自作小説
「その名はポチ! 」 (第29回)
その名はポチ! (第29回)
ポチ、大ピンチ!
このままキィーキィーキィーの美智子の手によって八つ裂きにされるのであろうか。いや、ポチは、実は物凄く強くて、美智子を翻弄し、反対にやっつけてしまうかもしれない……。いやいやいや、やはり、それはないと思う。
美智子の手がポチに迫った。
その時……。
ポチは笑った。
人間のように目を細め、えくぼを作り、首を斜め四五度にして微笑んだのであった。
「えっー ええええっつー」
ポチの魅力的な笑顔に、美智子が振り上げた手を、思わず、下に降ろした。
(な、な、なんなんだ。これは……)
美智子の力が抜けた。
「どうした。美智子」
「こいつ……。笑いやがった」
「笑ったって? おめえ犬に笑われたのか。犬に笑われるようじゃあ、おめえもおしまいだな。どれ、あたいが、やってやる」
「やめようよ……」
「やめろだと! なんだ、おめえ、犬に笑われて、怖気ついたか」
「そういうわけじゃあないけれども……」
「じゃあ、なんだ?」
「その~う……。なんだか急に優しい気持ちになって……」
「アン? 優しい気持ちだと。馬鹿言ってんじゃあねえ」
「だって……」
「そこで、見ていろ。こんな犬、こてんぱに叩きのめしてやる」
陽子が美智子の前に出た。手にはビール瓶を持っている。
ポチ、再び大ピンチ!
ゴ、ゴ、ゴリラの陽子の腕力に、叩き潰されるのであろうか。
陽子は、ポチににじりよった。
一文字武よ。何をやっている。このままでは目の前で、犬が一匹、ゴリラの手によって殺られてしまうぞ!
「くっ!」
一文字武は拳を握り締めた。
おっ! 戦う気だな。それでこそ男である。やはり二枚目は、格好いいなあ~
武が、陽子の魔の手から、ポチを助けようと決意した、その時……。
ポチは笑った。再度、首を斜め四五度にして笑ったのであった。
陽子は手に持っていたビール瓶を地面に落とした。
(あれ、あれあれれ。なんだ、この感覚は……)
陽子の力も抜けた。陽子もまた優しい気持ちになったのであった。
「美智子……」
陽子は呆然としている美智子に声をかけた。
「陽子……」
美智子が力なく応える。
「あたい、なんだか、おかしい気持ちになっちゃった」
「陽子もかい……。私たち……、一体何をやっているんだろうね」
「帰ろう……。帰ろうな、美智子」
「ああ、帰ろう……」
驚いたことに、美智子と陽子から怒りの感情が消えていた。
愛ちゃんに因縁をつけ、サンダーちゃんを張り飛ばし、助けに入ったラッキーとさっちゃんを、殴ろうとした美智子と陽子の憎しみの感情が、どっかに飛んでしまっている。あれほど憎しみの炎が燃えていたのに、憎悪の炎は、化学消火器でもぶっかけられた天婦羅なべのように、シューと、消えてしまったのであった。
「帰って、飯でも食おう……」
陽子が言うと、
「そうだな……」
美智子が力なく応え、二人は肩をガックリおとし、車が行き交う表通りの方へ歩いていった。
《ポチ、いま、なにをやったの? 》
ラッキーが右足でポチの背中をこずいた。
《何も……。僕は何もやっていないよ》
《何もやったいないって? そんなことないでしょう。あの凶暴な女の子たちが、すごすごと帰ったじゃあない。何をやったの》
《何もしてないよ》
《何もしていないわけないでしょう。あの子たち、ポチを殺る気でいたわよ》
《何もしていないよ。ただ……》
《ただ……、なに? 》
《僕、人間、大好きだから、そんなに怒らないでよ。ねえ、怒らないでよと、願っただけだよ》
《願っただけ!!……。願っただけ……。願っただけで、あの子達、帰って行ったの? 》
《そうだよ》
《あの子達……、ポチを殺る気でいたのに……》
ラッキーは目の前で起きたことが信じられなかった。キィーキィーキィーの美智子とゴ、ゴ、ゴリラの陽子は、ポチに対して、尋常でない激しい敵意を持っていた。溢れるばかりの暴力的な感情を抑えきれずにいたのだ。血を見なければ場は収まらなかったはずである。
《ポチ、一体何をしたの》
《だから、願っただけだよ》
《願っただけね……》
願っただけで、物事が解決するなら、こんなめでたいことはないだろう。
実際、ありえない話である。
犬が笑っただけで、どうにも収まらない争いごとが、嘘のように収まることなんてありえない。犬が笑って、問題が解決し、全てが丸く収まるなら、犬に総理大臣でもをやらせて、政治というものを行なったら、世の中はばら色になるだろう。
《ポチ》
《なあに?》
《さっき、首を傾げただろう》
《首を?》
《もう、一回、やってみて》
ポチは、首を斜めにし、何かをしたのだ。何かをしなければ、あれだけ怒っていた美智子と陽子が、すごすごと肩を落として帰るわけがない。
《もう一回。お願い》
ラッキーは、ポチに同じ事をしろと催促した。
《こう~》
ポチは、首を斜め四五度にして、微笑んだ。
《こ、こ、これは……》
ラッキーは、ポチの身体から発散される、ある種の匂いに戸惑った。
《こ、こ、これは……。何! 何なの。これは、もしかしたら……》
ラッキーがうろたえていると、
「一文字さん。ありがとうございます」
と、いう嬌声が路地裏に響いた。
さっちゃんである。
さっちゃんが、「キャア、キャア」騒いで、武に頭をペコペコ下げているのである。武が美智子と陽子を撃退したと思っているのだろうか。感謝感激雨あられという状態なのであった。
「さすがは、一文字さんね。ねっ、愛ちゃん」
さっちゃんが言った。
「う、うん……」
「あの美智子たちを、一睨みで、退散させるなんて」
さっちやんは、あくまで武が美智子たちを追い返したと思っているのであった。
「ど、どうしよう……。さち」
「どうしようって?」
「お礼をしようかしら……」
愛ちゃんは、憧れの人を目の前にして、あがっている。お顔を真っ赤にして、何もいいだせないでいるのだった。
「なに言っているのよ。ちゃんと、助けてもらったお礼を言わなければダメでしょう」
「うん……」
愛ちゃんは、ニッコリと微笑んだ。
じょ、冗談だろ!
美智子と陽子を返り討ちにしたのは、ポチだろう。ポチが勇敢にも、美智子と陽子の前に出たから、二人の心が揺れ動き、美智子と陽子は喧嘩をする事が馬鹿馬鹿しくなって、帰っていったんだろう。愛ちゃんとさっちゃんが助かったのは、ポチのお陰だろう。ポチにお礼を言うべきではないのー。
「あの~ 」
愛ちゃんは、武に近づき、声をかけた。
「なんだい?」
「あの~ 助けてもらって本当にありがとうございます」
愛ちゃんは、勇気を振り絞って言った。
「いや~あ。俺、なにもしていないよ」
武は、頭を右手で掻いた。
「一文字さん。私、二年一組の山崎さちといいます。この子は、水戸愛といって……」
さっちゃんが、アピールする。この機会に武と親しくなりたいんだろう。
《いやだ~ さっちゃんたち、自分たちを助けたのは、あの男の人だと思っているわ》
ラッキーが言った。
《いいんじゃない。愛ちゃんが助かったんだから》
ポチが応えた。
《いいって…? ポチが身を投げ出して二人を助けたんでしょう》
《いいんだ。愛ちゃんさえ、無事だったら……》
《ポチ……》
ラッキーは、ポチを見つめた。
ポチは、優しい顔をして、愛ちゃんとさっちゃんを、見つめ続けていた。
=続く=
ポチ、大ピンチ!
このままキィーキィーキィーの美智子の手によって八つ裂きにされるのであろうか。いや、ポチは、実は物凄く強くて、美智子を翻弄し、反対にやっつけてしまうかもしれない……。いやいやいや、やはり、それはないと思う。
美智子の手がポチに迫った。
その時……。
ポチは笑った。
人間のように目を細め、えくぼを作り、首を斜め四五度にして微笑んだのであった。
「えっー ええええっつー」
ポチの魅力的な笑顔に、美智子が振り上げた手を、思わず、下に降ろした。
(な、な、なんなんだ。これは……)
美智子の力が抜けた。
「どうした。美智子」
「こいつ……。笑いやがった」
「笑ったって? おめえ犬に笑われたのか。犬に笑われるようじゃあ、おめえもおしまいだな。どれ、あたいが、やってやる」
「やめようよ……」
「やめろだと! なんだ、おめえ、犬に笑われて、怖気ついたか」
「そういうわけじゃあないけれども……」
「じゃあ、なんだ?」
「その~う……。なんだか急に優しい気持ちになって……」
「アン? 優しい気持ちだと。馬鹿言ってんじゃあねえ」
「だって……」
「そこで、見ていろ。こんな犬、こてんぱに叩きのめしてやる」
陽子が美智子の前に出た。手にはビール瓶を持っている。
ポチ、再び大ピンチ!
ゴ、ゴ、ゴリラの陽子の腕力に、叩き潰されるのであろうか。
陽子は、ポチににじりよった。
一文字武よ。何をやっている。このままでは目の前で、犬が一匹、ゴリラの手によって殺られてしまうぞ!
「くっ!」
一文字武は拳を握り締めた。
おっ! 戦う気だな。それでこそ男である。やはり二枚目は、格好いいなあ~
武が、陽子の魔の手から、ポチを助けようと決意した、その時……。
ポチは笑った。再度、首を斜め四五度にして笑ったのであった。
陽子は手に持っていたビール瓶を地面に落とした。
(あれ、あれあれれ。なんだ、この感覚は……)
陽子の力も抜けた。陽子もまた優しい気持ちになったのであった。
「美智子……」
陽子は呆然としている美智子に声をかけた。
「陽子……」
美智子が力なく応える。
「あたい、なんだか、おかしい気持ちになっちゃった」
「陽子もかい……。私たち……、一体何をやっているんだろうね」
「帰ろう……。帰ろうな、美智子」
「ああ、帰ろう……」
驚いたことに、美智子と陽子から怒りの感情が消えていた。
愛ちゃんに因縁をつけ、サンダーちゃんを張り飛ばし、助けに入ったラッキーとさっちゃんを、殴ろうとした美智子と陽子の憎しみの感情が、どっかに飛んでしまっている。あれほど憎しみの炎が燃えていたのに、憎悪の炎は、化学消火器でもぶっかけられた天婦羅なべのように、シューと、消えてしまったのであった。
「帰って、飯でも食おう……」
陽子が言うと、
「そうだな……」
美智子が力なく応え、二人は肩をガックリおとし、車が行き交う表通りの方へ歩いていった。
《ポチ、いま、なにをやったの? 》
ラッキーが右足でポチの背中をこずいた。
《何も……。僕は何もやっていないよ》
《何もやったいないって? そんなことないでしょう。あの凶暴な女の子たちが、すごすごと帰ったじゃあない。何をやったの》
《何もしてないよ》
《何もしていないわけないでしょう。あの子たち、ポチを殺る気でいたわよ》
《何もしていないよ。ただ……》
《ただ……、なに? 》
《僕、人間、大好きだから、そんなに怒らないでよ。ねえ、怒らないでよと、願っただけだよ》
《願っただけ!!……。願っただけ……。願っただけで、あの子達、帰って行ったの? 》
《そうだよ》
《あの子達……、ポチを殺る気でいたのに……》
ラッキーは目の前で起きたことが信じられなかった。キィーキィーキィーの美智子とゴ、ゴ、ゴリラの陽子は、ポチに対して、尋常でない激しい敵意を持っていた。溢れるばかりの暴力的な感情を抑えきれずにいたのだ。血を見なければ場は収まらなかったはずである。
《ポチ、一体何をしたの》
《だから、願っただけだよ》
《願っただけね……》
願っただけで、物事が解決するなら、こんなめでたいことはないだろう。
実際、ありえない話である。
犬が笑っただけで、どうにも収まらない争いごとが、嘘のように収まることなんてありえない。犬が笑って、問題が解決し、全てが丸く収まるなら、犬に総理大臣でもをやらせて、政治というものを行なったら、世の中はばら色になるだろう。
《ポチ》
《なあに?》
《さっき、首を傾げただろう》
《首を?》
《もう、一回、やってみて》
ポチは、首を斜めにし、何かをしたのだ。何かをしなければ、あれだけ怒っていた美智子と陽子が、すごすごと肩を落として帰るわけがない。
《もう一回。お願い》
ラッキーは、ポチに同じ事をしろと催促した。
《こう~》
ポチは、首を斜め四五度にして、微笑んだ。
《こ、こ、これは……》
ラッキーは、ポチの身体から発散される、ある種の匂いに戸惑った。
《こ、こ、これは……。何! 何なの。これは、もしかしたら……》
ラッキーがうろたえていると、
「一文字さん。ありがとうございます」
と、いう嬌声が路地裏に響いた。
さっちゃんである。
さっちゃんが、「キャア、キャア」騒いで、武に頭をペコペコ下げているのである。武が美智子と陽子を撃退したと思っているのだろうか。感謝感激雨あられという状態なのであった。
「さすがは、一文字さんね。ねっ、愛ちゃん」
さっちゃんが言った。
「う、うん……」
「あの美智子たちを、一睨みで、退散させるなんて」
さっちやんは、あくまで武が美智子たちを追い返したと思っているのであった。
「ど、どうしよう……。さち」
「どうしようって?」
「お礼をしようかしら……」
愛ちゃんは、憧れの人を目の前にして、あがっている。お顔を真っ赤にして、何もいいだせないでいるのだった。
「なに言っているのよ。ちゃんと、助けてもらったお礼を言わなければダメでしょう」
「うん……」
愛ちゃんは、ニッコリと微笑んだ。
じょ、冗談だろ!
美智子と陽子を返り討ちにしたのは、ポチだろう。ポチが勇敢にも、美智子と陽子の前に出たから、二人の心が揺れ動き、美智子と陽子は喧嘩をする事が馬鹿馬鹿しくなって、帰っていったんだろう。愛ちゃんとさっちゃんが助かったのは、ポチのお陰だろう。ポチにお礼を言うべきではないのー。
「あの~ 」
愛ちゃんは、武に近づき、声をかけた。
「なんだい?」
「あの~ 助けてもらって本当にありがとうございます」
愛ちゃんは、勇気を振り絞って言った。
「いや~あ。俺、なにもしていないよ」
武は、頭を右手で掻いた。
「一文字さん。私、二年一組の山崎さちといいます。この子は、水戸愛といって……」
さっちゃんが、アピールする。この機会に武と親しくなりたいんだろう。
《いやだ~ さっちゃんたち、自分たちを助けたのは、あの男の人だと思っているわ》
ラッキーが言った。
《いいんじゃない。愛ちゃんが助かったんだから》
ポチが応えた。
《いいって…? ポチが身を投げ出して二人を助けたんでしょう》
《いいんだ。愛ちゃんさえ、無事だったら……》
《ポチ……》
ラッキーは、ポチを見つめた。
ポチは、優しい顔をして、愛ちゃんとさっちゃんを、見つめ続けていた。
=続く=
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