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自作小説

愚痴る!? 17

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    愚痴る!? 警備員宗一郎 殺人事件に巻き込まれる

                          17、

 喫茶・軽食「若葉」は、宗一郎が住んでいる中南町の隣、林町にあった。宗一郎の同級生が経営している店で、宗一郎は、同級生のよしみで、時々、ここに訪れては、とりとめもない話をして、飯を食べている。
 今日も、腹が減ったので、夕飯を食べに来ていた。
 独身の気楽さか、気が進まないとき、ここ「若葉」に来て、晩ご飯をいただく。晩ご飯ぐらい、自分で作って食べろよと、マスターに、冗談半分で、からかわれるが、一人で家にいても、話し相手もいないし、テレビを見ても、面白いテレビ番組などやってはいない。かといって読書する気にもなれない時がある。そんな気分で、だらけている時は、「若葉」に足を向けるのだった。
「落ち着いたのか?」
 深緑のドロップ型カウンターチェアの上に座っている宗一郎に、この店のマスターが、声をかけた。
「やっと、落ち着いたかな……。幾ちゃんも、明日から来ると言うし……」
 左頬に手のひらを当て、首を曲げて、宗一郎が、安心したように言う。
「幾ちゃん!? 幾ちゃんって、亡くなった幸子さんの姉さんだろう。明日から、働くっていうのか?」
「妹さんが、亡くなったんだ。まだ早い、もっと、休んでいた方がいいのにと言ったのに、働いていていた方が、気が紛れるって言うんだ」
「気が紛れるって……。妹の幸子さんは、警備の仕事の最中に亡くなったんだろう。それなのに、また、警備の仕事をやるのか」
「ああっ……」
 宗一郎は、昨日の葬儀の様子を頭に浮かべた。言うまでも無いと思うが、幸子の死に、両親は夜に漂うカゲロウのような状態で、意気消沈していた。姉である幾代は床に伏せっていて、葬儀には参加できなかったらしい。耐えがたい悲痛が、彼女を打ちのめしていたと思うのだが、その幾代が明日から働くという。そうとう無理しているのだろう。
 宗一郎は、明日は、なるべく幾代の顔を見ないようにと、心に思った。
「おっ、洋子だ」
 マスターが、ウインドウ越しに、表を歩く洋子さんを、見つけた。
「えっ、洋子さん?」
 宗一郎は、振り返った。見てみると、市道を挟んだ歩道上を歩いている洋子さんの姿が見えた。赤いハンドバッグを小脇に抱え、けだるそうに歩いていた。
「大方、パチンコでもやって、負けたんだろうが」
 マスターが、皮肉に笑う。
「あの人、パチンコやるの?」
 宗一郎が、聞いた。
「ギャラガの洋子っていえば、この辺じゃあ有名なパチンカーよ」
「ギャラガの洋子ね……」
 ギャラガというのは、K市で一番大きなパチンコ店である。K市には、三つのパチンコ店がある。五年前までは、五つのパチンコ店があったのだが、人口減とともに二つのパチンコ店が潰れ、大きなパチンコ店だけが残った。ギャラガは、その残ったパチンコ店では最大級のパチンコ店で、客入りも多い。
「ギャラガの洋子って、まるで、ギャラガの主みたいじゃあないか」
 宗一郎が聞く。
「主、みたいなものさ」
 マスターが応えた。
 夫がギャンブル狂で、そのために苦しんでいるはずの洋子さんが、実はパチンカーであるということ自体、信じがたいが、ギャラガの主とさえ、言われているとは知らなかった。本当かどうか、知る由もない。が、気心が知れた「若葉」のマスターが言う話なら、本当のことなのだろう。なぜ、主と呼ばれているか? その問いは、とりあえず置いておいて……。..
「旦那さん、仕事、見つかったの? なんにもしないで、ブラブラしていると聞いたが?」
 と、宗一郎は、聞いて見た。
「旦那か……。いまも、ブラブラしているという話だ」
 マスターの話によると、洋子さんの旦那は、ほぼ毎日、パチンコ店「ギャラが」に来店していた。定職もない身で、パチンコなどやっている身分じゃあないと思うが、パチンコだけは止められないらしい。
「家に置いていた、わずかなお金をつかってパチンコをするから、洋子のやつ、とうとうキレてしまって、ギャラガの中で大喧嘩」
 と、マスターが、あきれかえったように言った。・
「店内でか?」
 宗一郎が、眉をしかめる。
「ああっ、止めに入った店長を、押し倒す、パチンコ台のガラスを叩き壊すの大騒ぎ」
 「ギャラガ」の店内で、パチンコをしていた四十過ぎのくたびれた男が、突然、背後からどつかれる事件があった。男をどついた女は、男の頭を両手でつかみ、パチンコ台に頭を打ち付けた。騒ぎを聞きつけた店員が止めに入ると、悪態をつき、おっとり刀でやってきた店長を、どつき倒したらしい。
「警察は? 警察が呼ばれたんだろう?」
 宗一郎が聞く。
「いやいや、そんなことをしたら、やれ現場検証やなんやかんやで、店を一時的に閉めなくちゃあいけなくなるだろう。店は満員の客で、あふれかえっていたんだぜ。そんなことできるわけないさ」
「すると……。別室に連れて行かれて……」
 言うまでも無いと思うが、パチンコ店には、店員が休む休息所がある。ギャラガの場合、出玉と景品を取り替えるカウンターの中に、その出入り口があり、その休息所に洋子さんが、連れて行かれて、懇々と説教を食らったらしい。
「連れて行かれて、説教と損害賠償を請求されたというわけさ。警察には通報しないで……」
 「若葉」のマスターは、その場にいたかのように言った。
「損害賠償って言ったって、洋子さんには、お金がないだろう」
「ない、全然ない」
「じゃあ、賠償できないわけだな。それなのに、なぜ、警察にも通報されないで許されたわけ?」
「ギャラガの店長はな、洋子の兄貴なんだ。身内っていうことで許されたんだろう」
「えっ! 洋子さんの兄貴って、ギャラガの店長なんだ」
 市内で一番大きいパチンコ屋の店長ならば、それなりの給料を、もらっているはずだし、オーナーにも顔が利くはずだ。洋子さんが出した損害は、兄であるギャラガの店長が、立て替えたのだろう。
 透き通るような綺麗な鐘の響きを鳴らして、軽食・喫茶「若葉」の、木目調のドアを開けて、客が店の中に入ってきた。
「この店、ドアベルの音だけは、爽やかなんだから。マスターは、いまいちだけれども……」
 そう、悪態をついて「若葉」の店内に入ってきたのは、洋子さんだった。洋子さんは、店に入るなり、つかつかと歩いて、一番奥の窓際のボックス席に座った。
「コーヒー」
 つっけんどんに注文をする。
「コーヒーだけでいいのか?」
 マスターが聞く。
「ただで食べさせてくれるなら、スパゲッティでも、もらおうかね。大盛りで二皿」
 喫茶店にきて、ただで食べさせろとはどういう神経をしているのだろうと、宗一郎が眉間にしわを寄せると、
「冗談よ。このごろ太ってきてさ。身体が硬いのよ。だから、今日はコーヒーだけでいい」
 コーヒーを飲むと、痩せて、身体が柔らかくなるとでもいうのだろうか? 洋子さんは、大きなあくびをして、こちらを向いた。
「ん!? 十全さん……。十全さんじゃないの。奇遇だわね。こんなところで会うなんて」
 洋子さんは、カウンターに座っている宗一郎に、声をかけた。

              = その18に続く =

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