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自作小説

愚痴る!? 18

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   愚痴る!? 警備員宗一郎 殺人事件に巻き込まれる

                      18

「この店、よく、来るの?」
 こんな店によくくるわね~えと、言いたげに、けだるそうに言う。
「この店、コーヒーは、それなりにうまいけれども、サービスがいまいち」
 洋子さんは、マスターをジロリと見た。
「よく、言うよ。このまえも、ただで、コーヒーを飲んだくせに」
 と、マスターが言って返す。
「えっ! 喫茶店に来て、コーヒーをただで飲んだんですか?」
 宗一郎は、片手に持っていたコーヒーカップを、落としそうになった。
 他の喫茶店では、友人や知人に、ただで、コーヒーぐらい、ごちそうするときもあるらしいが、「若葉」のマスターは、そういうことは一切しない。きちんと仕事と遊びの区別を、つけている。宗一郎さえ、ただで、コーヒーをごちそうされたことはないのだ。
 繰り返して言うが、喫茶・軽食「若葉」のマスターは、宗一郎とは同級生で、言わなくても言いたいことが、お互いに分かっている、いわゆるツーカーの仲である。若いときはよく飲みに行ったり、酔っ払ってバカな真似をして、ブタ箱で、共に一夜を過ごしたり、腹が空いてどうしようもないときは、金に余裕があるほうが、お金を出して、飯を食べて、バカ話をした仲なのである。
 莫逆の友。と、言ったら、ちと大げさだが、その莫逆の友にさえ、マスターは、ここ「若葉」では、そういうサービスをしない。それなのに、洋子さんだけに、コーヒーを無料で飲ませたなんて……。
「パチンコ、負けただろう」
 マスターが、洋子さんに聞く。
「パチンコなんか、やんないわよ」
「嘘をつけ。 パチンコ屋に通っているという噂だぞ」
「パチンコ屋に通っているわけじゃあなくて……見回りをしているのよ。ギャラガの店内を」
「まだ、旦那さん、ギャラガでパチンコをやっているのか?」
 洋子さんの旦那が、ギャンブル好きということは、マスターも知っているらしい。洋子さんが、ギャラガの見回りを、する理由は、旦那さんに、パチンコをやらせないためなのだ。
「あのバカ。今度、パチンコやったらギタギタにしてやるわ」
 洋子さんが、そう言うと、
「また、パチンコ台に頭を、ぶちつけるのかい?」
 マスターが、呆れたように、顔をしかめた。洋子さんは、洋子さんで鼻息荒く、拳を握りしめている。洋子さんの旦那が、もし、洋子さんの目の前で、パチンコをやったら、殺されそうな気配だ。
(こんなに激しい性格だったのか……)
 宗一郎は、欲求不満の塊のような洋子さんの態度に、少し、驚いた。
 大手警備会社K支店にいる時の洋子さんは、どちらかというと、控えめな性格に見えた。事務員の明美さんと、いつ終わるかも分からない果てしないおしゃべりをして、憂さを晴らしているようだったが、夫の頭をつかんで、パチンコ台に打ち付けるようなキツイ性格だとは、思ってもいなかったのである。それが、ここではこだ。鬼のような形相を見せて、口から火を吐くような勢いで、憤慨しているのだ。
「昨日、刑事が来たけれど……おまえ、何かやったのかい?」
 マスターが、洋子さんに訊く。
「ここに、来たの? しつこいのね、L市の警察って」
「いいや、ここに来たのは、L市の警察じゃあない。自分たちは県警の警察だがと、言っていたぞ」
「県警の刑事が、なぜ、ここに来て、私のことを聞くのよ?」
 洋子さんは、目を大きく見開いた。
 L市での北野ダイカスト爆発事故の時、現場にいた大手警備会社K支店の従業員は、洋子さんと、幸ちゃんだけだ。幸ちゃんは爆発事故に巻き込まれて亡くなったが、洋子さんは、かすり傷程度で済んだ。なぜ、同じ現場で、同じような仕事をした二人が、一方が死亡し、もう一方が、かすり傷程度で済んだのか、洋子さんは、その時の状況を、L市の警察に、執拗に訊かれたらしい。
「大方、事故のことを訊きに来たんでしょう。事故のことなら、L市の警察に、キチンと話したのに……」
 洋子さんは、額を左手で、ボリボリ掻いた。
「いや、L市で起きた爆発事故のことじゃあなくて……」
 と、マスターが、言う。
 宗一郎の携帯電話が鳴った。
「はい、十全ですが?」
 携帯電話から、明美さんの声が聞えてきた。
「えっ! 今からですか?」
 宗一郎が眉を寄せる。
「大事な話なんですか?」
 明美さんは、日曜日の、この時間帯に、大手警備会社K支店に来てくださいと言っていた。普段の日曜日は、会社は休みだ。明美さんは、休みなのに出勤しているらしい。
「誰だ? 誰からの電話なんだ」
 マスターが訊く。
 電話口での明美さんの話によると、亡くなった西田と幸ちゃんのことで、宗一郎に話したいことがあるらしい。日曜日の、この時間帯に大手警備会社K支店に呼び出すとは、よほど大事な話なのだろう。宗一郎は、用心して、マスターの問いには応えず、マスターに飯代を払って、喫茶「若葉」を後にしたのだった。


                    = その19に続く =




sぃ
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