが、出されたお茶が、おいしくないのだろう。二人とも苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。宗一郎はというと、流姉妹の妹の方、幸ちゃんと、昔呼んだことのある推理小説の話をし始めていた。
 月曜日の午後六時半。派遣先の現場から戻った大手警備会社K支店の従業員たちは、なんとなく、事務所で、暇を持て余していた。仕事先から戻ってきたならば、家にでも早く帰ればいいのに、家に帰っても、特にやることが無いのだろうか。いや、人である以上、何かやることがあるはずだ。好きな音楽を聴いたり、夕食の用意をしたり、お風呂を沸かしたり……。やることは、たくさん、あるはずなのだが、家にも帰らずに、事務所で油を売っている。よほど、ここにいるのことが気持ちがよいのか、それとも……。そう、若い女の子たちと一緒にくつろいでいた方が家で、ぼーっとしているより数倍もいいのだろう。笹岡なんかは、さっきから横目で、チラチラと、幾ちやんと幸ちゃんのことを見ていた。
「それじゃあ、洋子さんと幸ちゃんは、明日は北野ダイカストに行ってもらうからね」
 と、明美さんが言う。
「北野ダイカストって、隣のL市の工場でしょう」
 幾代ちゃんが言った。
「そう、その北野ダイカスト」
 北野ダイカストは、アルミニウムやマグネシウムを扱う金属加工の会社である。L市の郊外に敷地面積五万坪ほどの工場群と、白亜の三階建てのビルがあり、二年前には、敷地内にサプライヤ集積工場として、各業種の棟がいくつも建設された、県内でも有数な大企業だ。L市が、いま最も期待をかけている会社なのだが、K市に住む宗一郎たちから見れば、L市のド田舎に、そんな大きな工場を建てやがって、どうせなら、不景気で落ち込んでいる、このK市に立地してくればいいようなものをと、やっかみをいれたくなる。人口減で苦しいのは、K市もL市も同じなのだが、住んでいるK市に愛着がある宗一郎たちは、やはり、K市をひいきにしたいのだ。
「でもよ、ひさしぶりじゃあねえか。ダイカストからのお呼びは」
 佐藤さんが言った。
 一年ほど前に、佐々木さんは、笹岡、東、それと、亡くなった西田とともに北野ダイカストに行ったことがあった。その時は、工場の増築のために伴う、資材運搬の交通誘導の仕事だった。
「行ってみるとよ。なんもねえ野原にでっけい建物が建っているのよ。熊や狸が出そうな山の中にだぜ」
 佐藤さんが、当時を思い出したようで、鼻をこすっていた。
「あれは、ちょっと壮観だったな。ド田舎のイメージしかないL市に、近代的な工場とガラス張りの白亜のビルだ。まるで、東京にでも来たような感じだった」
 笹岡にも、それなりのインパクトを与えていたらしい。得意になって言う。
「洋子さんと、幸ちゃんだけでいいのかい? 北野ダイカストに行くのは?」
 佐藤さんが、うらやましそうに言う。最近、佐藤さんは、町中のごみごみした場所でしか仕事をしていない。乱雑に散らかった場所で道路警備の仕事をしていると、気晴らしに山の中の広大な自然の中にある現場で、思い切り仕事をしたいのだろう。「オレも加えて欲しい」というばかりに、懇願の視線を明美さんに送っていた。
「そんな目で見ても、ダメよ。一日で済む仕事だし、先方から二人でいいと言ってきているのよ」
「でも、なんで、洋子さんと幸ちゃんなんですか? 洋子さんは、パート・タイマーだし、幸ちゃんは入社して、まだ一ヶ月目でしょう?」
 と、笹岡が言う。
「洋子さん、前に北野ダイカストで働いたことがあるのよ。北野ダイカストには知り合いを多いし、現地に行っても迷うことないと思うわ。そうよね、佐藤さん」
 話を向けられた佐藤さんは、罰が悪そうに頭を掻いた。後で聞いた話によると、前に北野ダイカストに、佐藤さんが行ったとき、道に迷ったというのだ。
「じゃあ、幸ちゃんは? なんで、幸ちゃんと洋子さんを組ませるの? さっきも言ったけど、幸ちゃんは、まだ、入社して一ヶ月目だし……」
 笹岡が、再び、問う。
「一ヶ月経って、仕事になれたでしょう。いつも姉さんと一緒じゃあ、覚えなけりゃあいけない仕事も、覚えられないわよ。何事も経験よ」
「それは、そうだけれども……」
 笹岡は、幸ちゃんと一緒に、北野ダイカストに行きたいのだ。そりゃあ、そうだろう。笹岡は若いのだ。いつも、くたびれた中年のおじさんや、気ばかり若い、しわくちゃのおじいさんと仕事をしていると、ストレスがたまるらしい。たまには、若い女の子と、一緒に仕事をしたい。顔にそう書いてある。
「洋子さん、ダイカストで働いていたっていうけれど、K市からL市まで通っていたの?」
 宗一郎が、聞いた。
 隣のL市は、K市の隣といっても、険峻な峠を越えなければ行けない所にある盆地の市だ。車で一時間ほどかかる距離なのだが、急勾配と曲がりくねった箇所が多くある、通称ワイデイングロードを通らなければならず、雪が降ったり、豪雨の時などは、神経をすり減らしながら通わなければならない。雪が積もると、ズルズル滑って、峠を登れなくなるし、豪雨の時は、雪崩のような雨水が、山肌から流れてくるのである。
「洋子さんはね、ちょっと前まで、L市に住んでいたのよ。家庭の事情で、旦那の実家があるK市に来たの」
 明美さんが応えた。
「K市に引っ越してきたから、北野ダイカストを辞めたわけか……。それとも、北野ダイカストを辞めたからK市に引っ越してきたとか……」
「まあ、そこらへんは、よくわかんないけれど……。K市からL市に通うには負担がかかるしね……」
 明美さんは、そこで、言葉を句切り、
「洋子さん、十年近く、北野ダイカストにいたから……幸ちゃん、現地に行ったら、洋子さんの言うことをよく聞いてね」
 と、言った。
 幸ちゃんは、「はい」と返事をしていたが、不安を隠せないようである。しきりに、姉の幾ちゃんに目配せを送っていた。
「それで、十全さんと、幾代と佐藤さんは、市内の田良町でのトキメキ・ハウスの新築工事現場での仕事に行ってちょうだい」
「トキメキ・ハウスの新築工事!? それって、例のプレハブ工法っていう奴」
 佐藤さんが、目を細めた。
「そうじゃないの。トキメキさんだから」
 トキメキ・ハウスの新築工事現場の仕事は、ユニット系プレハブ工法で作ったキッチンセットなどの箱形ユニットを、現場で、安全に設置するために、交通誘導などの警備をする仕事である。
 家が新しく建つ過程は、見ていて楽しい。特にユニット系プレハブ工法で作ったベッドルームやキッチンセットなどがクレーンにつり上げられて、所定の位置に、きっちりと、はまるのを見ていると、合体ロボが合体したようで愉快になる。とにかく、みていて面白いのだ。
「十全さん、気をつけろよ。こいつはよう、人や車が行き交う交通量の多い場所を、十全さんに押しつけるぞ。それでいて、自分はプレハブ工法で、できあがってゆく家の前で、警備をする。警備しているんだか、観光をしているんだか、わからねえけれどな」
 いつの間にか、帰ってきていたのだろうか。宗一郎の隣で、飯田さんが、なにやら悪口を言っていた。
「なんだ、てめえ~ オレの警備にイチャモンつけようって言うのか」
 佐藤さんが、反撃する。
「飯田さん? 戻ってきてたの。D市から、こんなに早く? 移動するだけで、二時間半かかるから、現場での仕事が終わったら、直接、家に帰ってもいいからっていったわよね」
 明美さんが、言った。
「何か問題があったらしくて、早めに、終わったんだよ。だから、早く帰れたわけ」
 飯田さんが、そう応えると、
「問題!? おめえが起こしたんだろう。おめえが」
 と、佐藤さんが食ってかかった。
「なに、言ってけっかる。このオレが問題を起こすわけねえだろう」
 飯田さんが、つばを飛ばして、わめいた。
 しょうこにもない。何度もいうけれど、この二人は、犬猿の仲というか、前世で敵同士だったのではないかと思われるほど、仲が悪い。逢えば、必ずといっていいほど喧嘩をする。
 見てみていないふりもできないので……。
「二人とも、止めなさい!」
 と、明美さんが一喝した。

                = その16に続く =



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